本学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』。第32回は、在学中に青森県内の企業と学生をつなげるマッチング就活サイトを運営する「株式会社アンカリンク」を立ち上げた安部 真之介(あべ しんのすけ)さんです。起業しようと思ったきっかけや、事業にかける想い、学生生活や今後の展望などについて伺いました。

経営者である祖父の姿に憧れ、起業する道を選ぶ

—弘前大学の人文社会科学部 社会経営課程 企業戦略コースに入ったきっかけを教えてください

もともと地元の北海道から離れて一人暮らしをすることに憧れていました。高校3年生の夏に弘前大学のオープンキャンパスで初めて弘前を訪れましたが、弘前大学はキャンパスがコンパクトで、外観もきれいだったのですごく印象が良くて。あとコンビニやスーパーが近くにあって、学生が住みやすい街だと感じました。
また、祖父が水産会社を経営する姿を見て育ち、高校生の頃から自分も将来的に起業にチャレンジしたいという想いがありました。そのため、経営に必要な専門知識を学ぶことができるこのコースを選びました。

安部さん
インタビュー中の安部さん

人文社会科学部 社会経営課程 企業戦略コース


企業戦略コースは、企業や非営利組織の経営に必要な専門知識や思考力を学び、ビジネス社会で必要な課題解決能力を高める教育を提供しています。地域的要素や事例も含め、世界的かつ地域的な視点から、地域産業の育成と発展に貢献する人材を育成しています。また、地域企業との連携による実践的な学習も行っています。

■企業戦略コースについてもっと知りたい方はこちら
弘前大学人文社会科学部 社会経営課程 企業戦略コース ホームページ

青森県内の企業と学生をつなげる「株式会社アンカリンク」を設立

—株式会社アンカリンクについて教えてください。

私が2022(令和4)年5月に設立した株式会社アンカリンク(以下、アンカリンク)は、青森県に特化した有料職業紹介事業を行っています。アンカリンクは、ダイレクトリクルーティング(下図)という採用手法を取り入れたマッチング就職サイトを運営し、青森県内の企業と県内で働きたい学生をつなげることを目的としています。このような想いから、社名の由来は「きっかけ」を意味するアンカー(錨)と、「つながり」を意味するリンクの2つの単語を組み合わせて名付けました。

安部さん
ダイレクトリクルーティングでは、企業はサイトに登録した学生の
プロフィールや適性を見て、自社に合う学生に直接スカウトできる

—なぜ青森県内に特化したマッチング就活サイトを立ち上げようと思いましたか?

青森県は、全国で見ても県外転出者が多い地域の一つです。2020(令和2)年の国勢調査によると、転出者が転入者を3万696人上回る「転出超過」で、全国最多となっていました。2022(令和4)年度人口移動報告では、転出者が2万1,801人と全国で9番目に多く、出生数の減少や若年層の県外流出が続いていて、働き手不足が深刻な課題となっています。そんな中、県内就職を希望する同級生が県外就職を選択せざるを得ない状況に陥っているのを目の当たりにしました。この背景には、学生に県内企業の情報や魅力が十分に伝わっていないという問題があることに気づいたんです。そこで、「県内企業と学生をつなげるサービスがあれば、この地域課題を解決する力になれるのでは」と考え、アンカリンクの設立を決意しました。

—アンカリンクの強みを教えてください。

1つ目は青森県に特化していることです。一般的な大手就職サイトは「県外就職を希望する地方大学の学生」をメインターゲットにしており、都市部の求人情報が多く、県内就職を希望する学生にとっては情報が限られてしまいます。アンカリンクなら県内企業のみサイトに登録できるため、県内企業と学生をマッチングするお手伝いができます。

2つ目は前述のダイレクトリクルーティングを採用している点です。県内には自社ホームページがない、またはあっても更新していないような企業も多く、こうした企業は従来の「求人情報を出して応募を待つ」採用手法をしていることが多いため、せっかく魅力的な仕事でも学生に認知されません。そこで、企業から直接学生にアプローチすることで、知られていないという弱みを克服できます。
さらに、事前に学生のプロフィールや適性テストの結果を確認することで、企業が自社に合った人材を獲得できる可能性がぐっと高まります。学生にとっても、給与などの条件にとらわれて採用後に「自分にこの会社は合わなかった」と後悔するようなミスマッチが起こりにくいことから、納得した上で就職することができます。アンカリンクが提供するサービスはスカウト機能だけではなく、企業と学生の希望をマッチングし、学生に「おすすめ企業」を提示することで、学生から企業に応募することも可能となっています。

3つ目は「第二志望制度」です。これは大手就職サイトにもないアンカリンク独自の制度で、学生が企業からスカウトされた際、「就職」「辞退」の他に「第二志望以下でもよければお話を伺います」という選択肢を与えるものです。学生は企業と面接するときは「御社が第一志望です」と言わざるを得ないと思いますが、第二志望でもいいと言ってくれる企業となら気負わずに話を聞くことができますし、第一志望に落ちた場合のリスクを減らすことができます。また企業側にとっても、欲しい人材であれば第二志望でも採用できるため、人材確保の柔軟性が増します。このように、第二志望制度は学生と企業の双方にとってメリットがある制度となっています。

なお、学生はサイトを無料で利用することができます。企業側はサイト登録料(1年目は無料)と、採用できた場合の成功報酬を支払っていただく仕組みになっています。県内エリアに特定していることで価格を抑えることができ、大手就職サイトと比べて企業側の負担が少ないことも強みだと思います。

在学中のインターンシップとビジネスコンテストが転機に

—アンカリンク設立の経緯について教えてください。

2年次に参加したインターンシップが大きく影響しています。当時、私は起業を目指していましたが、将来的に独立する前提で就職することも検討していました。
インターンシップ先は青森県産のぶどうやりんごを使用したワインを醸造している有限会社サンマモルワイナリー(代表取締役:北村良久氏)で、単純にワイン製造の現場に興味があって1か月ほど参加しました。
インターンシップではワインの基礎知識を学んだり、ワインオーナー制度*のPRに関わったりしました。サンマモルワイナリーがすごく魅力的で面白い企業だったので、県内の他の企業にも興味を持つようになりました。インターンシップ中に県内のいろいろな企業の方と話す機会があり、事業内容や話を聞いてみたら「働いてみたい」と思う会社がたくさんあって。
ただ、こういう情報は知る機会がなかなか無くて、インターネット上にも載っていないことが多いと気づきました。だったら自分たちで情報発信できたらいいな、そう考えたのがはじまりでした。

*ワインオーナー制度…一般市場に出回らない「オーナー限定ワイン」を飲めるなどの特典が受けられるサービス。

サンマモルワイナリー 公式ホームページ

—インターンシップに参加したメンバーでビジネスコンテストに応募されたと伺いました。

インターンシップに参加した仲間(人文社会科学部社会経営課程 佐々木友喜さん、理工学部物質創成化学 難波恵汰さん)と一緒に、3年次にむつ下北未来創造協議会が主催する「下北ベンチャープランコンテスト」に応募して最高賞の大賞を受賞しました。このコンテストは、むつ下北地域で新たなビジネスに挑戦する人を発掘するためにビジネスプランを募集し、その完成度・地域貢献度などを審査するものです。当時、私たちがプレゼンした内容は青森県に特化した求人サイトで、そのアイディアをブラッシュアップして現在のアンカリンクの形になっています。

協議会には多くの県内企業が参画していて、アンカリンクをそれら企業の方に紹介してもらうなど、資金面や様々なサポートをいただいたことが大きな支えとなりました。また、第二志望制度のアイディアも、企業の方々と議論の中で育まれました。さらに、インターンシップでお世話になったサンマモルワイナリーの北村社長からは、会社設立にあたり出資をしていただきました。そして地道な営業活動と周囲の方々の支援が実を結び、サービス開始前の2023(令和5)年2月時点で約30社の企業様から賛同をいただいています。

インターンシップ
インターンシップに参加したメンバー
(左:佐々木さん、右:難波さん)
ビジコン
オンラインで開催されたコンテストの審査会場

—なぜ在学中に起業しようと思いましたか?

卒業後に就職してから独立することも考えていましたが、仕事をしながら起業の準備をするのはハードルが高いと思いますし、安定した収入を得られるようになるかわからないのでリスクも大きいと感じます。それに比べ、学生のうちは時間の余裕があるので、起業に取り組みやすい環境だといえます。また、コロナ禍で大学生活が制限されることがあった一方で、メディア授業の普及によって自由に使える時間が増えたことも、起業にチャレンジしやすい状況を生み出しました。

サークル活動で感じた県内企業の魅力

—学生生活についても伺います。サークルなどの課外活動について教えてください。

所属サークルは「青森県から届け隊 canvas」で、副代表を務めていました。このサークルは、元々大学と県の事業で企業に取材して情報発信する情報誌「SCENE」がきっかけでサークル化したもので、私は1年次の後期に入部しました。サークルの活動内容は、青森県内の魅力的な企業を取材して、ホームページに記事を掲載するというもので、私は取材から記事の作成まで担当していました。
青森県から届け隊 canvas ホームページ
青森県から届け隊 canvas Twitter

サークル活動
canvasメンバーで東奥日報社を取材する様子

—入部しようと思ったきっかけは、やはり起業とも関係してくるのでしょうか?

企業について情報収集したいとなると、例えばホームページを見たり、企業説明会に参加したりすることが挙げられますが、表面的なことしかわからないと感じていて。私は、もっと深く企業のことを知りたくて、気になったことを直接聞いてみたいという思いからサークルに入りました。また、個人で取材を依頼するのは難しいですが、大学公認の課外活動団体なら企業も話聞いてくれると思ったのも理由の一つです。県内企業の魅力を広めたいという気持ちは、アンカリンクに通じるものがあると思います。

新卒学生以外にもサービスを拡げていきたい

—今後の展望を教えてください。

青森県出身で都市部で働いている方から、「地元に戻って働きたいけど、地元企業の求人情報を収集するのが難しい」という声を聞くことがあります。そのため、アンカリンクが県内企業の求人情報をまとめて提供することで、仕事を探している方を助けることができると考えています。また、アンカリンクのサービスは新卒学生だけでなく、社会人の方にも役立つと思うので、今後サービス適用拡大を目指していきます。そして、将来的には官公庁にもサービスを拡げたいと考えています。志望学生は自治体ごとにエントリーしなければならないという現状を改善し、共通のプラットフォームを提供することで、第二志望制度を活用することができるようにしたいと思います。企業と同様に、官公庁でもアンカリンクを通じて人材のマッチングを促進することで、より良い人材採用ができるようになると信じています。

将来のビジョンを実現させるために、現在は営業などを通じて日々努力しています。2023(令和5)年2月には、弘前商工会議所で事業内容をプレゼンさせていただきました。また、ひろさきビジネス支援センターの方からは経営のアドバイスや情報提供をいただくなど、地元の方々の力を借りながら事業を成長させていきたいと思います。

安部さん
弘前商工会議所 今井会頭との記念写真

創業支援をしていただいた「ひろさきビジネス支援センター」のみなさんと

アイディアがあるなら失敗を恐れず起業にチャレンジしてみて!

—学生起業家として、高校生へメッセージをお願いします!

大学生活は自分自身を成長させるための大切な時間です。自分の興味や関心がある分野を深めるためにも、多様な授業や活動に参加することをおすすめします。弘前大学は地域との関わりが深く、人文社会科学部に入学する場合はその特色に着目した授業を受講するのが良いと思います。

また、大学生活は起業にチャレンジする絶好の機会でもあります。自分が興味を持つ分野で起業することで、自分自身の成長につながるだけでなく、地域や社会に貢献することができます。大学で学ぶことが起業に直接役立つ場面は限られますが、経営に必要な知識などは大学で学ぶことができます。また、大学での研究やサークル活動、インターンシップの経験などが、起業に活かせるアイディアやネットワークの構築につながることもあります。

大学生のうちなら起業に失敗しても将来に向けてプラスになることもあるので、将来起業を考えている高校生は、早いうちから自分が興味を持つことに熱中し、常にチャレンジする姿勢で自分自身を成長させていってください。

Profile

人文社会科学部 社会経営課程 4年
安部真之介さん

在学中にマッチング就活サイト運営会社「株式会社アンカリンク」を設立 。
北海道札幌市出身。札幌新陽高等学校卒業後、弘前大学人文社会科学部 社会経営課程 企業戦略コースに入学。指導教員は大橋忠弘先生(専門分野:交通経済学、地域経済学、土木計画学)。部活動は『青森県から届け隊 canvas』に所属し、魅力ある県内企業に取材・記事を執筆している。在学中に「株式会社アンカリンク」を設立。2023(令和5)年6月のサービス開始に向けて現在準備中。