弘前大学に資料館があるのを皆さんはご存知ですか?
弘前大学資料館は、弘大の歴史や今進行中の研究など、弘前大学の過去と現在を学べる場として、弘大文京キャンパス教育学部棟南側の1階にあります。
『資料館』という名前だけ聞くと、シーンとしていて、なんだか厳かな雰囲気で、一人で入るのは緊張する...、という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

弘前大学資料館の扉を開くと、キャンパスの一角にノスタルジックな空間があるなんて!とわくわくするはずです。

今まで知らなかった弘大を発見するために、資料館館長の人文社会科学部 足達薫教授にお話を伺いました。

2012年10月総合文化祭に合わせて開館!

資料館では、弘前大学の歴史から現在までの研究や研究者の活躍を見ることができる常設展の他、年に3~4回異なるテーマの企画展が開催されています。

官立弘前高等学校で使われていた掛時計

資料館に入るとすぐ右側に、レトロな雰囲気の大きな掛時計があります。外からは隠れていますが、左右にゆっくり揺れる振り子が365日、時を刻み資料館を見守っているようです。
この振子掛時計は、実際に官立弘前高等学校で使われていました。今も現役で、資料館内の時間を知らせてくれています。

足を進めると、官立弘前高等学校・青森医学専門学校・青森師範学校などの、弘前大学の前身となった各学校の資料や、弘前大学が50年以上参加し続けているねぷたまつりの歩み、顕著な業績を残した先人や、各学部の研究内容の展示が並びます。

弘前大学の歴史を刻む時計から始まり、現在の研究の紹介というように「過去から明日へ」をテーマに、古いものから新しいものへと順に展示をしています。
奥に向かうにつれて、だんだん“今”に近づいてくる時間の流れを感じると、より面白く資料館を見ることができるはずです。

弘前大学資料館 入ってすぐの展示
資料館に入るとすぐ、官立弘前高等学校時代に太宰治が書いたノートの複製が展示されている

「大学にある資料館」だからこその意味を持つ

―これまで面白かった・反響があった企画展示はありますか?

私が館長を仰せつかってからの例で、個人的にとても気に入っているものが、昨年の7月末から約2か月間実施した、20回目の企画展、「大学で描く ~学び、記録する学術スケッチ~」です。昆虫や植物、考古学などの研究で、写真ではなくスケッチで記録していく部分は、大変重要なプロセスです。スケッチからその人が、何をどう捉えたのかがわかります。
弘前大学資料館第20回企画展「大学で描く ~学び、記録する学術スケッチ~」

弘前大学資料館第20回企画展「大学で描く ~学び、記録する学術スケッチ~」
第20回企画展「大学で描く ~学び、記録する学術スケッチ~」の様子

この企画展で「これは、大学で展示する価値や意味がある企画展だ」と感じましたね。
というのも、スケッチというのは、研究成果になる前の、普通は誰も見ないし、見せていない部分です。
でも、実はそこが一番研究者や学生も楽しんでやっているところで、“大学”でやっていることのすごくおもしろい部分だ、と思うんです。

立派な“完成されたもの”でなくても、研究や教育の現場で、“今起こっていること”や“今取り組んでいること”を現在進行形で、あるいは、途中成果の部分を見せていける場に資料館がなっていけばいいと思います。

―現在実施している企画展はありますか?

2019年6月1日(土)~2019年7月20日(土)の期間で、「“装う”アフリカ ―世界との交錯のなかで―」というタイトルの企画展を実施しています。
アフリカでは、あらゆるものが装飾的で“飾る”ということがとても重要な文化です。
期間中は、「服」や「飾り」、「生活」のいろいろな面での装い方の展示をしています。他にも、アフリカの文化的な音楽をやられている方をお招きして演奏を聴いたり、ワークショップを開催したりする予定です。
大学ではこんなことやっているんだ!と新しい発見の場になると思います。

また、夏には昆虫の企画展を開催予定です。日本昆虫学会の全国大会がちょうど夏に開かれるようで、そこに合わせて10月の文化祭の時期まで長くやっていこうと思っています。
弘前大学は昆虫研究でもすごいんだ、と思ってもらえるといいですね。

弘前大学の歴史と現在の研究を同じ空間で学ぶことができる
“自校教育”の役割を持つ資料館

弘前大学資料館は2012年に開設しましたが、そのときから“弘前大学”を理解するための場所、「自校教育」という機能を持った場所ということをコンセプトにしています。
弘前大学がこれまで何を行ってきたか、今何をしているのか、これから何に取り組んでいくのか、それがわかることは大学の中の人たちだけでなく、すべての人にとって役立つはずだ、という理念の下、設置されました。

―高校生や在学生、卒業生をはじめとしていろんな人が資料館を訪れると思いますが、
どんな風に活用してもらいたいですか?

高校生の皆さんには、弘前大学はどんなことが学べるのかを知る場所として活用してほしいです。
資料館の存在を知るのはおそらくオープンキャンパスのときや高校による大学訪問など、大変限られた機会しかないと思うんです。そのタイミングに合わせて、興味を持ってもらえるような内容の企画展や体験型のワークショップを実施できるようにしていきたいですね。

在学生は、入学後すぐに専門的な授業を受けるわけではないので、自分の学部の雰囲気を知ってもらうにはとても役立つと思います。2・3年生になると自分が所属しているゼミや研究室のことはわかるようになっても、学部の全体像ってなかなかわからない。それが案外、資料館にあるものでわかったり、総合大学ならではの学部の広がりを感じたりすることができます。
これからは、何か勉強の課題としても活用してもらえるような場所にもしていきたいです。

卒業生の皆さんには、戻ってきたときに変化を感じられる場所になっていてほしいなと思います。大学って、基本的に雰囲気は変わらないですよね。教室や建物は年中変化がないですが、その中でも変化が反映され得る場所が、資料館だと思っています。
卒業後大学を訪れた際に、「今はこんな研究をしているんだ」と確認できる場所になると嬉しいですね。

各学部・研究科の展示
各学部・研究科の現在の研究内容が展示されている

どんな人にも共通して、
まずは資料館の存在を知ってもらいたい

弘前大学資料館は、いい意味で利潤に捉われないので、自由な発想で展示をすることができます。

例えば、昨年実施した企画展で、「石」の世界という鉱物の研究をされている先生方の石のコレクションを展示したことがありました。
この展示は、資料としての石そのものの魅力ばかりでなく、石を見る見方、石を考える学問的な思考法を紹介するというものでした。こうしたテーマは、入館者数を増やすことが求められる一般的な博物館などでは、なかなか難しいのではないかと思います。
専門的な内容の展示がかえって具体的な関心に繋がったようで、大変好評でした。
まずは自分たちが本当に「おもしろい」と思って研究していることが、やはり一番おもしろく伝わるので、それを紹介できる場に今以上になっていくと嬉しいですね。

規模の大きい資料館や博物館では難しいようなニッチな展示、成果が生まれる瞬間や、その直前のものの展示をしていけるというところは、弘前大学資料館ならではだと思っています。そういう思いの資料館の存在をもっと多くの人に知ってもらいたいですね。

商店街のように個々の主張が反映される空間

―どんな資料館にしていきたいですか?

何でもあるスーパーマーケットというよりは、商店街のように個人店がそれぞれの主張をしているような場所になってほしいと思っています。
弘前大学という商店街の中で、それぞれの研究や教育の内容が反映され、「個性がある」「個性が出せる」場所として、資料館が存在してほしいと思います。

最後に、高校生の皆さんへ一言!

弘前大学資料館館長 足達薫教授
資料館館長の足達薫教授

大学で何を学ぶのか?学問の名前や漠然とした内容は大学案内のパンフレットや大学ホームページでもある程度はつかめるかもしれません。しかし、実際に教員や学生が、どんな場所で、どんなものを使って、どんな体や心の使い方をして、現場で何が起きているのか、直接感じることは難しいと思います。
資料館では、弘前大学のこれまでの歴史とともに、現在行われている研究や教育の現場を具体的に感じることができます。弘前大学の受験を考えている方々にはおすすめの場所です。

また、これまで博物館学芸員資格取得課程では、他の博物館や、美術館に実習に行かなければいけなかったのですが、今年から免許取得の実習先として、弘前大学の資料館の中で実習できることになりました。弘前大学で博物館・美術館などについて学びたい人がいれば、ぜひ資料館に注目してもらいたいと思います。

弘前大学資料館マップ