地域を観察して、真理を探究する ~ 探究のアドバイス ~



変化が激しく、何が起こるかわからない現代社会。
答えがただ一つではない複雑な問題に柔軟に立ち向かい、よりよい未来をつくっていくために求められているのが、“探究する力”です。

2022年度(令和4年度)から新学習指導要領がスタートし、高校では「総合的な学習の時間」に代わり「総合的な探究の時間」が必修となりました。

また、弘前大学では、弘前大学太宰治記念「津軽賞」地域探究論文高校生コンテスト*を創設!地域を“探究”した小論文を募集します!

…でも、そもそも探究するとはどういうことなのでしょうか?
そこで今回は「探究学習」について研究している弘前大学教育学部 宮﨑 充治 教授若松 大輔 助教にお話を伺いました!

*弘前大学太宰治記念「津軽賞」地域探究論文高校生コンテスト


弘前大学の前身の一つである旧制官立弘前高等学校で学んだ太宰治。
小説『津軽』(1944年)は、優れた地誌、地域論として読むこともできます。

弘前大学は太宰治のこの事績を記念して、津軽賞を創設しました。

高校生のみなさんが自ら地域を探究することを通じて、自分が本当に学びたいことに気づいてもらうことを目的に、地域論文コンテストを実施します!

■第1回目の募集が、2022年9月1日からいよいよスタート!
詳細はこちら
津軽賞

今回お話してくれた先生はこのお二人!

津軽賞
宮﨑充治教授

大阪府出身。東京での小学校教員(30年)を経て、現職。
教育学部教育学研究室。附属幼稚園園長。
研究分野は演劇的教育、総合学習。身体的な活動や表現を通して、学びがどのように深まるのかということについて実践・研究をしている。趣味はマラソン、登山、ハンモックをつるして昼寝。

津軽賞
若松大輔助教

兵庫県出身。大学院教育学研究科。
研究テーマは、教師によるカリキュラム開発や授業づくりの発想について。特に「教師の知識」の構造に着目した教師教育論を研究している。また、教師が自身の実践を綴った実践記録を読むことは、研究でありつつ趣味でもある。日常的なリフレッシュの方法は、1人で静かにサウナを楽しむこと。

そもそも「探究」って? ~答え≠ゴール~

探究における生徒の学習の姿

宮﨑先生:文部科学省では“探究”とは「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「報告・まとめ」という活動が螺旋的に進んでいくっていうんですけれど、決してこれは直線的なものではないですよね。

若松先生:私も経験上そう思いますね。

宮﨑先生:問いを立てて、情報を収集して詳しくなっていくと、その立てた問いを修正したい場面も出てきますね。そして問いを修正し、また情報収集していくと、また問いを直したくなって…。そんな風に行きつ戻りつしながら問いって育てていくものだと思います。

若松先生:1つの問いに始まってそれに対する答えが出て、そこがゴールというわけでもないですよね。そこからまたわからないことが新たに見つかる。つまり、問いから新たな問いが生まれてくる。探究ってそのような連続体だと考えています。

行きつ戻りつ

「問いを立てる」 ~探究の入り口に立つ~

津軽賞

若松先生:良い問いとは、どのようなものなのでしょうか?

宮﨑先生:調べていくうちにだんだんいろんなことがわかってくると、「わかって面白いな」と思うような、わくわく感がある問いが一番良い問いかなって思いますね。
問いを立てるっていうときに、自分自身の中に引っかかっていたものについて研究していくというのは、割と多いパターンですね。これが社会的にはどういう意味を持っているのか、という問いに変換されていく。逆に、社会的な問いを新聞やテレビで見て、それについてどうなんだろうと考えていくと、自分の問いになる、というパターンもありますね。

若松先生:私たち研究者の問いというのは、いざ高校生たちの目に見える形になった時には「社会的にどういう意味を持つか」といった面が強調されるので、研究者がその問いにどう“自分事”として向き合ってきたのか、というところは見えづらいかもしれないですね。

宮﨑先生:私は論文や本の「はじめに」とか「終わりに」を読むのが好きなんですけど、そこに研究者が、なぜこの問いを立てたのか、そしてその問いはどういう意味を持っているのか、書かれていますよね。

若松先生:研究者による初めての著書の「あとがき」には、自分の生活や今まで経験してきたこと、誰と出会った、だからこの問いを立てたんだっていう、すごくパッションを感じて、私も好きです。

宮﨑先生:このテーマを選んで後悔したとか難しかった、広がりがありすぎたとか(笑)。

若松先生:挫折も書いてあったりしますよね(笑)

宮﨑先生:そういうことが研究の入り口にあるのかなって気がするんですね。

「調べる」 ~知識のインプットと…ツッコミ?~

津軽賞
津軽賞

若松先生:情報を収集・分析するためのわかりやすい手法、テクニックみたいなものは情報としてすごく広がっていってますけど、「こうすればいい」というのを文字でいくら見てもわかりませんよね。実際にやりながら、試行錯誤して経験していく中で、後で振り返ったときに気づいたら身についているようなものだと思います。
ただし、SNSの文章や日記などのような私的な文章には求められないけれど、探究活動には求められるような重要な「考え方」というものがあることも事実だと思います。
宮﨑先生は、高校生たちがこれから情報を分析していくっていうときに、技術的な手法の手前にある重要な「考え方」というものはどのようにお考えですか?

宮﨑先生:「対話型論証による学びのデザイン」という書籍の中で、トゥールミンの“ 三角ロジック ”が書かれているのですが、何かを主張するっていうときには、1つは事実やデータを基にしながら、主張の根拠(論拠)を組み立てて、他人を説得していくということになりますよね。
もう1つは、その主張への対立意見、それに対する反駁(反論)が重要です。

津軽賞

若松先生問いに対して「短絡的な答え」で終わらないためには、やっぱり他者、つまり、自分の一度納得したものに突っ込んでくれる存在が重要ですよね。

宮﨑先生:探究するときには、先生であってもいいし、友達であってもいいし、自分の考えを語ったり、励ましてもらったり、アドバイスをもらったり、インスパイアされたりっていう、そういう関係ってとても重要なのかなって思います。

若松先生:他者にコメントをもらうと、最終的には自分自身でも、「その根拠で十分主張できるの?」「それって論理的?」「他の可能性はないの?」って、問い続けられるようになる、自分の中に常に問い続けてくれる他者を住まわすっていうことにつながると思いますね。

宮﨑先生:お互い関西人なんで、一人ツッコミ一人ボケみたいな感じですよね(笑)
自分にツッコミを入れられるのってとても大事なことだと思います。

若松先生:なんかこう、一般的に正しい、常識と言われているようなことに対して、「他の可能性があるんじゃない?」っていうためには、まず「正しい」と思われていることが何か、知らなければならないと思います。

宮﨑先生:そうですね。高校生、大学生もそうなんだけれど、やっぱり知識や情報をインプットしていくことって非常に重要なことで、このプロセスが抜けてしまうと薄っぺらな研究になってしまいますよね。

若松先生:問いって個人がスタートするものだけれど、最終的に個人だけでなくて、他の世界の人々にとっても価値のあるものにしていくためにはどうすればいいのかっていうことを考えるためにも、先行研究や、今社会で何が言われているのかを知っておくというのは非常に重要なことだと思います。

「まとめる」 ~あなたが伝えたい人は誰?~

若松先生:「他者に伝える」っていうことの中に入るんだと思いますけれど、探究を、一旦どこかで切って、まとめるって作業がありますよね。しかし、このまとめることも簡単ではない。どのようなことを意識すればよいのでしょうか?

宮﨑先生:僕は、「誰に」伝えるのか、ここをすごく重要に考えさせるんです。その問いは「誰に」向けられたもので、「誰に」対してその報告をするのかって。「誰に」を考え続けていくと、「何を」「どのように」「なぜ」っていう部分が明確になっていくので、そこを大事にするようにと指導してますね。

この間、高校生が、地方ローカル鉄道の魅力を伝えるためにパンフレットを作るんだっていいましてね。SNS等もある時代なのに、なぜパンフレットかと聞いたら、彼は自分の高校の友達にこの良さを伝えることを研究の目標にしていて、そうすると、手渡しができるパンフレットなんだというんです。とても重要なことだなと思いまして、やはり「誰に」を考えると、「何を」「どのように」「なぜ」が付いてくるんだと実感したことがありました。

若松先生「誰に」がはっきり言えてくると、同時に「伝えたい!」って思えてくるので、それが探究を進めていくときの原動力になっていくのかなって気がしますね。研究者が何かを書くときにも、たいてい納得させたい「仮想敵」(あまり良い表現ではありませんが)を想定している場合が多いと思います。

探究力を育む ~自分の生き方を発見~

宮﨑先生:探究のプロセスが、自分という人間を育てていく感じがします。探究を通して、自分にとっての課題がわかり、自分がどういう問いを持った人間かがわかり、自分にとっての得意がわかり、そういった積み重ねで、自分の社会的な使命がわかっていくという。そこに探究の大きな学びがあるのかなって思います。

若松先生:なるほど。探究自体が、自己の再認識、一時期流行った言葉で言うと「自分探しの旅」みたいなものなのかなって感じがしますね。

宮﨑先生:そうですね。大学に、そういう探究者がたくさん来てくれると、それがまさしく学問研究につながっていくと思います。探究のサイクル、自分で問いを立てて、調べて、報告するっていう、このサイクルを何回も経験することが、探究力を育てていくのだと思いますね。

宣伝になりますが(笑)ぜひ、「津軽賞」にも、高校1年生の段階から応募してもらって、何度も何度もサイクルを回していってほしいです。そういった経験が、力量を鍛えていくことになるんだと思いますね。

宮﨑先生からのアドバイス!

津軽賞

わくわくする探究の入り口をご紹介
「文房具図鑑:その文具のいい所から悪い所まで最強解説」(著者・山本健太郎 いろは出版 2016)は、小学6年生の著者が夏休みの自由研究でまとめたものが書籍化されたものです。文房具好きの子で、各社の文房具を全部自分の絵で細かく比較してるんです。
こういった楽しみとかわくわくみたいなものが「探究」の入り口で、高校生のみなさんも、そういう気持ちで取り組んでほしいですね。

若松先生からのアドバイス!

津軽賞

仲間とのコミュニケーションが気づきに
人に話して、誰かからコメントをもらって参考にする、というのももちろんですが、「話す」だけでも、それまでは綺麗にまとまったと思ってたけど、ちょっと論理的じゃないのかな、ここ引っかかるな、とか、気づくこともありますよ。一人で進めている探究でも、ぜひ周りの人と話しながら深めていきましょう。

津軽賞に応募しよう!

津軽賞

今年9月1日から募集を開始する、太宰治記念 地域探究論文高校生コンテスト「津軽賞」。
「地域を題材としたテーマ」の小論文を募集します。
自分の探究をまとめて相手に伝える練習に、力試しに、ぜひ応募してみませんか?
もちろん、高校1年生〜3年生まで、これから毎年応募することも可能です!
応募を一つの節目に、これからどんどん探究力を磨いていってください!
みなさんのご応募をお待ちしています!

■津軽賞特設サイトはこちらから