自分で時間割を決める大学の授業。教養教育科目や専門教育科目など、様々な科目がありますが、大学生ってどんな授業を受けているのでしょうか?

今回は、教養教育科目の中から「地域学ゼミナール」をご紹介します。
学部・学科を超えて班分けされたメンバーでチームを組み、青森県特有の社会問題について、データ分析に基づいて解決策を提案する力を身に付ける授業です。
そのうちの一つ、教育学部の清水 稔(しみず みのる)准教授が主担当教員を務めるクラスを取材しました。

科目情報

科目名 地域学ゼミナール(教養教育科目)
履修時期 1年次後期
担当教員 各学部所属の教員が複数名で担当

※本記事の内容は取材時点のものです。

Interview先生インタビュー

「地域学ゼミナール」の科目構成を担当し、授業担当教員の一人でもある、教育学部の清水 稔(しみず みのる)准教授にお話を伺いました。

清水先生
教育学部の清水先生

― 「地域学ゼミナール」はどのような授業なのでしょうか?

地域学ゼミナールは、全ての学部学生が1年次に必ず履修する科目で、異なる学問分野を学ぶ学生6人程度で班を組み、多角的な視点や考え方による検討を重ねながら、班ごとに問題解決学習を行います。

クラス分け
学部・学科を超えてランダムに班分けされる

テーマは青森県や弘前市の地域課題を取り扱います。前期に履修する「基礎ゼミナール」で培った「大学での学びの基礎的な力(スタディスキル)」と、「データサイエンス基礎」で学んだ様々な情報検索やデータ収集・分析の手法を活用し、根拠(エビデンス)に基づいて解決案を提案する力を実践的に育みます。

自分のパソコンを持ち寄って課題解決に取り組む
自分のパソコンを持ち寄って課題解決に取り組む
分析結果に基づき調査内容を報告する
分析結果に基づき調査内容を報告する(中間報告の様子)

― 授業の特色を教えてください。

授業は、PBL型(Problem-based Leaning)という、学生が自ら課題を見出しその解決方法を創出する学習スタイルを取っています。教員はその活動に対して、基本的には問題解決に有効な知識・技能の紹介や、議論への助言といった支援をしていきます。異なる学部の教員3人で担当するので、それぞれの領域や経験を踏まえて様々な視点から支援を行います。さらに授業ではティーチング・アシスタント(TA)の大学院生が、より受講生に近い視点から助言や支援をします。

つまり、学習を支援する側も、様々な領域、年齢によるアドバイスを行うことで、学生は多角的な支援を受けることができます。このような多彩な構成の中で、問題解決力、批判的・論理的思考力、コミュニケーション能力といった、実際の社会において求められる資質や汎用的なスキルを体験を通して育んでいます。

3人の担当教員
左から、清水准教授、葛西 秋宅助教(医学研究科)、西山 尚登助教(理工学研究科)
各クラス2名のTAがサポートする
各クラス2名のTAがサポートする
受講生へアドバイスするTA
受講生へアドバイスするTA

また、自律型の学習を支援するプラットフォームとして、オンライン上にテーマ別の情報や活動に役立つアプリをまとめたページを受講生向けに開設しています。活動についての解説や昨年度の発表記録もあるので、学生はグループでの探究活動の際、ここを足掛かりとして発想のヒントを得たり問題解決を図ったりすることができます。

さらに生成AIの技術も、使用原則を学んだうえで活用していきます。AIの問題点も含め、AIとどのように向き合っていくかは次世代のスキルとして必要不可欠です。人付き合いを経験で身に付けるように、生成AIも活動の相談相手として関わりながら付き合い方を学び、活用していきます。

地域学ゼミナールは、多様な人の支援と多様な情報リソースを活用し、様々な可能性の中から学生が自ら解決方法を見出していく、次世代を見据えた創造的な学びの場となっています。

― 授業では学生のどのような力を伸ばしたいと考えていますか。

現在、社会は急速に変化・発展し、AIといった技術発展も含め、先の読めない世界になってきています。学生の皆さんはまさにその社会を生きていくことになります。人がどこに住むにしても、その場所において誰かとつながり、ともに手を携えながら問題を解決し、よりよい社会と自分の人生を創造していかなければなりません。

地域学ゼミナールでは、学生たちが生活する「地域」を研究の対象として問題解決の議論をすることで、汎用的な知識と技能を身に付けるとともに学ぶことの意義を見つけ、コミュニケーションの必要性を実感する場となります。

ここでの「自ら課題を見出し、探究していく」という学びは、大学生活における基本的な技術として活きることになります。また「誰かの良さを見出し、自分の良さに気付き、人と人が手を取り合って問題を解決していく」体験とその学びは、大学生活においてなくてはならないものです。

清水先生

よりよい解決のためには、直観的なことを活かしながらも、根拠に基づいた批判的、論理的思考が求められます。情報化社会を生きる学生の皆さんにとって、データに基づいた分析はますます必要になっていますし、AIの発展により真偽の境目が曖昧になってきている今、「自分で考え判断する力」はさらに求められていると言えます。そのためにも「何が本当か」という真理の探究も含めて、互いに情報を発信する力、議論する力を育んでいく必要があると思います。

地域学ゼミナールは、大学における学修のための基礎的、かつ汎用的な力を身に付ける場ではありますが、ここで期待されている学問としての探究力は、次世代を生きる誰もが必要とされる力であり、地域学ゼミナールで学んでいる力には、まさに「次世代の教養」とも言える力があると考えています。

教員からアドバイス

Student’s Voice受講生インタビュー

清水先生が担当するクラスの受講生で、同じ班で探究活動をする、飯田 莉彩さん、小郷 一貴さん、柾木 智晴さんの3名にお話を伺いました。

受講生インタビュー
左から小郷さん(理工学部数物科学科1年)、飯田さん(医学部心理支援科学科1年)、柾木さん(教育学部学校教育教員養成課程1年)

― 皆さんのグループでは、どのようなことを調べたのか教えてください。

飯田さん
飯田さん
熊と人との境界線をもう一度引き直したいと考え、私たちは「熊と人間の共存」をテーマに、青森県内で熊が引き起こしている被害の現状とその対策について調べました。

― なぜ「熊と人間の共存」について調べようと思ったのでしょうか。

飯田さん:熊については、ニュースに日々取り上げられ、熊を駆除するかどうかについても賛否があり、とても興味深いと感じていました。これほど話題になっているなら、関連するデータを求めやすいのではないかという思いもあり、グループのみんなで話し合い、テーマとして選びました。

― 具体的にどのようなデータを授業で調べ、分析したのでしょうか。

小郷さん
小郷さん

熊対策する上で一番重要なこととして「どのような状況で熊が出没しやすいのか」ということを考えました。公的機関の報告によると、熊の主食の一つである「ブナの木の実」の豊作・凶作が、熊の出没に関係しているという内容もあったことから、まずは自分たちでもブナの豊凶と熊の出没件数に関連があるかどうかを調べてみました。ですが、自分たちの分析結果では、相関関係はそんなに大きくみられませんでした。

そこで次は、「荒廃農地が増えてきたことで熊の生息域が広がって、市街地と熊の生息域の距離が近くなっているんじゃないか」という予測を立てました。関連するデータを集めて調べてみましたが、これもあまり相関関係がみられませんでした。

飯田さん:熊の出没には「餌が手に入れにくくなった」「森林と市街地の境目がなくなった」など複数の要因が関わっている可能性があると考え、単回帰分析ではなく重回帰分析にも挑戦しましたが、私たちの持つデータだけでは熊の出没数の増加は説明できず、十分なデータを揃えることや適切な分析手法を選択することの重要性を実感しました。

中間報告で発表する小郷さん

中間報告で発表する小郷さん

― 授業では、どのような点でうまくいかなかったり、「難しいな」と思ったりしましたか?

飯田さん:荒廃農地の面積と熊の生息域の関連を調べたときに、青森県内の熊の出没件数は見つけられたのですが、青森県の荒廃農地の面積が見つけられなかったんです。代わりに、全国のデータを使って分析することにしたのですが、全国と青森県とでは規模が違うので、全国のデータで分析した結果が必ずしも青森県に当てはまるとは限らず思うような分析ができなかったことがあり、データを集めることの難しさを感じました。

小郷さん:僕は、熊の被害について考えるときに、最初は出没件数として人が直接熊を見た件数というのを指標として考えていたんですが、そうすると人口が少ない地域は目撃件数が少なくなるので、正確なデータが測れないというのが最初に当たった壁でした。代わりに熊の個体数から調べてみたりもしたんですが、それでもうまくいかなくて。良い方法はすぐには見つからないですが、「じゃあ次は、推定個体数*を使ってみよう」というように、一つのことがダメでも別の視点からデータを変えて試してみたりしていました。

*推定個体数:全数調査が困難な野生動物について、標本調査や捕獲データなどをもとに統計的な方法で算出した生息数のこと。

― 授業で印象に残っていることや「勉強になった」「おもしろい」と思ったことはありますか?

柾木さん
柾木さん
自分たちの設定した課題について調べていくときに、なかなか相関関係がみられないことが多いんですが、「分からなかった」で終わりにせず、代わりに何か別の視点から考えてみるということがこれまであまりなかったので、そういう活動が新鮮で面白いなと感じています。

飯田さん:データを扱う授業なので図表を作ることが多いのですが、他のグループの発表資料を見て、図の作り方が勉強になるなと感じました。例えば、中間発表のときに、因果関係の有無を1つの図で分かりやすくまとめているグループがあって、こういう示し方もあるのかと勉強になりました。

小郷さん:ブナの木の実の豊作・凶作と熊の出没件数の関係を調べていた時に、ある年だけ熊の出没件数がびっくりするくらい多くて。現実のデータを扱う中で、初めて出会った「外れ値*」でした。そのとき、数学で学んだ知識と現実が結びつくように感じて、「数学を学ぶ意味や価値ってこういうことなのかな」と思ったのを覚えています。

*外れ値:他と比べて大きく外れた値のこと。極端に小さな値、あるいは極端に大きな値を指す。

インタビューの様子

― 異なる学部・学科の方とグループを組んでみて、感じたことや発見などがあれば教えてください。

飯田さん:やっぱり注目する視点が違うのを感じます。例えば、「熊の出没数が増加したら人間にどういう影響を与えるのか」という話し合いをした時に、私は心理支援科学科なので、精神的な不安感などの面に着目していたんですが、別のメンバーは生態系の変化といった面に視点を向けていて、私だったら出てこない考え方だなと感じました。

小郷さん:学部や学科だけじゃなくて、それぞれ履修している授業が違うことも、視野の広がりにつながっているなと感じます。白神山地の生物や環境について学ぶ講義を履修したときに、生物の生息地に関することなど、インターネットではあまり見つからない専門的な情報や考え方について授業で学んだことがあって、その知識が地域学ゼミナールの課題を進めるときに役立ったんです。メンバーが持っている知識や情報はそれぞれ違うから、みんなの情報を組み合わせていくことで、課題の解決につながっていくのを感じました。

柾木さん:自分は教育学部で歴史が好きなんですけど、数字やデータを扱うのはあまり得意じゃなくて。でもデータが得意なメンバーたちと協力して、しっかり根拠を考えながら調べていく経験をしていたら、数字やデータもちょっと面白いかもしれないなと感じました。また、自分はグループ内で唯一の青森県民だったので、話し合いのときは地元民ならではの視点を伝えることを意識していました。

グループ学習

― 授業で学んだことを、今後どのような場面で活かしていきたいですか?

飯田さん:今後、卒業研究などを進めるときに活かしていけそうだなと感じています。心理支援科学科だと、アンケートをとった後に原因を考えるといったこともあると思うので、将来的に研究を進めていく際に学んだことを活用できればと思います。また、グループのみんなで話し合って課題探究した経験は、社会人として働くときにも役立つだろうなと感じています。

小郷さん:研究室などに所属して研究するときに、同じゼミの仲間たちと一緒に話し合って今後の方針を決めていくこともあると思うので、一つの目標に向かって調べていくという経験をつなげていければと思っています。

柾木さん:自分は将来、青森県で暮らしながら、教員として働いていきたいと思っているので、地域のことについて調べた今回の経験を、自分の暮らしに活かすだけでなく、次の世代へ伝えることにも活かしていければと思っています。

クラス分け時は初対面だった受講生の皆さん。
授業を重ねていくごとに、それぞれの得意なことやできることを担い、協力しながら課題に向き合っている姿が印象的でした。
「地域学ゼミナール」は、これから専門的な学びを深め社会に羽ばたいていく、弘大生の学びの基礎を支える授業でした。

関連リンク

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HIROMAGA先生インタビュー|教育学部 清水 稔先生