message医学部心理支援科学科
栗林 理人 教授Kuribayashi Michito

弘前大学医学部心理支援科学科 栗林理人

“精神的な発達を促す養育・療育の場”

わたしは学校こそが子どもたちにとって家庭以外で過ごす時間の長い養育環境であり、学校の機能をいかに維持できるかが非常に重要だと考えています。

インタビュー動画

Question研究について

― 研究テーマの概要について

養育環境としての学校。

― 先生がその研究を志した理由、きっかけ。

もともとはコンピューターをやりたくて、親族の紹介で関東の大学へ、ロボットをコンピューターで操作する研究室を見学に行ったことがありました。そのとき、とても自分にはついていけない世界だと直感しました。そこで自分が本当にやりたいことは何なんだろうと改めて考えたとき、それはコンピューターではなくて「人間」に関することであると気づかされました。それで電子工学から医学へと大きく進路を変えたんですね。
高校生のみなさんは、何か自分のやりたいことがあったら、オープンキャンパスなどの機会を利用して、ぜひ大学に見に行ってください。わたしは数年上の先輩達が実際にやっていることを見て、自分のイメージと違っていたという経験をしました。まさに「百聞は一見に如かず」です。
医学部に入学をして、選択肢としてはいろんな科があった中で、最終的に精神科を選ぶことになりました。「人間」に興味があって、患者様に接するというと、内科でも外科でもよかったかもしれませんが、わたしは小児科に興味がありました。小児科では子どもの全身の病気について学びましたが、どうも自分のやりたいことは「身体」のことじゃないというのが大学時代にわかってきたんですね。間もなくして、子どもの精神科があることを知り、精神科に進むことになりました。

弘前大学医学部心理支援科学科 栗林理人

子どもの精神科臨床をしていく中で、子どもを治療するということは「成長を促す」ということなのですが、子どもだけ診ていてもだめなんだなということがわかってきました。子どもに治療者よりも長い時間関わっている親、家族の関わり方が少しでも改善すれば、さらに治療の効果が上がります。すなわち、子どもの養育の環境、治療の環境をどう整えるかということが、お薬なんかよりもずっと重要だということがわかってきたわけです。今、養育の場である家庭では、両親が共働きというケースが圧倒的に多いです。さらには父子家庭、母子家庭、再婚家庭であったり、ステップファミリーと呼びますけれども、家庭環境がかなり複雑になってきています。では、この子どもたちを誰が育てるのか、誰がその子たちと向き合うのかといったときに、「地域で育てる」とよく言われていますが、実際にはどうなのでしょうか。どの地域にもあるのは、義務教育課程である「小中学校」ですね。学校こそが子どもたちにとって家庭以外で過ごす時間の長い養育環境であり、学校の機能をいかに維持できるかが非常に重要だと考えています。

― 先生の研究への情熱や、哲学、今後の展望など

特に昨今急速な少子高齢化を迎える中で、弘前市のような街がきちんと機能し、子どもから老人まで住みやすい地域として生き残れるように願っています。

Question教育について

― 学部(学科、課程、専攻等)の特徴(力をいれている教育・研究、雰囲気など)

2020年4月に弘前大学医学部の中に心理支援科学科が設置されました。以前は皆さんご存知のように教育学部に臨床心理士を養成する心理学科がありましたが、平成27年に公認心理師という資格制度が設けられましたので、それに伴って弘前大学では公認心理師の資格取得を目指す学科を開設したことになります。
この学科では公認心理師の資格取得のための教育と臨床的な感覚を少しでも学生時代から身につけられるように講義や実習を工夫しています。先日は、早期体験実習にて学生さんたちとともに弘前児童相談所で実習を行ってきました。
心理支援科学科の1年生10名のうち、青森県出身者が2名、残りの8名は県外出身者です。いろんな県から学生さんが集まっているというのは、それだけで刺激があってすごくいいことだと思います。

― 先生の講義の特徴

実習は、将来公認心理師として務める病院以外の施設でも行っていきます。例えば、児童相談所、精神保健福祉センター、少年鑑別所、弘前大学教育学部附属学校園などです。子どもからお年寄りまで幅広い年代の人たちに対して、適切な治療や援助をしていくためには、今の時代、多くの人たちと協力してチームで動くことになります。そのため、早期からいろいろな職種の人たちと交流していきます。
指導の際には、心理学や精神医学を一般の人にも出来るだけわかりやすく説明することを心がけています。

弘前大学医学部心理支援科学科 栗林理人

― 大学で学ぶことで将来どのようになれるか、何に役立てられるか

公認心理師として、医療・教育・福祉・司法など様々な分野で働くことが可能になります。また、医療の分野では、将来的に青森県内の総合病院に公認心理師が1人でも多く勤務できるよう、就職先を確保していくことも課題と考えています。
公認心理師になるには、4年間の学科を出て、その後大学院に行く必要があります。学生には精神医学や心理学を、日常生活の対人関係に落とし込んでわかりやすいよう説明をし、また、学生みんなで話し合いながら、自分でも説明できるよう指導していきますので、もし仮に、公認心理師になることを選択しなかったとしても、弘前大学医学部心理支援科学科で学んだことが様々な場面で役立つはずです。

― 高校生のうちからどのような経験をしてきてほしいか

わたしが高校時代に思っていたように人、人間、特に人となり、そしてまた心の動きにすこしでも興味を抱いてもらったらいいなと願っています。誰でも若い時代には異性を好きになったりします。でもうまくいくとは限りません。失恋を経験するかもしれません。そして大切な存在である家族やペットを失うこともあるかもしれません。そういう大切な誰かを失った時の人の心の動きというのはどのようなものでしょうか。心理支援科学科では、そういったことを学生さんたちと一緒に考えながら、そして時には実習の中でそういう相談を受けながら、一歩ずつ歩んでいこうと思っています。
高校生のうちから、人の心の動きやその回復の過程、そういったところに興味を持てるといいかなと思っています。

高校生に伝えたい
メッセージ

なかなか難しいこの今の世の中にあって、自分で本当にやりたいことといっても、なかなか見つからないかもしれません。わたし自身は、自分の好きなこと(話を聞くなど)を仕事に結びつけることができたのではないかと思っています。

皆さんにも本当にやりたいことが何なのかということを大学在学中に見つけていただきたいと思います。そして皆さんの時代というのはあの大学に入ったからこうなるというのではなくて、いろんなことを勉強して、自分がやりたいことのためには何が必要なのかということを探し求めるような時代のような気がしています。「やりたいことを仕事にして生きていけるか?」、「やりがいのある仕事とは?」そんなことを考える必要がありそうな時代です。

自分の興味を持てることに一生懸命取り組んでいける、そういう学生時代を送っていける、その大学が弘前大学であればいいなと願っています。