弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第14回は、研究論文がアメリカの学術誌に掲載され、平成30年度弘前大学学術特別賞*1にて学長特別賞を受賞した 木村 紗也佳(きむら さやか)さんです。研究の内容や今後の展望、学生生活について伺いました。
*1弘前大学学術特別賞:弘前大学の研究水準の向上に著しい貢献をした論文を顕彰することで、本学の研究水準の一層の向上を図ることを目的として、平成23年度に創設したもの。詳しくはこちら。
一冊の本をきっかけに、短命県返上に取り組む青森へ
—医師を目指した理由を教えてください。
叔父が医師として働いており、患者さんとの対話を大切に生活背景を考えながら一人ひとりに合わせた治療をする医師としての働き方がとても素敵に見えて、医師に憧れたというのが最初のきっかけです。小学生の頃から医師になることを目標にしていました。
ー弘前大学を志望したのはなぜですか?
中路重之先生(現医学研究科特任教授)が書かれた「あおもり県民の健康」という本を読み、先生の県民愛を強く感じました。青森県が短命県と言われている中で、県全体で医療を良くしていこうと一生懸命取り組まれている姿勢に感銘を受け、ぜひこの先生の下で学びたいと思い、弘前大学を志望しました。今しかできない。海外研修で広い視野を育む
ー数回の海外研修を経験しているようですね。
高校までなかなか海外に行くチャンスがなく、海外への憧れと海外の大学で学んでみたいという気持ちがありました。
大学では、まず2年次に、ニュージーランドのオークランド工科大学で2週間の語学研修に参加しました。これは1年次に成績優秀学生表彰で表彰を受けた際の副賞としていただいたものです。3年次にはハワイ大学の医学部で8日間の夏季研修に参加しました。今度の2月には2週間ほど香港の中文大学の医学部で、実際に患者さんと対面する臨床実習に参加します。3・4年次の海外研修は医学科独自のプログラムです。募集がかかった後に希望者に対して面接があり、参加できることになりました。研修プログラムの参加費用や交通費などは大学が費用を負担してくれる部分もあるので、学生としてはとても助かります。大学や多くの先生方のご協力で貴重な研修に参加させていただき、自分の力だけでは絶対に経験できないことを体験しています。他大学の医学部に進学した友人は自費で行っていたり、留学のタイミングを調整できなかったりしていると聞くので、弘前大学医学部は海外研修にとても協力的だと思います。
海外研修に行く度、自分の視野の狭さを感じ、今までの思い込みが減り、新しい考え方ができるようになります。香港での臨床実習は白衣を着て初めて患者さんの前に出るので、やはり緊張しますし責任を感じます。海外での研修は毎回チャレンジではありますが、得るものが多くやりがいを感じます。長期休暇があり比較的時間に余裕のある学生のうちにチャンスを活かしていろんな大学へ海外留学したいと思っています。
産官学が本気で取り組む、「岩木健康増進プロジェクト」
ー入学後、志望理由でもおっしゃっていた中路先生に会う機会はありましたか?
入学してすぐにお会いしました。合格したときにとある雑誌で合格体験記を書いて、その表紙に使用する写真を、お願いして一緒に撮っていただきました。当時医学部長でいらっしゃいましたが、本当に優しくて親身になって下さる方と思ったのを覚えています。
その後、3年次に社会医学実習という科目で、「岩木健康増進プロジェクト(以下 岩木プロジェクト)」に参加して、健康診断のお手伝いをしました。「岩木プロジェクト」は十数年間弘前市岩木地区で実施している大規模健康調査で、毎年1000名前後の住民の方が参加しています。私が担当したブースでは、内臓脂肪計を用いて、腹囲の測定値や内臓脂肪面積の推定値に基づいてメタボリックシンドロームのスクリーニングを行いました。
「岩木プロジェクト」は産官学が連携して実施します。大学や企業は普段県民の方にとってあまり身近な存在ではなくても、健診の場では直に会って話をしたり、実際に施術を受けたり、距離の近さを感じられると思います。県民の方は、このプログラムを通して産官学の熱意を感じ、「私たちもちょっと食生活を見直してみよう」とか、「もう少し運動しよう」とか、考えていただけるきっかけになるのではと思いました。平均寿命47位をまずは46位にしよう!という県全体での熱意が感じられる場所でした。中路先生の指導も熱く、心電図や体組成、骨密度、握力の測定、平衡感覚の検査、アンケートの項目チェックの仕方などいろいろな勉強をし、県民の皆さんへの対応で不備のないようしっかり訓練しました。参加される方からは学生としてではなくて健康診断のプロとして見られるので、自覚と責任を持たなければいけないのだと身が引き締まりました。
ウイルスに感染した身体が快復する仕組み解明に取り組む
ー研究室研修は社会医学講座ではないようですが、脳血管病態学講座に所属したのはなぜでしょうか?
1年次の7月に脳血管病態学講座の松宮朋穂先生が研究の実験を行うアルバイトを募集していて、そこでお世話になったのがきっかけです。その研究を3年次の研究室研修のときまで先生が続けられていました。脳血管病態学講座に所属した理由として1年次にやっていた実験をもう一回やりたいという気持ちがあったので、「非自己一本鎖RNAの分解機構の解明」を研究テーマに決めました。
ウイルス感染症は、ウイルスが生きた細胞に侵入して複製(増殖)することで発症し、ウイルスを認識する機構が働いて分解されることで、身体は快方に向かいます。“二本鎖RNA”というものを持つウイルスの認識機構は知られていて、どうやって分解されるかは解っていたのですが、“一本鎖RNA”の場合はどのように認識されて分解が起こるのか解りませんでした。“一本鎖RNA”は私たちが頻繁に遭遇するウイルスが持つもので、例えばインフルエンザウイルスやノロウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルスなど・・・地球上の90%程のウイルスが一本鎖RNAウイルスです。こんなに一般的なウイルスですが、分解される機構は解らない、けれども人間の身体はなぜか快復します。それは何故なのかを調べたのが今回の研究です。
結果的には一本鎖RNAウイルスが複製を行う中で二本鎖RNAになるタイミングがあり、そこでこれまで知られている二本鎖RNAの認識・分解機構と同じ機構が働いて、分解が起こるということと、のどの粘膜や、気管支などを作っている細胞では一本鎖RNAを“認識できない”ということがわかりました。
この論文は、研究室研修終了時に全研究室が合同で行う発表会で優秀発表賞をいただき、また、The Journal of Immunologyというアメリカの免疫学専門誌に掲載されました。
弘前医学会総会でも発表させていただいて、11題の演目の中から優秀発表賞に選出いただきました。その後、研究室の今泉忠淳先生から平成30年度の弘前大学学術特別賞にも応募してみないか声をかけていただいて。「弘前大学若手優秀論文賞」という部門は学生も含めた弘前大学の研究者が応募でき、そこで学長特別賞をいただきました。私がいただいていいのかなという気持ちがありましたが、とても光栄で、嬉しかったです。
ー今後の展望を教えてください。
研究室からは「研究室研修」が終わって離れてしまっていますが、今回の研究の存在が一人でも多くの人に伝わって、この成果がまた次の研究の土台になるといいなと思っています。治療薬の開発ですとか、次の研究へ繋がることを願っています。今後は実習が始まるので、医師免許の取得を目指し、毎日の実習を頑張っていきたいです。将来は女性医師として、女性にしかわからないことや、女性ならではの話しやすさもあると思いますし、これまで海外研修で積んできた経験も活かして、相手も自分も笑顔になるような仕事をしていきたいと思っています。そして、今までお世話になったみなさんに感謝の気持ちを伝えられるような働き方をしていきたいです。
心が洗われる、茶道部で学ぶおもてなし
ーたくさんのことにチャレンジしていますね。息抜きになるようなことはありますか?
医学部の茶道部に所属していて、静かな環境でお茶を立てれば心の底から洗われるような清らかな気持ちになれますし、楽しい会話が飛び交うにぎやかな空間でお茶を点てれば、心が温かくなります。精神的な面で切り替えになります。お茶を点てて飲むことだけでなく、その場にいる人と空間を共有することによって、一つの気持ちになれることが茶道の良さだと思います。お茶を通しておもてなしをすることが大切と教わりますが、お手前をしていると自分自身もその空間におもてなしされているような感覚になります。
先生のお家にお伺いして個人的にも稽古を付けていただいているので、週に2回活動しています。時間的に余裕があれば、今後医師になってからも続けていきたいと思っています。
洋菓子屋さんでアルバイトもしていて、大学での勉強、海外研修、料理、茶道などやりたいことを全部並行して走らせています。私の場合、優先順位がわからなくなるときは、文字に起こすと整理がついて。やらなければいけないこととやりたいことを付箋に書いて並べていくんです。終わったら外して。自分自身を振り返る時間も作っています。比較的時間に余裕のある学生のうちにいろいろ経験したいと思っています。
昨日の自分より少しでも前へ
ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。
海外研修をたくさん積めるというのは、弘前大学の強みの一つだと思います。また教授との距離がとても近いと思います。私はバドミントンも好きなんですが、学務委員長の鬼島宏先生と一緒にやらせていただいたり、今泉先生も1年生のころからお世話になっており、茶道部のお話をしたり・・・。とても距離が近くて親身になってくださる先生が多いですし、学生のことに興味をもってくれるので、そこも弘大ならではなのかなって。
医学部医学科を目指す多くの人には、「医師になる」という目標がまず始めにあると思います。自分の目標のために何をするべきなのか、それがまずは弘前大学に入ることだとしたら、弘前大学に入るための勉強を少しでも前に進めてください。受験勉強をしていると勉強に迷いが出てくることもあると思います。でもやっぱり大事なのは“今自分の目の前にあること”。“現在”を如何にして一生懸命生きるかだと思うので、目の前にあることを大切にしてほしいと思っています。今日の自分は昨日の自分よりも少しでも成長できるように、そう思って毎日を過ごしています。
◇弘前大学医学部広報委員会が発行している「医学部ウォーカー」でも研究や受賞、留学などの体験記をご紹介しています。詳しくはこちら。