若者の政治への参加意欲・関心の低さが大きな課題となっている日本。
2016年の参議院選挙から「18歳選挙権」が導入され、全国の高校では、「主権者教育」が行われているものの、いまだに若者世代の投票率が低い状態が続いています。
選挙に主体的に参加する若者たちを育てていく必要性が叫ばれるなか、弘前大学教育学部の蒔田純准教授は、国内外の小学生を対象にアニメーションを活用した独自の主権者教育を実践し、注目を集めています。
「教育の現場で政治をどのように教えるか」をテーマに、研究に取り組んでいる蒔田准教授にお話を伺いました。

「政治って面白い!」衝撃を受けた高校1年生の出来事

― 現在の研究分野に興味を持ったきっかけについて教えてください。

1993年、高校1年の夏のこと。衆議院選挙で自由民主党が敗れ、38年続いた自由民主党の1党支配が幕を閉じるという歴史的な出来事がありました。7党1会派による細川護煕内閣が誕生し、多党派連立政権が始まったのです。
それまで、学校の授業などで、連立内閣なるものが存在することは知っていましたが、まさか日本で登場するとは思ってもみなかったので非常に衝撃を受けました。
日々、政治の局面がコロコロ変わっていく様子は、まるでドラマか映画を観ているかのように刺激的。政治ってなんて面白いんだ!と、新聞やニュースを見るのが楽しみで仕方ありませんでした。

細川護煕首相は、外国製のスーツをビシッと着こなして、さっそうと演説をする姿が印象的でした。新しい時代のニューリーダーが誕生した!こういう人が総理大臣になれば、日本も変わるのかもしれないと、政治がぐっと身近に感じられるようになりました。多感な時期に、あの激動の政治にふれたことが、現在の研究分野に興味を持ったきっかけです。これを機に政治を学んでみたいという思いが強くなり、大学は法学部政治学科に進み、2002年、大学院の修士課程を修了しました。

永田町・霞が関で衆議院議員政策担当秘書を経験。政治・政策立案に携わった実績も!

― 大学院卒業後は、どんなお仕事をされていたのですか?その仕事を選んだ理由についても教えてください。

卒業後は、永田町・霞が関で衆議院議員政策担当秘書として勤務し、政治・政策立案に携わりました。2012年には、政策研究大学院大学政策プロフェッショナルプログラム博士課程を修了し、2013年、総務大臣秘書官になりました。

この仕事を選んだ理由は、政治に携わることで何らかの形で社会にインパクトを与えられるのではないかと思ったからです。政治の世界は、あちらを立てればこちらが立たずで、誰かの利益になることをやれば、誰かが損をする状況が発生し、100パーセントの正解はありません。調整は至難のわざですが、政治にしか成し得ないこともあるはず。仕事を通じて社会や人々の人生にコミットしてインパクトを与えることができるなら、大きなやりがいがあると思ったからです。

「政治に関わってると、ヤバいやつだと思われる…」ショックだった大学生の言葉

― 当時の出来事で印象に残っていることはありますか?

衆院議員の政策担当秘書をしていたときのこと。議員事務所にインターンに来ていた大学生が、「ここで働いていることは、大学の友達には話していない」と言うんですね。理由を尋ねると、「政治に関心があるとか、議員事務所で働いていることが知られると、こいつ、ちょっとヤバいやつなんじゃないかと思われて敬遠される」と。それを聞いて、すごくショックでした。
しかし、その一方で、自分の学生時代を振り返っても、政治に関してネガティブなイメージで語られるシーンが少なからずあったように思います。民主主義というのは国民がつくっていくものであり、将来的にその国に関わる機会が多い若者が政治の話ができないのは問題だと思いました。この出来事を機に、若者がもっとフランクに政治について話せる社会にしていくためにはどうしたらよいのか考えるようになりました。
また、政治の現場で、政治家側と、政治研究者側の意見が平行線のまま、いっこうにかみ合わない場面に何度も遭遇しました。本来であれば、両者の知見を共有し、高め合いながら発展していく形が理想的です。
しかし、今の日本において、実務と学問の両方の視点を併せ持って政治を語れる人は少ないように感じました。これまで自分が身につけた学問と、政治の実態に基づいた実務経験によって、もしかしたら両者をつなぐ架け橋になれるのではないか…。そう考えるようになりました。
そこで、これまでの自分の知識と経験を生かして、教育の現場で政治を教えていく人を育てていきたいと思い、2018年、弘前大学に赴任しました。

インタビューの様子

大切なのは、自分たちの生活と政治が密接に関わっていることに気づくこと

― 先生の研究分野について教えてください。

研究分野は、政治学、主権者教育で、教育の現場で政治をどのように教えるかを研究テーマにしています。主権者教育とは、国や社会の課題を自分の問題としてとらえ、自ら考え、判断し、選挙にも主体的に参加する人を育成する教育です。
政治というものを通して、国がどのように成り立ち、社会がどのように動いているのかを理解できること、また、主権者教育の研究・活動を通して、民主主義の発展・浸透に貢献できることがこの研究の魅力だと感じています。

― 先生が考案された小学生向けアニメーション「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」とそれを活用した出前授業は、多くのメディアでも取り上げられ話題を呼んでいます。なぜ、この取り組みを始められたのでしょう?

2015年に公職選挙法が改正され、2016年に選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことで、若者に政治との関わり方を教える主権者教育が広がりつつあります。しかし、そのターゲットは主に高校生です。
政治に関する知識を教えるだけであれば、高校生になってからでも遅くはないでしょう。しかし、自分の意見をはっきりと表明し、相手の意見もよく聞き、対立する点があればとことん議論を重ねながら意見集約するスキルは、一朝一夕に身につくものではありません。主体的に政治に関わるために必要なのは、ディスカッションを繰り返したうえで1つに決めるというプロセスを実践する力です。
そのためには、小学生のうちから健全な批判や建設的な議論をする訓練をしていくことが必要です。そして、それこそが主権者教育の柱になるのではないかと思ったことが、出前授業を始めた理由です。

― アニメーションの概要と、出前授業の内容について教えてください。

アニメーションは、子どもたちに政治や選挙のことを身近に感じてもらうとともに、模擬投票を通じて、一人ひとりの投票によって政治が決まるプロセスをリアルに体験してもらいたいという思いから制作したものです。
2019年、弘前大学附属小学校で出前授業を始めたのを機に、これまで国内をはじめ、台湾、東ティモール、パプアニューギニア、タンザニア、クック諸島など、オンライン授業を含め、8カ国42校で計60回実施しました(※2023年5月現在)。
物語は、「ポリポリ村」を舞台に、村のお金の使い方をめぐって村民たちの間で意見が対立するところから始まります。「橋を造って交通の便を良くしたい。そのために、お祭りが開催できなくなっても仕方がない」という意見と、「お祭りは開催するべき」という意見がぶつかり、村内で対立が起こります。そこで、村長選挙によって決めることになり、2人の候補者が立候補します。
出前授業では、ここでいったん動画を止めて、教室の子どもたちにどちらの候補者に投票するか議論してもらいます。そして、最後に教室内に設置した投票箱に実際に投票用紙を入れてもらいます。
アニメの後半部分は、あらかじめ、橋の建設が行われるパターンと、祭りが開催されるパターンの2通りを用意しています。子どもたちの投票が終わると、その場で開票します。模擬投票を通じて、政治がいかに自分たちの日常生活と密接しているかということに気づいてもらうことを大切にしています。

― 子どもたちの反応や、出前授業の取り組みを通じて感じたことはありますか?

日本の小学校で出前授業をすると、比較的インフラが整っている都市部では「祭り開催派」が多く、地方では「橋建設派」が多くなる傾向があります。海外でも、パプアニューギニアや東ティモールなどでは「橋建設派」が圧勝です。置かれている環境が投票行動に大きく影響する傾向は、実際の選挙にも言えることです。そういう意味でも、子どもたちが社会と自分とのつながりを考える良い機会になっていると感じています。
授業の最後に実施しているアンケートからも、見えてくるものがあります。「なぜその候補者に投票したのか」という質問に対して子どもたちは、「橋があると生活が便利になり、お年寄りも安心だから」、「伝統ある祭りをなくしたくないから」などと述べており、投票した理由は政策に基づくものであることがわかります。
一般の選挙では、「候補者がイケメンだから」「ポスターの写真が美人だったからなんとなく」などという声も聞かれるのに対し、子どもたちはアニメのキャラの風貌や雰囲気に左右されず、政策に着眼し、村民の立場になって判断しているところが頼もしいと感じます。
さらに、ほとんどの子どもが「話し合いをしても決まらなかったときは投票で決めるのがよい」と回答しています。出前授業が、民主的な意思決定のプロセスを学ぶ訓練の場になっているという手ごたえを感じています。
2021年には、『ポリポリ村のみんしゅしゅぎ 絵本で選挙を体験しよう』(かもがわ出版 蒔田純 文、おかやまたかとし 絵)を出版しました。子どもたちに政治や選挙のことを身近に感じてもらうきっかけになればと思っています。

「マニフェスト大賞」ダブル受賞を目標に!

― 先生は、2022年に「第17回マニフェスト大賞」(同実行委員会主催)の「ローカル・マニフェスト大賞 市民・団体の部」で、優秀賞を受賞されたそうですね。

審査員の方からは、「主権者教育の場が高校中心になっていることに対して、そもそも受身の政治的態度が形成されている過程をさかのぼり、小学生の教育現場にフォーカスするという根本に迫るアプローチが優れている」という、有難い審査講評をいただきました。
今年度のゼミでは、学生がマニフェスト大賞に応募する予定です。私が取れなかった最優秀賞を、ぜひ学生に勝ち取ってほしいと思い、研究を進めているところです。

マニフェスト大賞の案を学生がプレゼンする様子
マニフェスト大賞の応募案を学生がプレゼンする様子

― 学生を指導するうえで大切にしていることは?

学生たちには、学術的な知識だけではなく、実地に基づいた政治の実態を伝えることを心がけています。また、学生が自らプロジェクトを立ち上げ、動かし、何らかの成果をめざすという実践的な活動も取り入れるようにしています。実践的な活動の一例として、学生による国際理解、国際協調をテーマにしたアニメーションがあります。
社会科教育講座では、将来、社会科の教員をめざす学生たちが学んでいますが、社会科は、政治、法律、経済、歴史などジャンルが幅広く多種多様です。学生たちには、そのなかから自分が子どもたちに伝えたいと思うテーマを1つ選び、それをわかりやすく伝えるための構成を考えみんなの前でプレゼンしてもらっています。そのなかで特に良かったと思うものを投票で選び、アニメーションを制作しています。今後もさらに新作に挑戦する予定です。

― 衆議院議員秘書などを経験されたことが、授業で役立っていることはありますか?

政策過程の生の実態や政治家の裏話など、実際に経験した者しか知り得ない知見を授業のなかで提供することもあります。また、これまでの人脈を生かして、政治家や官僚、大使館の職員などの知り合いにゲストスピーカーとして講義していただいたりもしています。

社会の発展の土台となる民主主義を世界に広めたい!

― 今後、取り組んでみたいことや抱負についてお聞かせください。

アニメーションや絵本に関しては、言語バージョンを増やし、より多くの国の子どもたちに学んでもらうきっかけをつくるとともに、アニメーションのバリエーションをさらに増やしていきたいと思っています。
日本に暮らしていると、民主主義や選挙はごくあたりまえのように感じます。しかし、世界に目を向けると、内戦や飢餓、独裁者による政治など、悲惨な状況に苦しんでいる人々がたくさんいます。その理由を突き詰めていくと、民主主義が定着していないことに行き着くと思います。民主主義は、社会経済的な発展の大前提です。ですから、社会の発展の土台となる民主主義を世界に広めて、貧困に苦しんでいる人たちが一歩踏み出せるような環境作りに貢献したいと思っています。

― 弘前市、また弘前大学や学部の魅力は、どんなところだと思いますか?

弘前は、自然や観光資源にあふれた魅力ある街です。一方では、人口減少と過疎化の最前線に立つ課題先進地域でもあります。社会課題の解決や、地域資源を生かした街づくりなど、学生が地域に根差して実践的な活動を行うためにとても適している街だと感じています。
また、教育学部は教育の現場に触れる機会が多く、学生が実際に子どもたちに触れるなかで自身の将来を見極めることができる点が魅力的だと思います。

― 弘前大学をめざす高校生や、在学生にメッセージをお願いします。

スティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学の卒業式で学生たちに贈ったスピーチのなかに「点と点をつなげる」という言葉があります。彼は、自身が大学を中退せざるをえなくなった時、最後に自分が興味・関心のある授業を受けておこうと、「カリグラフィー」という文字装飾の技術を学びます。
その後、彼は米アップル社を創業し、マッキントッシュを設計する際にカリグラフィーの知識を注ぎ込みました。そうして誕生したのが、美しいフォントを持つ世界初のコンピューターです。
もちろん彼は、「カリグラフィー」を学んでいた当時は、それがいずれ、自分がつくるパソコンに生かされるとは思っていませんでした。彼が言うには、将来を見すえて点と点をつなぎ合わせることはできない。できるのは、過去を振り返ってつなぎ合わせることだけだと。ですので、できるだけ多くの経験を重ね、将来、自分の人生で点と点がつながることを信じてほしいと、彼は語っています。

私自身の学生時代を振り返っても、あの時の経験が今、役立っていると感じることがたくさんあります。自分がやりたいことにチャレンジできるのが学生時代です。失敗をおそれず、興味のあることに挑戦してみてください。前例や常識に固執せず固定観念にとらわれず、ゼロベースで物事を考え、実践できる大人になってほしいと思います。

インタビューの様子

Questionもっと知りたい!蒔田センセイのこと!

― 大学時代の思い出は?

大学時代は、シェイクスピア原作の劇をやる演劇サークルに所属し、演劇に熱中していました。印象に残っているのは、3年生のときの本公演で演出を担当したこと。自分で脚本を書き、演者やスタッフに指示出しをしながら、現場を仕切っていかなくてはなりません。
演劇をやっている人間たちですから、それはもうみんな個性が強い連中ばかり(笑)。あちらを立てればこちらが立たずで、絶対に両立しない利害をどう調整して形にするか大変苦労しました。まさにトレードオフです。
でも、あとになって冷静に考えてみると、これこそがまさに政治なわけです。1つの舞台を作るのか、社会全体を作るのか規模の違いはあるものの、プロセスは同じです。
あのとき、舞台の演出を経験させてもらったことが、社会に出てから役立っていると感じています。まさに、スティーブ・ジョブズの「点と点をつなげる」ですね。
ちなみに、「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」のナレーションと声優も私が務めました。演劇部出身の経験が、少しだけ生かせたかもしれません(笑)。

― 休日の過ごし方

おいしいものが好きなので、食べ歩きにでかけます。よく行くのは、デカ盛りの店と、食べ放題のお店(笑)。たくさん食べても、なぜか昔から体型が変わらないんです。

父はピアノ、母はマリンバを演奏する音楽一家に育ちました。私も3歳からピアノを習っていて、今でも時々ピアノを弾いています。

趣味のピアノを弾く様子

休日に趣味のピアノを弾く様子

Profile

教育学部 社会科教育講座 准教授
蒔田 純(まきた じゅん)

石川県白山市生まれ 。
研究テーマは、「政治学」と「主権者教育」。
選挙をテーマとするアニメーション「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」を用いた出前授業を国内外の小学校で実施(これまでに8ヶ国42校で60回実施)。
2022年度マニフェスト大賞(ローカルマニフェスト大賞市民・団体の部)優秀賞受賞。