妊娠・出産・育児に深く関わる「母性看護学」と「助産学」。新しい命の誕生を支えるこの分野は、女性の生涯を通じた健康支援や、家族の在り方にも関わる奥深い領域です。弘前大学大学院保健学研究科の高間木静香先生は、マタニティヨーガの科学的検証や看護技術の「見える化」といった独自の研究に加え、地域の子育て支援イベントの開催など、女性のライフサイクル全体を通じた健康支援に取り組んでいます。

妊娠・出産だけでなく「女性と家族の一生」を支える

― 先生の専門である「母性看護学」や「助産学」について教えてください。

母性看護学や助産学というと、やはり周産期(妊娠・出産・産後)のイメージが強いと思います。人の「命のはじまり」に関わり、その瞬間を支えることは中心的な役割です。しかし実際は周産期に限らず、思春期から性成熟期、更年期、老年期に至るまで、女性のライフサイクル全体、そしてその家族も含めて支援していく、非常に幅広い学問です。私はこれまでに、妊娠期の食生活や運動(マタニティヨーガ・マタニティビクス)、女性の健康や育児支援、「プレコンセプションケア」に関する研究に取り組んできました。

― 研究テーマの一つである「プレコンセプションケア」はどのようなものでしょうか?

将来妊娠を希望するかどうかにかかわらず、若い世代の女性や男性が、自分自身の体や健康、生活習慣について早い段階から考え、より良い選択ができるよう支援する考え方を指します。大学生のうちから自分の体や健康について知っておくことは非常に大切で、講義の中でもプレコンセプションケアの啓発には力を入れています。

大学院生の時に妊婦さんの食生活に関する研究をしていた際、妊娠してからの生活だけでなく、妊娠する前の生活や健康状態が生まれてくる赤ちゃんの健康に大きく関わっていることを強く実感しました。例えば、若い女性の「痩身(痩せ願望)」が問題になっていますが、妊娠前のBMIが低い(痩せている)女性や、妊娠中の体重増加が不十分な妊婦さんの場合、低出生体重児が生まれやすい傾向があります。妊娠前の食生活は妊婦さん自身の将来的な健康にも影響します。妊娠糖尿病などの合併症は、分娩後に一度治まっても、将来的に生活習慣病のリスクを高めることがあるのです。

少子化で出産数が減る一方、高齢出産やハイリスクな妊娠は増えており、現代社会で求められるケアはより高度で多様化しています。出産という「点」だけでなく、その前の準備期間、産後の子育て期の葛藤、そもそも妊娠を望むかどうかの選択など、人生の様々な場面で女性や家族が安心して前に進めるよう支援することに大きなやりがいを感じています。

感覚的な効果やスキルを「見える化」

― マタニティヨーガ、マタニティビクスの研究について教えてください。

マタニティヨーガは、妊婦さんの腰痛・むくみの緩和や気分の安定に良いとされ、私自身もヨーガのインストラクター資格を持っています。しかし、これまで「具体的にどのように良いのか」については、感覚的な理解にとどまっていました。そこで、心身にどのような変化が起きているのかを科学的に明らかにしたいと考え、検証を行いました。

研究では、運動中の妊婦さんに心拍を記録する機器を装着してもらい、自律神経の働きやストレス指標となる唾液アミラーゼ値などを測定しました。その結果、運動によってストレスが軽減されたり、リラクセーション効果を示す副交感神経が優位になったりすることが数値として実証できました。「なんとなく体に良さそう」とされてきたことに客観的なデータで裏付けを与えることで、妊婦さんも指導する側も、より安心して実践できるようになります。

マタニティヨーガの様子
マタニティヨーガの様子

― 先生は看護技術の指導においても「見える化」に取り組まれていますね。

そうですね。例えば、新生児をお風呂に入れる「沐浴」の実習。学生が赤ちゃんの人形を支える際、どうしても不安定になったり、うまくいかなかったりする場面があります。そこで、ベテランの看護職と学生とで「手の力の入り方」がどう違うのかを実験してみました。理工学研究科の先生にご協力いただき、手のひらや指に圧力センサをつけて測定したところ、明確な違いが出ました。学生は指先に力が入りすぎて赤ちゃんを「掴んで」しまっているのに対し、ベテランの方は手のひら全体を使い、赤ちゃんの頭を「面で支えている」ことが数値化できました。

看護技術には言葉で説明しにくい「コツ」が多く存在します。「支え方」という表現しにくい技術が可視化され、データとして表れたときは、驚きとともに感動がありました。長年研究に取り組んでいても、新たな発見があるときは面白さを実感しますね。

現在はリアルタイムで圧力のかかり方が視覚的にわかるシステムや、AR(拡張現実)技術を使った教材の開発にも着手しています。学生が実際の赤ちゃんと接する機会は限られており、実践を通して習熟することが難しいのが現状です。研究成果を教育や臨床の現場に還元することで、次世代の教育や看護学の発展、ひいては安全で質の高い看護の実践につなげていきたいと考えています。

高間木先生インタビューの様子

自身の経験から生まれた、地域のお母さんを支える活動

― 先生ご自身も3人のお子さんを育てていらっしゃいます。ご自身の経験は研究活動に影響しましたか?

第1子の出産時に、1年ほど育児休業をいただきました。もちろん育児は楽しいんですけど、ずっと赤ちゃんといると、結構…大変で(笑)。「少しだけ赤ちゃんから離れてお母さんだけで何かできる時間」があればいいなと思ったんです。そこで、育休明けに、同じく子育て中で同期の教員たちに声をかけて企画したのが「子育て応援リフレッシュ講座」です。アロマセラピストの資格を持つ教員や小児看護専門の教員と協力して、お母さんたちが心身ともにリラックスできる時間を提供しています。

最初は中泊町から始まり、弘前市の商業施設などでも開催するうちに、地域の保育園や子育て支援センターからも声をかけていただけるようになりました。立ち上げから今年で10年目、これまでに100回以上開催しています。この活動は、参加されたお母さんたちから育児の現状や悩みを直接聞くことができる貴重な場でもあります。そこでの気づきが、また次の研究や教育につながるという良い循環が生まれています。

オリジナルアロマ制作(子育て応援リフレッシュ講座)
オリジナルアロマ制作(子育て応援リフレッシュ講座)
ヨーガ体験(子育て応援リフレッシュ講座)
ヨーガ体験(子育て応援リフレッシュ講座)

― そもそも、先生が研究の道を志したきっかけは何だったのでしょうか?

大学卒業後、看護師として最初に配属されたのがNICU(新生児集中治療室)でした。そこで小さく生まれた赤ちゃんやご家族と関わる中で、「もっと周産期の支援を深く学ばなければ、本当の意味でお母さんの支援ができない。もっと勉強したい」と感じました。そこで一度退職して、助産師の養成機関へ進学、その後、同じ病院で助産師として勤務しました。

産科は新しい命の誕生に「おめでとう!」という明るい声が響く場所です。以前に分娩を担当した方が第二子を産むために「ただいま!」と入院するような、嬉しい再会もあります。一方で、流産や死産といった深い悲しみに寄り添うケアが必要とされる現場でもあり、そうした面に対し、自分の中ではもっと支援できるものはないかと、長年のテーマとして持ち続けていたことから、教育・研究の道に進むことになりました。臨床での経験、そして自分自身の育児経験を通して、女性と家族が安心して前に進める支援を追求し続けたいと思っています。

好奇心が学びの入り口。「考える力」を育んでほしい

― 弘前大学で看護学を学ぶメリットは何でしょうか?

医学科や心理支援科学科、保健学科の他専攻の学生と学びを共有する機会が多く、チーム医療への理解を深められる点が大きな魅力です。希望すれば看護師だけでなく、保健師や助産師、教職といった免許・資格取得を目指せる点や、2024(令和6)年度から始まった「複合災害看護教育プログラム」など、弘前大学ならではの学びの選択肢が豊富なことも特徴です。複合災害看護教育プログラムは私たち教員の想定を超えて多くの履修希望があり、学生たちの意欲の高さを感じています。

複合災害看護教育プログラム

近年増加・激甚化する災害に対応できる看護人材を育成するための教育プログラム。災害時の医療・看護で必要な知識・技能を段階的に学び、シミュレーション演習や海外研修などで実践的な経験を積むことができるのが特徴。

複合災害看護教育プログラム[保健学科看護学専攻ホームページ]

― 学生を指導するうえで、大切にしていることはありますか?

知識や技術だけでなく、一人ひとりの「考える力」と「感じる力」を大切にしてほしいと思っています。妊娠・出産の経験がない学生にとって、母性看護に対するハードルは高いものです。特に男子学生は実習前に「ここは自分の居場所じゃない」と不安を口にすることもあります。でも、実際に赤ちゃんと触れ合い、お母さんと関わることで「実習がすごく楽しかった」「意識や考え方が変わった」と言ってくれることが多いんです。学生の成長を感じる瞬間は、私にとっても大きな喜びです。

知識や技術など、教えられたことを覚えるだけでなく、自分自身で問いを立てて、学ぶ楽しさを感じてほしいですし、多様な価値観に触れながら、考え続ける姿勢を育てたいと思っています。

― 最後に、弘前大学を目指す高校生や在学生にメッセージをお願いします。

弘前大学には、自分の関心を深め、じっくりと学ぶことができる環境があります。ぜひ「なぜだろう」「もっと知りたい」という気持ちを大切にしながら、日々の学びに向き合ってほしいと思います。

高間木先生インタビューの様子

Questionもっと知りたい!高間木センセイのこと!

― どんな大学生でしたか?

好きなことをとことん楽しむ学生でした。当時は面白そうな授業があれば手当たり次第に受講して、卒業時には200単位くらい取得していました(笑)。エアロビクスの授業や、スノーボードの集中講義に参加したり、書道部やボランティアサークルでの活動、さまざまなアルバイトも経験したりと、充実した毎日でした 。

大学時代の同級生(前列右から2人目が高間木先生)

大学時代の同級生(前列右から2人目が高間木先生)

― 休日の過ごし方は?

最近はもっぱら子ども中心の生活です。野球、スイミング、チアダンスなど習い事の送り迎え・試合観戦、子どもたちとバドミントンや卓球をして遊んだり、地域のお祭りやイベントも好きなのでよく参加します。
育児が落ち着いたらやりたいことはたくさんあります。マラソン、こぎん刺し、お花の勉強など…。「時間ができてから…」と思っているとなかなかできないので、今は意識して自分の好きなことをする時間も作るようにしています。ヨーガをしたり、卓球の練習に出掛けたり、御朱印を集めたり。細かい作業やものづくりがすごく好きなので、お正月やひな祭りのフラワーアレンジメント、クリスマスリース作りは毎年恒例の楽しみです。

毎年自作しているクリスマスリース

毎年恒例で自作しているクリスマスリース

Profile

保健学研究科 看護学領域 准教授
高間木 静香(たかまぎ しずか)

岩手県二戸郡一戸町生まれ 。
弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒。東北大学病院NICU・GCU、東北大学医療技術短期大学部専攻科(助産学特別専攻)修了、東北大学病院産科病棟勤務を経て、2009年弘前大学大学院保健学研究科助手、2013年に同科助教、博士(保健学)取得。2025年10月から現職