青森市のカシス生産量は全国1位。青森県においても生産量はトップで、全国の4分の3ほどのシェアを占めています。2015年12月には農水産物や食品を国が地域ブランドとして保護する「地理的表示保護制度(GI)」の第1号として、「あおもりカシス」が選ばれました。一大産地とも言える青森県でカシスを研究している堀江香代准教授は、腫瘍生物学が専門という「二刀流」の先生です。弘前大学で2つの研究を始めたお話をお伺いしました。

カシスが人体に与える影響を研究

弘前大学大学院保健学研究科 生体検査科学領域
堀江 香代(ほりえ かよ)准教授

カシスの研究とその目的

カシスに対して「食べると体にいいことがある」「目がよくなる」「美容効果がありそう」といった漠然としたイメージがあるのではないでしょうか?私の研究は青森県産カシスの魅力をPRするために、その有効性をイメージではなく客観的なデータとして明らかにすることを目的としています。

私たちは、カシスにはさまざまな健康に良い作用があることを明らかにしています。その一つに、血管保護作用があります。心筋梗塞などの心血管系疾患や脳出血、脳梗塞といった脳血管障害は日本人の死因の上位を占めています。いずれも動脈硬化が引き金となって起こることが知られており、青森県においては特にその割合が高く、大きな課題となっています。今後も高齢化による脳血管障害や心血管疾患の増加が見込まれていることから、予防のために食生活の改善は必須であり急務となっています。将来的にはカシスだけでなく動脈硬化の予防に有効な青森県産食材を組み合わせた「動脈硬化予防メニュー」などを開発し、短命県青森の汚名返上に寄与できればとも考えています。

インタビューの様子

カシス研究で見えてきたもの

これまで、カシスはポリフェノールの1種であるアントシアニンやビタミンCなどを多く含み、美容や健康に良いと言われてきましたが、その詳細は明らかになっていませんでした。私たちの研究グループは、カシスには女性ホルモンに類似する作用があるということを世界で初めて報告しました。さらに更年期モデル動物にカシス添加餌を摂取させた実験の結果から、カシスには更年期女性で増加する動脈硬化を防ぎ、皮膚や毛包に対しても美容作用を増加するような有効成分が含まれることを明らかにしています。その成果は特許申請や、論文として国際誌に掲載されています。

次のステップとして「カシスを第2の大豆イソフラボンにする!」という大きな目標を掲げています。世の中には大豆アレルギーを持っている人もいますので、大豆に代わる女性ホルモン類似成分を含む食材としてカシスが選ばれるなら、その消費や需要が増えるのではないかと期待しているためです。これまで更年期女性に対するカシスの効果は知られていませんでしたが、化学的な根拠に基づいたデータを示しその効果を明らかにすることで、青森県産カシスをPRできているのではないかと自負しています。

青森県産カシス生果

また、研究はカシスの果実だけでありません。葉の成分や機能性についてはほとんど知られていませんでしたが、ヨーロッパでは古くから民間薬としてカシス葉が利用されています。その効果に関するエビデンスは限られており、日本ではカシス葉を用いた製品はほとんどないのが現状です。そこで、現在はカシス茶葉の開発も進めています。

葉を乾燥させた「カシス茶葉」
カシス茶葉の抽出物

弘前大学だからこそできた研究

私自身、本来の研究テーマは腫瘍生物学で、癌の発生機序や関連因子に関わる研究をしており、カシスとは全く無縁でした。カシス研究を始めたのは、弘前大学に赴任してからで、先にカシス研究をしていた七島直樹先生(現:青森県立保健大学教授)と出会ったことがきっかけです。七島先生は保健学研究科 生体検査科学領域でカシスやリンゴの機能性に関する研究を行っており、カシスが秘める可能性についていろいろとお話しいただき、とても興味がわいたのを覚えています。

また、弘前大学のカシス研究は私だけではなく、総合大学としての強みを生かした、「チーム・カシス」で研究を進めています。農学生命科学部の前多隼人先生にはカシスの成分分析をお願いし、保健学研究科看護学領域の冨澤登志子先生にはヒトに対する効果の確認を依頼しています。このような異分野連携の研究ができるのも弘前大学の魅力のひとつと言えるでしょう。

さらに、カシス研究を始めて新しい発見もありました。その一つは研究と地域との関わりです。弘前大学に赴任するまでは地域を意識することはなく、大学の中で研究室の人としか会わない、という環境でした。今はカシス研究を通じて、生産者と会い、地域の課題に触れる機会も増え、自分の研究がどのように地域に還元できるか、また還元できているという実感がやりがいに繋がっています。

研究成果を広く公開し、カシスの魅力を伝えていくことは、研究者として大切な使命だと考えます。同時に地域の人たちとの関わりを大切にすることも大事な役目と感じています。これからも、市民公開講座やメディアなどでカシスの有効性を積極的に発信もしていきたいと思っています。

「知の創造」市民公開講座での登壇
「知の創造」市民公開講座で登壇したときの様子

この研究に興味がある方へ、堀江先生からメッセージ

「青森は田舎だし、何もない。」なんて思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはありませんよ。青森県にはリンゴだけでなく、ゴボウやニンニクといった魅力的な農産物がたくさんあり、生産量も日本一です。私は、青森県の「カシス」に焦点を当て、カシスにはさまざまな健康に良い作用があることを細胞やモデル動物を使って研究しています。

研究というと何か難しいというイメージがあるかもしれませんが、「身近なもの」「気になったこと」は何でも研究のテーマになります。魅力的な食材のたくさんある青森県で、一緒に研究に取り組んでみませんか?弘前大学のキャンパスで皆さんにお会いできることを楽しみにしています。

堀江先生の研究について紹介した動画はこちら!