国立大学法人として、東北では唯一、養護教諭養成課程を設置している弘前大学。就職率100%、教員採用試験における高い合格率など、数々の実績を誇ります。
しかし、同課程のすごさは就職の面だけに限りません。
弘大出身の養護教諭たちの働きぶりが評価され、今では、「弘大養教ブランド」と称賛されるほどに!
数々のレジェンドを生み出す理由を探るべく、教育学部教育保健講座に在籍し、養護教諭養成課程の学生を指導している葛西敦子教授にお話を伺いました。
看護師としての経験とまなざし。それが今に役立っています。
― 先生は、弘前ご出身だそうですね?
私は生まれも育ちも弘前で、さらに弘前大学教育学部の卒業生です。
弘前大学には全国各地から集まった先生がおりますので、私のようなケースは珍しいかもしれませんね(笑)。
弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程を卒業後、弘前大学医学部附属病院で4年間、看護師として勤務しました。その後、教育学部看護学科教室で看護学教育に従事。2001年から教育学部教育保健講座に在籍し、養護教諭養成課程の学生の看護学教育を担当しています。
弘前大学に勤務し、38年目。振り返ってみると、弘前大学での学びはもちろん、看護師として医療現場で働いた経験が、現在の養護教諭養成教育に大変役立っていると感じています。
教育現場に即した“総合的な学び”
― 弘大の養護教諭養成課程は、看護系ではなく教育学部に設置されているそうですね。養護教諭になるために、教育学部で学ぶ意義について教えてください。
養護教諭になるためには、看護学部や看護学科で学ぶというイメージをお持ちの方が多いかもしれませんね。
実際、全国の4年制大学のなかで、養護教諭養成課程は半数以上が看護系に設置されています。
そんななか、弘前大学の養護教諭養成課程は、教育学部に設置されています。教育系に位置づけられているのは、全国の4年制大学のなかでも1割程度しかありません。
教育学部に設置されている利点は、学校教員として教育現場に即した学びができることです。教育の現場でさまざまな子どもたちと向き合うためには、人間教育、教育の社会制度なども含め学校教員としての幅広い知識とスキルが求められます。私たちは、「養護教諭は教員であり、将来の地域や日本、さらには世界を担う子どもたちを育てる重要な役割を担っている」という理念のもと、総合的な人づくりに力を入れています。
将来を担う子どもたちの、心とからだに寄り添う仕事
― 養護教諭はどんな仕事をするのですか? そのために求められることは何でしょう?
各自治体で実施される教員採用試験に合格すると、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校などに配属されます。
生徒数が多い学校では養護教諭を2人配置しているケースもありますが、多くの場合1人配置です。そのため、当課程では、いざという時に1人で対応できる救急処置の方法を徹底的に学びます。
また、さまざまな心の問題を抱えて保健室にやってくる子に寄り添い、時には心のよりどころとして対応していかなければなりません。担任や保護者との連携が不可欠です。
さらに、「健康教育」も大切な役割のひとつです。体の健康、心の健康など、子どもの頃に身につけた健康教育がその人の一生を左右するといっても過言ではありません。
このように、養護教諭は、知識や学問を身につけることはもちろん、あらゆる場面で子どもたちに寄り添う人間力が必要とされる仕事です。ですので、私がいつも学生たちに話しているのは、常に相手の立場になって気配りができる人間であってほしいということ。
そのためには、価値観の違う多様な人とのふれあいが大事です。弘大は総合大学であることから、全国から集まった他学部の学生との交流やサークル活動を通じて、いろいろな考え方にふれることができます。弘大での学びや経験が、将来現場で必ず生きてくると思います。
就職率100パーセント! 教員採用試験における高い合格率も強み!
― 教員採用試験の合格率も高いそうですね! その理由としてどんなことが挙げられますか?
弘大の養護教諭養成課程は、就職率100パーセント。なかでも、教員採用試験の合格者数が多いことが特徴です。
平成29年度の当課程の卒業生は、定員25名のうち20名が養護教諭になりました。
このうち教員採用試験に合格したのは17名。青森県と秋田県の試験にはそれぞれ5名ずつが臨み、10名全員が合格しました。
しかし、以前は、教員採用試験の合格はとても厳しい状況が長く続いていました。
私は現在、教育学部就職支援委員会の委員長を務めていますが、当課程の教員採用試験の合格率が高い背景にはいくつかの理由があると考えています。
まず、ひとつには、2010年、教育学部に「教職支援室」が設置されたこと。
教員採用試験対策講座が始まり、教育学部全体で学生の就職をバックアップするシステムができました。それによって、それまで個々に勉強していた学生が教職支援室に集まり一緒に学ぶようになりました。
弘前大学 教育学部 教職支援室の詳細はこちら
学生には、教員採用試験を受験するにあたって、「あなたたちは敵ではなく、同じ目標に向かう仲間。だから、みんなで助け合うことが大事」と、ともに高め合っていくことの大切さを伝えました。
もともと保健室の先生をめざすような学生たちなので、優しくて思いやりのある子ばかりです。我々のそうしたアドバイスもあり、学生たちは自主的に勉強を教え合ったり、協力して模擬授業や集団面接の練習をするようになりました。
さらに、採用試験に合格した先輩たちが自分の体験談やリアルな情報をつづったノートを作り、代々、後輩たちに残すようになりました。受験本には載っていない具体的な情報やアドバイスがびっしりと書き込まれたノートは、後輩たちにとっては大変貴重なものです。
このように、高い合格率の背景には、教育学部全体で就職をバックアップする環境が整備されたこと、さらに、養護教諭養成課程の学生たちが切磋琢磨しながらも助け合い、みんなで一緒に合格しようという機運が生まれたこと。これらすべてがうまく作用し、高い就職率につながっているのではないかと思っています。
みんなで創り上げた「弘大養教ブランド」!
― 弘大出身の養護教諭の皆さんは、各現場でどのような評価を得ていますか?
学生に教える立場としては、「卒業した学生たちは、それぞれの現場でがんばっているだろうか・・・」と、いつも気になります。昨年のことになりますが、秋田県で養護教諭をしている卒業生から、とてもうれしい話を聞きました。
「先生、私たち弘大出身の養護教諭は、『弘大養教ブランド』って、呼ばれているんですよ!」
ある先生は、「この養教さんいいなぁと思うと、やっぱり弘大だもんね」と話してくださいました。
驚きましたが、すごくうれしかったですね・・・。それぞれの現場で奮闘している卒業生と、先生方の熱心な指導が実を結び、ブランドと呼ばれるまでになった。「報われた・・・」と、思いましたね。近頃のニュースのなかでは、一番うれしい出来事でした。
養護教諭のための「フィジカル・アセスメント」と「女性の健康」
― 先生の研究テーマについて教えてください。
看護の技術や正しい知識を身につけ、子どもたちに対応できる養護教諭を育成するために、養護教諭のための学校看護学の研究に取り組んでいます。その中でも、現在は養護教諭のための「フィジカル・アセスメント」の研究に力をいれています。
全国組織である「日本教育大学協会全国養護部門」の「看護系教員連絡会」に在籍し、全国の国立大学の先生たちと一緒に研究を行っています。
また、「女性の健康」をテーマにした研究も行っています。女子学生たちに聞くと、「女性としての自分の身体」について意外に知らないことが多いと感じています。自分の人生設計において、結婚・妊娠・出産の時期も考慮し、自分の人生をどう生きるかを考え選択してほしいと思っています。生涯、女性として健康に過ごすことができるための知識の習得をめざし、教養教育科目では、「人を育む営み-女性の健康-」を開講しています。
これまでに、大学院学生と「女性の健康(排卵の自覚と基礎体温測定データ、月経前症候群)」などに関する研究を行いました。在学中に学会発表・論文掲載などの優秀な業績を修めた大学院学生たちもいます。彼女たちはその業績を高く評価され、大学院在学中の日本学生支援機構奨学金の返還が免除になる「業績優秀者返還免除」に採用されました。これまで3人が申請し、3人全員が免除となっています。
広い視野と豊かな人間性を身につけられる総合大学
― 高校生に向けてメッセージをお願いします。
1年後、5年後、10年後に自分がなりたい姿を想像しながら、目標に向かって一生懸命努力してほしいと思います。
弘前大学は総合大学なので、全国から学生が集まってきます。サークル活動も活発なのでさまざまな経験を通じて、広い視野と豊かな人間性を身につけることができます。また、弘前公園の桜など景観も素晴らしく、学生時代を過ごす街としては最高の環境です。ぜひ、弘前大学で私たちと一緒に学んでみませんか。
Questionもっと知りたい!葛西センセイのこと!
― どんな大学生でしたか?
毎晩12時までひたすら宿題や課題などの勉強をしていました。
週3回臨床実習があったので、毎日がとにかく忙しかったですね。
「なんでこんなに勉強しなきゃいけないの~」と、思ったこともありましたが、今、思うと教育学部特別教科(看護)教員養成課程では深い学びをたくさんしたと思います。
当時はひたすらノートをとらなくてはいけませんでした。当時のノート(※写真)を見ると、学生時代のことが思い出されます。
― ご趣味は?
四季を楽しむこと。春は山菜採り、秋はきのこを採りに山にでかけます。
青森では馴染み深い「さもだし」(ならたけ)は、お味噌汁にすると最高です!シーズンが近づくとワクワクして、カレンダーとにらめっこしています(笑)。
健康づくりのため、週2回、スポーツジムにも通っています。夜の10時ころにヨガをやっているんですよ。
― 休日の過ごし方は?
もっぱら主婦業です。結構やらなければならないことがいっぱいあります。
食事も3食自分で手作りすることを心がけてきました。
今は3人の息子も独立しましたが、以前は家族5人分のお弁当を作っていました。
大量に採れたトマトや旬の嶽きみを上手に冷凍して、それをパスタやビーフシチューに活用するなど、あれこれ工夫するのが楽しいんですよ。貧乏性なんですね、きっと(笑)。
思い出の写真館
せっかく日本人として生まれたのですから、日本の文化を楽しみたいと思い、大学卒業後、着付けを習いました。卒論発表会や教育学部の送別会、結婚式では自分で着付けをしています。「下手でもいいから着る!」がモットーです。
卒業生・修了生送別会の時の写真です。
大学院学生にも着付けを教えて、一緒に着物を楽しみました。
学校看護学実習の様子です。
養護教諭をめざす学生の志望動機は、「子どもの頃に、自分が保健室でお世話になったから」、「養護教諭として働く母の姿を見て育ったから」という理由が多いですね。養護教諭としても、1人の人間としても成長できるように、時には優しく&厳しく指導しています。