宇宙の9割以上を占めるという、ダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)。
この言葉からゲームのキャラクターやアニメを思い浮かべるかも知れません。
これらの正体は未だに謎だらけ。その正体を解明することは、21世紀の宇宙物理学における大きな目標のひとつです。
独自の切り口と新たな検証方法で宇宙の謎に挑む浅田秀樹教授に、弘前大学だからこそできる学びについて、お話を伺いました。

北東北では弘前大学にしかない研究分野
一般相対性理論を武器にした「理論宇宙物理学」

― 先生の研究テーマについて教えてください。

北東北では弘前大学にしかない研究分野 一般相対性理論を武器にした「理論宇宙物理学」

私は、アインシュタインの一般相対性理論を使って、宇宙における新しい物質やエネルギーの探求を行う研究に取り組んでいます。現代の物理学の土台のひとつとなっている一般相対性理論は、1915年にアインシュタインが提唱したものです。彼は、「重力が強い場所では、時間と空間(時空)が歪むこと、歪んだ空間(時空)の中では光の経路も曲がること、重力が強いと時間の進み方が遅くなること」などを予言しました。

“時間や空間が伸び縮みする”と言われても、なかなかイメージしにくいですよね。

たとえば、ベッドやゴムシートの上にボーリングのボールを置き、たわんだところにビー玉を転がした状態を想像してみてください。
たわんだことによって、ビー玉はまっすぐ進みません。これと同じように、空間が曲がれば光も曲がるということは、1919年に行った実験でも証明されています。巨大な重力が空間に歪みを起こして光の経路を曲げ、レンズのように作用する現象を重力レンズといいます。

現在、世界では、この重力レンズを使って宇宙にどういう天体があるのかを調べる研究がさかんに行われています。一般相対性理論を使った宇宙の研究は、今、最も注目が集まっている研究分野のひとつです。北東北では弘前大学にしかない研究分野でもあり、今後、宇宙の謎を解明するうえで多くの可能性を秘めています。

大学の自主ゼミで出会った一般相対性理論
アインシュタインの宿題に挑む!

― 現在の研究テーマに興味を持ったきっかけは?

出身は京都府なのですが、当時、京都の高校は小学区制だったため、学区内の府立高校に進学しました。
入学後の進路調査で担任の先生に、「数学や理科に興味があるので、京都大学理学部に進学したい」と、話したところ、「うちの高校の授業レベルでは、京大に行くのは難しいかもしれない・・・」と。

その高校はいわゆる進学校ではなかったので、受験用の補習や宿題もなく、卒業後は大学に進学せずに就職する生徒もいるとのことでした。「それなら、自分で勉強しよう」と思い、参考書を買って勉強しました。数学の授業で証明について学んだ時は、「これ以外の証明の方法はないだろうか」と、よく考えたりしたものです。

大学受験に対しては不利だったかも知れませんが、
今振り返ってみれば、このように自ら考え学ぶ経験が研究者としての今に役立っていると感じています。

弘前大学に来るきっかけとなった書籍
研究の様子。数列がきれいに書き連ねられている

京都大学理学部では、同級生たちの賢さに圧倒されました。
みな、高校時代から大学生向けの物理の雑誌を読んでいるし、世界の研究者の名前をスラスラ言えるのです。最初はただただ驚き、まったく会話についていけませんでした(笑)。そのうち、学生5~6人で近くの喫茶店に集まり、自主ゼミを始めました。そこで、アインシュタインの一般相対性理論に関する分厚い専門書と出会い、宇宙物理学に興味を抱くようになりました。

大学在学中に、『シュッツ 相対論入門』の日本語版が出版されました。翻訳者のおひとりが、当時、弘前大学理学部の助教授をされていた方で、この先生のもとで学びたいと思い、弘前大学大学院への進学を決めました。当時は、弘大の大学院は修士課程の2年間のみ。そのため、大阪大学大学院に3年間通って博士を取りました。その後、京都大学基礎物理学研究所でポスドク研究員として半年間務め、1997年に弘前大学に採用になりました。

学生の論文が、権威あるアメリカの米物理学会誌に掲載され話題に!

― 弘前大学の研究成果は、アメリカの物理学会誌にもたびたび取り上げられたそうですね?

私の研究室では、重力理論に基づいて宇宙観測を行うために、重力波を用いた研究を進めています。重さを持つ物は、その重力でまわりの時空を歪めます。その物体が運動をすると、まわりの歪んだ時空が“さざ波”のように宇宙空間に広がってゆく。これが重力波です。

2008年には、大学院生らと「8の字軌道」にある天体からの重力波の波形を世界で初めて計算。論文は、アメリカの物理学会の速報誌『フィジカル・レビュー・レターズ』に掲載され、サイエンス誌のホームページでその論文成果が紹介されるなど世界から注目を集めました。
また、2012年には、研究室の大学院生たちが一般相対性理論を補う理論の一つについて新しい検証手法を考案。論文は、前出の物理学会誌に掲載されました。この学会誌は、ノーベル賞級の論文も掲載されるほど権威のあるもの。世界トップクラスの研究者が名を連ねる学術誌に弘前大学の学生の論文が掲載されたことは大きな快挙であり、大変うれしいことです。

日々の研究においては、コンピューターも使いますが、基本は手計算です。紙と鉛筆、それにホワイトボードが必需品です。ホワイトボードを前に、学生とディスカッションするなかで、新たな計算や検証手法が生まれることが多いですね。

「宇宙における新奇な物質、エネルギーおよび時空構造の探査方法の理論」をテーマにした一連の研究の功績が認められ、「平成25年度弘前大学学術特別賞(遠藤賞)」を受賞しました。広大な宇宙には、私たちが想像もつかない新奇なもの、エネルギーの存在があるかもしれません。学生たちと一緒に未知の世界に挑み、新しい理論を探求することに面白さを感じています。

大学院生と深い議論を重ねる
ホワイトボードの前で大学院生とアツい議論を交わす

― 2017年ノーベル物理学賞には、世界で初めて重力波をとらえることに貢献したアメリカの研究者3人が選ばれましたね?

重力波観測における研究技術が進むなか、2015年、アメリカの「LIGO重力波観測所」が、世界で初めて重力波をとらえることに成功しました。2個のブラックホールが13億年前に衝突・合体し、それによって放出された重力波が13億年かかって私たちの銀河系に到達しました。重力波は、一般相対性理論に基づく予言のなかで、唯一観測できず証明されていなかったもの。これによって、アインシュタインの予言が証明されたことになります。

日本も岐阜県に重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」を建設し、2016年3月に試験運転を開始しました。私も現地で行われた共同観測に参加しました。KAGRAが稼働することで、どういう新しい物理ができるか、現在、大学院生たちとアツい議論計算を行っているところです。

100年近く進まなかった研究が、近年急速に進み、新たな扉が開かれようとしています。これにより、今まで解明されていなかった宇宙の知見が得られるのではないかとわくわくしています。

世界に通じるレベルの宇宙研究ができる面白さを一緒に味わいましょう!

弘前大学で世界に通じるレベルの宇宙研究ができる面白さを一緒に味わいましょう!

― 最後に、高校生へのメッセージをお願いします。

弘前大学は、北東北で唯一、一般相対性理論を武器にした理論宇宙物理学が学べる教育機関です。

常に新しい研究成果を出そうと学生と議論しながら進めており、継続的に面白い成果が生まれています。今後も面白い成果を出したいので、ぜひ、数学や物理系の分野に興味がある高校生の皆さんに入学してほしいと思います。

また、弘前大学には、学生を応援するさまざまな制度や支援体制があります。

私の研究室でも、文部科学省所管の独立行政法人日本学術振興会の特別研究員制度を活用して学んでいる学生もいます。
これは、優れた若手研究者が研究に専念できるように、生活費及び研究費の援助を行う制度です。審査に合格すれば、生活費のほか研究費などが支給されるため、経済的な心配をせずに研究に打ち込むことができます。
また、これまで研究者も輩出しており、卒業後の希望に合わせたアドバイスや指導も行っています。ぜひ、一緒に、世界に通じる研究に取り組んでみませんか。

Questionもっと知りたい!浅田センセイのこと!

― 趣味は?

以前、「こけ玉盆栽」を一鉢買ったんです。
お店で目が合ったので、眺めてボーッとしたいなーと。

でも、どんどん茶色くなってきて・・・明らかに様子がおかしい(笑)。
妻には「枯れてるんじゃない?」って言われましたが、私は「まだ枯れてない」と、言い張ってます。

今、水を与えたりして観察中。一応、科学者ですから(笑)。
そんなわけで、写真の鉢は、買ってきたばかりの新入りです。

もっと知りたい浅田秀樹教授のこと 趣味は「こけ玉盆栽」

― 特技は?

子どもの頃は、けん玉が得意でした。今でも棒の部分に刺せる・・・かも(?)

― お休みの日の過ごし方は?

週末は、運動不足解消のためにスポーツジムで汗を流したり、
子どもを連れて公園を散歩したりすることもあります。

写真は、家族で沖縄旅行に行き、シュノーケルに初挑戦したときの様子。
インストラクターの方が子どもに教えている間に、なぜか私だけVの字になって沈み、溺れかけたんですよ(苦笑)。

もっと知りたい浅田秀樹教授のこと シュノーケルに初挑戦

思い出の写真館

浅田秀樹教授の思い出の写真1
浅田秀樹教授の思い出の写真2

大学院時代に、当時の京都大学や大阪大学の教授たちと、カリフォルニア工科大学のキップ・ソーン博士の研究室を訪ね、その後、グランドキャニオンに立ち寄った時のひとこま。キップ・ソーン博士は、2017年にノーベル物理学賞を受賞した3人のうちの1人です。
初日に博士の研究室を訪ねたら、「翌日のグループミーティングで、君の研究を発表するように」と言われ、ホテルに戻ってから慌てて空が白むまで原稿を作成。
当時はまだ学生で、外国人の前で話すのも初めてだったので、必死に黒板に数式を書いて、つたない英語で説明しました。最後に、キップ・ソーン博士から質問を受けました。ネイティブな英語が聞き取れなかったので、私の代わりに別な教授が答えてくれました。あとで聞いたら、「これは、論文として雑誌に掲載しているのか?これはとても面白いから、早く論文にした方がいい」と、おっしゃっていただいたとのことでした。
発表した成果は、その後、私にとって最初の査読付き論文となり、ソーン博士からのその誉め言葉がその後の私の研究生活における励みとなっています。

Profile

理工学部 数物科学科(物質宇宙物理学コース) 教授
浅田 秀樹(あさだ ひでき)

京都府生まれ 。
専門分野は、理論宇宙物理学/相対論/宇宙論。 宇宙における新しい物質やエネルギーの探求にも繋がる宇宙の物理現象について主に研究を行っている。 平成24年には研究室の大学院生(山田慧生さん)の研究成果がアメリカの学会誌に掲載され,”弘前大学の学生の卒論がノーベル賞級快挙!?”と話題に。 「宇宙における新奇な物質、エネルギーおよび時空構造の探査方法の論理」をテーマとした一連の研究で「平成25年度弘前大学学術特別賞(遠藤賞)」を受賞。