弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第27回は、理工学部自然エネルギー学科を卒業後、大学院地域共創科学研究科へ進学し、風力発電を学ぶ 笹沼 菜々子(ささぬま ななこ)さんです。持続可能な社会の構築に向けて注目される自然エネルギー。日本有数の風況に恵まれた土地、青森県で風力発電の研究をしている笹沼さんに、留学や研究を通して得た経験や、学生生活などについて伺いました。

自然への興味が“自然エネルギー”への興味へ

—弘前大学理工学部自然エネルギー学科の志望理由を教えてください。

物心ついたときからすごく自然に興味があったんです。祖母が青森県の蓬田村に住んでいたので、小さいころはよく遊びに行っていました。それで、海と山と川と、自然と触れ合う機会が多くて、自然を守っていきたいという想いがずっとありました。
そんな中、東日本大震災を契機に、再生可能な「自然エネルギ―」を国内で普及するべきだという話が沸き上がってきているのをテレビや新聞で見て。環境を守りながら、国内のエネルギー自給率を高めたいという想いで、「自然エネルギー」を学べる大学を意識しました。国立大学へ行きたくて、始めは実家から近い関東の大学を見ていましたが、なかなか「自然エネルギー」だけを専門に勉強する学科というのがなく。青森県になじみがあったので、弘前大学のホームページも見てみたところ、私が入学するタイミングで理工学部に“自然エネルギー学科”が創設されるとあって。学びたいものがそこにあると確信して、受験を決めました。

弘前大学大学院地域共創科学研究科
インタビュー中の笹沼さん

語学の強化は1・2年のうちに

—大学1年生から語学学習、留学にも積極的に取り組んでいると聞いています。
 入学前から興味があったのですか?

もともと5教科の中で一番興味があったのが英語で、文理選択のときに、英語を使った仕事を軸に決めることも考えていたんです。ただ、私の中でもう一つ「環境」、「自然エネルギー」というテーマがあり、これは世界で共通する課題の一つだと認識していたので、それを専門に学びかつ英語も強化したほうが、今後日本だけでなく、世界の人と議論していけるのではないかと考え、理系の道を選びました。そのほうが卒業後の選択肢の幅も広がるのではと思いました。

-初めての留学は1年生のとき、教育学部の留学プログラム*1でだったそうですね。

同じ学科の友だちに誘われて、説明会に行ってみたのがきっかけです。
留学中は、学校で英語の勉強をして、帰ったらホームステイ先の家族と英語でコミュニケーションという1日中英語を使わなくちゃいけない環境で、すっごく疲れました。その分現地での学びの濃さを実感して、それが自分にとっての転機です。「留学生と交流したい!」「もっと他の場所に行ってみたい!」と思うようになりました。

次が2年生の夏、8月から9月ですね。「HIROSAKIはやぶさカレッジ*2」の一環で短期留学しました。
語学を強化するなら研究室配属前の1・2年生のうちに大学のプログラムをフル活用しようと思ってました。はやぶさは留学の前後で語学を強化するようなカリキュラムがあって、それを使わない手はないと思いました。
はやぶさでは語学とは別に調べ学習のようなものがあって。私はニュージーランドに行ったんですけど、日本と似た地形を持つ島国ということで、エネルギー構成の違いや、市民の方のエネルギーへの関心などを現地調査しました。

*1弘前大学メイン・プログラム…教育学部が主催する、弘前大学の姉妹校メイン州立メイン大学への短期語学研修。詳細はこちら

*2HIROSAKIはやぶさカレッジ…学部1・2年生を対象とした,国際化が進む社会で活躍できる力を育成するための1年6月の教育プログラム。カレッジ2年次の夏休み期間に英語圏又はアジア圏への短期留学を必修原則。詳細はこちら(弘前大学国際連携本部ホームページ)

-3年次には全国学生英語プレゼンテーションコンテストに参加していますね

他学部の友人2人と参加しました。語学に自信はついてきていましたが、英語のプレゼンってただ英語で発表するだけじゃないんですよね。日本語でもおもしろいって思ってもらえる内容じゃないと意味がなくて。準備を始めてみるとイメージしていたより相当の努力が必要でした。言葉やしぐさで表現できるように、練習を重ねました。
最終予選まで進んで、東京の大ホールでたくさんの人の前でプレゼンができたことは、いい経験になりました。

弘前大学大学院地域共創科学研究科
全国学生英語プレゼンテーションコンテストでは奨励賞を受賞(©神田外語グループ)関連記事はこちらから

「環境」「語学」への興味が交差、風力発電の研究へ

—3年ではいよいよ研究室配属ですね。研究室はどう決めたのですか?

夏休み前に、毎週1回自然エネルギー学科の先生方が研究内容を紹介する授業があります。最初は他の分野に興味があったんですが、その授業で本田明弘先生の研究の内容を聞いて、これから風力発電が国内でどんどん伸びていくこと、青森県は国内でも風が強い地域で、陸、さらには海上にも、風力発電が発展していくことを知り、地域に根差したエネルギーの勉強ができることに魅力を感じました。
世界的にみるとヨーロッパのほうが風力発電が盛んだとも聞き、今まで力を入れてきた語学も活かせると思いました。

—風力の勉強を始めてみてどうでしたか

風車を見たことはありましたが、根本的な構造はまったく知りませんでした。教科書を読み進めると、風力を効率よくエネルギーに転換する装置、羽の後ろの制御システムとか…単純な話じゃないんだなという感想を持ちました。
いざ研究が始まってみると、実家の千葉や東京でも、いたるところに小さい風車があって、意外と身近な存在なんだなと思ったことも覚えています。

弘前大学大学院地域共創科学研究科
3年生の後期からずっと使っている教科書。今も手放せない

—研究室配属後も精力的に留学していると聞いています。

3年のときはハワイへの短期留学が組み込まれた講義を履修しました。初めて「風力」をテーマにしてみた留学です。
ホームステイ先の方が現地のウインドファームに連れて行ってくれて、牛がたくさんいる大自然の中に風車が何機も建っている、日本では考えられない光景を見ることができました。

—4年次にはオランダのサマースクールに参加したそうですね。

エネルギーがテーマの留学ということで夢のようで、3年のときも応募しましたがだめだったんですね。4年生になってもう一度チャンスが巡ってきました。
サマースクールに参加して、日本よりずっと早い時期から風力発電の技術開発を進めているオランダへ行って、まだまだ日本が遅れていることを痛感しました。人という意味でも、みなさんチャレンジ精神が旺盛で、キラキラ輝いていたんですね。すごく明るい未来を描きながら働いているんだなという印象を持ちました。学校で授業も受けて、模型を使いながら、風車の配置や角度による発電量を測ってみたり、実際に手を使っていろいろ試しました。そこの先生方はみなさん風車の専門家なんですが、学問として扱うだけでなく、実際に技術者として現場に携わられている方々で。学問と現場の往復という学びかたに関してもすごく刺激を受けました。

弘前大学大学院地域共創科学研究科
サマースクール参加メンバーの集合写真とオランダの運河の写真

さらに専門を追究、地域共創科学研究科へ進学

—大学院への進学を決めた理由を教えてください。

3年のときは進学と就職どちらも考えていました。研究を進めていくなかで、学部ではまだまだ学び足りないなというのが見えてきて、4年生の春に進学を決めました。地域共創科学研究科は私が大学院にあがるときにできた新しい研究科だったので、学部も大学院も一期生という変遷のタイミングにあたりました。
大学院に進むとやっぱり研究がメインになるので、地域戦略研究所(新エネルギー研究部門)の実験施設がある青森市への引越しを決めました。

今研究所にはエネルギー関連の研究をテーマとしている学生がたくさんいて、ほとんどが中国、タイ、インドネシアの人たちです。日本人がいないんですよ。コロナ禍で、留学は無理だと思ってたので、そこで国際交流ができて私としてはすごく嬉しいです。私は英語で会話しますが、研究所では中国語やタイ語、いろんな言語が飛び交っています(笑)学部の時は英語圏の人との交流が多かったんですけど、大学院進学を機にすごく中国の友達が増えて、今は中国語も勉強しています。

—現在取り組んでいる研究について教えてください。

今は青森県内にある風車のデータを使って検証をしています。例えば風車が2機、前後で並んでいたとすると、風が正面からきたときに1機目の風車が回って、その影響で後ろに送られる風は乱れるんですよね。それが2機目にあたってくるので、この2機目にせっかく風がきているのに、エネルギーを効率良く活用できないという状況が発生します。そういった環境にある風車が青森県にあるんです。それがこれから問題になっていくので、この2つの風車に着目して、どれだけ後ろの風車が影響を受けているのかというのを、データを使いながらシミュレーションして可視化する研究を行っています。
これらは陸の場合なんですけど、海上の場合もこれから同じことが起こります。たくさん密集した状態で建っていたらいいというわけではなく、ある程度距離間が必要です。どのくらい距離を保って風車を置けばいいか、風車の配置の仕方に貢献できればと思っています。

—青森で研究できてよかった点はありますか?

青森県は国内でも特に風が強いということで、風力発電がいくつもあって、車で数時間で現場に行けます。それに、今青森の港に行くと、風車の柱の部分、“タワー”っていうんですけど、それが積まれてるんですよ。今海外から水揚げされて、これから新しい風車が建つんですけど、そういうところも生で見られているのがすごく貴重な経験だと思っていて。部品だけとか、建設中みたいな過程をリアルタイムで見られて、そこに携われるというのはすごくうれしいです。


弘前大学大学院地域共創科学研究科
研究室のメンバーと行った下北への現地調査

—今後の展望を教えてください。

やっぱり今まで勉強してきた再生可能エネルギーの普及に貢献したいというのはあるんですけど、その一方で、ただ増やせばいいという問題ではないというところもあります。つがる市のウインドファームでは、風車が回っている麓で畑作業されている人がいて、一見すると生活、風景に溶け込んでいるようには見えますけど、よく考えると数年前まで何もないところで畑作業をしていたところに大きな風車が建設されてるんですよね。そこに住んでいる人たちのことを考えて、理解をしてもらったうえでのプロジェクト、そういった仕事ができたらいいなと思っています。地域の人の気持ちを汲んだうえでの再エネの普及に貢献したいです。

弘前大学大学院地域共創科学研究科
つがる市の畑の中に建つ風車

季節のサイクルに関われる、弘大囃子組の活動

—学生生活についてもお伺いします。
 笹沼さんは弘大囃子組で活動していたそうですね。

小さい頃に青森のねぶたを見て、お囃子や太鼓のドンドン!ってくる響きがすごくいいなって、じゃわめいたんですよ(笑)入学が決まり、青森に来る前から囃子組に入ると決めていました。
活動では、弘前市の他にもつがる市や鶴田町、いろいろ津軽地方の老人ホームや幼稚園に演奏しにいく機会もありました。

—囃子の活動を続けるモチベーションを教えてください。

お祭りに参加するっていうのは、まさに地域のことを理解するいい機会です。
最近弘前大学のポスターで「学ぶ街は、暮らす街でもある。」という言葉を見て、すごく共感しました。囃子組の活動でいろいろな地域に関わって、大学時代を過ごした弘前、青森のいいところを、卒業してからも伝えていけると思います。
地域の人たちはねぷたとなると顔ががらっと変わるんですよね。岩木山を見ていても、雪がどんどん溶けて夏に近づいてるだとか、イベントやまわりの変化で季節が巡っていることを感じて、それが生活の一部みたいな感じがあります。1年間の“この時期のこと”というのがすごく多いですよね、青森って。私は春夏秋冬っていうサイクルがすきなんだと思います。自然がすきっていうのと結びつくんですけど。季節のトピックに関われるという意味でも、囃子組はいいですね。


弘前大学大学院地域共創科学研究科
平成30年の弘前大学総合文化祭での演奏。多くの観衆が集まる
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深浦の千畳敷を背景に演奏する笹沼さん

大学生活を過ごす場所、だんだん居心地がよくなるはず!

ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。

弘前大学は本当に地域に根差した活動ができる場所で、誰にとってもすごく楽しめるところだと思います。特に“人”というところで、弘前大学はキャンパスが他の国立大学と比べて小規模で、それが人と人とを結びつけるような距離感だと思うんですね。私も、学部学科を超えた友人がたくさんできました。ちょうどいい規模感なんです。
あと、入学したてのときに「青森何もないじゃん」っていう人はいるんですよ。でも学部の卒業式では、「最初は何もないと思ってたけど、離れるのがすごく寂しい」って言ってました。そういう風に思わせる魅力…岩木山、りんごや田んぼ、人、ひとつひとつのものが学生生活の一部になって、学ぶ意欲をかきたてるんだなと思います。ずっとがちゃがちゃうるさいと、一人で考える時間もなくなってしまうと思いますが、ここの場所は空気感も季節もすべてが自分と向き合える充実した時間を作ってくれます。卒業して思い返したときに、“私の癒しのスポット”みたいな場所が必ずあると思うんですよ。だんだん居心地のいい場所になるはずです。

なかなか自然エネルギーに特化した大学の数は少ないです。でも今後のエネルギー社会を作っていくにあたって自然エネルギー・再生可能エネルギーを専門に学んだ人材は必ず必要ですし、今国内外で若い人材が必要だと言われています。国内外のエネルギー分野で活躍したい人には弘前大学はすごくいい環境だと思います。

弘前大学大学院地域共創科学研究科

思い出の品々…

風車の模型は、学部卒業のタイミングで本田先生が第一期生のゼミ生にプレゼントしてくれたもの。後輩からとても羨ましがられるそう。
カラフルな民芸品は学部4年でメキシコに短期留学したときに購入したもの。海外に行ったときには必ず現地のお土産品のマグネットとポストカードを買うことにしている。

弘前大学地域共創科学研究科
弘前大学大学院地域共創科学研究科

Profile

地域共創科学研究科2年
(理工学部自然エネルギー学科卒)
笹沼菜々子さん

大学院で風力発電を研究 。
千葉県柏市出身。千葉県立柏高等学校卒業後、弘前大学理工学部自然エネルギー学科に入学。弘大囃子組で津軽地方各地のお祭りやイベントで演奏するなど活動し、2年次後期から1年間副代表を務める。弘前大学地域戦略研究所 本田明弘教授の風力・海洋エネルギー研究室に所属。2020年には当時新設された地域共創科学研究科(修士課程)へ進学。風力発電を専門に研究を続けている。一方で、学部1年次から語学学習にも取り組み、数回の留学を経験、学生英語スピーチコンテスト、SDGsをテーマとしたプレゼンテーションコンテスト「World’s Challenge Challenge Global Final in 2021」に出場するなど、精力的に活動している。