弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』。第34回は、弘前大学弓道部に所属し、「第74回東北地区大学体育大会(弓道競技 女子)」の個人戦において優勝した荒川 莉穂(あらかわ りほ)さんです。弓道部女子主将も務める荒川さんに、弓道部の練習内容や大会で優勝するまでの道のり、大学の授業や今後の展望などについて伺いました。
大学進学のきっかけは “太宰治”
— 弘前大学農学生命科学部生物学科を志望した理由を教えてください。
昔から“太宰治”が好きだったことがきっかけになっています。
小学生の頃、親に買ってもらった電子書籍の中に無料で読める小説が入っていて、その中に太宰治の「走れメロス」があったんです。読んでみたらすごく面白くて、そこから「斜陽」や「人間失格」など他の作品も読むようになり、太宰作品に魅了されていきました。
もうひとつ理由があって、私、地元が埼玉なんですけど、両親が東北地方を車で巡ることが好きで、小さい頃から何度も青森に遊びに来ていました。弘前市内にある「太宰治まなびの家」を訪れた時も、車で弘前大学の前を通ったりしていて、以前からずっと親近感を持っていました。
進学にあたり、ふと「太宰治の出身校*」というところから弘前大学を調べるようになって、そこで農学生命科学部を知りました。昔から生き物や細胞が好きだったので、自分の興味がある分野に近い「生物学科」を調べていたら、「プラナリア」の研究をされている先生が弘前大学にいらっしゃって。「プラナリア」は体を切断しても元の形に再生する扁形動物で、前からすごく興味があったことと、進学するなら行ったことのある地域がいいと思っていて、他県の中でも一番親近感があった青森県にある弘前大学に進学を決めました。
*太宰治(本名:津島修治)は、弘前大学の前身の一つ、旧制官立弘前高等学校の卒業生(第7期生)
的に中(あ)たる感覚が忘れられず、弓道部へ
— 弓道についても伺います。弓道を始めたきっかけを教えてください。
小学生の頃に弓を引く体験をしたことがあって、その時に的に中(あ)たった気持ち良さがずっと忘れられなかったんです。高校に入るタイミングで弓道部に入部したのですが、私がいた高校は進学校だったので部活動の時間が少なく、週に2~3回程度しか練習が無くて。また、高校に弓道場が無かったので、市内にある体育館で月1回程度しか的前に立てませんでした。
大学に進学したら本格的に弓道をやりたかったので、各大学の弓道部を調べていたら、弘前大学弓道部の女子が東北学生弓道連盟のリーグでⅠ部*にいることを知って。加えて、弓道着の上衣の色が“黒”で「強そうでカッコいい!」と思ったことも実は大学選びのポイントになっています(笑)。
*弓道では、全国で地域ごとに9つの連盟(北海道 / 東北 / 北信越 / 関東 / 東京都 / 東海 / 関西 / 中四国 / 九州)に分けられ、各連盟の中で試合成績等によりリーグ分けが行われる。東北学生弓道連盟(女子)には21大学(2023年現在)が所属しており、弘前大学はⅠ~Ⅴ部編成の中で最上位のⅠ部に所属している。
— 弘前大学弓道部について教えてください。
現在、弓道部男子は24人、弓道部女子は6人(2023年11月現在)が在籍しており、男女共に大学弓道の全国大会でもある「全日本学生弓道王座決定戦」への出場を目指して日々練習を頑張っています。私は今年から女子主将をやっていて、自主練習のほか、後輩への指導なども行っています。
練習内容は、代表的なものでいうと「立練」と「射込み」があります。
「立練」は部員が順番に二十回弓を引き、矢が的中した本数の記録をとります。スタンダードな練習方法ですが、試合のような緊張感があります。「射込み」は各個人が自由に弓を引ける練習で、自分の射の課題を見つけたり克服するための練習になります。射込みのときは順番や学年関係なく自由に弓を引くことができるので、自分が何をしたときに中(あ)たるか・外すのかなどを試したり、同期や先輩にフォームを見てもらったりしています。
「やっと報われた…」 練習の積み重ねが優勝に結びついた大会
— 「第74回東北地区大学体育大会(弓道競技 女子)」についても伺います。本大会に出場し、個人戦において優勝したと伺いました。
この大会は令和5年5月に開催され、女子の部は東北学生弓道連盟に加盟している12大学、43名が参加しました。試合はオンラインで開催され、各大学の弓道場を繋ぎ試合が行われました。オンライン開催ではカメラ2台を使用し、1台は選手を、もう1台は的場側から全体を撮影し、的中した数を記録していきます。
女子個人戦決勝は、団体戦の予選結果から上位者のみが個人戦決勝へ進むことが出来るもので、6大学8名の選手が出場しました。決勝戦は、選手が一矢ずつ弓を引き、矢が外れるまで継続して行う「射詰競射」の方式で実施されました。一射目で8名中4名が外し、二射目は残った4名の中で私だけが的中したので、そこで優勝が決定しました。
— 優勝した時はどんな気持ちでしたか。
ずっと優勝を目指して練習していたので、「やっと報われた…」って思いました。
練習時間だけでなく、空きコマやバイトまでの空き時間があれば弓道場に行き、毎日150本ほど弓を引いていました。上手くいかないときは、何が悪いのか自分で考えたり人に聞いたりして、勝てる方法を模索していました。やってもやっても勝てる保証がないので、とにかく練習をしっかりやろう!と熱い気持ちで臨んだので、優勝が決まった時は本当に感無量でした。
— 弓道で今後の目標があれば教えてください。
弓道部女子主将として、毎年先輩方が繋いできてくださっている東北学生弓道連盟のリーグのⅠ部を維持していきたいです。あとは、今年10月に行われた「第53回東北地区秋季女子学生弓道大会」のⅠ部リーグ団体戦で初めて優勝し、三重県伊勢市で開催される「全日本学生弓道女子王座決定戦」への出場が決まったので、そこで良い結果を残したいと思っています。
多様な自然の中で学べる環境。地域性のある授業も魅力
— 学生生活についても伺います。大学の授業はどうですか?
生物学科では、1年次前期は広く基礎を学び、1年次後期~2年次には専門分野を学ぶにあたっての基礎を、3年次には専門科目を中心に学びます。
今受けている授業は、細胞の基本的な構造や機能を理解する「細胞生物学」や動物がとる戦略や求愛行動のパターンについて学ぶ「動物行動学」などがあり、今は「動物行動学」が一番楽しいです。「植物病原学」の授業では、植物の病気やウイルスが発見された歴史や病気の原因、種類を学びました。青森はりんごの名産地ということもあり、これから「りんごの病害」に関する授業もあるようです。こういう“地域性のある授業”が受けられるのも魅力だと思います。
また、大学周辺には岩木山や白神山地など多様な自然が多くあり、実際に白神山地に行って植物や昆虫、動物などの自然観察や生体調査を行うフィールドワークなどもあります。世界遺産の白神山地に授業で行ける大学はそうそうないと思うので、“大自然をフィールドに勉強できる”というところも弘前大学ならではだと感じています。
— ゼミには配属されましたか。
3年次の前期に研究室に配属されるのですが、私は大河 浩 准教授(生物学科 基礎生物学コース)の研究室に所属しています。今はシアノバクテリア(酸素を発生する光合成を行う原核生物)の形質転換の実験など、研究に関する基礎を学んでいるところです。大河研究室では主に「植物分子生理学」に関する研究をしており、今後私は「シアノバクテリアの遺伝子に関する研究」をしたいと思っています。
食べ物が美味しい弘前。冬は積雪の多さに驚くことも
— 荒川さんは埼玉出身ということですが、弘前での暮らしはどうですか?住んでみて感じる、いいところや好きな場所などを教えてください。
弘前は食べ物が美味しいです。お米やりんごはもちろんのこと、魚やイカなどの海産物がすごく美味しくて。大学近くにある居酒屋で出てくる「ホッケの定食」が好きで、よく食べに行きます。
好きな場所は、弘前市の土手町にある喫茶店です。その喫茶店は、旧制弘前高等学校時代に太宰治がよく訪れ、珈琲を楽しんでいたことでも知られる名店で、店内には太宰治の小説が置いていたり、太宰の名がついた珈琲やスイーツのメニューがあったりして。月に1回程度、自分へのご褒美に、弓道部の同期と2人で行くことが多いです。
大変なことは、雪が多いことです。埼玉ではほとんど雪が降らなかったので、こっちに来るまで雪かきをやったことが無くて。以前、実家から弘前に戻ってきたら腰の位置まで雪が積もっていて、家の玄関が埋まっていたことがありました(笑)。受験で弘前を訪れた時は雪が少なかったので「これぐらいで済むんだ」と思ってたんですけど、積雪の多さに毎年驚かされています。
何か一つのことに打ち込んで、自分を磨いていって
— 今後の展望について教えてください。
元々は研究職に進むつもりだったのですが、“将来も弓道を続けたい”という気持ちが芽生えてきたので、就職をしつつ弓道の実業団に入りたいと考えています。
弓道を始めて、「一つのことに一生懸命になること」「緊張する場面でもパフォーマンスを落とさずに自分の力を発揮する心持ち」が身に付いたと思うので、それを仕事でも活かしていきたいと思っています。
— 最後に、受験生へメッセージをお願いします。
大学は高校と違って時間の自由度が高い分、自分でしっかり管理する必要があります。勉強や研究、バイトや部活など、“何か一つのことに打ち込んで、自分を磨いていく”時間が一番ある時期だと思います。大学生になったら、漠然と過ごすのではなく、そういうところに上手く時間を使えたら、楽しくて充実した大学生活をおくることができるんじゃないかな、と感じています。
太宰治と弘前大学
太宰好きの荒川さんは、高校の卒業研究でも“太宰治”について研究したそうです。「太宰作品は、暗い方向から人の気持ちに『大丈夫だよ』と寄り添ってくれる感じがして好きなんです」と話してくれました。
太宰治(本名:津島修治)は、弘前大学の前身の一つ、旧制官立弘前高等学校を卒業しました。弘前大学の構内には、太宰治文学碑やレリーフが設置されている「太宰治記念小公園」や、太宰治の名前が刻まれた「旧官立弘前高等学校在校生名簿碑」があり、太宰がここ弘前で学び・過ごした痕跡が今も色濃く残されています。
Profile
農学生命科学部生物学科3年
荒川莉穂さん
弘前大学弓道部 女子主将 。
埼玉県さいたま市出身。淑徳与野高等学校卒業。農学生命科学部生物学科。弘前大学弓道部に所属し、令和5年5月に実施された「第74回東北地区大学体育大会(弓道競技 女子)」の個人戦にて優勝。将来は弓道の実業団に入ることを目標に、日々練習に励んでいる。
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