2023(令和5)年11月13日、弘前大学附属図書館の読書週間連動企画として、対談イベント「卒業生に聞くキャリアプラン」を開催しました。第16回は、本学教育学部卒業生であり、㈱ベネッセコーポレーション たまごクラブひよこクラブ統括編集長の米谷 明子(よねや あきこ)さんをお招きし、雑誌編集の仕事や現在のお仕事に就くまでの経緯、キャリアプランの立て方などについて、羽渕 一代 附属図書館長(人文社会科学部 教授)との対談形式でお話しいただきました。

Talk Theme卒業生に聞くキャリアプラン

米谷 明子さん プロフィール

米谷明子さん

青森県西津軽郡深浦町出身。
青森県立木造高等学校卒業後、弘前大学教育学部幼稚園教員養成課程(現:教育学部学校教育教員養成課程 幼児教育サブコース)へ進学。
出版社勤務を経て、2011年㈱ベネッセコーポレーションに入社。
現在は『たまごクラブ』『ひよこクラブ』の統括編集長と『妊活たまごクラブ』の編集長を兼務している。

教員ではなく、雑誌編集者の道を選ぶ

羽渕館長:弘前大学教育学部幼稚園教員養成課程を卒業されているとのことですが、教員ではなく編集の仕事を選ばれたきっかけなどがあれば教えてください。

米谷さん:正直に言うと、将来自分が幼稚園の先生になるのかよくわからないまま“なんとなく”大学に進学したんです。当時は「大学に行ったらきっと自分のやりたいことが見つかる」とわくわくしていました。ただ、「先生になりたい」という想いがそこまで強くなかったのでなかなか勉強に身が入らず、自分の進むべき道がわからなくなっていました。

そんな思いで過ごしていた大学2年生の春に、よく通っていた土手町の書店で『沖縄離島情報』という本を見つけて。読んでみたら「民宿の夏のバイト募集」の情報が載っていて、そこで「行くしかない!」って運命を感じたんです。その日のうちに、沖縄の離島にある民宿十数件に「夏にバイト行きます」っていう手紙を書きました(笑)。そしたら、1つの民宿から「来たいならどうぞ」っていう返事がきたんです。それで、1人で夏休みに石垣島に行って、民宿で3カ月ほどアルバイトをしました。

その経験から、自分にそういう“行動力”や“情熱”があるんだ、ということに初めて気づいて、そこで「自分の好きなことやってもいいのかな」っていう想いが芽生えたんです。周りが教員の勉強を進めている中で、私は「もともと好きだった雑誌の仕事をしてみたい!」と思って、教員の道には進まないことを選択しました。

米谷明子さん
大学時代の米谷さん(左)。所属していた弘大テニスサークルのメンバーと一緒に
米谷明子さん
沖縄でのアルバイトにて


羽渕館長:大学卒業後はすぐ編集の仕事に就いたんですか?

米谷さん:百科事典や教材を出している出版社の秋田営業所に配属になったのですが、営業の仕事が合わなくて2ヶ月で辞めてしまいました。それでも雑誌編集の仕事が諦めきれず「出版社に就職するためには東京に行くしかない」と思い、しばらくアルバイトを掛け持ちしながらお金を貯めて東京に行きました。 東京に行ってすぐに、小さい出版社でアルバイトを始めて。1年ほど経った頃、婦人誌で歴史がある㈱婦人生活社という雑誌社で正社員募集をしていたので、チャレンジしてみよう!と思い採用試験を受けることにしました。

面接の時、大学で何を勉強してきたかを質問され、「幼児教育」を専攻していたことを伝えました。そしたら「絵本好きですか」って聞かれて、「(必ずしも絵本の編集をしたいわけではないけれど)絵本は好きです」と答えて。その後、正社員として採用していただいて、育児系雑誌の『ベビーエイジ』編集部に配属されました。当時の経験から、自分が望むジャンルの会社ではなくても「まず近いところに入ってみる」ことも、やりたい仕事に近づける1つの方法なんじゃないかな、と感じています。

対談中の米谷さん(左)と羽渕館長(右)

好きなことと仕事を繋げることで新しいアイディアが生まれる

羽渕館長:米谷さんは現在、妊娠・出産・育児の情報誌である『たまごクラブ』『ひよこクラブ』の統括編集長と『妊活たまごクラブ』の編集長をされているとのことですが、お仕事の内容について簡単に教えていただけますか。

米谷さん:『たまごクラブ』『ひよこクラブ』(以下『たまひよ』)にはそれぞれ編集長がいるんですけど、私はその上の統括編集長をやっていて、編集長やスタッフが提案してきた企画の取材先や構成内容の決定をしたり、「編集人」と言って、雑誌の制作責任者をしています。『妊活たまごクラブ』では、統括編集長をしながら編集長もやっているので、自分で企画を考えたり、誌面のデザインを考えたり、取材もしたり、最終校了の確認まで行っています。

あとは、雑誌を広告にどう展開するか、どう販促に繋げていくかなど、雑誌を作るだけではなく『たまひよ』ブランドの全体のマネジメント的な仕事もしています。

米谷明子さん
『たまごクラブ』の編集企画会議の様子

羽渕館長:実は、私も出版社でアルバイトをしたことがあるんですが、編集の仕事って非常に技術が必要なのと、かなり根気のいる作業だと感じました。編集の仕事はどんな人が向いていると思いますか。また、心掛けている点などあれば教えてください。

米谷さん:編集者はさまざまな人と関わるため、「高いコミュニケーション力」が求められます。私も誌面を作る時は、スタッフととことんコミュニケーションをとるようにしていて。例えば、雑誌の企画をライターの方にお願いする時は、企画の軸になる「絶対に譲れないところ」をしっかりと伝え、何度もディスカッションをするようにしています。そのうえで、ライターの方の「手法」や「その人らしさ」の部分はお任せしています。

私、文章書くのが上手いとか、写真を撮るのが上手いとか、デザインが上手いっていうわけではないんですよね。編集者は、出演者のアポイントメントをしたり、デザイナーやカメラマン、ライターに発注したりと、「人にお願いすること」が重要な仕事なんです。「誰にお願いするか」を積み重ねていくことで人脈も生まれる。そこが編集の仕事の醍醐味でもあるんじゃないかな、と感じています。

米谷明子さん
スタッフやカメラマンとコミュニケーションをとりながら撮影を進める(撮影/片岡 祥)
あとは、面白い誌面にしたいとか、人と変わったことがしたいという気持ちがずっとあって。育児雑誌の編集部員だった頃、当時はまだ新人だったんですけど、私が好きな有名小説家の出産体験を記事にしたいと思い、その方に手紙を出したんです。そしたらOKをいただいて、「有名小説家の妊娠出産特集」を誌面にすることができました。

他には、麻布にある有名な料亭にかけあって「料亭の料理人から赤ちゃんの離乳食を習ってみよう」という企画をやってみたり、メーカーに交渉して紙オムツを付録につけてみたりと、他の雑誌社がやっていないような企画をどんどん提案しましたね。

私、本当はカルチャー雑誌やファッション誌をやりたかったんです。でも、そのジャンルに行かなくても自分が会いたかった作家や漫画家の方にお会いできたり、育児とは関係なさそうな高級料亭も「離乳食」という切り口なら企画にできたりと、自分の好きな人や好きなことを企画に繋げていったら、結構皆さん面白がって雑誌を見てくれて。そういうことを積み重ねて、好きなことをひたむきに追い続けてきた結果が、今の仕事に繋がっているんだと感じています。



米谷さん
羽渕館長

好きなこと、やりたいことが決まっていればチャンスはいくらでもある!

羽渕館長:今回「卒業生に聞くキャリアプラン」というテーマですが、キャリアプランやライフプランの立て方についてアドバイスをお願いします。

米谷さん:私は妊娠・出産・育児に関する雑誌を作っていますが、子どもを持つ・持たないはそれぞれが自由に選択できることだと考えています。『たまひよ』『妊活たまごクラブ』は「自分はこれからどういう人生を歩んでいくんだろう」っていうところまでを考えるブランドだと思ってるんですね。ですので、『たまひよ』『妊活たまごクラブ』のメディアを通じて、自分の人生についてじっくり考えていただきたいな、という想いで雑誌を作っています。

私、30歳の時に結婚して、1回会社を辞めたんです。当時は「結婚したい」「赤ちゃんも欲しい」と思って正社員を辞めたんですけど、子どもが生まれて半年ぐらいしたらまた働きたくなって、しばらく契約社員として仕事をしました。それを経て、またベネッセコーポレーションで正社員になれたんです。

女の人って仕事していく中で結婚や出産で仕事を辞めちゃうと、また正社員に戻ることって今も少なからずハードルがあるんじゃないかなと思うんですね。なんですけど、好きなことややりたいことを突き詰めて、努力を継続していけば、正社員に戻れるチャンスはいくらでもあるっていうことをお伝えしたいですね。

今働いている会社も、新卒だったら入れなかったと思うんです。回り道をしてでも、地道に続けていれば希望する会社に入れたり、自分で職業を選んだりすることができると思っていて。うちの会社もそうですけど、今は独立して起業したり、他の会社にキャリアアップする人も結構多いと思います。

まわりまわって活かされる大学での学び

羽渕館長:弘前大学での学びや経験が今の仕事に活かされていると感じることはありますか。

米谷さん:私は教員の道には進まないと言いながらも、まわりまわって教育出版社に勤めているんです。㈱ベネッセコーポレーションって「教育」や「学び」を軸として考えている会社なので、『たまひよ』に関しても「教育」や「学び」を含んだことをお伝えできてるかなと思ってるんですね。赤ちゃんのお世話もそうですし、キャリアプランやライフプランの立て方も含めて、弘前大学で学んだことが今の仕事に全部繋がっていると感じていて。当時学んだ幼児心理学や、教育実習の経験、人とのコミュニケーションのとり方も含め、全て無駄ではなかったと実感しています。

対談イベント会場の様子

大変なこともたくさんあるけど、やっぱり仕事は楽しい!

羽渕館長:最後に、弘大生へ米谷さんからメッセージをお願いします。

米谷さん:これから社会人として働く弘大生へ1つアドバイスさせていただくと、皆さんがこれから就職した時に、その会社の制度が整ってないと感じたり改善したほうがいいと思う事があるのであれば、自分から会社に働きかけてみてください。会社や組織って、声を挙げることで意外と動いたり始まったりするんです。皆さんには、自分から動いて働きかけることのできる弘大生でいてほしいな、と思っています。

私自身、学生時代はあまり勉強をしてこなかったんですけど(笑)、「好きなことを突き詰めていったり面白いことをやっていったら、仕事がすごく楽しくなっていく」っていうのを今日お伝えしたくて。夜遅くまで残業したり、合わない人と仕事したり、大変なこともたくさんあるんですけど、「いいもの、面白いものを作りたい!」という情熱を持って仕事を丁寧に回し続けていくと、だんだん楽しくなってくるんです。私には息子が1人いるんですけど、私を見て「仕事って楽しそう」って思ってくれているみたいで。息子や甥っ子、そして皆さんにそういう姿をお見せすることが、自分の人生で残せる唯一のことなのかなと思っています。

大学生の頃は「地方出身の私が雑誌編集の仕事なんか出来ないんじゃないか」と思うこともありましたが、今では「弘大出身」ということが私の強みになっています。なんなら有名大学出身の方にも負けないぞ、っていう気持ちで頑張っています。弘前大学に30年ぶりくらいに来て、皆さんにこうやって会えたのがすごく嬉しいですし、胸が熱くなりました。本当にありがとうございました。

最後はイベントに参加した学生の皆さんと一緒に記念撮影

Profile

㈱ベネッセコーポレーション
たまごクラブひよこクラブ統括編集長
米谷 明子さん

弘前大学教育学部 幼稚園教員養成課程卒 。
青森県立木造高等学校卒業後、弘前大学教育学部幼稚園教員養成課程(現:教育学部学校教育教員養成課程 幼児教育サブコース)へ進学。1991年、㈱婦人生活社へ入社し『ベビーエイジ』編集部に配属。1998年退社後、妊娠、出産を経て、他の出版社で契約社員を経て、2007年、㈱ベネッセコーポレーションに契約社員として入社し、2011年に正社員として採用。2013年には雑誌『たまひよ』の編集ディレクターをしながら『妊活たまごクラブ』を創刊。
現在は『たまごクラブ』『ひよこクラブ』統括編集長と『妊活たまごクラブ』編集長を兼務している。