2020年4月、弘前大学大学院に新設される「地域共創科学研究科」(修士課程)。
研究科の特徴や人材育成について、伊藤成治 理事(教育担当)・副学長にお話を伺いました。

地域課題を解決するリーダーを育成するため3年の歳月をかけて検討

― 「地域共創科学研究科」開設の経緯について教えてください

弘前大学は、地域活性化の中核的拠点としての役割を担っており、グローバルな視点を持って地域の課題解決に取り組むリーダーの輩出が求められています。そうしたことから、弘前大学の第3期中期目標・中期計画に、学士課程教育との連続性を意識した大学院教育の計画が盛り込まれました。
2016年7月には、学長はじめ理事5人が集まり、新研究科に関する検討会を開催。同年11月には、私が計画の中心になり具体案を作っていくことになりました。文京町にある大学院の5つの研究科の研究科長たちとも何度も意見交換を行い、その間、文部科学省にも何度も足を運びました。そうして、2019年9月6日に設置を「可」とする通知をいただき、「地域共創科学研究科」が開設されることになりました。

弘前大学のスローガン「世界に発信し、地域と共に創造する」を
具現化した研究科

― 研究科の特徴と理念は?

弘前大学は、「世界に発信し、地域と共に創造する」というスローガンを掲げ、教育研究活動を行ってきました。弘前大学は地域の持続的発展に貢献する大学でありたいという学長のお考えもあり、本研究科が誕生しました。近年、サスティナブルという言葉が脚光を浴びていますが、弘前大学は、もともとこうした取り組みを20年も前から続けてきました。ですので、昨今の時流に乗ってこの研究科をつくったわけではなく、これまで大学が積み重ねてきたものが根を張って、ようやく芽を出したと考えています。

地域共創科学研究科の名称には、大学のスローガンにある「地域」「共」「創」の文字をあてており、まさにこのスローガンを具現化した研究科といって差し支えないでしょう。大学の専門的な知識と、地域社会が持つ実践的な知識を交差させ、新しい価値を共に創造することを「地域共創」と位置づけ、異なる研究分野を持つ学生が知識や知恵を結集して価値を生み出すことを目標にしています。地域社会の未来を切り拓く「フロントランナー」を育成し、さらにそうした卒業生たちが連携することで大きな力を発揮するのではないかと期待しています。

「域学共創」と「文理共創」の2つの理念を掲げています。「域学」は、文字通り地域と大学です。大学院生・大学教員と地域の専門家が互いの「知」を尊重しながら地域の課題解決に取り組むこと。「文理共創」は、文系・理系の高い専門性を持った大学院生たちが協力して問題解決に取り組むことで、新しい価値を生み出すという考え方です。よく「文理融合」という言葉を耳にしますが、これは一人の人間が文系・理系の知識を併せ持つこと。文理共創は、異なる研究分野を持つ人が集まることで、新しい価値をつくりあげることを目標にしています。

弘前大学では、大学1年次の後期に全学部の学生が一緒に地域のことを学ぶ「地域学ゼミナール」や、2年次以降に受ける「学部越境型地域志向科目」*1 があります。カリキュラムを導入して今年で4年目になりますが、インターンシップの受け入れ先の企業やNPOの方々からは、「地域のことを学んだ経験がある学生は、やはり違いますね!」と、大変好評を得ています。新研究科の話が持ち上がった時、私は「これだ!」と思いました。私は、当時のカリキュラムを考えた当の本人なので、学部越境型地域志向科目の専門性を高め、大学院で行うイメージを想定しました。

*1 学部越境型地域志向科目は、カリキュラムの都合上、医学部医学科のみ1年次に履修します。

伊藤成治 理事(教育担当)・副学長
「うまくいけば、10年後に200人くらいの卒業生が出るんですね。さまざまな専門性を持った人がつながることで、今までできなかったことができるチャンスも増えるのではないでしょうか」と、笑顔で語る伊藤成治理事。

専門性を持った学生がコラボすることで生まれる新たな価値

― どんな専攻がありますか?また、異なる研究分野を持つ学生が集まることでどんな研究が可能になるのでしょう?

地域共創科学研究科には、「地域リノベーション専攻」と「産業創成科学専攻」の2つの専攻があります。開設時点では、学士課程において社会学、工学、農学、経営学の専門性を身につけてきた人たちが集まることを前提にしています。

地域が持続的に発展していくためには「攻める」、「守る」という2つの視点が重要です。「地域リノベーション専攻」は、「地域を守る」がキーワード。中心となるのは社会学と工学です。研究テーマの一例として、社会学的視点で見ると、「自然エネルギーの導入による地域経営の自立化」、工学的視点では「産学連携を通じた地域防災の推進」などが挙げられます。

「産業創成科学専攻」では、農学と経営学の視点で「地域から攻める」方法を構想します。研究テーマの一例として「地域の特性に合わせた機能性食品の開発」や、「加工食品の高付加価値を実現するビジネスモデル研究」などが考えられます。農学という専門性と、経営学という専門性を持った学生がコラボするからこそ、より実践的な研究テーマが成立すると思います。

地域共創科学研究科の大きな特徴としては、社会学、工学、農学、経営学の4種類の学位が取得できることです。一般的には1つの研究科に1つの修士号ですが、この研究科は専門性を大切にしているため、4種類の学位取得が実現しました。

地域の実践力を持つ社会人も大歓迎

― どんな人に学んでほしいですか?

2019年10月に第1回目の入学試験を実施し、2020年1月に2回目の入学試験を行う予定です。入試には、多くの留学生の方も来ていただいています。
地域課題を解決するという研究科の特徴から、できれば学生だけではなく、ぜひ社会人の方にも入学してほしいと思っています。地域の専門家やNPOなど、地域の実践力というのはとても大切です。今まで社会の中で積み重ねてきたご苦労やハードルを乗り越えてきた経験は、その方にしか語れないことなので、そういう方が学生として入ってくれると心強いと思います。
会社側から見れば、社員が仕事を離れることで一時的に戦力ダウンにはなりますが、急がば回れという考え方もありますので、その方が学んで帰ってきた時には会社が発展するということを期待して送り出していただきたいと思います。

修了後は、行政、民間、NPO、起業など多彩な分野で活躍するチームリーダーに

― 最後にメッセージをお願いします

「共創」という言葉を定義付けし、実際のカリキュラムに反映させた研究科の新設は、おそらく全国でも新しい取り組みだと思います。新しいコンセプトの研究科なので、専門性を追及していくというよりは、チームを作って課題を解決することに興味がある方に来ていただきたいですね。想定される進路は、行政、民間会社、NPO、起業など非常に幅広いと思います。
人口減少など、ネガティブな面ばかりクローズアップされがちな青森県ですが、三方を海に囲まれ、世界自然遺産白神山地や十和田湖などの豊かな自然があり、そこで育まれる食など青森県には素晴らしいものがたくさんあります。ですので、これまでにない新たな価値を生み出すことのできる可能性もたくさんあると思います。地域課題解決のために、チームの中心になり、未来を切り拓いていけるフロントランナー集団を育成したいと考えています。意欲・行動力があり、粘り強く学べる方をお待ちしています。

地域共創科学研究科 産業創成科学専攻 第1期生 手塚さんと田代さん
新設の地域共創科学研究科 産業創成科学専攻 第1期生となる手塚さん(奥)と田代さん(手前)。​
石塚先生の講義やゼミ活動を通じて、食料・農業問題をもっと学びたいという思いを抱き、新設される大学院への進学を決意。​
大学院では、グローバル化が進む中で、地域の持続的発展に食と農がどのように関わるのかを学びたいと話す。

弘前大学 地域共創科学研究科の設置について