弘前の夏の風物詩といえば、毎年8月に開催される「弘前ねぷたまつり」。
勇壮な武者絵等が描かれた大小さまざまな扇型のねぷたが、城下町・弘前の夜を鮮やかに彩ります。

弘前大学ねぷたは、今年2026(令和8)年で通算60回目の参加となります。
出陣を前に、弘前大学がねぷたまつりに参加してきた歴史をはじめ、制作の舞台裏、出陣に向けたお囃子の練習、そして当日の様子まで、地域と大学をつなぐ取り組みの魅力を余すことなくご紹介します。

弘前大学のねぷたの歴史

弘前ねぷたが記録として初めて登場するのは、1722(享保7)年の「弘前藩庁御国日記」で、津軽藩五代藩主 津軽 信壽(のぶひさ)が紺屋町の織座*に出かけ、「袮(ね)ふた」をご高覧になった、というものです(出典:津軽の華 弘前大学所蔵ねぷた絵全作品)。長い歴史の中で弘前の伝統として受け継がれ、現在の合同運行の形が整ったのは戦後のこととされています。

*織座:現在でいう織物工場。現在も紺屋町は弘前市の地名として残っています。

弘前大学は1964(昭和39)年から弘前ねぷたまつりに参加。以来、地域の一員として伝統行事を支え続けており、今年でなんと60回目の出陣を迎えます。学生・教職員が一体となってねぷたを制作し運行する姿は、単なる行事参加にとどまらず、「地域と共にある大学」の象徴ともいえます。

1964(昭和39)年8月1日、弘前ねぷたまつりに弘大ねぷたが初参加した際の写真(弘前大学附属図書館保存)
1964(昭和39)年8月1日、弘前ねぷたまつりに弘大ねぷたが初参加した際の写真(弘前大学附属図書館保存)

制作の舞台裏

ねぷたの制作・組み立て

弘前大学のねぷたは、学生と教職員が協力して制作しています。
大型ねぷたのほか、小型ねぷたや前灯籠は大学職員の指導のもと、学生が主体となって制作。準備は出陣の約2か月前となる6月頃から始まります。
作業工程はすべて、本格的な伝統技法を用いて進められます。

下絵の作成
下絵の作成
ロウを溶かし筆で塗る「ロウ引き」
ロウを溶かし筆で塗る「ロウ引き」
1色ずつ丁寧に作業する「色塗り」
1色ずつ丁寧に作業する「色塗り」
紙を骨組みに貼る「紙貼り」
紙を骨組みに貼る「紙貼り」

また、大型ねぷた側面に大きく掲げられる「弘前大学」の文字は、弘前大学書道部が担当。3.5メートルに及ぶ紙に、ダイナミックで力強い書を一気に書き上げます。

書道部の学生が担当
一筆一筆に魂が込められます

一枚の和紙から始まるねぷた絵は、多くの人の手と時間を重ねながら、次第に鮮やかで迫力ある姿へと変わっていきます。一つひとつの工程を丁寧に積み重ね、協力して組み立てることで、学生・教職員・制作者たちの想いが込められた弘前大学ねぷたが完成します。

細かい調整を繰り返して仕上げます
細かい調整を繰り返して仕上げます
学生・教職員が協力して貼り付ける様子
学生・教職員が協力して貼り付ける様子

ねぷた絵師について

弘前大学の大型ねぷたの絵を手がけるのは、ねぷた絵師の聖龍院 龍仙(しょうりゅういん・りゅうせん)氏(以下、龍仙氏)。1990(平成2)年より弘前大学のねぷたを描いていただいています。

龍仙氏の作品は、力強い筆づかいと「龍仙彩色」による柔らかな色彩、そして下絵を描かず一気に描き上げる技法が特徴です。そのため、絵は枠いっぱいに躍動し、ねぷた特有の迫力と温かい生命感が生まれます。

今年の鏡絵は三国志の「趙雲、阿斗を救う」を題材にした作品です。近年の弘大ねぷたで若武者を題材としていなかったことから、60回目の参加となることを機に、今回は挑戦したと語ります。下絵がない分、大胆に筆を太く使うことで、若武者の勢いが感じられ、まるでねぷたの中から飛び出してくるのではないかと思うほど、迫力満点に仕上がっています。

袖絵(ねぷたの裏面の絵)には、「蟹」を取り入れています。蟹は、風水で金運、財運、成長、合格の縁起物とされ、龍仙氏の弘前大学や弘大生への想いが込められています。

37年間、弘前大学のねぷたを描き続ける龍仙氏ですが、「これまで1枚たりとも同じ絵はない、同じ絵は二度と描かないというこだわりがある」という想いも教えていただきました。

今年のねぷたへの想いを語る龍仙氏
大型ねぷたへの絵貼りも学生・教職員が行います
大型ねぷたへの絵貼りも学生・教職員が行います

「龍仙彩色(りゅうせんさいしき)」とは

龍仙氏が数十年前に考案した独自の画法のことです。一般的には、真っ白な和紙にロウで模様や枠線を描くため、白が際立つ鮮明なコントラストが生まれますが、「龍仙彩色」では、あらかじめ和紙に淡く色を施した上からロウで模様を描くことで、柔らかくふんわりとした独特の風合いを生み出しています。


一般的な描き方…ロウ引きした箇所が白と他の色とにはっきりと際立って見える
龍仙彩色…ロウ引きした箇所に薄い色が施されるため、灯をともすとふんわりと見える

出陣に向けてのお囃子練習

ねぷたの魅力は視覚だけでなく、音でも感じることができます。笛や太鼓、手振り鉦によるお囃子は、ねぷた運行の熱気を一層高めます。
弘前大学では、出陣に向けて学生や職員が練習を重ね、伝統のリズムと掛け声を身につけていきます。

経験者はもちろん、初心者も多く参加し、先輩から後輩へと技術が受け継がれてきたお囃子は、練習を重ねるごとに音が揃い、チームとしての一体感が高まっていくのが大きな魅力です。

特徴的な音色を響かせる笛
笛・太鼓・鉦を合わせて練習。本番さながらの迫力です

火入れ式

出陣直前に行われる「火入れ式」は、ねぷたに命が吹き込まれる瞬間です。
内部に灯りがともると、それまで制作現場にあった紙の作品が、一気に祭りの主役へと姿を変えます。
光に照らされた武者絵は、昼間とは異なる幻想的な表情を見せ、制作に関わる人々の期待も最高潮に達します。

灯りのともる瞬間(写真は令和7年度)
灯りがともると雰囲気が一変します(写真は令和7年度)

出陣当日の様子

いよいよ迎える出陣の日。
弘前の夏の夜、街には太鼓と笛の音が響き渡り、「ヤーヤドー」の掛け声とともにねぷたが進みます。
弘前大学のねぷたも、多くの学生・教職員・制作者たちの想いを乗せて街を練り歩きます。
観客の拍手や歓声に包まれながら進むその姿は、地域と大学の絆を象徴する光景です。
制作に関わった学生たちにとっても、努力が形となって報われる瞬間であり、かけがえのない経験となります。

運行の様子(写真は令和6年度)
みんなでねぷたまつりを盛り上げます(写真は令和6年度)

まとめ

弘前大学のねぷたは、単なる大学行事ではなく、地域文化を受け継ぎ、発展させる大切な取り組みです。
今年の夏も、弘前大学のねぷたが弘前の夜を力強く彩ります。
学生や教職員、ねぷた絵師をはじめ、多くの方々の努力と情熱が詰まった今年の弘大ねぷたの全貌は、運行当日までのお楽しみ。どうぞお見逃しなく!


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