弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第21回は、ねぶた師の竹浪比呂央氏の弟子(研究生)として中学1年生のころからねぶた作りに携わっている 津川 創(つがわ はじめ)さんです。ねぶた作りとの出会いやどんな活動をしているのか、また、将来の展望などについて伺いました。

ねぶた作りとの出会いは小学5年生

ー医学部医学科の志望理由を教えてください。

中学生のとき、父が長い期間入院して、頻繁にお見舞いに行く中で、お医者さんってかっこいいなと素直に思ったのがきっかけです。ただ、そのときはまだ医学部とは決めていなくて、ねぶたの師の竹浪先生が薬剤師として働かれていたことに憧れていたので、医療関係でも薬剤師になりたいと思っていました。高校に入ってから竹浪先生に進路の話をしたときに、自分の可能性の限界を決めないほうがいい、目指せるなら医師を目指したらどうだと言われたことで改めてよく考え、医学部医学科を目指すようになりました。

ーねぶた作りに出会ったきっかけを教えてください。

小さいころからモノを作ったり絵を描いたりするのがすきでした。小学5年生の冬くらいに家の近くに“竹浪比呂央ねぶた研究所”ができて、最初はねぶた好きの友達に誘われて行っていました。もともとねぶた祭には参加していたんですが、研究所に行くようになって“ねぶたができる過程”に興味が出てきて、制作にのめりこんでいくようになりました。

小学生のうちは遊びに行くとなると研究所に行っていたので、竹浪先生は、最初よく来る子どもたちだな程度に思っていたらしいんですけど、それがだんだん本気なんだなと感じたらしく、先生からあれやってみる?これやってみる?と声を掛けてくれるようになりました。

中1から大型ねぶた制作の手伝いをするようになり、高1の春に正式に竹浪先生の弟子(研究生)になりました。

インタビュー中の津川さん
インタビュー中の津川さん

ねぶた期間中市内各地に展示。ミニねぶた制作を手掛ける

ー研究所ではどんな活動をしているのですか?

メインは夏の大型ねぶた制作の手伝いで、その他に年に1回ミニねぶたを制作する枠を、ねぶた師の後継者育成事業の一環で青森市からいただいてます。制作したミニねぶたは他のねぶた師の先生のお弟子さんが制作したものと一緒に、ねぶたの家 ワ・ラッセに1週間くらい展示された後、市内各地に展示されます。

ミニねぶた作りでは、構想、骨組み、書割(墨書き)、ロウ書き、色付けは自分でやります。紙はりと電気配線は、研究所にいる専門のスタッフの方にやってもらいます。基本勉強のために作りたいと思っているので、テーマを決めるときは、例えば水や火の表現とか、龍を作れるようになりたいとか、何を作りたいかから考えて、それが登場する題材は?と組み合わせを考えています。日常的にアンテナを張って、「あ、これねぶたにしたい」という題材を見つけています。今年は、「全国小・中学生ねぶた下絵コンクール」で最優秀賞を受賞した方の下絵をもとに、制作しました。

ー竹浪氏からはどんな指導がありますか?

竹浪先生は制作している最中は基本的に何も言いません。今年は髪の毛がうまくなったねとだけ言われました(笑)他のスタッフの方とか先輩スタッフの方に相談しながら作っています。基本「見て盗む」というのがねぶた師への道というか。見て学んで、自分でやってみて失敗して、次の作品に活かしていくって感じですね。

令和元年度の作品
2019年に制作したミニねぶた『津軽為信 六羽川の戦い』

ねぶたの可能性。造形芸術としてのねぶた

ー研究所ではねぶた作り以外の活動もされているようですが、どんな活動がありますか?

去年は青森市の新町通りのいろいろな店舗に、ねぶたの技法を使った芸術作品を展示するという冬の期間のイベントがあって、成田本店のショーケースが僕の担当でした。その時はロウ書きまでの、色をつけないオブジェを作りました。
ちょうど去年京都造形芸術大学に行ってきたんですが、そこでは色をつけない白い造形ということでねぶたが作られています。竹浪先生が10年くらい前から毎年指導に行かれていて、去年は連れていってもらい、一緒に指導をしてきました。「京造ねぶた」で検索すると画像が出てくると思うんですけど、すごく大きい作品で、紙を重ねて影をつけて奥行き感を出したり、青森のねぶたとはまったく違う発展の仕方をしていて、それがすごい圧巻です。青森とは違うところで、ねぶたがこういう風に発展してるんだというのが衝撃的で勉強になりましたし、京造の先生方がねぶたを芸術作品として扱って、授業に取り入れられていることから、そういう側面もあるんだと、自分の考えを改める機会になりました。

最近では、竹浪先生の指導のもとねぶた制作をしている同世代が3人いるので、ねぶた学研究会を立ち上げました。小学生のときから研究所に通っている友達もメンバーです。これから芸術的にも学術的にもねぶたの価値が高まってくる中で、しっかりねぶたを勉強したくて。定期的に集まって、論文の読み合わせをするなど活動しています。


新町通りでのオブジェの展示
新町通りでのオブジェの展示
京都造形芸術大学での作業の様子
京都造形芸術大学での作業の様子
(出典:竹浪比呂央ねぶた研究所ホームページ

絵画の技法がねぶた制作に活きる

研究所で研究生のための絵の展覧会が開催されていて、そこに毎年出品しています。
高校のときは美術部で、デッサン、油絵、アクリル画と一通りいろいろやりました。
青森高校の美術部の先生も自分の人生に大きく関わっていて、その先生がデッサンや油絵を一から教えてくださいました。最初竹浪先生の影響で日本画を描いていたんですけど、高校では油絵に熱中しました。ねぶたを作っていても、まず竹浪先生がいつも、デッサンができなきゃいけないと言っていて、体のバランスとか、ものを見る力がないといいねぶたは作れないと。最初その意味がわからなかったんですけど、石膏デッサンをしてみたり、油絵をやってみたりする中で、デッサンがねぶたに活かされる感覚がわかるようになってきました。

ー小学生からずっと今までねぶた作りに携わり続けている、原動力はなんだと思いますか?

自分でもよくわからないんですが、何かねぶたが引き寄せるパワーみたいなのがあるんじゃないかと。ときどき行くのが面倒だなってときもあるんですけど、ねぶた小屋にいくと楽しい話をしてくれる人もいっぱいいて、そういう人に囲まれているのって、やっぱり楽しいし、ねぶたを作るのも楽しいしというのが湧き上がってきて、引き寄せられていくっていう、、、それがずっと今まで続いてますね。


「第37回 青森県高等学校総合文化祭 美術部門」で優秀賞を受賞した作品(油絵)
「第37回 青森県高等学校総合文化祭 美術部門」で
優秀賞を受賞した作品(油絵)
平成30年「第十回 五月展」出品作品
平成30年「第十回 五月展」出品作品(日本画)

学業との両立。そのときそのときでやるべきことを

ー大学での勉強や学生生活はどうですか?

新しいことを知れるということが、勉強をするモチベーションになります。1年生のときの「基礎人体科学演習」から始まって、2年生の前期で「解剖学」とか「生理学」、「生化学」をやっていくと、断片的な知識が繋がって、、、感動みたいなものがあって、もっと勉強したくなりますね。
臨床医を目指して勉強していますが、研究にも目を向けられるような医師になりたいと思っています。
考えれば考えるほどいろんな分野に興味が出てきて、どの分野に進むかというのは迷っている最中ですね。
サークルは、漢方医学研究会に入っています。医学科のカリキュラムでは漢方を専門で学ぶ時間は限られているらしいので、基礎的な知識を身に着けておけるかと。

ーねぶた作りと学業の両立というところではどうですか?

去年の京都造形芸術大学での指導のときは、「アーリーエクスポージャー」という病院実習があって、その合間を縫って行ってきました。
今年の前期は本当に忙しくて、大型ねぶたの制作ではねぶた小屋に一度も行けてないんです。でも、竹浪先生が、「今やるべきことにそのときそのときで集中してがんばってほしい。いつでも待ってますから」と声をかけてくれて。両立と言えるのかわからないですけど、ねぶたに比重を置くときと、学業に比重を置くときと、自分の中ではバランスよくできているのかなと感じます。

ーねぶた作りの経験は医師になることに活かされそうですか?

ねぶた小屋って、いろんな世代の人が、仕事が終わってから好きなことをやりに集まってくる、という空間なんです。バックグラウンドも違う人たちなのに、共通の目的で一緒に仕事する経験ができるって、地域の活動のいいところだと思います。医学部だけにいると、関わる人が性質の似通った人になってきます。自分と違う立場や考え方の人と出会ったとき、医師になってからいろんなコメディカルな人とコミュニケーションをとる必要があるとき、この経験は役に立つんじゃないかと思います。

漢方医学研究サークルの集合写真
弘前大学総合文化祭では漢方医学研究会で出店。中国のお茶などを振舞った

新しい役割を担えるねぶた師に

ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。また、将来の展望を教えてください。

高校は最後に受験ってゴールが一つ決められて、受験までは走り続けるというのがすごくきついんですけど、大学に入ると各試験もコマ切れというか、ここまで頑張ろうみたいな波ができてメリハリがあります。幅広く浅くというのが高校時代まで、大学に入ると自分の好きな分野とか、興味のある分野を、知りたいと思えば思うほど徹底的に学ぶことができる環境なので、やりたいことがある人はすごく大学の勉強は楽しいんじゃないかと思います。

僕は将来的には、医師とねぶた師を両立したいと思っています。
ただ、ねぶたを作る人って、地域ねぶたを含めて結構いるんですよね。ねぶた師になりたいって子どももけっこういますし。そんな中で、自分がねぶた師になったときに果たすべき役割ってなんなんだろうと最近すごく考えていて。ねぶたの芸術的な部分の考察とか、世界に向けて発信するとか、そういう役割も担えるねぶた師を目指したいと思います。

シンポジウムにパネラーとして参加
「未来のねぶた師」をテーマに実施されたシンポジウムに登壇
高校1年生のときのクラス展示
高校1年生のときのクラス展示では津川さんが呼びかけねぶたを制作

◇津川さんの活動をもっと詳しく知りたい方は、津川さんが運営するホームページから https://hajimetsugawa.jimdo.com/

Profile

医学部医学科2年
津川 創さん

竹浪比呂央ねぶた研究所研究生 。
青森県青森市出身。青森県立青森高等学校卒業後、弘前大学医学部医学科へ進学。小学生のころから「竹浪比呂央ねぶた研究所」へ通い、研究生としてねぶたやねぶたの技法を使った造形などの制作に励む。漢方医学研究会に所属。