専門力と実践力を兼ね備えた、地域から期待される教員の養成を目指している弘前大学教育学部。現在、青森県内では、多くの卒業生たちが学校現場で活躍しています。
教育学部 学校教育教員養成課程で音楽科教育を担当する清水 稔先生にお話を伺いました。

20年間の中学校教員を経て

― 先生のご出身は? 子どもの頃、音楽にふれるきっかけはありましたか?

出身は秋田県です。特別、何か音楽にふれるきっかけがあったというわけではないのですが、父がクラシックを好きで家にレコードがたくさんある環境で育ちました。また、兄が電子オルガンを習い始めた影響もあって、私も小学校2年生から一緒に電子オルガンを習い始めました。

小学生の頃の電子オルガン練習風景

― 弘前大学にいらっしゃるまでの経緯について教えてください。

秋田大学を卒業後、秋田県内の中学校の教員として20年間、勤務していました。その後、大学の博士課程に進み、2018年に弘前大学の教員として採用になりました。

中学校の教員時代は、自分が作曲した曲を教材にして生徒たちに歌ってもらうという授業を行っていました。生徒たちから好評だったこともあり 、よりよい教材を作りたいという思いが強くなりました。また、生徒たちと新しいものを創り出そうとするなかで、人と人とのコミュニケーションが生まれることに感動し、その背景にあるのは何だろうということに興味を持つようになりました。そこで、博士課程に進み、「創造行為のプロセス」を哲学の視点から分析していくという研究に取り組みました。当時、臨床教育学を学んだのですが、それらのことから試行錯誤が重要だということに気づきました。

学校や教育現場が、いつも可能性を考えられる場所、何かを探求できる場所であってほしいという想いがあります。答えのないところに、よりよい答えを見出そうとする場所が学校だとすれば、20年間の中学校の教員生活でも常に研究を続けてきたとも言えるかもしれません。ですので、ある意味、研究分野に進んだことも、その延長線上にあると考えています。

中学校の教員時代に生徒たちから贈られた寄せ書き
中学校の教員時代、生徒たちから誕生日プレゼントとして贈られた寄せ書き。愛情あふれるイラストとメッセージは一生の宝物。

創造のプロセスは、さまざまな出会いが生まれる場

― 先生が取り組んでいる分野と、その魅力について教えてください。

取り組んでいる分野は作曲と音楽教育で、研究テーマは、「創造行為のプロセス」です。作曲は、今までになかった音の世界が生まれることが魅力です。学生に教えている時も、次は何が出てくるのだろうといつもワクワクします。新しいものを創り出そうとした時に生まれる人と人とのコミュニケーションや、試行錯誤するプロセスで生じる偶然のハプニングも含めて楽しさを感じています。
創造するということは、さまざまな出会いが生まれる場でもあります。新しい作品との出会い、仲間との出会い、新しい自分との出会いもあります。創作の過程は、自分の可能性の発見の場でもあります。

また、そのような創造行為のなかで哲学は大事な役割を果たします。たとえば、道端に花が咲いていても、自分が気づかなければ「ない」ことになってしまいます。しかし、意識がそこに向く感性があれば結果は異なります。哲学は、そのような気づかなかったことに気づけるようになる、幸福の道しるべになる学問だと思います。
人と人との関係性を明らかにすること、未来をつくることはどういうことか、あるいはその先にある人間の幸せとは何だろうか。その基盤となり、それを成立させている時間と空間の関係は何だろうか。音楽を通じてそうしたことを研究しています。

― 弘前大学の学生の印象は?

弘前大学の学生は、自由な発想があって創造力が豊かだと思います。また、素直で明るい学生が多いと感じています。

取材時の様子

想像力を働かせていろんな発想を生み出す力が、より良い教育をつくる

― 学生に指導するうえで、大切にしていることは何ですか?

ひとつは、その人の未来、すなわち将来の現場につなげていくことです。教員を目指す人にも、あるいは、将来について迷っている人にも、それぞれの活動がどのような意味合いをもっているのか、その人にとってのきっかけになるような話や学びができるように心がけています。
2つ目は、学生たちが将来なりたいもの、興味、関心、考えを大事にすることです。その人が考えていることにしっかりと耳を傾けて、目を向けて尊重したいと思っています。音楽を創作することを基盤としながら、授業の進め方を学んでいます。中学校の教員をやっていた時と同じように、卒業後もつながっていける関係性があればうれしいですね。教員以外の道に進んだとしても、その人が自分らしく活躍できる場所で輝けるようにと思っています。

― 将来、教員を目指す学生には、どんな教員になってほしいですか?

発想力、想像力豊かな、創造性のある教員になってほしいと思います。作曲も音楽を創作することも、今までなかったものを創り上げていく行為です。答えがないところに答えを見出していく。おそらく、それが未来を創る力になっていくと思います。
学生も一人ひとり違う世界を持っていて、40人いれば40人の世界があります。固定観念でとらえるのではなく、想像力を働かせて相手を思いやったり、いろんな発想を生み出したりすることができる教師がおそらく良い教育を作っていくのではないかと思います。

― 弘前大学教育学部の特徴・魅力は何だと思いますか?

弘前大学に来てからまだ日が浅いのですが、人を育てるために、互いの研究や教科の垣根を越えて、声をかけあう仲間意識や協働の意識があると感じています。教師のオープンな姿勢や協働性は、学生の研究や学びにとって大変プラスになると思います。学生の皆さんには、本学の良さを感じ取って生かしてほしいと思います。そして、私自身も学生の皆さんとそういう関係性が築けたらと思っています。

― 教育学部の学生の就職先・進学先は?

教育学部の教員養成課程なので、青森県の教員として活躍する学生が一番多いと思います。音楽科に限って言えば、演奏家として活躍する人や、ここで学んだ音楽教育を生かして一般職で働いている人もおり、活躍の場は幅広いと思います。

コロナ禍でのメディア授業体制に向けて奮闘

清水先生のメディア授業

― 新型コロナウイルス感染拡大防止策として、弘前大学では2020年の前期授業をメディア授業で行いましたが、先生はその構築や導入・運営にあたって大変ご尽力されたと伺っています。

メディア授業を構築するにあたって、全学部から数人ずつ教員が選ばれましたが私もそのメンバーの一人でした。会議では、具体的な導入方法や、その際の問題点や改善方法について話し合いました。私は、教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組み・FD(Faculty Development)の講師を務めましたが、こうした経験は私自身にとっても非常に勉強になりました。多くの教員や大学職員が試行錯誤しながら熱心に考えるなかで、「この先生は、こんなすごいスキルを持っていたんだ」と、新発見する場面もありました。

前期授業は、メディア授業で5月11日に開始しました。1日約100コマをリアルタイムで学生約4,500人へ配信。学生は、メールやチャットなどで教員に質問したり、課題の提出などを行ったりしました。録画された動画を学生が好きな時間に視聴する「オンデマンド方式」も導入し、予習にも活用できるようにしました。なにぶん、全員がほぼ初めての体験だったので、戸惑いや不安がなかったといえばうそになりますが、大変な状況の中での学生の頑張りもあって、弘前大学全体の取り組みとして非常に良かったと思っています。

― 弘前大学を目指す高校生や、在学生にメッセージをお願いします。

大学での「出会い」を大切にしてほしいと思います。もちろん、人との出会いもそうですが、学びにおける発見や、知識、技術との出会いもあります。大学には、日々、知の体験、そして、感動の場があると思います。そして、それはやってくるのではなく、自分が生み出そうとすることで得られるのだと思います。ここでしか出会えないものがいっぱいあるので、自分からきっかけを作っていくことでより良いものに出会えると思います。
大学は知の宝庫です。多くの研究をしている教員、それに関わる研究の財産、書物、そしてそこに集まる大学生自身もたくさんの魅力や知識、技術を持っています。それがこの大学という空間に集まっているのですから、多くの出会いのチャンスがあると思います。

高校生、あるいは在学生の皆さんには、自らの学びをクリエイトしていけるような冒険心を持ちながら、同時にそのような学びの探求をかなえてくれる場所が大学にあることに夢と期待をもって過ごしてくれることを願っています。

Questionもっと知りたい!清水センセイのこと!

― 大学時代の思い出は?

音楽活動に夢中になっていましたね。大学のサークル「秋田大学吹奏楽団」で活動するかたわら、小さなお店でジャズを弾いたり、秋田のアマチュアミュージカルの練習用のピアニストとして伴奏したりするなど、さまざまな音楽活動をしていました。

― どんな楽器を演奏していたのですか?

ピアノとトランペット、オーケストラではコントラバスです。あとは、かじった程度です。

― 趣味や特技は?

絵を描くのが好きです。ご依頼いただいて、秋田県鹿角市で開催されている音楽会のポスターの絵を描いたこともあります。大学院の授業では、日本画も描いていました。

秋田県鹿角市の音楽祭ポスターに使われた絵
中学校の教員時代に描いた教え子の絵
中学校の教員時代、東京で開催された打楽器の全国大会に教え子たちが出場した際に描いた絵。桜舞う季節、教え子たちとの思い出がよみがえる。絵は、この日の記念に子ども達にプレゼントした。

Profile

教育学部 学校教育教員養成課程 音楽教育講座 講師
清水 稔(しみず みのる)

秋田県生まれ 。
秋田大学教育学部音楽科を卒業後、秋田県内の中学校の教員となる。その後、上越教育大学大学院学校教育研究科、東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科学校教育学専攻芸術系教育講座へ進み、2018年に弘前大学に赴任。
2017年に日本音楽教育学会 第5回日本音楽教育学会学会賞受賞。
専門分野は作曲と音楽教育。

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