弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第26回は、2020年9月に開催された日本医療検査科学会で優秀演題賞を受賞した宮崎 舞咲(みやざき まえ)さんです。学会発表、卒業研究として取り組んだ、白血球細胞自動分類のための人工知能(以下AI)モデル構築。研究の経緯や研究室で学んだこと、学生生活などについて伺いました。

病気の早期発見で、人を救いたい

—弘前大学医学部保健学科検査技術科学専攻の志望理由を教えてください。

臨床検査技師を目指していて、資格をとれる地元から一番近い国公立大学の弘前大学を志望していました。
中学生のときにニュースでよく、若くして癌になった人、子どもを残して亡くなってしまった人の悲しい話を目にしていて、癌を前に人はなんて無力なんだろうとずっと感じていました。そういった人たちを救いたいと思ったときに、“早期発見”が大事だと知って。一次予防、二次予防に携われる仕事、ということで臨床検査技師になりたいと考えるようになりました。

弘前大学医学部保健学科
インタビュー中の宮崎さん

コロナ禍で学んだ問題にアプローチしていく姿勢

—今の研究室を選んだ理由を教えてください。

卒業研究をする研究室を決めるとき、研究したい内容の研究室に行く人もいれば、先生で決める人もいます。私はどちらかといえば先生で決めたタイプです。野坂先生の講義は考えさせられる内容が多くて、臨床に一度出ている先生なので、臨床の話もしてくださって興味深くて、この先生のもとで研究したいと思って選びました。
研究室配属は4年生の4月ですが、私たちの研究室はちょっと早く2月から活動していて、研究以外のこともやっていました。消毒液を作ったり、フェイスシールドを作ったり。まだ青森では新型コロナウイルス感染症の感染者が出ていなくて、東京の方で増えだしたくらいの時に、野坂先生が「これから多分無くなるから作ろう」と。しばらくして本当に無くなりましたよね。事前に予測して限られた資源や環境の中で、準備を始めてしまえることがすごいと思っていました。問題解決に対する対応力を目の当たりにして、指示を待つだけではいけないんだなと強く感じました。

弘前大学医学部保健学科
作った消毒液は保健学科の講義棟の各所に。保湿剤も配合して手にやさしい。

—研究を始めることになった経緯を教えてください。

AIを使った白血球の分類は、研究室の先輩方が先行研究を行っていて、私たちが引き継いだ形です。医療の分野でAIはまだあまり浸透しておらず、ここ2・3年で注目されてきています。
この研究は私ともうひとり、同じ研究室の原子穂乃花さんで進めていて、私がまず基本的な白血球の分類の基礎的な検討をする、原子さんがさらにその精度をあげるための検討を行う、という計画でスタートしました。

医療分野におけるAIの可能性

—具体的にはどんなことをしていたのですか?

白血球の中にはそれぞれの役割をもった細胞、「好塩基球」「好酸球」「リンパ球」「単球」「桿状(かんじょう)核好中球」「分節核好中球」があって、「リンパ球が増えたらウイルス感染」「好酸球が増えたらアレルギーの可能性がある」といった病態がわかります。白血球の分類をだいたいどこの病院でもやっていて、従来の技術では大きな機械が必要です。また、AIもそうですが、100%の正解率ではないんですね。AIの技術で分類をすることの利点は、まず、大きな機械が必要ではないという点です。普通のパソコン、ソフトウェアがあればできるので、小さい病院でも一度分類を覚えさせたAIがあれば、その技術を使うことができます。費用も安くなると思われます。小さい機械でよくなると、在宅医療でも活用できる可能性があります。
また、分類をしていくとグレーゾーンのものが結構多くて、今の機械では分類できないものもあります。画像認識というと、人間は例えば「赤くてこのぐらいの大きさのものはりんごだよ」という風に特徴を説明して教えますよね。AIでは写真を取り込んで、「これはりんごだよ」としか教えないんです。そのものの潜在的な特徴を、AIが自分で見つけ出して分類していくっていう技術なんですね。なので、人間が今まで気づかなかった特徴にまでもAIが気付いて、さらに高精度な分類ができるのではないかということも、最近注目されているポイントの一つです。

—実験の行程を教えてください。

まず血液をプレパラートに塗抹(とまつ)して染色、顕微鏡カメラで白血球の写真を撮ってデータベースを作ります。1人から200個くらいの細胞を70人分程度撮影しました。

その写真を、9月の学会へ向けては先ほど説明した6分類、その後の卒業研究へ向けては、「リンパ球」をさらに大きさで2つに分けた7分類に分類。AIに「これは好酸球だよ」「これは好塩基球だよ」と教えて覚えさせて、テスト用の画像を使って「これは何?」と聞き、その正解率を検証していました。覚えさせる条件もいろいろ変えて、拡大・縮小してみたり、人の顔の写真なんかと違って細胞には上下がないので、逆さにしてみたり、さらに5倍くらいの量に数を増幅させて検証しました。


弘前大学医学部保健学科

「リンパ球」についてもう少し詳しく説明すると、リンパ球は大きさや見た目が違っていて、ウイルス感染をした時に増えるリンパ球は「反応性リンパ球」といって、ちょっと悪質な形をしてるんですね。卒業研究で7分類に分類したのは、「反応性リンパ球」を見つけるためです。

6分類では正解率は85%、7分類では79.5%という結果になりました。

6分類の研究結果の発表で、2020年9月24日から26日に開催された日本医療検査科学会第52回大会で優秀演題賞をいただきました。


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学会受賞時の賞状と盾を持って記念撮影。宮崎さん(左)、原子さん(右)

精度を上げるには?2人の研究で見えてきた可能性

—AIに覚えさせる量を増やすと精度は上がるのでしょうか?

それがそういうわけではなさそうで、それこそ原子さんが検証していましたが、画像数を増やすよりは、グレーゾーンのものをもう一度学習しなおさせるという“フィードバック方式”にしたほうが精度が上がりそうだという結果になっています。病院でも、患者さんの珍しい症例の画像が得られた時に、その都度AIに覚えさせていけば、どんどん精度が上がっていくのではないかと推測されます。

7分類ではリンパ球を大小で分けたと言いましたが、どうしても“中間”があるんですよね。その中間に入ってくるものが反応性のリンパ球の可能性が高いという結論に、野坂先生との考察で至りました。中間、いわゆるグレーゾーンのものの判定は難しいのではないかと私は思っていたんですが、原子さんの研究からその学習し直しが精度の向上につながりそうだということが見えてきて、2人の研究で相互に補完できる部分があったことはおもしろかったです。

私は卒業後、県外の病院への就職が決まっています。ですので、この先の研究は研究室に預けていくことになります。

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ハロウィンにはジャック・オ・ランタン、クリスマスにはツリーを飾り、
研究室ではイベントも楽しんだ。指導教員の野坂講師(中央)と宮崎さん(左)、原子さん(右)

患者さんに寄り添う、「ひまわりサークル」での活動

ー研究以外のこともお伺いします。
3年次に「ひまわりサークル」の代表を務めていたそうですが、どんなサークルなのでしょうか?

主に弘前大学医学部附属病院の小児科に入院している子どもたちと交流するサークルです。
臨床検査技師は医療従事者の中でも患者さんと接する機会が少ない職種なので、学生のうちに患者さんの近くで、気持ちに寄り添えるような活動をしたいと思っていました。
50~60人くらいメンバーがいて、小児科のプレイルームで毎週代わる代わる活動しています。

ー思い出に残っているエピソードはありますか?

毎週遊びに来てくれるお子さんがいて嬉しかったんですけど、長期で入院していると、やっぱりいつもの遊びには飽きちゃうんですよね。つれない時期がありまして、どうしたらいいか悩みました。そこで、メンバーとも相談して、看護師長さんに衛生面などの確認をして、新しい遊びを取り入れてみました。絵の具とか、部屋の中でも砂遊びができる汚れない砂とか。それはその子たちもすごく食いついてくれました。印象に残っている思い出です。

サークルは看護学専攻の学生が多かったので、子どもたちが付けて歩いている点滴のチューブが椅子に踏まれないように、とか、看護師としての視点が新鮮でした。弘大の保健学科は5専攻ありますが、チーム医療の雰囲気を感じることや意見交換の機会はサークル内が一番多かったような気がします。

弘前大学医学部保健学科
弘大祭で出店を出した際の記念写真。玉こんにゃくと揚げたこ焼きが毎年人気。

大学は自由に選択できる場所。限られた時間を、主体的に、有意義に。

ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。

まわりに合わせて授業を受けるとか、コロナ禍でマスクを買えない、トイレットペーパーを買えないから店員さんを責めるとか、受け身の姿勢でなく、信頼性を自分で見極める力、問題をどう解決するかという判断力を身につけていってほしいと思います。保健学科はみんな国家試験に向けて勉強するので、専門科目の時間割はほぼ決まっているんですね。そのなかでも受け身にならずに、自分で考えて動くことが大事なんだなというのを、4年次で研究室に入ってからすごく感じました。これから私も身につけられるように頑張りたいですし、早いうちから意識して過ごしてほしいなと思います。

大学のいいところは授業や課外活動が自由に選択できるところだと思いますが、その分与えられた時間の中でどう過ごすかというのがすごく大きな差になると思うんですね。特に医学部は国家資格を取得するために入学してくると思いますが、資格の勉強だけではなくて、いろんなことにチャレンジする期間にしてほしいです。

弘前大学医学部保健学科

Profile

医学部保健学科検査技術科学専攻4年
宮崎舞咲さん

日本医療検査科学会第52回大会 優秀演題賞受賞 。
青森県つがる市出身。青森県立弘前高等学校卒業後、弘前大学医学部保健学科検査技術科学専攻に入学。弘前大学医学部附属病院に入院している子どもたちと交流するボランティアサークル「ひまわりサークル」で活動し、3年次には代表を務める。医用工学/医療情報工学を専門とする野坂大喜講師の研究室に所属。2020年9月の日本医療検査科学会第52回大会で優秀演題賞(テーマ「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた末梢血白血球分類スクリーニングAIモデルの構築と検証」)を受賞。卒業研究では「人工知能による白血球7分類モデルの基礎的研究と評価」に取り組んだ。