令和2(2020)年10月、弘前のローカル線、弘南鉄道大鰐線の「りんご畑鉄道ラッピング電車」が運行を開始しました。車体にりんごのイラストが描かれ、車内にはりんごのペーパークラフトを飾ったりんご尽くしの電車が、りんご畑を駆け抜けています。
「りんご畑鉄道ラッピング電車」を企画したのは弘大生が設立した団体『ひろさき地域活動応援隊FUYAKU(フヤク)』。
今回は『ひろさき地域活動応援隊FUYAKU』の代表 佐藤綾哉さん(人文社会科学部4年)とメンバーの立川史織さん(同2年)に、団体の設立の経緯や「りんご畑鉄道」で目指したことについて伺いました。

*ハッケル・・・津軽弁で「走る」の意味

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU

―設立の経緯を教えてください。

佐藤さん:3年生のときにインターンをした先の代表の方が、「弘南鉄道アソビプロジェクト」に携わっていました。
その方から、4月に実施する「弘南鉄道沿線資源調査ワークショップ」に大学生として参加しないか、声をかけていただいたのがきっかけです。

立川さん:時期は違いますが、佐藤さんと同じ団体さんにインターンをしていた経緯があって、私も同じワークショップに参加していました。
ワークショップでは弘南鉄道の沿線にどんな施設があるか、どういう魅力があるのかを出し合って、マップに起こしてモデルコース作りをしました。

佐藤さん:せっかく大学生として参加していろいろな意見を聞いたので、自分たちでも何かやってみたいと思って。企画をやるとなると人が必要だということで、興味を持ってくれそうな人に声をかけ、弘大生5人で「ひろさき地域活動応援隊FUYAKU」を立ち上げました。

―今回の企画はどのように決めたのですか?

佐藤さん:ワークショップで、弘南鉄道の大鰐線を「りんご畑鉄道」、弘南線を「田んぼ鉄道」という愛称でアピールしていこうという話が出ていたんです。それで、まず「りんご畑鉄道」を定着させていけるような取り組みができたら・・・と考え。
4月はもう新型コロナウイルスが流行っていたので、人を集めるイベントは基本的にはできないというのは頭にあって、ラッピング電車ならできるのではないかと。

弘前市の「まちづくり1%システム*」に応募して、6月に審査会の結果採択され、予算がつき、活動を開始しました。

*弘前市市民参加型まちづくり1%システム・・・個人市民税の1%相当額を財源に、市民自らが実践するまちづくり、地域づくり活動に係る経費の一部を支援する、公募型の補助金制度(出典:弘前市役所ホームページ

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りんご畑を走る大鰐線の車窓から(弘南鉄道(株)提供)
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田んぼの中を走る弘南線(弘南鉄道(株)提供)

―準備はどのように進めたのですか?

佐藤さん:電車のラッピングのデザインは、アルバイトで同僚だった、教育学研究科の清藤慎一郎さんにお願いしました。
電車の中に飾るりんごのペーパークラフト作りは、大鰐線沿線の幼稚園や保育園に制作をお願いして、全部で13園のみなさんにご協力いただきました。
本当は作るのをお手伝いに行きたかったんですが、時節柄、子どもたちと外部の人との接触は好ましくない、という状況もあったので、材料と説明書をお送りして、完成品を1か月後くらいに回収する、という形にしました。参加してくれた園のみなさんはとても協力的で、回収までの1か月の間、園に飾ってくれたところもありました。

僕たちの作業としては、園児たちに作ってもらうので、はさみを使わないほうがいいかと思って、切るのは自分たちでやりました。準備予定のりんごの数は350個以上、1個に紙を8枚使うので、数千枚をみんなで集まったり、家に持ち帰ったりして準備しました。

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
幼稚園へ送る材料の準備
ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
車内への飾り付け

「りんご畑鉄道」ラッピング電車出発式!

2020(令和2)年10月10日(土)、弘南鉄道大鰐線中央弘前駅ホームにて、りんご畑鉄道ラッピング電車の出発式が執り行われました。

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
ヘッドマークもオリジナル
ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
赤・黄・緑のりんごが電車を彩る
ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
りんごがたわわに実ったようににぎやかな車内
ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
景色を明るくするラッピング電車

出発式には車内のりんごペーパークラフトを制作した若草幼稚園の園児、弘前や大鰐のマスコットキャラクターが参加。弘前の囃子組「七夕会」がお囃子で盛り上げる中、園児らの「しゅっぱつしんこーう!」の元気な掛け声で、電車が出発しました。
また、津軽の伝統料理を継承する活動をしている「津軽あかつきの会」、弘前青年会議所もかけつけ、手作りのりんごのケーキやコロッケをふるまい、ラッピング電車の初日を盛り上げました。
ラッピング電車は大鰐-中央弘前間を1日8往復、2021(令和3)年3月31日(水)まで運行する予定です。

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
出発式には駅に出店も
ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
挨拶をする佐藤さん

―出発の日を迎えてどうでしたか?

立川さん:幼稚園・保育園でたくさんりんごのペーパークラフトを作ってくれたので、全部飾り付けてみると壮大な景色になりました。想像していたよりも赤くて、すごく印象に残りました。
出発式の日には、子どもたちが電車の中に入って自分の作ったりんごの装飾を探しているのを見て、達成感がありました。

佐藤さん:出発式はあまり宣伝はしていなかったんですが、今日からりんご畑鉄道が運行するということで乗りに来たと言っている方もいて、思っていたより一般の方も来られていてうれしかったです。

立川さん:いろいろな方が協力してくださったので、FUYAKUの活動というよりも、みんなのものという感じがして、うれしかったですね。

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
新しい看板を持っての集合写真

―ラッピング電車をやってみて、何か反響はありましたか?

佐藤さん:目的が大鰐線に「りんご畑鉄道」という愛称を定着させるということだったので、知名度アップの効果はあったんじゃないかと思っています。
SNSで検索してみるとけっこう画像が出てきたり、YouTubeで動画を上げてくださっている方がいたりして。

弘南鉄道をテーマに卒業論文を書いていて、アンケートで「弘南鉄道弘南線と大鰐線のどちらの近くに住んでいるか」という質問をしたんですが、どっちかわからないという人が多かったです。弘南線・大鰐線じゃなくて、田んぼの中を走る方、りんご畑を走る方、と言えば分かりやすいのかなとは思うので、愛称が広まれば、認知もされやすくなるんじゃないでしょうか。

りんご畑を走る鉄道ってすごく珍しいものなので、観光コンテンツにもなり得るのかなと思います。特に大鰐線は弘南線に比べて、通勤通学での利用が少なくて、利用客の増加を目指すというときに、ただ地域住民の方に乗ってと言うのは限界があると思います。
「りんご畑鉄道」として、観光に活用したり、話題にしてもらったりして、大鰐線を認知してくれる人が増えていくといいですね。

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
インタビュー中の立川さん(左)と佐藤さん(右)

―ひろさき地域活動応援隊FUYAKUとしては今後どのように活動していきたいですか?

佐藤さん:団体名を鉄道よりの名前にしなかったのは、鉄道の活動に限らず、地域の活動に取り組んでいければという思いがあったからなので、今回の経験を活かして、メンバーが面白いと思うことに取り組んでいければと思っています。
今年りんご畑鉄道がうまくいったのであれば、弘南線の田んぼ鉄道の知名度向上に取り組んでもいいと思います。
僕はもう卒業なので、残ったみんなに活動を担ってもらうことになりますが、自分も何かの形で活動をサポートできればと思っています。

―この企画を通して成長したと思うことはありますか?

立川さん:私は県外出身で、進学するまで弘前に関して知識がゼロだったんですけど、こうやってりんご畑鉄道に取り組んで、地域のことを知るきっかけにもなりましたし、大学生がこんなことやりたいと言って活動していることに対して、地域の大人の方が柔軟に対応してくれたり、アドバイスをしてくれたり、弘前は大学生を受け入れてくれる街なんだなと実感しました。
活動を通してすごく視野が広がって、弘前の街の魅力にも気づくことができました。

佐藤さん:何か面白いことを考えて、それを実際に実行に移すとなるとそこからどーんとハードルが上がると思いますが、いざ実行してみたら思っていたよりできるという手応えを感じました。
僕たちは今回、学生だけで企画してやってきましたが、こういうことを大学の授業以外でやったほうがいいと思うんです。大学でも、企業が抱える課題に対して企画提案をするという授業はあります。ただ授業だと、企業の方との連絡調整など先生が行う部分がありますし、単位(評価)を気にしてしまう面もあると思います。大学生のうちに対価に捉われず、自分たちのやりたいことを、自分たちで考えて、資金繰りをして関係各所と連絡をとって・・・大変ですけどその分得られるものがあるので、一から自分たちでやるという経験をしたほうがいいと思います。

ひろさき地域活動応援隊FUYAKU

―最後に、高校生にメッセージをお願いします。

佐藤さん:ラッピング電車は3月末まで運行しているので、ぜひ乗ってほしいです。
高校生は今は街の活性化の企画を考えるとか、授業の中でそういう時間は増えてるのかなと思います。自分たちの住んでいる地域の課題に対して提案するとか。大学に入ったら、ぜひ提案に留まらず、もう一歩先の実行に移してほしいなと思います。高校生のうちは、実行できるわけないっていうイメージもあるかと思うんですけど、大学生になると活動の幅が広がります。急に地域との関わりも広がると思うので、ぜひ取り組んでみてもらいたいです。

立川さん:大学ではできることが増えるよって伝えたいです。その分責任も伴いますが。
のびのびとできる、というのが大学生の魅力だと思います。

弘南鉄道大鰐線 りんご畑鉄道ラッピング電車運行

ラッピング電車は3月末まで。

冬の景色にりんごが彩る車体が映えます。
中もりんご尽くしでほっこり。

ぜひご乗車ください!

【運行期間(予定)】
2020(令和2)年10月10日(土)~2021(令和3)年3月31日(水)

主催:ひろさき地域活動応援隊FUYAKU
協力:青森県中南地域県民局地域連携部・弘南鉄道株式会社・弘南鉄道アソビプロジェクト・津軽あかつきの会
後援:弘前市・黒石市・平川市・大鰐町・田舎館村

詳しくは弘南鉄道株式会社ホームページ
古津軽の りんご畑鉄道(ラッピング電車運行) 弘南鉄道大鰐線

ご覧ください。

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