ヒロダイで行われている最先端の研究や、キャンパス内で話題の施設を特集する『大学紹介』。
今回は「研究者の足跡」の第3弾!本コーナーでは主に若手研究者に取材し、研究者が「どんな人生を送ってきたか」にフォーカスします。

学生広報スタッフ「企画班」のメンバーで、大学院理工学研究科博士前期課程1年の山本 峻(やまもと しゅん)さんが取材・記事執筆を担当。今回は「ゼブラ株式会社」に就職内定が決まった大学院理工学研究科博士前期課程2年の込山ひなたさんにインタビューしました!

「好きなことを仕事に」を実現できた込山さんがどんな人生を送ってきたのか、お話を伺いました。

理科から研究になるまで

-『理科』が好きな小学生

込山ひなたさんは、日常のさまざまなところで使われている界面活性剤の研究に大学4年生から取り組んできました。
研究をしてみたいと思ったきっかけは、小さい頃から科学館に何度も行っていたことや、地元の大学が開催する科学教室にありました。幼少期から科学に触れる機会が多かったこともあり、小学校に入学する前から「博士」に憧れていました。
小学校の頃は理科全般に興味がありましたが、中学校で元素の周期表を勉強した時に、世の中のすべての物質がここに載っている元素で構成されていることに感動したそうです。そしてこの時に、理科の中でも化学に興味を持つようになりました。また、授業での実験が楽しかったこともあり、理科教育に力を入れている、地元の高校の理数科へ進学します。

-化学部で知る実験と新しいものを作る楽しさ

高校の授業では生物の解剖や、火山のフィールドワークなどもありました。授業だけにとどまらず、自分で実験をしてみたいという思いから、込山さんは化学部に入部します。化学部では実験をして、単純な化合物から新しい化合物を合成する有機合成に関する研究をします。そこで「実験で新しい化合物を作る楽しさ」を知り、大学でも有機合成に関わるような勉強がしてみたいと感じ始めます。

-研究につながるもう一つの興味

込山さんが昔から好きだったことの1つが「筆記具を集めること」でした。様々な色やデザインのボールペンを集めたり、ペンによって書き心地や握り心地が違ったりすることに興味を持っていました。そして、この筆記具への興味が込山さんの現在の研究につながるきっかけが訪れました。
この先も化学を勉強したいと思っていた高校生のときに、一般ユーザーに向けた文具の見本市に行きます。そこで、“従来と異なるインクの成分を使うことで、書いた直後に文字に触れても汚れないボールペン”を見つけ、感動します。この時に、部活で実験をしている有機合成の知識がボールペンに使われるインクの開発につながるのではないかと感じ始めます。

好きだったペンを研究に

-実験から遠ざかる大学入学後

大学入学直後は基礎的な座学の勉強が多く、高校の部活でやっていたような実験がなくなり物足りなさを感じていました。学年が上がるにつれて実験の機会は増えましたが、3年生になる年に新型コロナウイルス感染症の影響で授業がオンライン化してしまいます。込山さんが楽しみにしていた有機化学の実験が、説明を受けるだけとなってしまったことは残念だったそうです。それでも、3年生の後期には配属される研究室を決めることになります。先生たちの研究内容を授業で聞く中で、インクの成分である「界面活性剤」や、ペンのインクの種類でもある「エマルジョン」という単語を鷺坂先生が研究テーマの一つとしていることを知ります。込山さんは新しい有機物を作る実験とペンのインクがつながりそうなことを見つけたと思い、鷺坂先生の研究室に入ることを決めます。

■鷺坂教授の『HIROMAGA(ヒロマガ)』の特集記事はこちら!
 日常生活から宇宙空間まで幅広い可能性に満ちた界面化学の研究

-研究開始!

3年生の後期には研究室の先輩がどんな研究をしているかを学んだり、実験機器を使って測定の練習をしたりして、4年生から自分の研究を始めます。先輩たちの研究を見ていた込山さんは「水の表面張力を効果的に下げる、環境に優しい界面活性剤の合成」の研究をすることにします。これまでの大学生活で、高校の頃から好きだった実験を思うようにできませんでしたが、研究室に配属されてからは思う存分に実験をすることができました。そして4年生の後半には研究がまとまり、学会でのポスター発表で優秀な発表として表彰されました。

就活をしながらも研究に打ち込めた大学院生活

-大学院進学と就職活動の両立

卒業研究を終えて大学院に進学した込山さんは、研究活動と並行して就職活動を始めました。ペンのインクに携わる仕事をするために、主に筆記具メーカーのインターンシップや説明会に参加します。それ以外にも、インクの原料を製造している会社や、研究テーマである界面活性剤と関連する洗剤を作っている会社なども視野に入れていました。就職活動をを進めながらも、研究を続けました。インターンシップや会社説明会などの予定で日中が全て埋まってしまう日も、少しでも研究をしようと毎日研究室に足を運ぶようにしていたそうです。この積み重ねもあり、博士前期課程1年の秋ごろ、国際学会で再びポスター賞を受賞しました。

-研究に打ち込めるようになった今

大学院進学後すぐに就職活動を始めていたこともあり、希望していた筆記具メーカーである「ゼブラ株式会社」から内定をもらうことができました。高校生の頃から考えていた「ペンのインクを作ることに携わってみたい」という夢が叶ったこともあり、とても嬉しかったそうです。

その後はひたすら研究に打ち込むことができて、博士前期課程2年の夏頃には込山さんが関わった新しい界面活性剤について特許を出願しました。また、10月には初めての海外での学会発表のためにイギリスへ行き、学会終了後に共同研究者の方が在籍している海外の大学の研究室を訪問しました。そこで、優秀な共同研究者の方だけでなく、日本とは制度も違うこともあって同じ年齢でも博士の学位を持っている研究者たちと出会い、とても刺激を受けたそうです。

バーミンガム大学の研究者たちと
ラザフォードアップルトン研究所
ブリストル大学の教授と
国際学会Nano 2023 参加時

込山さんは高校生の時に化学部で知った実験の面白さが、好きだったペンのインク開発をしてみたいという原動力となり、これまで研究を続けてきました。込山さんは今年度で大学院を修了し、現在の研究からは一旦離れることになります。自分の研究としてまだまだやりたいことはたくさんあるけれど、そこは研究室の後輩が引き継いで、より発展させていってほしいと考えているそうです。

Question込山さんに聞いてみました!
研究者に質問コーナー

-大学生に戻ったら何をしますか?

基礎的な勉強をもっとしっかりやっておけばよかったとは思います。研究をしている時に学部1・2年生で習ったことがしっかり頭に入っていなくて勉強し直すことはあります。
それ以外にも、新型コロナウイルス感染症の影響がなければ、留学のような自分の視野を広げられる活動ができればよかったと感じます。

-留学先でも筆記具をチェックしました?

イギリスのショッピングモールにあるペン売り場を覗くと、どのお店でもイギリスのメーカーのペンより日本メーカーのボールペンがたくさん並んでいました。ジャパニーズステーショナリーが海外でも人気なことは知っていましたが、渡英してその凄さを体感することができました。
世界で愛される製品に携わることを考えると責任重大ですが、逆に燃えるしワクワクしている部分もあります。

海外は漢字の細書き文化が無いこともあり、0 .7 の芯径が主流です
ゼブラ株式会社の商品がたくさん並んでいるお店

-指導教員の鷺坂先生について感じることを教えてください。

とても優しくて、面白い先生です。
鷺坂先生が担当している「物理化学」の分野は化学の中だと苦手な分野でしたが、好きなペンのインクに関わりたいと思いから今の研究室に入りました。
鷺坂先生は学生のやりたい気持ちや興味にしっかり応えてくれるので、とてもありがたい存在です。

-研究生活で辛かったことを教えてください。

博士前期課程1年の夏にあった学会でポスター発表をした時に、発表を聞いてくれた人から厳しい言葉をもらった時がありました。そのときは自分の発表がうまく伝わっていないと感じて落ち込みました…。
それでも、指摘された点を改善して、その数か月後の国際学会で発表した後に、発表を聞いていただいた相手から興味深いとコメントを頂き、自分の研究内容の面白さを伝える発表ができたと感じて嬉しかったです。
また、日々の実験もうまくいかないことの方が多いですが、何か変えればうまくいくかもと思うと研究が続けられます。

-研究をしたい人へアドバイスをお願いします

自分はインクやエマルジョンに興味を持って好きなものを比較的早くから絞ってきましたが、もっと幅広くいろんなことを勉強しておくことも大事かなと思います。
学会では自分の専門以外の分野を研究している人から面白い意見をもらうこともよくあります。なので、専門的な研究をするときにもより広い視点から自分の研究を見ることにつながるかなと思います。

取材した山本さんからひと言!

学生広報スタッフの山本さん

物理学以外の研究をしている人に話を聞くことは初めてだったため、しっかり理解できるか心配でしたが、込山さんがとても親切に教えてくださったので、自分もとても楽しくお話を伺えました。

研究をした経験が、就職活動や、その先で働き続けるときにも貴重な財産になることを改めて感じました。