卒業生の活躍をご紹介する『卒業生インタビュー』、19回に登場するのは、東京大学大気海洋研究所教授の原田 尚美(はらだ なおみ)さんです。第66次南極地域観測隊で女性初の隊長を務められた原田さんに、研究の道を志したきっかけや仕事をしていく上で大切にしていること、今後の目標、さらには学生時代の思い出について伺いました。
生物地球化学の研究・教育に従事しつつ、南極地域観測隊に参加
— 現在の主な仕事内容を教えてください
東京大学大気海洋研究所国際・地域連携研究センター教授、新領域創成科学科自然科学専攻の教授として、研究活動ならびに教育活動を行っています。現在、研究室には、特任助教1名、特任研究員1名、博士後期課程3年1名、修士課程2名が所属しています。
専門は生物地球化学。北太平洋高緯度域の海底堆積物に記録された過去10万年前の海洋環境変遷を明らかにする研究、北極海の海氷減少にともなう海洋生物の生産や生態系の応答を明らかにする研究を行ってきました。最近では研究対象海域を南大洋に移し、海洋における生物の生産によって生まれた生物起源粒子が炭素を深海に輸送する過程の解明を目的とした物質循環研究に従事しています。
第66次南極地域観測隊の活動で、セジメントトラップ係留系という海洋中のマリンスノー*を捕集する観測測器を南大洋に設置し、1年の時系列観測ののち、来年の67次隊で回収予定です。海洋中の炭素循環を明らかにする一端となるサンプルが取れることを期待し、今からワクワクしています。
*海洋表層で植物プランクトンや動物プランクトンが作り出す有機物粒子。速やかに深層へ沈降していくことから、重要な炭素の輸送メカニズムを担う。
— 研究の道を志したきっかけを教えてください
大学4年生の研究室配属の時、指導教官の中谷周先生が南極での観測研究のご経験があり、南極の自然の素晴らしさやフィールドワークの楽しさなどをよく語っていました。それを聞くにつれ、南極への憧れがつのり、いつか自分も行ってみたいと思うようになり、中谷先生から南極地域観測隊を輩出している名古屋大学への進学を勧められたことがきっかけです。
迷ったらやりがいのありそうな方、ハイリスクな方を選ぶ
— 仕事をしていて魅力ややりがいを感じるのはどんなときですか?
フィールドワークで研究者仲間たちと一緒に観測を行い、海洋中から貴重なサンプルを持ち帰った時の感動は他の何 ものにも代え難いかけがえのないものであり、それを一緒に共有する仲間たちと喜びを分かち合う瞬間も素晴らしいです。また自分の研究成果が論文にて公表された時には達成感を感じます。
― 仕事をしていく上でご自身が大事にされているものは何ですか?
大学院博士後期課程1年の時に「事情により急遽、南極観測隊員として派遣された」ということがあったように、「今がチャンス」と思う瞬間がごくたまにあり、その時の決断はすごく早いです。迷ったらやりがいのありそうな方(難しい方が多い)、ハイリスクな方を選びます。
失敗からのリベンジ、チャンスがあれば再び南極へ!
— 今後の目標やチャレンジしていきたいことを教えてください
実は、博士後期課程1年で最初に観測隊に参加した際、南極・昭和基地沖合の南大洋に観測のために設置したセジメントトラップ係留系という観測測器を失うという大きな失敗をしました。人生最大の挫折を抱えて南極から戻り、もう2度と南極にいくことはないだろうと思うほどの取り返しのつかない失敗と当時は思っていました。
それからら33年。いろんな方々とのご縁があり、再び南極へ行ける機会を得て2度目の南極に挑戦しました。それが、今から6年前の第60次隊。マネジメント業務が中心の副隊長兼夏隊長でしたが、その時に、前回の観測の失敗を思い出したのです。「ここは観測の現場。このままでは終われない」と思い、管理職をしていた海洋研究開発機構(JAMSTEC)から現場の観測に従事できる教授に就くため、東京大学に異動しました。
科学研究費補助金という競争的資金を獲得し、準備を重ね、第66次で無事に設置。第33次の借りを返すことができました。完全にリベンジとなるかどうかは来年の第67次で無事に観測測器が回収できるかどうかにかかっています。
この6年間、新しいことに挑戦し続けました。今、ひと段落して将来の南極観測隊員を育成すべく、大学院の学生たちにその魅力を伝えています。彼らと一緒に研究して、南極に残る課題の1つ1つを解き明かすことに挑戦していきたいと思います。そして60歳を超えているかもしれませんが、チャンスがあれば再び、南極の現場で観測を行いたいと思っています。
かけがえのない仲間たちと現在も続くつながり
— 学生時代についてお聞きします。大学生活で印象に残っていることはありますか?
2年生まで朋寮に在籍し、2年間に男子寮を含めて、観桜会や運動会など、多くのイベントなどを一緒に寮生仲間たちとやってきました。この仲間たちはかけがえのない仲間たちで、1人は家族(夫)になり同じ2階生の同級生たちとは毎年、夏に旅行をするほど仲が良く気の置けない人生の友となっています。
弘前城が好きで、桜の時期は毎日、自転車で見に行きました。桜の名所として日本一だと思います。岩木山の麓周辺で採れる「だけきみ」(とうもろこし)、りんごの美味しさも抜群!りんごは今でも当時、家庭教師をしていた生徒のご家族から送られてきます。これまた日本一のおいしさだと思います。


― 弘前大学での学びや経験が、社会人になって活かされていると感じるときはどんな時ですか?
今があるのは、4年生の時の卒業研究の指導教官だった中谷周先生の教えのおかげです。中谷先生の地球化学の講義はとても印象に残っていて、天水中の安定同位体比が変化していく様子などを学んだ講義はよく思い出します。私の人生の出発点を作ってくださった恩師。この出会いがなかったら今の私はありません。最も大事な伴侶にも出会ったこの弘前大学に進学して本当に良かったです。
4年間の出会いは自分の人生を大きく変えることになるかもしれない
— 弘大生やこれから大学を目指す高校生へメッセージをお願いします。
実は、第66次南極地域観測隊では、私以外に4人の弘前大卒業生が一緒でした*。第66次隊では、弘前大学卒業者の数5名は、東京大学卒に次いで2番目に多く、極地という極限環境で活躍する彼らの姿はとても誇らしかったです。
こんな偶然もありながら、多様な場所で活躍している先輩たちのことを知ってもらえると嬉しいです。4年間でいろんな人と出会うと思います。その方々との出会いは、自分の人生を大きく変えることになるかもしれません。新しい出会いを大切にしてください。
*夏隊として、大気化学の研究をしている国立極地研究所助教の 佐藤隊員(理工学部卒)、越冬隊として、現在、昭和基地で活躍中の気象庁職員の臼田隊員(理工学部卒)、秋田魁新報社の記者で夏隊同行者の大久保隊員(人文学部卒)、「しらせ」を運行する海上自衛隊幹部の田中運用長(人文学部卒)
原田さんの休日の過ごし方
仕事場が海なので、趣味は登山にしようと40代から始めました。100名山に挑戦中であと6座。今年中に終わるか?他には書道を継続中。毎月の競書作品の提出はなかなか大変ですが、早朝など時間を見つけて細々とやってます。
Profile
東京大学大気海洋研究所 教授
原田 尚美さん
弘前大学理学部(現:理工学部)地球科学科卒 。
北海道苫小牧東高等学校卒業後、弘前大学理学部(現:理工学部)地球科学科へ進学。在学中に指導教官から聞いた南極でのフィールドワークに興味を抱き、南極地域観測隊を輩出している名古屋大学大学院へ進学。大学院を休学し第33次南極地域観測隊に参加後、海洋研究開発機構(JAMSTEC)にて生物地球化学分野の研究職として従事。自身3度目の参加となる第66次南極地域観測隊では女性初の隊長を務めた。2022年6月より現職。文科省科学技術・学術審議会委員、内閣府総合海洋政策推進本部参与、環境省中央環境審議会専門委員、日本学術会議連携会員も兼務。
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