2020年4月、弘前大学医学部に新設される「医学部心理支援科学科」。
なぜ、医学部に新たな学科を設けることになったの?
そもそも「心理支援」ってどんなことをするの?
などなど、知りたいことがたくさん。
弘前大学医学部心理支援科学科の栗林理人教授にお話を伺いました。

「公認心理師」は時代のニーズによって誕生した新しい国家資格

― 新学科設置の経緯について教えてください

私が精神科の医師になった1989年当時、医療の現場では、三大精神病と言われる統合失調症、躁うつ病、てんかんの患者様が大多数を占めていました。しかし、急速な社会の変化・複雑化により、近年は、子どもから高齢者までさまざまな年代で、心の支援を必要としている人が増えています。精神科受診者の疾病構成は大きく変貌し、三大精神病からパーソナリティ障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害へと変化してきました。特にここ10年の間では、自閉スペクトラム症や注意欠如多動症など、いわゆる発達障害に大きな関心が集まっています。また、育児や介護、仕事のストレスに伴う精神的な障害も課題になっています。そのため、薬物療法中心の治療では対処が困難な事例が増えてきました。

誰かに話を聴いてもらいたくても、重い話はなかなか話しづらい…。聞き手も見つからない。そうかと言って、SNSの世界で話すと、場合によっては被害を受ける場合もある。多くの人が、時間をかけてきちんと自分の話を聴いてくれる存在を求めている時代です。

従来の臨床心理士は、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会による認定資格であり、いじめ、不登校などが社会問題となる中で、臨床心理士は教育現場での活躍が期待されていました。そのため実習の多くは、スクールカウンセラー養成を目標とした教育現場での臨床が中心となっていました。その後、心理職の国家資格化の必要性が叫ばれるようになり、国は平成30年度に「公認心理師」という国家資格を設けました。心理学に関する知識や技能の習得をはじめ、保健医療・教育・福祉・司法・産業・労働などさまざまな機関と連携して心理的支援を行う「こころのスペシャリスト」です。具体的には、医師の指示のもと、患者様の心理検査やカウンセリングなどを行います。そのようななかで、弘前大学は公認心理師の養成をめざし、医学部に学士課程「心理支援科学科」を設置することになりました。

医学部心理支援科学科の設置(概要)の図

養成コースが医学部に設置されるのは全国でも珍しいこと

― 全国の大学では、養成コースが設置されるのは教育学部か人文社会系の学部が多いそうですが、医学部に設置されることになったのはなぜですか?

かつて、弘前大学大学院教育学研究科では臨床心理士の養成も行っておりました。その後、2014年には、子どもの心の問題に関する医療的支援や教育・研究の拠点づくりをめざし、弘前大学医学部に「子どものこころの発達研究センター」が開設されました。

「子どものこころの発達研究センター」は、弘前市教育委員会と弘前大学大学院医学研究科で締結された連携協定のもと、市教委と連携して市内の児童生徒の健康推進に関するさまざまな取り組みを行ってきました。その一環として、市内すべての公立小中学校で「こころのサポートアンケート (自分の気持ちを知るためのチェックリスト)」を実施しています。子どもたちの心の状態を把握し、心の問題を予防したり、学校での今後の指導・支援に役立てていただくのがねらいです。心は目には見えないだけに、数値化して「見える化」することが大事だと思っています。
このような研究の積み重ねもあって、医学部内に心理支援科学科が新設されることになったのです。公認心理師は、保健学研究科の他の学科と同じようにコ・メディカル(医師の指示のもとに業務を行う医療従者)の仲間入りをすることになりました。

栗林教授
「総合大学の医学部に学科が設置される意義は大きいですね。『子どものこころの発達研究センター』が積み重ねてきた研究結果も活かせると思います」と、語る栗林教授。

より実践に即したカリキュラム

― 総合大学、また、医学部に設置されるメリットは何でしょう?また、カリキュラムの特徴についても教えてください

心理支援科学科は、弘前大学医学部に設置される3つめの学科となります。心理学を中心としながら、医学・保健医療をベースに体系的に学ぶことができ、医療系の知識に強い心の専門家の養成をめざしています。医学部に併設された附属病院において、より充実した実習が受けられるため非常に有利な環境です。また、これまでも教育学部と協力し、学校現場の生徒や教職員への支援を展開してきましたが、これは総合大学だからこそできる強みです。
心理支援科学科の教員は、「子どものこころの発達研究センター」に勤務していたスタッフを含む精神科医2名、心理学を専門とする教員6名の計8名。学生の定員が10名に対し8名の教員を配置しており、大変手厚い指導が受けられるのも魅力です。

自閉症の検査の説明する栗林教授
知的能力を評価する検査に使われる積み木などを前に説明する栗林教授

「公認心理師」は話を聴くプロフェッショナル!
人間に興味があって、人に向き合うアツい想いがある人、大歓迎!

― 卒業後の進路は?

公認心理師の国家取得をめざしているため、大学卒業後は心理系の大学院進学を想定しています。また、病院で勤務をしながら研修を受けて公認心理師国家試験の受験資格を取得する方法もあります。

以前、オープンキャンパスの時に、「心理支援科学科は、理系ですか?文系ですか?」と聞かれたことがあるんですが、医学の世界は、理系でも文系でもないと思うんですね。数値化する理系のアプローチや、文学や哲学など文系のアプローチなど、さまざまなアプローチがあるからです。それに、医学部の学生が理系ばかりだと「人となり」を理解する上では、厚みに欠けるような気がします。資格取得後は、各地の病院や学校、福祉、司法の現場など、さまざまな分野で活動することができます。人間に興味があって、人に向き合いたいというアツい想いがある人はどなたでも大歓迎です。総合大学、そして医学部に設置される学科という位置づけを最大限活かして、人にしっかりと向き合える「心のエキスパート」の養成をめざしたいと思います。

医学部心理支援科学科の受験科目は、高校で理系・文系どちらを選択していても受験可能な教科・科目の選択となっています。
詳細は、弘前大学入試課ホームページでご確認ください。

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医学部心理支援科学科 パンフレット