卒業生の活躍をご紹介する『卒業生インタビュー』、第8回に登場するのは大学院での昆虫のスケッチをきっかけにイラストレーターの道へ進み、様々な媒体へイラストを提供している 横山 拓彦(よこやま たくひこ)さんです。
現在の仕事の内容や、大学時代の印象に残っている出来事、今後の展望などを伺いました。

博士号授与式後のパーティーでイラストレーターになることを宣言

ー現在の仕事内容について教えてください。

大学院時代に研修生としてお世話になっていた、茨城県つくば市の旧・農業生物資源研究所(現在は農研機構)にて実験補助のアルバイトをしながらイラストレーターとしての活動を始めました。
その後シェアオフィス「いばらきクリエイターズハウス」の一室をアトリエとして借りて、4年間そこで創作活動を行い、クリエイターズハウス終了後、現在は自宅で作業をしています。児童書や参考書、一般図書、学術書のほか、様々な媒体へイラストを提供しています。

2015年には「奇跡のリンゴ」で有名な木村秋則さん著、弘前大学農学生命科学部の杉山修一教授監修の『わたしの畑の小さな世界―「奇跡のリンゴ園」の宝もの』という書籍で、イラストを担当しました。岩手大学連合大学院農学研究科(弘前大学も構成大学)の博士号授与式後のパーティーで、一人ひとり壇上で挨拶し今後の進路について話す事になったのですが、その場所でイラストレーターとして活動すると宣言したのを杉山先生が聞かれていて、後に本書の企画の段階で紹介していただきました。


わたしの畑の小さな世界表紙
「わたしの畑の小さな世界」エスプレス・メディア出版.2015.絶版(弘前大学附属図書館蔵)
マメコバチのページ
リンゴの花粉を運ぶマメコバチなど、木村秋則さんの
「奇跡のリンゴ園」に生息する生き物をイラストで紹介

昆虫のイラスト
昆虫を詳細に、魅力的に描く

科学をわかりやすく魅力的に伝える“サイエンスビジュアリゼーション”

ー仕事をしていて楽しさややりがいを感じるのはどんなときですか?

イラストの描き始めの時にはイメージの曖昧だったものが、描いているうちに段々とはっきりしてくる時はとても楽しいです。また、昨日まで存在していなかったものが今日存在していると思うと、モノづくりをしているという実感が湧きます。

ー今後どのように働いていきたいですか?

大学院時代はつくば市の研究所で研修生として研究活動をしていましたが、そこで感じた事は、現在の生物学は発展がめざましい反面、専門性がどんどん高くなっており、研究内容を専門外の人々へ伝えるのが非常に困難になってきているという事でした。つくば市は研究学園都市と言う名の通り、研究所があちこちにありますが、その中で何をしているのかというのは一般の方々には伝わりづらいのが現状です。海外では研究の内容をイラストで視覚化してわかりやすく伝えるサイエンスビジュアリゼーションという分野が発達していますが、日本は遅れを取っています。そこで、日本のサイエンスビジュアリゼーションの発展に貢献するため、大学で学んだ生物の専門知識を活かして学術書や参考書のイラストも手掛け、学問分野と芸術分野の架け橋として貢献できればと思います。
また、絵本のストーリーをいくつか考えているので、いつか文と絵両方で絵本を出版したいと思います。

企業に提供したイラスト
”導波モード技術”の説明で用いられているイラスト。仕組みをイラストでわかりやすく伝える。

昆虫学ゼミに所属。ひたすら昆虫採集する日々

ー学生時代について教えてください。大学生活で印象に残っていることはありますか?

ゼミに所属してからは土日も関係なくずっとゼミ室に入り浸っていました。今思えばその時期が一番楽しかったと思います。

昆虫学のゼミに所属してはじめの一年は、あらゆる種類の昆虫を採集して標本を作製しました。それを通じて、昆虫の全体的な分類の知識が身に付きました。そこで印象に残ったことは、危険な虫とそうでない虫の区別、また、危険な虫の扱い方が分かるようになり、昆虫に対する恐怖感が殆ど無くなったことです。自分自身、昆虫が大の苦手だった時期がありましたが、それは知識がなく、正体が分からなかったから怖かったのであり、逆を言うと知識が恐怖を取り除くのだと思い知らされました。

大学院時代の写真
大学院のときに撮影。教員、ゼミの仲間と(横山さんは後列右から3番目)。

研究のために始めたスケッチ

ー今の仕事を始めた経緯を教えてください。

大学院ではカイコを用いて遺伝子の研究をしていました。機能が知られていない遺伝子を操作することにより、カイコの表現型にどのような影響が現れるかを観察します。そこで、どのような小さな形態の変化にも気づく観察力が要求されました。そこで、その形態観察力を養う目的で昆虫のスケッチを始めました。ところが研究よりもそちらの方をこじらせてしまい、大学院修了後にイラストレーターになると決意しました。今思えばとんでもなく無謀なことをしたなぁ~と思います。

専門分野への理解が強い武器に

ー弘前大学での学びや経験が、社会人になって活かされていると感じるのはどんなときですか?

大学では生物学を学びましたが、今はイラストレーターをしております。全く違う道のように見えますが、大学で学んだ生物の専門知識は現在、生物のイラストを描く上でとても役に立っています。生物に限らず何らかの専門分野への理解があるという事はイラストレーターにとってとても強い武器になるのだと実感しています。

絵本『おしりのあな うみへいく』(岩崎書店).2018(文・工藤光子 絵・横山拓彦 ) 掲載イラスト

同じ趣味の人に出会える大学。楽しい大学生活を!

ー弘大生やこれから大学を目指す受験生へメッセージをお願いします。

就職に関しては私のケースは稀だとは思いますが、少しでも参考になれれば幸いです。
中学・高校時代から変な生き物やその飼育が好きでしたが、そんな趣味の合う人は周りに殆どいませんでした。そんな趣味だったので自然と生物関係を選び、大学の農学生命科学部に入学しましたが、そこには同じ趣味を持つ人がたくさんいて、とても楽しい思い出がたくさん出来ました。共感者の少ない変わった趣味を持っていても、大学ではそういう人が集まってきますので、ぜひ楽しい大学生活を思い描いて受験勉強に励んでください!

茨城新聞優秀広告賞を受賞した作品

お知らせ

この度、偕成社より新しく絵本を出しました。

『食虫植物のわな』(文・木谷美咲、絵・横山拓彦)

制作にあたって何度も壁にぶつかり、完成までに3年もかかりましたが、
とても重厚な内容で何度でも楽しめるつくりにしております。

書店でお見かけの際は、ぜひお手にとってみてください。

◇偕成社ホームページで紹介されています。
 https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784034378601

食虫植物のわな表紙

Profile

イラストレーター
横山 拓彦さん

弘前大学農学生命科学部生物生産科学科卒 。
青森県青森市出身。青森県立青森東高等学校卒業後、弘前大学農学生命科学部生物生産科学科に進学。弘前大学農学生命科学研究科(修士課程)修了後は岩手連合農学研究科(博士課程)へ進学。学部時代は城田安幸教授(現名誉教授)、大学院時代は比留間潔教授(現客員研究員)の昆虫学ゼミに所属。農学博士。2013年3月、大学院修了後、茨城県つくば市の農研機構にて実験補助のアルバイトをしながらイラストレーターとしての活動を始める。児童書や参考書、一般図書、学術書のほか、様々な媒体へイラストを提供。茨城新聞優秀広告賞を2度受賞。イラストを担当した著書に『むしくいノート』(文・ムシモアゼルギリコ/カンゼン)、『おどろきの植物 不可思議プランツ図鑑』(文・木谷美咲/誠文堂新光社)、『わたしの畑の小さな世界』(文・木村秋則/エスプレス・メディア出版)、『おしりのあな うみへいく』(文・工藤光子/岩崎書店)、『食虫植物のわな』(文・木谷美咲/偕成社)など。