卒業生の活躍をご紹介する『卒業生インタビュー』、第4回に登場するのは青森県西目屋村で地域おこし協力隊として活動している 入野谷 千代子 (いりのや ちよこ) さんです。
現在の仕事の内容や、大学時代の印象に残っている出来事、今後の展望などを伺いました。

水資源を活かしたアクティビティの普及に取り組む

ー今の仕事について教えてください。

青森県西目屋村の地域おこし協力隊として、村役場に所属しています。西目屋村は世界自然遺産白神山地と津軽ダム(津軽白神湖)を有する村として「世界遺産と水源の里」をキャッチフレーズに、自然と共生する村作りを進めています。私は「カヌーとラフティングのA’GROVE(エイグローブ)」という事業をサポートしてツアーガイドをしながら、水資源を活用したアクティビティの普及活動をしています。

カヌーとラフティングはだいたい4月末から11月初旬まで営業しています。
ツーリングの他に、初心者向けにカヌーの体験教室もやっています。カヌーのツアーでは基本的に“カナディアンカヌー”という、大きめの船体に2人が乗って座ってこぐタイプのカヌー、体験教室では“カヤック”という一人乗りのものを使って、津軽ダムのダム湖“津軽白神湖”を漕ぎながら、白神の自然を堪能できます。
ラフティングでは7人乗りの大きなボートで白神山地を源流とする「岩木川」をゆったり下ります。

今は県内のお客さんが全体の半分くらい。県外から観光でいらっしゃる方や、県外在住でお盆に帰省したときに、遊べるところを探して見つけてきてくれることも多いですね。
参加されるのは、ファミリーが一番多くて、3世代で参加いただく場合もあります。友人同士や同僚でいらっしゃったという方も多いですね。幅広い年代の方にご参加いただいています。

弘前大学理工学部卒業生

心に残る思い出作りに関わるということ

ー仕事のやりがいを感じるのはどんな時ですか?

お客さんといられる時間はツーリングでだいたい3時間くらいなんですけど、その短い時間の中でも会ったときと帰るときの表情が全然違っていて、この体験を何年先までも覚えてくれているかもしれないと思うと、そんな思い出作りに関われることは幸せだと感じます。
夏に来てくれたご家族で、小学生のお子さんが宿題で絵日記を書くと言っていて、数日後に絵日記とお手紙と写真を郵送してくれた方がいました。ガイドをしていて幸せなことの一つだなと本当にしみじみ思いました。

弘前大学理工学部卒業生

弘前大学探検部で出会ったラフティング

ー学生時代について教えて下さい。
 大学生活で印象に残っていることはありますか?

学生のときは探検部に打ち込んでいました。始めからそういう活動が好きだったわけではなくて、ただ “探検”という言葉に興味を引かれて入部しました。
活動では本当に様々なところに行きました。県内だと岩木山や八甲田、川は岩木川、沢の探検で白神山地に入ったこともありました。長期休みを利用して県外へ行く場合もありますね。私は四国まで行きました。北海道から沖縄まで、山も川も洞窟も島も、日本全国どこでも行くような部活です。

私は活動の中で唯一、探検部として出場できる大会のある“レースラフティング”に選手として参加していました。ラフティングボートで激流を下るレースです。大学生が主体となって行われる一番大きなレースは、「日本リバーベンチャー選手権大会」です。2人乗り部門(ダッキー)で4年次のときに優勝して、大学からも表彰していただきました。
大会が5月末なので、4月末頃から雪解けとともに練習し始めます。みんな授業があるので、朝早く薄暗いうちから自転車で岩木川まで行って練習していました。

同じく地球環境学科、そして探検部を卒業した同期で、“アドベンチャーレース”という何日もかけて山の中を走ったり自転車に乗ったりカヌーに乗ったりというハードなレースのプロ選手として活躍している人もいます。いろんな人がいるんですけど、バイトで頑張って稼いだお金を活動資金として、長期の休業期間にたくさんいろんなところに行って・・・4年間で良い意味でも悪い意味でも、すごく打ち込む人が多かったです。

ー勉強したことで何か印象に残っていることはありますか?

理工学部の地球環境学科で地質関係を学びましたが、カヌー、ラフティングのツアー中、地質が特徴的に見えるところでは、お客さんに簡単な説明をすることもあります。
堀内一穂先生の地圏環境学ゼミに所属していて、卒論では南極の氷が研究対象だったのでひたすら氷を削り、毎日実験をしてデータをとっていました。西目屋でも南極の話題が出るときがあって。西目屋自然保護官事務所に勤務していた方が、いま第60次南極地域観測隊に同行されているんです。卒論の研究で話が盛り上がるなんて当時は思ってもみなかったので、繋がると嬉しいですね。

弘前大学理工学部卒業生
世界自然遺産白神山地での沢登りの様子

西目屋村、白神山地の魅力を伝えられるガイドに

ー弘前大学での経験が活かされていると感じるのはどんなときですか?
 今後の展望も教えてください。

この仕事は正解というものはなく、人の言う通りに動けばいいという仕事ではないので、常により良いものにと考え続けなきゃいけないと思っています。その中で探検部での、自分達でよく考え行動計画を作り、目的達成のために行動し、反省点を報告書にまとめて次に生かす、という一連の流れを積み上げてきた経験が、今の仕事に生きていると感じますね。
ゼミの経験からも、実験はちゃんとした手順があって、一つ一つを疎かにせず積み上げていかなければ結果にならないということを感じていましたが、仕事でも同じことが言えます。小さいことでも一つ一つをしっかりやっていかないと大きなことには繋がっていきません。大学4年間の経験がなければ、今の仕事はできないなと感じることが本当に多いです。

地域おこし協力隊の任期は今年度までですが、今後も西目屋村でガイド業をやっていこうと思っています。今はカヌーやラフティングのガイドですが、今後は白神山地の魅力を伝えるガイドもやっていけたらと思います。
「白神マタギ舎」という白神山地のトレッキングツアーを提供している団体に、弘前大学探検部の先輩がいらっしゃるので、手本として学ばせていただくつもりです。大学時代も白神山地へ入り活動していましたが、白神の価値を知らないまま、子どもがアスレチックで遊ぶようにただ駆け回っていました。大学卒業後に白神山地のお話を聞く機会が多くなって、様々な観点から見るようになり、本当の素晴らしさに感動することが多々あります。マタギ舎さんの取り組みは2018年に環境省の「第13回エコツーリズム大賞」を受賞しました。例えばツアー中、植物の名前をただ教えるのではなくて、「この木はこういう特徴があって、ここで暮らしていた人達はこんなことに利用していた」というように、生きた知識を伝えてくれる深みのあるガイドが魅力です。私も、そんなガイドを目指したいと思います。

弘前大学理工学部卒業生
白神の森は野生動物のすみか。たくさんの動物が生息している。

村の人たちの温かさ。四季折々の雄大な自然に囲まれる西目屋村

ー西目屋村はどんなところですか?

西目屋村は、小さい村なのに温泉施設が3つもあります。青森県全体がそうなのかもしれないですが、おうちにお風呂があっても毎日のように温泉へ通う方がたくさんいらっしゃって、温泉が井戸端会議の場でもあるというか、小さい村だからこそ、人々の結びつきが強いなと思うところはあります。

私は都会に住みたいと感じたことがないので、村に移住するときも、村暮らしのハードルはそんなに高くありませんでした。新生活はただでさえ不安だらけじゃないですか、社会人になると学生時代からガラッと生活も変わります。そんな中で、西目屋村で出会う人たちは、外から来た人を「よく来たねー!」と温かく受け入れてくれる人が多くて、周りに自分を気に掛けてくれる人がいるというのは心強いです。

観光客の方が訪れるのは夏が多いと思いますが、西目屋村の自然は四季折々で。春はブナ林の芽吹いた直後の緑がとても鮮やかで、おいしい山菜も採れる季節ですし、秋は自然のありのままの紅葉を見られるスポットがいくつもあります。
今、西目屋は冬の観光をあまり積極的にうたっていません。A’GROVEでは、冬は「スノーラフト」という、スノーモービルで専用のラフティングボートを引っ張り、冬を全身で体感するアトラクションを村内や青森市などでやっていますが、ラフティングやカヌーほどの活動頻度はなく、今後の課題でもありますね。
でも、冬には冬だからこその見どころがあります。雪が積もっていると、そこに暮らす動物の痕跡がよく見えます。普段は気づかないような動物の生活が垣間見えるとすごくおもしろいですし、森の葉っぱが全部落ちているので、遠くまで見渡せるというのも冬ならではの景色ですてきだなと思います。四季折々の魅力を求めて、より多くの方に西目屋村へ足を運んでいただけたら嬉しいです。

弘前大学理工学部卒業生

大学生活は何が起こるかわからない

ー最後に、弘大生やこれから大学を目指す受験生へメッセージをお願いします。

私自身大学の4年間は学問に費やすことが目的で、だからこそ就職先も、学んだことがしっかり活きる、専門と直接繋がるところであるべきだと思ってたんですよね。それが学生時代を過ごしていくうちに、授業で学ぶこと以外にも、私の場合は探検部でしたが、思いも寄らないところで想像もしていなかった自分になれるということを実感しました。大学生活は何が起こるかわからなくて、自分がエネルギーを注ぎたいと思えるものに出会えたらそれは逃がしちゃいけないチャンスです。探検部に入っても、何となくで4年間を過ごしていたら今の仕事には就いていないだろうし、頑張り抜くことで得られるものは大きいと思います。何をどこまで頑張れるかは人それぞれですが、自信をもってやりきったと言えることは、絶対に次へ繋がっていくと、活躍している人を見て感じます。これから入学される方も、在学中の方も、「これ!」と思うものに出会えたなら、全力で取り組んでみてください。

弘前大学理工学部卒業生

Profile

西目屋村地域おこし協力隊
入野谷 千代子さん

弘前大学理工学部地球環境学科(現:地球環境防災学科)卒 。
北海道網走桂陽高等学校を卒業後、弘前大学理工学部地球環境学科(現:地球環境防災学科)に進学。堀内一穂助教の地圏環境学ゼミに所属し、卒業研究では南極アイスコアに含まれる放射性同位体について研究。探検部の活動に打ち込み、4年次には「日本リバーベンチャー選手権大会」のラフティング2人乗り部門(ダッキー)で念願の優勝。平成28年3月に卒業。卒業後は探検部の活動で訪れていた西目屋村で地域おこし協力隊として活動。「カヌーとラフティングのA’GROVE」の事業をサポートしながら水資源を活用したアクティビティの普及に努める。任期後も西目屋村でガイドをしていく予定。