弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第6回は、ローカル線「弘南鉄道大鰐線」を盛り上げるため、大鰐線写真部として1年間活動した 清藤 慎一郎(せいとう しんいちろう)さんと 渡辺 由里香(わたなべ ゆりか)さんです。活動の内容や、これからの展開について伺いました。

美術の道へ、方向転換

ー教育学部の今の課程を選んだ理由を教えてください。

清藤さん:現役のときは理系で、教育学部の数学と技術を受けましたが不合格でした。浪人をしているうちに、数学ができなくなってきて、、、。ただ、ずっと絵は描いていたんです。自分はこっちなのかなと思って、アートスクールに通い始めました。入試に必要な技術を学んで、弘前大学の、今は募集停止になりましたが、生涯教育課程芸術文化専攻に入学しました。中学校が弘大附属で、実習生とよく触れ合う機会があって、中学校のころの夢が美術の先生だったこともあり、入りました。

渡辺さん:私は中学までバリバリ体育会系でした。高校でソフトボール部に入りましたが、合わなくてすぐ美術部に転部。2年で部長になってからは、練習メニューを組むなどいろいろ改革していくうちに、みんなの美術に対する意識が変わっていくのが楽しかったんです。私は周りに誰かがいるからこそ絵を描けるタイプなので、「この環境を守っていくためにはどうしたらいいんだろう?そうだ美術の先生になろう!」と。弘前大学のオープンキャンパスで、すごく整っていてきれいな施設を見て、行くっきゃないなと思って。学校教育教員養成課程 教科教育専攻 美術専修に入学しました。

ー美術に興味をもったきっかけは?

清藤さん:小さいころからねぷたが好きで、ねぷた絵をよく描いてました。それもあって弘前で進学したかったんですよね。

渡辺さん:母が絵を描くのが得意なんです。私がお絵かきをしている横で、デッサンみたいな絵を描く人で(笑)姉も絵が上手で、コンプレックスがありました。それで、私も本格的にやってみようと、高校でやったらのめりこんだって感じですね。

弘前大学教育学部4年

写真作品をFacebookで発信。掲載の基準は「こじゃりてぃ」?

ー大鰐写真部の活動が始まった経緯について教えてください。

清藤さん:もともとはひろさきアフタースクールという、「地域で見守る子どもたちの未来」を理念に活動している市民団体のお手伝いをしていました。その中に、大鰐線を盛り上げたい人たちで結成された「いぬゲーター」という団体の方がいて。デザインのことで相談されたのがきっかけで、僕たちも加入しました。そこでFacebookに「大鰐線ナビ」というページを作って、あるとき弘前学院大前の西弘で渡辺さんが5枚の写真を撮ってきたんですよ。「これ載せて良い?」と聞かれて、「どうせなら1日1枚にしちゃえば?」と言ったら、「それいいね!」となって。そこから1日1枚の宿命が始まり(笑) 

渡辺さん: 5日間連続西弘を載せるのもと思って、他の駅も、一駅撮ったらまた他の駅もと、、、。全駅制覇を目指していたら、やめるタイミングを失いました(笑)

清藤さん:途中から僕も加わって、1年間を目標に投稿を続けました。僕らが撮る時には、載せていいボーダーがあって、「小洒落加減」が高いものみたいな。「こじゃりてぃ」が高いって言ってるんですけど(笑)

渡辺さん:街に出ると、作られたかわいさ、西洋をまねたおしゃれさはありますが、あまり好きじゃなくて。昔ながらのレトロ感の残った、「いいもの」を日常生活の中から切り取って、発表していきたいと思ってました。それが「こじゃりてぃ」なのかな。
「写真作品」として発表していく中で、この“モノ”を見ながら自分が何を考えていたか、何を受けたかということを作品の一部にしたかったので、タイトルとしてコメントをつけて投稿しました。
毎日の投稿は大変ではあったんですけど、大学が忙しくなればなるほど写真部の活動は癒やしになっていくというか、、、

清藤さん:僕は大鰐線の「さっパス」という、中央弘前駅から大鰐駅の往復乗車券と温泉施設の入浴券がセットになった企画切符をよく使って写真を撮りに行っていて、癒やされてました。楽しみながらやっていたというほうが大きいですね。

弘前大学教育学部4年
渡辺さんの作品『静かで少し冷たくて。』 #弘前学院大前駅

自分を見つめ直す時間

ーずばり、大鰐線の魅力は?活動を続けてきて嬉しかったエピソードも教えてください。

清藤さん:大鰐線の魅力を1年間探してきましたが、まず「こじゃりてぃ」が高い(笑)中央弘前駅から大鰐駅までは30分かかります。ガタンガタンする音であったり、揺れだったり、内装が古い感じとか、見える景色全部に癒やされる時間です。春夏秋冬全部見てきて、それぞれの表情がすごくきれい。やっぱり今の時代、効率がいいほうを求められているとは思うんですけど、自分を見つめ直すゆったりとした心地良い時間が、大鰐線のひとつの魅力だと思います。

渡辺さん:活動をしてきて、Facebookのフォロワーが増えたり、いいねをもらえたりするのは嬉しかったです。

清藤さん:コメントの中で嬉しかったのが、「ここ昔よく行った場所だ」とか、「まだこの店あるんだ」とか、、、。コメントをくれたのは、県外の人とか、大鰐を離れた人で。この活動をしなければそこにまだあるということに気づかないだろうし、僕たちにとっての発見もあったので、すごく嬉しかったです。

ー自分達にとってどういう学びになっていますか?

渡辺さん:私たちが今関わっている方は、みんな一社会人として接してくださいます。在学中に社会人として扱われて、そういう振る舞いをするというのは、勉強になります。
やりたいことが実現するのを実体験できているのも、将来を考える上ですごくポジティブな意味があると思っています。
 
清藤さん:僕は今大学院進学を考えていて、これからもどんどん学んでいきたいんですけど。「美術」ってすごい力のあるものだと思ってるんですよ。でも県内の学校でも、美術の先生が減らされている状況があって。だからこそ、美術ってこんな力があるんだぞ、地域を盛り上げられるんだぞっていうことを、活動を通して確かめていってるんだと思います。

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清藤さんの作品『白い世界の赤い橋。』 #千年駅 周辺

中央弘前駅に「GALLERY まんなか」開設。駅と美術のコラボレーション

ー今後の活動について教えてください。

清藤さん:僕が代表、渡辺さんが副代表になって、美術的な視点を通して「大鰐線の活性化・魅力発信」を目指す「まんなかづくり実行委員会」を立ちあげました。大鰐線は乗車する以外のことでも市民が使える鉄道なんですよ。イベントとか。市民が参加しやすい鉄道であって、そのまんなかであれたらいいなということで、「まんなか」という名前をつけました。中央弘前駅の中に、「GALLERY まんなか」を開設して、大鰐線写真部として撮影した写真を展示する予定です。
少し話がそれますが、去年、津軽塗の老舗である「田中屋」さん閉店のニュースがあり、美術家に激震が走りました。古くてこじゃりてぃの高い場所だったんですが、、、。大鰐線と重なるところもあります。

渡辺さん:良いものだとわかっていても、あることが当たり前になっていて、使うことを忘れて、なくなったときに、ああ、なくなっちゃった、、、というような、、、。大鰐線もそうなってしまいかねず。

清藤さん:吉野町煉瓦倉庫が芸術文化施設になるということで、中央弘前駅はその最寄り駅になります。ギャラリーの開設を、駅が美術とどう関わっていけるのか、一つのモデルにできれば。どんなことができるかというのを、学校やアーティスト、もちろん美術科の人も巻き込んで考えて、展覧会やワークショップ、できれば音楽系のイベントも含めて、芸術活動を通して、大鰐線を盛り上げていきたいです。
とりあえず今の段階で注目してもらって、芸術文化施設に繋げる。そして更にその周りが美術の色に染まっていってほしい。地域一体となって弘前が元気になってくれればいいなと思っています。

弘前大学教育学部4年
完成した「GALLERY まんなか」

ただきれいなものだけが”美術”ではない

ー大学での研究の様子や、専門的に美術を学んで意識が変わったことなどを教えてください。

清藤さん:本当に美術科の先生方は応援してくれます。先生たちは仲が良いので、連携して助けてくれる感じが、、、すごく良い場所ですよ(笑) 

渡辺さん:大学の特性なんでしょうけど、やらない人はやらないまま終わるし、やりたい人には全面協力してくれるというのはすごく感じます。

清藤さん:学んだことというと、美術の中には“純粋芸術”と“応用芸術”があって。

渡辺さん:美術館に飾ってるような作品を作るほう(純粋芸術)と、ポスターやチラシを作るほう(応用芸術)ですかね。
私は純粋芸術ですが、専門的にやりたい人が少ない。私は彫刻ゼミで学年1人だけなので、ほぼマンツーマンで指導いただけて、贅沢です。
高校では一番の目標が県の展覧会だったので、人の目に映えるきれいなものを作ればいいという頭がありましたが、大学で、そういうものだけが“美術”ではないと気づかされました。私は哲学をもって、「なんで作品を作らなきゃいけないのか」から自分を追い詰めていったり、「美術ってそもそも何なんだ」と考えながら作品を作ったりすることが多くなりました。

清藤さん:僕はデザインのほうで、作品を作っていると、目線が消費者側から作る側に移動したなと思います。このチラシこうすればいいのにとか(笑)自分のチラシやポスターも、人の目にさらされるんだっていう意識が芽生えました。

弘前大学教育学部4年
それぞれの作品制作の様子

大学生だからこそできることがある

ー最後に受験生へメッセージをお願いします。

清藤さん:まず応援してくれる先生がいます。応援してくれる学生もいます。そして応援してくれる地域があると思います。やりたいことがあったら、もしくはなくても見つけたら、やりやすい大学だと思います。こういう鉄道さんもあるし、青森県全体で弘前大学の学生の力をすごく欲しています。自分がこの大学で学んだことを、どう地域に活かしていけるかを考えていける、また、活かしていって、輝ける場所だと思うので、ぜひ、ご入学お待ちしています。

渡辺さん:美術を目指してる人にですが、「美術を専門的にやりたい」と言うと、止められる人も少なくないと思います。でも、ここで学んだ技術を持って、例えば一般企業でチラシやポスターを作ったり、ショーウィンドーの見せ方を考えたり、いろいろなことに美術の考え方は応用できます。絶対将来に活きることは学べます。
大学生だからこそできることがあるので、大学生という立場を利用する位の気持ちで、ぜひ大学生活をエンジョイしましょう!

弘前大学教育学部4年

大鰐線写真部 写真展

「GALLERY まんなか」企画展 第1弾。

大鰐線写真部の2人が1年間とり続けた大鰐線の小洒落た写真を一挙公開!

会期:2018年4月7日(土)~5月6日(日)10:00-18:00
場所:中央弘前駅(青森県弘前市吉野町1-6)
※期間中無休
※入場無料

詳しくはGALLERY まんなかホームページ」をご覧ください。

大鰐線ナビ」Facebookもぜひご覧ください。

弘前大学教育学部4年

大鰐線写真部×弘前大学コラボ企画!

大鰐線写真部の二人に、弘前大学の「小洒落た」写真を撮影してもらいました!
平成30年4月16日(月)~20日(金)まで毎日更新予定です。
弘前大学の「こじゃりてぃ」を感じてみませんか?
公式Instagramはこちら!

国立大学法人弘前大学公式Instagram

Profile

教育学部4年
清藤慎一郎さん・渡辺由里香さん

いぬゲーター(大鰐線写真部)、まんなかづくり実行委員会 。
清藤さん:青森県弘前市生まれ。私立東奥義塾高校を卒業後、平成27年4月に弘前大学教育学部生涯教育課程芸術文化専攻(現在は募集停止)へ入学。石川善朗教授のデザイン研究室に所属し、プロダクトデザイン、ねぷた、特殊美術造型(ローカルヒーロー)について研究。
渡辺さん:岩手県奥州市生まれ。岩手県立金ケ崎高等学校を卒業後、平成26年4月に弘前大学教育学部学校教育教員養成課程 教科教育専攻 美術専修へ入学。塚本悦雄教授の彫刻研究室に所属し、彫刻、コンセプチュアルアートを研究。

弘前市内の市民団体である「ひろさきアフタースクール」、「いぬゲーター」に所属し、Facebookページ「大鰐線ナビ」内で大鰐線写真部として活動後、「まんなかづくり実行委員会」を立ちあげ、弘前中央駅構内でGALLYまんなかを運営。美術の力で大鰐線を盛り上げていくことに尽力している。