ヒロダイで行われている最先端の研究や、キャンパス内で話題の施設を特集する『大学紹介』。今回から新たなコーナー「研究者の足跡」が、学生広報スタッフ「企画班」によって始動します!
本コーナーでは主に若手研究者に取材し、研究者が「どんな人生を送ってきたか」にフォーカスします。

本コーナーを企画した学生広報スタッフ「企画班」のメンバーで、大学院理工学研究科博士前期課程1年の山本 峻(やまもと しゅん)さんが取材・記事執筆を担当し、大学院理工学研究科博士後期課程3年の瀧澤 圭太(たきざわ けいた)さんに迫ります。彼がなぜ研究の道に進み、 そして博士後期課程への進学を決意したのか、その背景にはどんな人生の軌跡があるのでしょうか。

地元の星空に憧れた幼少期

-綺麗な星を見るのが好き!が始まり

滝澤圭太さんは宇宙空間で観測される「重力レンズ」と呼ばれる現象について研究をしています。その研究への情熱の原点は、天体観測に魅了されていた幼少期にありました。子供の頃、出身地である北海道の陸別町にある「銀河の森天文台」に頻繁に訪れ、綺麗な星を見る機会に恵まれました。しかし、当時は勉強が「大っ嫌い」だったため 宇宙のことを学びたい、と思っていたわけではありませんでした。

- 理系の科目は嫌いではないけど…

高校では苦手意識のなかった数学や物理などの理系科目ですが、それらを使って大学受験を進めたいと思っていた程度で、宇宙について研究したいという熱意までは芽生えていなかった滝澤さんは、大学進学時には他大学の工学部で電気回路などを学ぶことにしました。
また、高校時代には理系の科目を受験で使う生徒が少ない中、受験に必要なことを熱心に教えてくれた先生に対して今でも感謝しているそうです。

物理と宇宙がつながる大学学部生時代

- 学部の勉強で感じ続けるモヤモヤ感

大学の学部生時代は電気回路に関する勉強ばかりで、一般的な宇宙や物理関連の勉強はしていなかった瀧澤さん。しかし、勉強以外では天文同好会での活動に取り組み、幼少期から好きだった天体観測は続けていました。

研究者の道に進むことを意識し始めたのは、就職を本格的に意識し始める3年生の秋ごろでした。滝澤さんは今までなんとなく電気の勉強をしてきたものの、このまま電気関係の仕事に進んでいいのだろうかと悩んでしまいます。

インタビュー中の瀧澤さん

そんな折、大学で少人数のゼミ形式の授業が始まりました。電気関連のことに関心の薄かった瀧澤さんは、相対性理論や素粒子論といった物理関連の研究している先生のゼミに入ることにしました。ゼミで宇宙関連の勉強をする中で、自分が本当にやりたいことが明確になり、それまで嫌いだった勉強とずっと好きだった宇宙が結びついていくのを感じました。そして4年生の10月頃に、大学院に進学することを決断しました。

- 周りに心配されても、挑戦してみたい!

周りにこの決断を打ち明けると、ゼミの指導教員からは心配され、両親からも反対されました。瀧澤さんとしては、この時期に大学院にいきたいと言い出すからには真剣に研究をする覚悟がありました。また、両親が心配してくれていることは分かった上で、1年以上悩み続けた決断だったので、 反対されたことに納得がいきませんでした。
しかし、兄に相談すると何も言わずに聞いてくれて、後日兄が親に話してくれたおかげなのか、親も大学院進学を許可してくれました。こうして現在在籍している弘前大学の大学院理工学研究科に進学することが決まりました。

研究への挑戦が始まる大学院修士時代

- 初めての論文投稿!

瀧澤さんは大学院に進学してから、現在も続けている「重力レンズ効果」についての研究を本格的に始めました。当時同じ分野を研究していた先輩がいたため、多くの指導を受けながら研究に取り組みました。大学院入学後は環境が変わったこともあり、厳しい指導や苦労も多かったですが、1 年の1月には初めて論文を投稿しました。始めて論文を出したとき、ここまで来られたことの驚きや、自分の研究が世界中の人に見られるかもしれないというプレッシャー、そしてもちろん、大きな決断をして大学院に来て、研究がしっかりできているという嬉しさを感じました。

また、この時期から自分の研究結果を学会などで発表する機会も増えました。初めて経験する英語の学会では周りに圧倒されることもありましたが、一緒に研究をしてくれた先輩に励ましてもらいながら、とにかく周りに食らいつきました。

難しい数式。重力レンズに関する数式です
難しい数式。重力レンズに関する数式です

博士前期課程2年になると、新型コロナウイルス感染症の影響により、研究室に通えない日々が増えましたが、それでも瀧澤さんは自宅にこもって研究を進めました。その成果もあり、2年の夏頃には2本目の論文を投稿しました。
また、大学院に入学した当初から、自分ができる限りのことをやり遂げたいという強い気持ちがあり、すでに博士後期課程に進むことを決めていました。論文を出した後も、研究に没頭し修士課程を卒業しました。

博士後期課程とこれから

- 学生としての研究は最終ステージへ

博士後期課程に進学した瀧澤さんは、コロナウイルスの感染状況も落ち着き、対面での学会発表に参加する機会も増え始めました。学会参加者からの質問や議論を通じて、自分の研究をどのように広げられるかを考えながら研究を進めて います。博士後期課程に入ってから最初の論文を投稿 したのは、1年の12月頃でした。この論文は、瀧澤さん自身が最も満足のいく出来と思える論文でした。指導教員からの指導はまだ多いですが、この論文の執筆時は自分で研究を進めている感覚が強くありました。自分で考えた問題に対する解決策として、思い描いていた計算結果が得られたことに大きな達成感を感じました。 そして今年度の春には5本目の論文を書き上げました。

- 研究の道に挑み続けるこれから

幼少期から好きだった星空を見ることと、学部生時代に見つけた自分の本当にやりたいことが結びついて、瀧澤さんは博士前期課程から必死になって今日まで研究を続けています。
大学院に進学した時に、自分が挑戦したい研究に取り組む決断をして、挑戦しなければ自分の中で納得がいかず、進めないということを経験しました。この経験は今でもいろんな場面で役に立っていると感じています。そして、研究の道に進んでここまで来られたと、たくさんの支えてくれた人に胸を張って言えることが、瀧澤さんの挫けずに研究を続ける原動力となっています。博士後期課程の最終年度を迎える今年、研究員になることを目標に瀧澤さんは日々精力的に研究に取り組んでいます。

Question瀧澤さんに聞いてみました!
研究者に質問コーナー

― 研究者以外なら何になっていましたか?

天文学系の普及活動に関わることがしたいですね。望遠鏡で星を見るのは好きだったし、ボランティアで子供たちに星座を教えたりするのも楽しかった。自分がもともと星を見ることがきっかけとなって研究の世界に来たので、自分と同じような人が増えたら嬉しいなって。

― 研究をしていて一番嫌になった時はいつですか?

自分の研究室の後輩が優秀だった時。自分はどうしても学部生時代に物理の勉強が足りない面が気になる時はありました。

― 海外に行ってみたいなどはありますか?

今研究している内容だとイタリア、ブラジルなどで盛んに研究が行われています。海外の人が出した論文を読んで、この研究をしている人たちと一緒に研究をしたいと思い、海外での研究を考えることはあります。来年以降研究員となったらドイツに行く可能性はありますね。

― 今博士後期課程の学生として、自信を持って研究者の道を学生に薦められますか?

一概に無責任に博士後期課程まできた方がいいとは言えません。ただ、やりたい研究があって、続けてみたいという気持ちが少しでもあるなら視野から外さないで欲しいと思います。

取材した山本さんからひと言!

学生広報スタッフの山本さん

取材をする中でひしひしと感じたのが滝澤さんの謙虚さと研究への貪欲さのギャップです。普段はニコニコして周りにも優しい一方、研究への思いや、意欲の強さに驚かされました。また、大学院での変化はきっと言葉以上に苦労も多かったと思います。一番嫌になったときを聞いた時に「ありすぎて…一番嫌を探してる」と言っていたのは印象的でした。今後もアカデミックの道で研究を続けることを応援しています。