弘前大学の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第40回は、ホタテの貝殻を使ったアップサイクル事業で学生起業をした牧方咲良(まきかた さくら)さんです。世界的な学生起業ピッチイベント「Youth Innovation EXPO」の東日本大会で優勝するなど、挑戦を続ける牧方さん。インタビューでは、弘前大学に入学した理由や起業を決意したきっかけ、今後の展望などについて伺いました。

土壌改良を通して飢餓問題の解決に貢献したい

— 弘前大学農学生命科学部食料資源学科を志望した理由を教えてください。

小学生の頃、世界中で飢餓に苦しむ子どもたちの現状をテレビで知り、自分の恵まれた環境との大きな差に衝撃を受けました。寄附などの支援も大切だと思いましたが、それだけでは根本的な解決にはつながりにくいのではないかと感じ、「自分が貢献できることは何か」と考えるようになりました。
飢餓問題には「貧困」や「紛争」などさまざまな要因がありますが、「気候変動や土壌の劣化によって農作物が育たないこと」にも大きな要因があるのではないかと考えるようになり、そこから農作物が育つベースとなる「土壌」に関心を持つようになりました。

高校時代には、「土壌改良を通して飢餓問題の解決に貢献したい」という想いが芽生え、「土壌」をテーマに研究を行っている大学を探していたところ、弘前大学農学生命科学部食料資源学科にたどり着きました。

また、弘前大学は高校時代、通学路として日々目にしていた場所であり、母も卒業生であることから私にとって身近で親しみのある存在でした。

牧方咲良さん
インタビュー中の牧方さん

専門的な学びと、新しい興味に出会える授業が充実

— 大学の授業についても伺います。好きな授業や印象に残っている授業について教えてください。

「土壌」について深く学びたいと思っていたので、青山正和先生の「基礎土壌学」を履修できたときはとても嬉しかったです。

また、「生物」の授業も好きで、教養教育科目の一つである森田英嗣先生の「生物学の世界-ウイルス学入門-」が印象に残っています。私自身、高校3年間をコロナ禍の中で過ごし、日常生活が大きく影響を受けたこともあり、「ウイルス」に関心を持っていました。授業では、ウイルスと自然界との関わりや、ウイルスを利用した最新技術などについて理解を深めることができました。

一番好きな授業は、専門外ではありますが、1年次に履修したフランス語です。
講義形式が多い中、この授業はグループワークや発音練習、クイズなど、学生が主体的に参加できる内容でした。そのため毎回楽しみながら取り組むことができ、意欲を持って学び続けられました。

牧方咲良さん
食料資源学科の授業で実験に取り組む様子

ホタテの貝殻を活用し、環境問題と地域課題にアプローチしたい

— ホタテの貝殻を使ったアップサイクルプロジェクトを立ち上げたきっかけを教えてください。

高校生の頃、家で歯磨きをしていたときに「持ち手はまだ使えるのにブラシ部分の劣化だけで歯ブラシを捨ててしまうのがもったいないな」と感じたんです。その後、ホテルのアメニティとして使われる歯ブラシが大量に廃棄されていることや、世界的課題にもなっているプラスチックのごみ問題を知り、「廃棄量を減らして環境に優しい歯ブラシを作れないか」と思うようになりました。

昨年、土壌について調べていたときに「ホタテの貝殻が肥料として使われている」という記事を見て、青森の特産品であるホタテの“食”とは異なる新たな活用法に驚きました。そこでホタテの貝殻について調べてみると、抗菌・消臭効果があるだけでなく、プラスチックと混ぜることで強度が増すなど、多くの可能性があることを知りました。
その反面、貝殻の大量廃棄による悪臭や土壌汚染といった地域課題にもつながっていることを知り、この問題にも取り組めないかと考えるようになりました。

青森県で廃棄されているホタテの貝殻。年間約5万トンにも上る
青森県で廃棄されているホタテの貝殻。年間約5万トンにも上る

そのとき、今思えばかなりジャストアイデアだったのですが、この2つの目標をドッキングしたら面白いなと思い、すぐに歯ブラシ製造メーカーに連絡をしたことが始まりです。

— 起業に至るまでの経緯を教えてください。

もともと起業するつもりはなかったのですが、ホタテの貝殻の樹脂開発や今後の展開を見据えたときに、法人化が必要だと感じました。そこで思い切って踏み出し、2025年1月に「合同会社MintAnd(ミントエンド)」を設立しました。

起業にあたっては、青森市の創業コーディネーターの方に相談し、青森の地域課題の解決や活性化につながるビジネスプランを支援する「青森アクセラレータープログラム」を紹介いただきました。また、クラウドファンディングの実施も後押しいただき、2025年2月1日から約1カ月で目標の100万円を超える154万円の支援を得ることができました。

その資金を活用して制作した「ホタテ印の歯ブラシ」は、ヘッドとハンドル部分に青森県産ホタテの貝殻粉末を51%配合したプラスチック樹脂を使用し、ブラシ部分は柔らかくて耐久性のある天然の馬毛です。従来のプラスチック製歯ブラシと比べて、使用するプラスチック量を大幅に削減でき、環境負荷の軽減につながる製品となっています。

現在、貝殻由来の生分解性プラスチックの土壌還元性について研究を進めており、将来的には「土に還る歯ブラシ」の開発を目指しています。

付属の津軽塗ステッカーを貼ることで、持ち手のデザインを自由にアレンジすることが可能
付属の津軽塗ステッカーを貼ることで、持ち手のデザインを自由にアレンジすることが可能

— 実際に「ホタテ印の歯ブラシ」を販売してみての感想を教えてください。

社会経験もビジネススキルもゼロの状態から起業し、商品づくりを始めました。プロダクトそのものを形にする過程でもたくさん悩みましたが、今は広報・PRの部分に頭を悩ませています。
これまでプライベートでもSNSを使ってこなかったので、「どう編集すれば魅力的に見えるのか」「どのツールやメディアを使えばいいのか」など、手探りの状態です。それでも、「○○で見ました!」と声をかけていただいたり、実際に購入していただいたりすると、自分の想いがちゃんと届いているんだなと実感できて、とても嬉しくなります。

「Youth Innovation EXPO」の東日本大会において
「ホタテ貝殻のアップサイクルプロジェクト」事業プランで優勝!

— 「Youth Innovation EXPO」の地域大会(東日本大会)に出場したきっかけを教えてください。

「Youth Innovation EXPO」は、国内外の学生が集まり、起業や技術革新に関するアイデアを発表・共有する、世界最大規模のピッチイベント*です。地域大会は東日本や西日本、アメリカやアジアなど7つの国・地域で行われました。

*ピッチイベント…スタートアップ企業や起業家が集まって自身の新規事業のアイデアについてプレゼンテーションを行うイベント

この大会に出場したのは、MintAndの事業が「青森アクセラレータープログラム2024」に採択され、成果報告会などで事業発表をする機会があったのですが、思うように発表や質疑応答ができず、悔しい思いをしたことがきっかけです。
もっと場数を踏んで、自分の想いをしっかり伝えられるようになりたいと思い、ピッチコンテストを探していたところ、SNSでこのイベントを見かけてすぐにエントリーしました。



— 優勝が決まったときの気持ちを教えてください。

トップバッターとして登壇した後、他の登壇者のピッチを見ていたのですが、まさか自分が優勝するとは思ってもいなかったので、本当に驚きました。しばらくしてから、ようやく「嬉しいな」という気持ちが湧いてきました。

審査員の方々からは「青森出身の学生が地元の資源を活用して環境問題に取り組む姿勢」、そして「経済面だけでなく、マインド面でも地域にポジティブな影響を与えられるのではないか」といった点を評価していただき、優勝することができました。

優勝が決まり喜ぶ牧方さん
優勝が決まり喜ぶ牧方さん

— 大阪・関西万博EXPOメッセで開催された本大会に東日本代表として出場したと伺いました。出場してみての感想を教えてください。

各地域の大会で優勝したチームは、大阪・関西万博のEXPOメッセで開催される本大会に出場できることになっていて、私もその本大会に参加しました。

発表は英語で行われたので、言い回しには本当に苦労しました。準備の段階では、弘前大学のイングリッシュラウンジで英語の発音や資料の校正など丁寧に指導していただきました。本番直前まで裏で何度も練習して、なんとか乗り切ったという感じです(笑)。

結果として入賞は叶いませんでしたが、海外チームも参加していて、そうした方々と交流できたのはとても良い経験になりました。自分の視野が広がったと感じていますし、こうした機会をいただけたことに心から感謝しています。

大阪・関西万博のEXPOメッセで発表する様子
大阪・関西万博のEXPOメッセで発表する様子
発表終了後のオフショット
発表終了後のオフショット

学生起業家の挑戦の場を広げ、青森を内側から盛り上げたい

— 今後の展望について教えてください。

まずは、感謝の気持ちを忘れず、しっかり伝えられる人でありたいと思っています。今こうして活動できているのは、家族や周りの方々の応援があってこそなので、事業や活動を通して少しでも恩返しができるように、そして「応援してよかった」と思ってもらえるように、これからも努力を続けていきたいです。

今後の事業展開としては、歯ブラシだけでなく、ホタテの貝殻を配合した生分解性樹脂の開発と、それを活用したプロダクトの展開の両面で進めていきたいと考えています。現在はホタテの貝殻を使った「知育玩具」も開発中で、たとえば、「僕が使っていたおもちゃが、今はトマトを育てる肥料になっている」といったような、使う人の記憶や体験がつながっていくようなストーリー性のある製品にしたいと思っています。こうした展開を通じて、環境にも心にもやさしいものづくりを目指していきたいです。

また、活動を続ける中で、青森ではまだまだ「学生起業家」が少ないと感じています。だからこそ、挑戦できる土壌を少しずつ作っていき、青森を内側から盛り上げていけたらと思っています。

自分の可能性を信じて、いろいろなことに挑戦してみて

— 最後に、受験生にメッセージをお願いします。

弘前大学は総合大学なので、さまざまな分野に触れる機会があり、それだけ学びの幅も広がります。
私自身、1年生のときにフランス語を履修していたのですが、英語との違いや異文化に触れる面白さに惹かれて、専門外にもかかわらず自習するほど夢中になりました。弘前大学では、自分の興味を引き出しながら学べる環境が整っているので、ぜひ自分の可能性を信じて、いろいろなことに挑戦してほしいです。

また、大学に入るとアルバイトやサークル、課外活動などを通して、これまで以上に幅広い年齢層や職種の人と関わる機会が増えます。自分とまったく同じ人生を歩んできた人はいないので、他者との関わりの中で、価値観や考え方の違いに気づくことも多いと思います。そうした経験を通して、「自分はどんな人になりたいか」「そのために何をすべきか」を考え、磨いていけるのではないでしょうか。

特に、自分と境遇が異なる人との交流は、大きな刺激になります。だからこそ、恐れずにいろんなことにチャレンジして、多くの人と関わってみてほしいです!

牧方さんが感じる、青森の魅力。ねぶた制作で得た学びと経験

物心つく前からねぶたが大好きだったという牧方さん。
赤ちゃんの頃は、祖父のねぶた囃子であやさないと眠れなかったというエピソードもあり、まさに“遺伝子レベル”でねぶたに惹かれていると言います。
「いつかねぶた制作に関わりたい」という思いを抱き続け、ついにその夢を実現。2023年3月にねぶた師・北村麻子さんがSNSでスタッフを募集しているのを見てすぐに応募し、その年の5月から制作に携わるようになりました。最初は紙貼りの作業が中心でしたが、秋頃からは針金や木材を使った土台づくりへ。現在は刀や手足といったパーツづくりにも挑戦しているそうです。
制作に関わる中で、北村麻子さんの「人を感動させるものづくりへの情熱」や、「挑戦を続ける姿勢」に触れ、技術だけでなくマインドの面でも大きな影響を受けていると語ってくれました。

ねぶた制作の様子
牧方さんのねぶた制作の様子
万博で展示されている北村麻子さんのねぶた
万博で展示されている北村麻子さんのねぶた

Profile

農学生命科学部食料資源学科3年
牧方 咲良さん

ホタテの貝殻を使ったアップサイクル事業で合同会社MintAndを設立 。
弘前学院聖愛高等学校を卒業後、土壌改良を通じて飢餓問題の解決に貢献したいという想いから、農学生命科学部食料資源学科に進学。 学びを深める中で、地元・青森の特産品であるホタテの貝殻の活用法に着目。環境問題と地域課題の両方にアプローチするため、「ホタテの貝殻由来の歯ブラシ」を開発し、2025年1月には「合同会社MintAnd」を設立した。社名である「MintAnd」には、「ミントのように環境をさわやかにするアップサイクルを実現し、また、スイーツに添えられるミントのように、人々の暮らしに寄り添う製品やサービスを提供したい」という想いが込められている。今後は、ホタテの貝殻を配合した生分解性樹脂の開発と、それを活用した製品展開の両面から、環境にも人にもやさしいものづくりを目指し、活動を続けている。