弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』。第33回は、医学部心理支援科学科で心理学を学びながら、英語力を伸ばすため、はやぶさカレッジ9期生や弘大SIPSの学生運営チームのメンバーとして活動している新岡 沙季(にいおか さき)さんです。大学の授業や現在の研究内容、カナダへの短期留学や今後の展望などについて伺いました。

自分が思い悩んだ経験から心理職を志すように

— 弘前大学医学部心理支援科学科を志望した理由を教えてください。

以前から人の性格や心理に興味があったことと、高校生の頃に適応障害になった経験がきっかけになっています。私が通っていた高校は進学校で、毎日が勉強中心の生活でした。睡眠時間があまりとれなかったことや、頑張っているのに思うような成績が出ないことが重なり、少しずつ心と体に影響が出てきてしまって。その後学校を休みがちになり、最終的には高校を中退しました。当時はすごく悩んでつらい時期もありましたが、その経験から「私と同じように悩んでいる人の気持ちを理解し、サポートしたい」という想いが芽生え、将来は医療現場で患者さんの心のケアや支援を行う心理職に就きたいと思うようになりました。

心理系の大学に進学しようと県外も視野に入れて調べていた時、たまたま新聞で弘前大学に医学部心理支援科学科が新たに開設されるというのを見かけて。地元で、しかも医学部に設置されるということだったので、自分がやりたかった医療系の心理学が学べる!と思い志望しました。

弘前大学医学部心理支援科学科
インタビュー中の新岡さん

—実際に入学してみていかがですか。また、大学の授業はどうですか。

弘前大学の心理支援科学科は医学部の中に設置されているため、心理学だけでなく医学についての基礎知識も学べる点が魅力です。1、2年次は保健学科と一緒に医学・保健医療分野について学ぶ授業が多くあり、3年次には青森県内の病院で心理支援の現場を見学する機会があります。将来医療現場で働くことになっても、医師や看護師とスムーズに連携が取れる感覚が身に付く環境にあると感じます。また、1学年約10名と少人数制なので、先生方との距離が近く、質問しやすい環境です。指導してくれる先生方の中には精神科医として現場で働いている方もいるので、実際の症例や診療の現場でしかわからない感覚的なことも学ぶことができます。


—現在はどんなことを勉強していますか。

1年次は教養教育科目が中心でしたが、2、3年次は実践的・専門的な授業が増えてきました。「心理的アセスメント」という授業では、「バウムテスト」という心理検査を学びました。

「バウムテスト」は被検者に自由に木を1本描いてもらい、その絵から無意識の心理状態などを推察する検査です。授業ではテストを出す側(検査者)と受ける側(被検者)の両方を体験するため、実際に自分で木を描き、それを自身で解釈する、という実習を行いました。具体的な方法としては、描いた絵の全体の印象や木や幹、枝ぶりを見て、バウムテストの教科書に書いてある項目と照らし合わせながら考え方や深層心理などを読み解いていくというものです。

例えば、統合失調症の患者さんに描いてもらうと、木に目がついていたり、木にうろ(木の穴)が描かれていたりと特徴的なポイントがあることが多いようです。うろが描かれている場合は、木の大きさを被検者の年齢とし、うろの位置に心理的・身体的に傷ついた経験があったのでは、と解釈をしたりします。ただ、解釈する人によっても違いが出てくるので、必要に応じて他の心理検査も組み合わせながら行っていく必要があります。ちなみに私は樹冠を丸く描いたのですが、「精神発達が未熟である」という結果が出てしまいました(笑)。

授業で使用しているバウムテストに関する書籍

動物との関わりにより心のケアや治療を行う「動物介在療法」を研究

—現在所属しているゼミについて教えてください。

私は斉藤まなぶ先生のゼミに所属しており、ゼミ生は斉藤先生のもと、各々が関心のある心理学の分野を研究しています。私が研究している分野は「アニマルセラピー」で、正式には「動物介在療法」といいます。日本でアニマルセラピーというと、動物と触れ合って癒される、というイメージが強いかもしれませんが、「動物介在療法」は単なる“癒し”とは違い“治療”という位置づけになります。また、目的や活動によって「①動物介在療法」「②動物介在活動」「③動物介在教育」の3つの分類に分けられ、私は「①動物介在療法」の研究をしています。

弘前大学医学部心理支援科学科
「動物介在」3つの分類

「動物介在療法」は主に医療の現場で用いられ、心身疾患の方や高齢者に対して心のケアや治療の補助療法として犬や馬などの動物を介在させることを指します。医療従事者主導のもと、患者さんに合わせた治療プログラムや目標設定を決め、比較的長い期間をかけて行います。海外では多くの病院で取り入れられていますが、日本ではまだあまり浸透していないのが現状です。



—その他にも研究していることはありますか。

斉藤まなぶ先生が発達障害を専門にされているので、「動物介在療法を取り入れることで発達障害児にどのような影響を与えるか」をテーマにした研究を行っています。発達障害の一つである自閉症の子どもたちは、人とのコミュニケーションが苦手と言われるのですが、動物とのコミュニケーションによって彼らの人間関係や社会性にどのような影響を与えるか、というのを検証していきたいと考えています。

小さい頃から英語が身近に。大学受験を機に本格的に英語と向き合える環境へ

—はやぶさカレッジ*9期生として活動していたとのことですが、英語に興味をもったきっかけについて教えてください。

*はやぶさカレッジ・・・本学の学部1,2年のみを対象とした、国際化が進む社会で活躍できる力を育成するための教育プログラム。詳しくはこちら(弘前大学国際連携本部ホームページ)

私の父が海外のドラマや映画を見るのが好きで、小さい頃からよく一緒に見ていました。最初は日本語で見ていましたが、小学校低学年くらいから字幕で見るようになって。保育園に入る前に英語教室に通ったりもしていたので、昔から英語は身近にあったように思います。あとは私の親戚に海外旅行好きな人がいて、その人から話を聞くたびに「海外楽しそうだな」って。そこから、大学に入ったら留学したいと思うようになり、大学受験から本格的に英語の勉強を始めました。

弘前大学医学部心理支援科学科
幼少期の新岡さん


—はやぶさカレッジはどこで知りましたか。

1年生の夏、英語の授業中に先生がはやぶさカレッジを紹介してくれて、すぐに「やってみたい」と思いその年の秋に応募しました。はやぶさカレッジでは、応募してしばらくはエントリー学生として「選考前期間」という期間が与えられます。エントリー学生は、イングリッシュ・ラウンジでのセミナーの受講やオンライン教材の実施、タンデムラーニングなどを行いながら、言語やコミュニケーション力を養います。約4か月間の選考前期間を経て、無事はやぶさカレッジ第9期生として合格することができました。


—タンデムラーニングとは何ですか。

海外の大学生とペアになり、お互いの言語や文化を学び合うことです。私のペアはアメリカに住む大学生で、彼は弘前大学への短期留学が決まっていました。当時はコロナ禍だったので、オンラインを使い、留学前の事前学習として彼の日本語の勉強の手伝いをしました。お互いの故郷や文化について日本語で紹介し合ったり、趣味の話もしたりして。海外の方なので共通の話題が少ないかと思っていましたが、彼が1970年代後半~1980年代初期にかけて日本で流行した音楽「シティポップ」が大好きで、よくその話をしました。あとは日本のゲームやアニメも好きらしく、ポケモンの話でかなり盛り上がりました(笑)。

今よりもっと気軽に学生が相談できる環境を

—はやぶさカレッジのプログラムでもある短期海外研修について教えてください。

はやぶさカレッジでは、はやぶさ生になると弘前大学の協定校への短期海外研修に参加することが出来ます。2年生の夏に、カナダにあるトンプソン・リバース大学(以下 TRU)へ約3週間行きました。TRUは「カムループス」という先住民が住んでいた地域にあったので、彼らの歴史を学ぶ座学の授業のほか、物語を読み、先住民のやり方で発表し合ったり、ドリームキャッチャーを作るなど体験型の授業を行いました。

弘前大学医学部心理支援科学科
授業で作ったドリームキャッチャー
弘前大学医学部心理支援科学科
休日は自然豊かなカムループスを満喫


授業のほかに、海外の大学でのカウンセリングや心理支援について知りたいと思い、TRU内にあるウェルネスセンター(日本でいうカウンセリングルーム)の見学に行きました。まず驚いたのは、相談員が大学院生ということです。日本の大学では、専門の臨床心理士やカウンセラーなど大人が対応するケースが多いように思いますが、TRUでは心理学を学んでいる大学院生が相談員(ピアメンター)となり、心の相談だけでなく勉強のことや進路など、全ての相談窓口になっていました。

例えば、大学生が授業の取り方の相談をしたいときは、同じ学部の先輩がアドバイスをくれたり、授業でわからないところを教えてくれたりして。カウンセリングに来た学生も相談相手が先輩なので、友達のように話せる雰囲気がありました。学生にとっては、すごく気軽に相談できる環境が整っていると感じました。

あとは、ウェルネスセンターが学内のわかりやすい場所にあり、入口が透明で室内も見渡せるようになっていて、日本のカウンセリングルームと比べても圧倒的に入りやすい雰囲気がありました。室内には個室もあって、誰にも聞かれたくない相談がある人は個室が利用できるようになっていました。誰でも入れる気軽さはあるけど、プライバシーはしっかり守られるような、相談者が安心して行ける場所だと感じましたね。

弘前大学医学部心理支援科学科
TRUのウェルネスセンターの入口
弘前大学医学部心理支援科学科
室内の様子


短期留学の後に行われた「はやぶさカレッジ修了報告会」では、「Improving the Counseling System at Hirosaki University(弘前大学のカウンセリング体制の充実)」をテーマにプレゼンを行い、ピアメンターシステムの導入やメリットなどについて提案しました。将来的に弘前大学でも導入できれば、今以上に学生が相談しやすい環境が出来るのでは、と感じています。

はやぶさカレッジ修了報告会の様子

学生の留学促進に向け、弘大SIPS学生運営チームのメンバーとして活動

—学生生活についても伺います。現在、弘大SIPSで学生運営チームに在籍しているとのことですが、どのような活動をしていますか。

SIPS(Staff&student Initiative for Promoting Study abroad)とは、文部科学省の「トビタテ! 留学JAPAN」事務局が留学機運醸成にチームで取り組む大学等を支援するプラットフォーム事業のことで、現在、全国47の大学がSIPSの枠組みに参加しています。

弘大SIPSは、留学経験のある学生で構成される学生運営チームが中心となって、留学に興味のある弘大生を応援する活動を行っています。国際連携本部を中心に今年度から新たに始動したプロジェクトで、現在は7名の学生が在籍しています。令和5年5月23日には、弘大SIPS学生運営チームの任命式も行われました。

弘前大学医学部心理支援科学科
任命式でメンバー証を受け取る新岡さん
弘前大学医学部心理支援科学科
学生運営チームのミーティングの様子

学生運営チームは、留学促進イベントの企画やサポート体制の充実を図るための活動をしており、月に1度アイディアを共有するためミーティングも行っています。現在はSNSを活用し、留学促進に向けた情報発信を強化しています。


弘大SIPS Instagram

卒業後は公認心理師の資格をとるため大学院へ

—今後の展望を教えてください。

大学在学中に英語力をさらに伸ばすため、交換留学などの長期留学を考えています。海外の方が動物介在療法が普及しているので、海外の医療現場へのインターンシップや、カウンセリングに動物介在療法を取り入れている大学へ行ってみたいと思っています。

大学卒業後は、国家資格である公認心理師の資格をとるため、心理系の大学院に進学する予定です。将来的には、医療現場に関わる心理職に就くか、最近は研究も楽しくなってきているので研究職にも興味が出てきていて。勉強や研究を続けながら、時間をかけて考えていこうと思っています。

自分次第で何でも出来る!積極的に動くことで道が開けていく

—最後に受験生へメッセージをお願いします!

弘前大学の心理支援科学科に興味のある高校生は、「生物」をしっかり勉強しておくといいと思います。1、2年次では「医学概論」や「保健学概論」など病気の仕組みや人体の構造について学ぶので「生物」の知識が大学の授業で活きてくると感じています。

また、大学に入学したら先生方と積極的に関わって仲良くなることをおすすめします。先生と距離が近くなると相談もしやすいですし、先生から教えてもらったりサポートしてもらえることも多くて。はやぶさカレッジで英語の先生と関わるようになって、先生が専門とする認知心理学の実験や翻訳の手伝いをさせてもらう機会があったのですが、実験の過程を間近で見る事ができ、とても貴重な経験をさせていただきました。

弘前大学では「自分次第で何でも出来る!」と感じています。留学に関しても、英語力を伸ばしたいと思ったら伸ばせる環境や方法はいくらでもあるので、自分から動いていくことで道が開けていくような気がします。高校生の皆さんは、まずは自分の好きなことや楽しいと思う事、自分がやりたいことをやれる環境を積極的に探してみてください。

Profile

医学部心理支援科学科3年
新岡沙季さん

はやぶさカレッジ9期生・弘大SIPSの学生運営チームで活動 。
青森県弘前市出身。弘前大学医学部心理支援科学科に入学。斉藤まなぶ教授のゼミに所属し、心のケアや治療の補助療法として動物を介在させる「動物介在療法」について研究中。また、弘大SIPSの学生運営チームのメンバーとして学内の留学促進を図るため、イベント企画やサポート体制の充実、SNSでの情報発信など日々活動を行っている。