message教育学部
社会科教育講座
大谷 伸治 講師Ohtani Shinji

弘前大学教育学部 大谷伸治

“歴史学の研究成果を生かした社会科教育”

わたしの専門は、日本近現代史です。とくに、昭和戦前・戦中から戦後初期にかけて、政治学者や憲法学者が唱えたデモクラシー論や国体論のなかに、戦後民主主義・日本国憲法につらなる考え方はなかったのか、またそれは戦後いかに展開していったのかを探っています。

インタビュー動画

Question研究について

― 研究テーマの概要について

私の専門は、日本近現代史(憲法史・政治思想史)です。とくに、昭和戦前・戦中から戦後初期にかけて、政治学者や憲法学者が唱えたデモクラシー論や国体論のなかに、戦後民主主義・日本国憲法につらなる考え方はなかったのか、またそれは戦後いかに展開していったのかを探っています。
また、小学校と高等学校で教員をしていましたので、歴史学の研究成果を生かした社会科教育の教材開発にも取り組んでいます。

― 先生がその研究を志した理由、きっかけ。

憲法史研究を志したきっかけは、「戦争と平和」をしっかり教えられる教師になりたかったからです。
私が大学で日本史ゼミに入った時は、ちょうど第一次安倍晋三政権の時でした。教育基本法が改正され、いよいよ憲法改正が現実味を帯びている時期でした。護憲・改憲どちらの立場に立つにせよ、教師をめざすなら憲法に対する理解を深める必要があると思いました。そこで、日本国憲法がどのように成立・展開してきたのかを研究テーマにすることにしました。日本国憲法の成立を歴史的に解明しようとすれば、必然的に大日本帝国憲法の時代も視野に入れる必要があります。ですから、憲法史を研究テーマとすれば、国家の根本を支える憲法の視点から「戦争と平和」について理解を深められると考えたのです。
卒業論文を書くなかで、日本国憲法成立史の課題が見えてきました。というのは、日本国憲法成立史研究は多くの先行研究があり、どれも緻密な実証研究として優れていますが、一方で、自由民主主義対ファシズム、保守対革新といった二項対立的な図式で描かれ、史料解釈や立論過程が結局のところ筆者の護憲・改憲の立場に既定されてしまっているのではないかと感じたからです。この課題を乗り越えることが、歴史学研究としてはもちろん、教師になって教材化するにしても不可欠だと思いました。それで、大学院に進学して研究を続けることにしました。
そこで、二項対立的な図式を乗り越える、いまは忘却されてしまいましたが、戦前・戦時から戦後初期にかけて「協同民主主義」という思想が第三の道として存在したことを示す史料群と出合いました。これは生涯をかけて研究すべき対象だと感じ、研究者の道に進む決意をしました。ただ、教師の道もあきらめることができませんでしたので、同時に教師になりました。私立高校非常勤講師や公立小学校教諭として働きながら研究を続け、2018年弘前大学に採用されました。

弘前大学教育学部 大谷伸治

― 先生の研究への情熱や、哲学、今後の展望など

「自分の思想を作りなさい」。学部時代のゼミの先生の言葉です。歴史を研究することで、自分がこれから社会と向き合っていくときの軸となる考え方を作りなさいということです。そして、それは教師になって子どもに向き合うときにも生かされるはずだと。ですから、先生には「なぜそれを研究するのか?」とことあるごとに聞かれました。鋭い問題意識をもち続け、原理的に物事を問う大切さを教えてもらいました。
また、歴史を研究して自分の思想を作るということは、史料の厳密な分析にもとづいて思想を作るということです。思想ないし立場が先にあり、それに沿って史料を読む、あるいは組み立てて論文を書いてしまっては歴史学研究ではないのです。憲法史という現在の護憲・改憲論争にも直結するテーマを研究している私にとって、政治的立場に左右されずに、史料を冷静に分析し、歴史学研究としてどのように叙述していくかという根本的な研究姿勢を教えてもらいました。「協同民主主義」という中道の思想に着目して研究するようになったのは、こうしたことが影響していると思います。

Question教育について

― 学部(学科、課程、専攻等)の特徴(力をいれている教育・研究、雰囲気など)

弘前大学教育学部の一番の特徴は、4年間を通じた体系的な教育実習が充実していることです。なかでも、3年次の「Tuesday実習」は本学独自の実習です。
一般的な大学は、夏休みなど長期休業期間に集中して3週間の実習をおこないます。本学では、集中実習期間を2週間とし、残りの1週間分は、前期と後期の火曜日午後に振り分けて実施し、およそ9ヶ月にわたって定期的に学校現場へ通います。これが「Tuesday実習」です。
授業づくりには、子ども理解が不可欠です。子どもは、同じ学年でもクラスによって全然違いますし、教科によっても色んな顔を見せます。何より日に日に成長します。夏休みの3週間だけでは見えない子どもの姿がたくさんあるのです。
そして、Tuesday実習が実り多いものとなるように、これを中心に据えて、他の講義や演習が体系的に組まれています。たとえば、私が所属する社会科教育講座では、中学校Tuesday実習で、津軽を題材にしたオリジナルの授業づくりをおこないます。教科教育(社会科教育2名)と教科専門(地理学、日本史、社会学、政治学の4名)の教員が連携してサポートします。
教育学部は全教科の先生がいますので、ある意味ここだけでも1つの小さな総合大学といえます。学生は指導教員だけでなく、色々な分野の先生に気軽に相談できますから、よい環境だと思います。

― 先生の講義の特徴

講義で一番心がけていることは、今までの歴史学習で抱いてきた歴史に対する常識や固定観念をゆさぶり、「歴史とは何か?」「歴史を学ぶ意味とは何か?」と根源的な問いをもち、考え続ける姿勢をもたせることです。
また、北方史(北海道・北東北)の視点から日本史を問いなおすことにも力を入れています。教科書で学ぶ日本史は、政権所在地を中心とした一国史的・国民国家史的な日本史です。講義では、青森を含む北方史の視点から、その豊かな地域性に眼を向けて、日本史という枠組を問いなおすとともに、地域史を学ぶ意味や、地域史を教材化する視点や方法を考え、一国史的な日本史を乗り越える授業づくりの基礎を養えるよう心がけています。

― ゼミの活動のこと

ゼミでは、くずし字解読と研究発表をしています。
くずし字解読とは、昔の手書き史料の文字を解読することです。日本史では、新しい研究をしようとするなら、手書きの史料を読むことが不可欠です。
研究発表は、文字どおり、一人一人が研究テーマを決めて発表します。どんな研究をすることが自分の思想を作り深めることになるのかは、一人一人で研究を進めるなかで見つけ出すしかありません。学問研究とは新たな知を「生産」することですから、私にも答えはわかりません。研究というフィールドにおいて、私と学生には上下関係はなく、同志であり研究仲間です。学生の興味・感心や将来の展望を見据えて一緒に考えながら、卒業論文へとサポートしていきます。
あと、日本史ゼミの一番の特徴だと思うのは、教科を問わず授業づくりで手を抜かないということです。実習の授業づくりはもちろん、大学での模擬授業でも、夜遅くまでゼミ室に残って準備しています。私も一緒になって考える時もあります。学生がやりたいと頭で思っていることを明確にして形にできるよう、子どもたちの思考の流れや反応を具体的に意識させられるような助言を心がけています。学期が進むにつれて、「授業づくりって難しいですけど楽しいですね!」「これ教材になりそうですね!」と、授業の話ができるようになってくるのがうれしいですね。

弘前大学教育学部 大谷伸治

― 大学で学ぶことで将来どのようになれるか、何に役立てられるか

まず、大前提として、大学は学問をするところです。すぐ役立つようなハウツーを教える場所ではありません。自ら問いをもち探究するなかで、気付き・身に付けていく場所です。ですから、将来どのようになれるかは、あなた次第です。教育学部では、教師になることを前提にして講義や演習をしますが、敷かれたレールに沿ってあまり悩みもせずに教師になるよりも、「自分はどのような教師になりたいのか?」「どのような授業をしたいのか?」「どのような子どもを育てたいのか?」など教育の問題を考えることはもちろん、「自分が本当にやりたいことは何か?」「それは教師でいいのか?」といった自分の生き方・在り方についても悩み考え続けることが大切だと思っています。その先に、教師という道を選んでくれたらいいなとは思いますが、他の道であっても悩み抜いて出した答えなら快く応援します。

― 高校生のうちからどのような経験をしてきてほしいか

よく言われることですが、趣味を増やして、見聞を広めることです。私が憧れた先生方は皆、身近なものを教材化する達人で、豊かな感性をもち、遊び心を忘れない人でした。だからこそ、ユニークなアイディアを思いつき、本質をつく教材化ができるのだと感じました。教師になりたいと思っているなら、いつもアンテナを張り、教材になりそうなおもしろいものを見つける眼を鍛えておくとよいでしょう。

高校生に伝えたい
メッセージ

あなたはどのような人になりたいですか?

大学入学はゴールではありません。就職もまたしかりです。人生の分岐点は、常に通過点でしかありません。受験勉強で忙しいかもしれませんが、「その先で何をしたいのか・やりたいのか?」を想像してみましょう。それは突きつめれば、「自分はどのような人になりたいのか?」という問いへと向かうはずです。

「子どもとともに学びながら成長し続ける教師になりたい!」という思いが少しでもあるなら、ぜひ弘前大学教育学部に来てください。みなさんと一緒に学び、授業づくりができるのを楽しみにしています。