弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第17回は、文部科学省の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」(以下 トビタテ)に第8期生として採択され、1年間アメリカのワシントン州に留学した 佐藤 伸介(さとう しんすけ)さんです。留学までの経緯や、今後の展望について伺いました。

英語を使った仕事をしたい

—弘前大学教育学部学校教育教員養成課程 教科教育専攻 英語専修(現:初等中等教育専攻 中学校コース英語専修)を志望した理由を教えてください。

受験勉強をし始めて、勉強するうちに英語がおもしろくなって、英語を使った仕事をしたいと思うようになりました。それで身近な英語を使って仕事をしている存在が英語教員だったので、ちょうど良いかもと思い、弘前大学教育学部の英語専修を志望して、入学することを決めました。

—大学に入ってからの英語の勉強は?

当初僕は英語が好きだったものの、全然できなかったんです。センター試験の英語の点数は平均以下でした 。英語を身につけたいと思って、最初にイングリッシュラウンジ*1に行ってみました。でも、交わされる会話も質問されたのかさえもわからず、そんな環境にいるのが怖いと感じてしまい。ここで終わるわけにはいかないと思って、生協の英会話講座Ace(エース)に毎日できる限り通いました。そこで英会話の基本中の基本を身につけ、自信をつけていきました。あとは洋書を読んだり、洋画や海外ドラマを観たり、Podcastで英語のラジオを聞いたり、同じ学科に英語を話せる友だちがいたので、英語で会話をしたりしていました。

*1イングリッシュラウンジ:利用者誰もが区別なく、英語でコミュニケーションを楽しみ、世界の文化について学びあえる場所。
詳しくはこちら

インタビュー中の佐藤さん

英語を学んでいくうちに将来の目標が変化

—留学について、経緯を教えてください。

1年の学年末休業の期間に、協定校のメーン州立大学附属の語学学校に短期留学しました。3週間後、引率の先生から「自分で気づいてないかもしれないけど、めっちゃ英語伸びてるよ!」と言われ。帰ってすぐにTOEICを受けてみたら860点になっていて、本当に伸びてる!と驚きました。
帰国後は自信がついてモチベーションもかなり上がっていて、イングリッシュラウンジにも行くようになりました。クロスカルチャークラブという留学生と異文化交流をするサークルにも入り、そこで友だちもでき、モチベーションの維持に繋がりました。
2年の11月のTOEICでは950点を獲得し、大学のTOEIC賞*2をいただきました。

—その後、どのようにトビタテでの長期留学につながったのでしょうか?

その頃、教員になることが自分に合っていないかもと思い始めていたんです。ずっと長期留学がしたくて、それはよりよい英語教員になるためにと思っていたので・・・悩んだ時期がありました。その時に、トビタテ4期の橘さんの講演を聞いて。トビタテの存在は知っていましたが、奨学金をいただいて、留学計画を立てて、日本代表とかそんな難しいことできるはずないと思っていたんです。でも橘さんの熱意のこもったプレゼンに勇気をもらって、自分もできるかもしれない、やらずに後悔するよりやって後悔しよう!と、挑戦することを決めました。

その頃興味を持っていたのが“観光”でした。留学生と夏休みの旅行の話をした時、みんな行き先が北海道、東京、大阪、奈良、京都、広島、沖縄・・・と、東北に行く人がいなくて。僕は出身が宮城県なので、宮城に誘ったら、「どこ?」みたいな。なんか悔しくて。東北のいいところを知ってほしい!と思い、東北地方のインバウンドをよりよいものにするために、観光の取り組みを学ぶことを留学のテーマにしました。留学先は、観光政策が充実していて、日本より進んでいるところの一つ、アメリカのワシントン州に決めました。ワシントン州は緑の自然が豊かで、アメリカという観光大国の中でも東北と類似点があると考えました。3年の3月下旬から約1年間留学しました。

*2TOEIC賞・・・TOEICを受験した弘前大学学生(学部学生)の高得点者を弘前大学同窓会「吉田基金」より特別顕彰している。
詳しくはこちら(令和元年度)

ハイキングで訪れた山
ワシントンにも豊かな自然がある

「観光」は何のため?現地で得た新たな気づき

—留学中はどのような活動をしていたんですか?

現地の大学では正規の学生と同じ授業を受けてみて、本当に絶望しました(苦笑)初日の宿題が、次の日までに教科書40ページ読んでくることだったり。 すごく苦戦しましたが、自分に課題を与え、例えば一番前の席に座って毎日発言するというルールを作って実践して、少しずつ英語で考え発言することができるようになりました。パブリックスピーキングという、公の場でプレゼンする授業も受けて度胸もつきました。

留学のテーマは観光で、活動としては大きく4つあって、1つは現地のDMOという、地域の利害関係者と協力しながら地域の観光地経営を推進している法人の会議への参加です。地域住民や、公園のレンジャーさん、学生、いろいろな立場の人が観光について意見を出し合う会議です。
会議を主催したDMOのCEOの方に「この地域がどれほど人気になってほしいのか、どれほどの観光客に来てほしいのか」を聞いてみました。そしたら「それは地域の人全員で、観光をどう地域に還元するのか話し合って決めることだから、私の一存で決めることじゃない」とおっしゃって。「観光は飽くまで手段」なんだと自覚しました。
例えば地域の経済をよくするという目的があって、それを達成するための観光があるんだと。僕はそれまで東北をもっといろんな人に知ってほしいと思っていましたが、それはただの利己的な思考だと気づき、地域や観光客にどう還元されるのかを考えなきゃ、と思うようになりました。

2つ目が、自然です。ワシントン州の人ってよくハイキングに行くんですよ。僕も向こうでは毎週末のように山に登って、すごく心が安らぐのを感じました。「それ、バイオフィリア仮説じゃない?」と友達に言われ。バイオフィリア仮説は、人は生得的に自然につながりを求める、というような仮説で、これは本当かもしれないと思いました。日本、東北も自然があって四季があって、資源もある。将来的に、バイオフィリアの考え方を普及し、人々が自然に触れる機会を増やし、自然を通してもっと幸せになってほしいと思うようになり、観光でアプローチできないかと考え始めました。

パブリックスピーキングの授業をとっていたみんなと
一緒にパブリックスピーキングの授業を受けていたメンバーと

世界の流れを知る重要性。日本に必要なものは?

3つ目はJETRO青森での食品フェアのボランティアです。東北の食品会社が20店舗ほど出店していて、接客補助として参加しました。そこではマーケティングの重要性を認識しました。アメリカで健康志向がブームになった時に、青森が黒にんにくを売り始めて、それがすごくヒットしたそうです。世界の流れを知って、地域の強みを当てていく、世界を視野に入れたマーケティングが大事だと思いました。

4つ目はインターンシップです。ExpediaGroup(エクスペディアグループ)のグループ会社の一つで、北米最大級のクルーズ特化型旅行代理店である、ExpediaCruiseShipCenters(エクスペディアクルージップセンター)にてインターンシップしました。
インターンシップの面接で、留学する前に青森市のねぶた祭りで、クルーズ旅行での訪日外国人向けに英語の観光ガイドボランティアをやっていた話をしたらすごく盛り上がって、そこで受け入れていただきました。青森での活動がここで活きるとは、驚きでした。
仕事としては、電話応対、システム上での仕事の進捗管理、イベント参加など、いろいろやらせていただきました。同僚に日本の観光の状況をプレゼンする機会を申し出て、クルーズ旅行でより多くの人に日本へ来てもらうにはどうすればいいのかについて意見を交わしました。そこでわかったのは、需要はあるけれど、日本のクルーズ旅行は発展途上だということです。船から降りたときの現地ツアーの情報が本当に少なくて。日本でもインバウンドが盛り上がっていて寄港地も増えていますが、クルーズ旅行をしたい人向けの情報発信や、日本のガイドやツアー会社と海外の代理店を結ぶ必要性を感じました。

インターン先の会社前にて
インターンシップ先の会社の前にて

留学を通してできた自分の軸。経験を還元していきたい。

—留学で得たものや、意識が変わったと思うことはありますが?

繰り返しになりますが、観光は目的でなく手段だという気づきは大きな収穫でした。目的として自然に関すること、バイオフィリアを普及する、人々が自然と触れ合う機会を増やし幸せになってもらう、手段としてこれに観光やビジネスの観点から取り組むという自分の中での軸ができました。

また、自分自身を自分のものさしで見られるようになりました。留学前は人と自分を比べてネガティブに思うこともありましたが、考え方も思想も人種も違って当たり前な環境に身を置いて、それぞれの考え方のものさしが全然違うことに気づきました。自分自身で自分を評価して、自分が納得すればそれでいいんじゃないかという考えに至り。自分と他者に対して、どっちにも寛容になったと思います。違って当たり前、逆に違っておもしろいと思うようになりました。

—今後何か活動していく予定はありますか?

留学中にボストンキャリアフォーラムという、日英バイリンガル向けの大規模就活イベントに参加して、外資系旅行会社から2ヶ月間のインターンシップの機会をいただいたんです。この夏にそのインターンシップに参加します。日系、外資系の、海外志向の学生を採用したい企業が200社ほど参加する就活イベントなので、弘大生もそういうところで就活するのもありだと思います。

自然に関しての活動としては、東日本の森林を自転車で周り、知識をつけ、森林インストラクターの取得を考えています。実は、「森林浴」という言葉が生まれた国って日本で、現在は林野庁認定の森林セラピー基地・セラピーロードが64箇所あります。森林浴の母国で存分に自然を満喫し、学びたいと思っています。

その他に、自分の経験を還元する活動をしていきたくて。先日生協のAceで過去の受講生として登壇して英語学習についてアドバイスをしました。あとは弘前市内のコラーニングスペースであるHLS弘前でアルバイトをすることになって、そこでも何か企画したいと思っています。大学で、留学を視野に入れる学生を増やすような活動もしていきたいです。

キャリアフォーラム会場にて
ボストンキャリアフォーラムにて、トビタテの友人と

やらずに後悔よりやって後悔!

ー今後の展望を教えてください。
 また、最後に高校生や在学生に向けてメッセージをお願いします。

「自然」という軸をぶらさず活動していきたいです。野生動物保全学を研究している友達がいて、将来的に何か一緒にやるのも面白そうだよねと話しています。僕は観光とビジネスの面で経験とスキルをつけて、でも自然に関する学術的な知識は少ないので、専門性を持った人と協働するのもおもしろそうだと思っています。アプローチの方法はいろいろですが、軸を意識してやっていきたいですね。

僕が持論として大事に思っているのは「やらずに後悔よりやって後悔」ということで、やらないって安全策のように見えて本当はリスキーなんですよね。やらずに後悔した時の後悔ってすごく大きくて、僕も今でも覚えているものもあります。何かしたなら、失敗でも成功でも学びがあって、それを得られないのはすごくもったいない。大学4年間あるのだから、本当に興味をもったこと、挑戦してみたいと思ったことはやってみるのもいいと思います。大学生活からより多くのことを学ぶためにも、よりよい人生を送るためにも、やらずに後悔よりやって後悔のモットーはおすすめです。

ハイキングの様子
インターンシップ先の同僚と
インターンシップ先の同僚からもらったメッセージカード
同僚からもらったメッセージカード

弘前大学留学ウィーク 2019年5月17日(金)~24日(金)

弘前大学国際連携本部では、5月の1週間を留学ウィークと称し、留学や国際交流に関するイベントを集中的に実施します。詳しくはこちら
※佐藤さんは21日(火)17:40~19:00「留学×キャリア」に参加します。

◇弘前大学から海外への留学相談については弘前大学国際連携本部ホームページから

>>トビタテ留学JAPAN第4期生 橘 加奈子さんインタビュー
>>トビタテ留学JAPAN第5期生 水無 保乃香さんインタビュー
>>トビタテ留学JAPAN第7期生 工藤 里紗さんインタビュー

Profile

教育学部学校教育教員養成課程 教科教育専攻 英語専修4年(現:初等中等教育専攻 中学校コース英語専修)
佐藤 伸介さん

トビタテ!留学JAPAN第8期生 。
宮城県岩沼市出身。宮城県立仙台西高等学校卒業後、平成27年4月に弘前大学教育学部学校教育教員養成課程 教科教育専攻 英語専修(現:初等中等教育専攻 中学校コース英語専修)に入学。野呂徳治教授のゼミに所属し、応用言語学(第二言語習得)の動機づけの分野を卒業研究のテーマにする。文部科学省の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」に第8期生として採択され、3年次3月からアメリカ合衆国ワシントン州へ1年間留学。