2021(令和3)年5月に弘前大学附属図書館に「アカデミック・コモンズ」が誕生しました。
前編では、「アカデミック・コモンズ」にどんな機能があるのか、ご紹介しました。
(まだご覧になっていない方は☆こちら☆から)
後編では、リニューアルに携わった図書館職員のみなさんに、どんな経緯でリニューアルが始まったのか?どんな風に活用していってほしいのか?「アカデミック・コモンズ」にかける想いを伺いました!
今回お話してくれた図書館職員のみなさん
管理部門を担当。総務的な位置づけ。ふだんは図書館宛で学内外から届くさまざまな依頼などを受け付け、各担当と調整を行っている。
☆おすすめの本は『写真集 弘前界隈』(今泉忠淳、弘前大学出版会、2005年)
弘前のあちらこちらがモノクロフィルムで撮影された写真集です。いまはもう見ることのできない風景も掲載されており、郷愁を感じさせる一冊です。
カウンター業務を担当。本の貸出・返却や図書館ガイダンスなどを行っている。
☆おすすめの本は『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ、文藝春秋、2018年)
映画化もされた話題の小説。一息つきたい時にサクッと読める一冊です。瀬尾さんの著書は、ほわっと優しい雰囲気で、心が温まります。
雑誌業務を担当。電子ジャーナルやデータベースの契約がメイン。図書館の広報委員も担当している。
☆おすすめの本は『10のキーワードで味わう「論語」』(安田登、春秋社、2010年)
『論語』は難しいイメージがあるかもしれませんが、この本は、悩んだ時・迷った時・苦しい時の「心」の使い方を丁寧に教えてくれ、私たちに寄り添ってくれる一冊です。
雑誌棟の改修の経緯
―思いきったリニューアルでしたが、どのような経緯があったのでしょう?
齋藤さん:「施設キャラバン」というのがあって、施設環境部が各部署を回って、困っていることや要望を毎年聞いてくれていたんですね。本館は2014(平成26)年に改修していますけれど、雑誌棟には手をつけられていなくて。集密書架のある場所に空調がなく、湿気を防げなくて非常に困っているという話をしたことがありまして、それがきっかけだったかな?
長谷川さん:建築から40年近く経って老朽化していて、書庫なのに保管に適していない環境になってしまっていました。
齋藤さん:2018(平成30)年に一度案を出すも採択されず、翌2019(令和元)年に内容を再検討してもう一度チャレンジして、着手できることになりました。
長谷川さん:改修にあたっては「環境整備」と「機能改善」が柱だったと思います。
須田さん:本館にアクティブ・ラーニングスペースがありますが、サークルや授業での利用がすごいんですよね。そこだけでは手狭になってきていて、さらに新たな機能を盛り込んだアクティブ・ラーニングスペースを設けたいというのが、機能改善の部分ですね。
リニューアルで利用者の希望を叶えられるように!
―改修の構想はどのくらいの時間をかけたのですか?
長谷川さん:時間はあまりなかったですよね?夢の図書館を作りたいというところからアイデアを出していきました。
須田さん:私たちは図書館関係の研修で他大学へ行くことが多いので、あの大学のここがよかった!とか、何年分も蓄積がありました。
齋藤さん:最初は和室風な小上がりだったり、シアタースペースは階段フロアにしてみたいとか、そういうアイデアもありました。
須田さん:他大学の視察や、書籍、文献で、大学図書館はこういう機能があればもっと良くなるという情報を収集しながら、とりあえずまずは予算度外視で詰め込んだドリームプランでしたね。
長谷川さん:進むにつれてやっぱり予算だったり、“大学”としてはこれはできない、ということだったりが出てきて…
齋藤さん:現実と夢とのバランスを取りながら進んできました(笑)
長谷川さん:書庫だった部分なので、もともとあった本をどこに移すのかという課題もありました。最終的には書庫を半分残す形になりました。
須田さん:2019年から毎年度実施している利用者アンケートや、日頃寄せられるご意見として、ちょっとした会話ができる場所がほしい、飲食できる場所がほしい、反対側(教育学部棟側)から入りたいとか、いろんな要望もありました。
どれかひとつでも、できることなら全部叶えてあげたい!という気持ちで進めていきました。
―いろいろなアイデアが出るなかで、特に優先した機能は何だったんですか?
齋藤さん:考え方のベースには、大学図書館の機能強化と革新を目的として、国立大学図書館協議会で策定した「国立大学図書館協会ビジョン」というものがあって、その全国の大学図書館が目指していくべきビジョンに近づけられるように、というのがまずあります。
弘前大学では、図書館をほとんど利用したことがない、そのまま卒業しちゃう学生も割といるという状況なので、図書館にあまり来たことがない人も入りやすいような雰囲気を作りたいと思っていたんですね。みんな静かに勉強するような場所だけではちょっと違うのかなと。少し音があって、情報も得られてというような場所を作りたくて、海外ニュースを放映しようという話は最初からありました。
須田さん:「知の交錯する場所」というコンセプトは、当初から決まっていました。
図書館に来た人が偶然流れていたニュースを見たり、オープンに実施しているイベントに参加してみておもしろかっただとか…そういう偶然の情報との出会いから新たに自分でも調べて、それを共有して発信する、という「知の共有・発信」が生まれるような場にするということは大事にしましたね。
交流が生まれやすい、開けた広いスペースにしたいという思いもあったんですけど、耐震壁なので壁が抜けないとか、建物の構造上の制限もありました。それなら抜けない壁を書架にして、コンセプトを持った本を並べたスペースにしようと。
長谷川さん:それに、“飲食できる場”というのは要望もとても多くて、必須でしたね。
須田さん:ひとつずつのエリアが最初の想定よりは狭くなりましたが、盛り込みたかった機能は結局ひとつも落としていないです。コンパクトにいろんな機能を持ったスペースになったんじゃないかと思います。
齋藤さん:グローバル・スクエアなんかは当初の想定より狭くなったからこそ、近くに外国語の多読用の書籍やDVD・音声教材も置くことができて、機能がギュッとつまった場所になりました。
遂にアカデミック・コモンズが完成!
―完成したアカデミック・コモンズを見てどう思いましたか?
須田さん:やっとできたぁっ!という安堵と、同時に早く学生さんたちの反応を見たい、と思いました。
学生さんだと、夜間アルバイトと図書館サポーターの学生が研修の一環で最初に入ったんですよ、3月に。その時に「どうだった?」と聞いたら、「かっこよすぎて…」「ちょっと気後れします(笑)」と言ってくれて、それを聞いたときは心の中でガッツポーズをしました(笑)
長谷川さん:リニューアルオープンのセレモニーが、新型コロナの影響で延期、結局中止になってしまって、静かにオープンしたんですよ。なので一般の学生さんたちは「ん?なんだここ?」って感じで…。
須田さん:最初のうちは入り口からおっかなびっくりキョロキョロという感じで覗き、見回して何もせずに帰っていくという…。「遠慮せずに入っていいんだよ…!」と思いながら見ていました(笑)
新しい空間を喜んで使ってくれているのを見ると作ってよかったなと実感しますね。今まであまり来たことのない学生さんも好きな場所ができて来ていたり、毎日来てる学生さんもいたりします。
長谷川さん:くつろぎすぎな学生さんもいますよね(笑)
須田さん:リーディング・ルームはやっぱり、気持ちいいみたいで…(笑)「ここが好き」って言ってくれる学生さんが多いですね。家っぽいのがいいって。
閲覧席で読書をすると、勉強しに来る他の学生を邪魔しちゃうんじゃないかって、気を遣って本は借りて帰るようにしてたという学生さんがいて、「ここだったら心置きなく読書できそう」と言ってくれたことは、よかったなと思いました。
長谷川さん:リフレッシュ・スペースも人気ですね。朝一で来て勉強している学生さんもいて。
混んでいるときはぜひ「譲り合い」で利用いただきたいですね。
―想定していない使い方でなるほどと思ったことなんかもありますか?
須田さん:最近は学生さん同士でもオンラインで打合せすることが多くなってきているので、「しゃべっていいところってどこですか?」と聞かれることが増えてきました。「周りの音が気にならなければアカデミック・コモンズなら大丈夫です。」とご案内して。予約がいらない、話していいエリアなので、そういう使い方もあるんだなと思いました。
齋藤さん:ふだんの利用者さんではないですけれど、表彰式で遠方の方が表彰対象でいらっしゃったときに、グローバル・スクエアの設備を活用して、プロジェクターで映像を映しながらリモートで参加いただきました。こういうこともできるんだと思って。
―逆に狙い通り使ってくれていてうれしいこともありますか?
長谷川さん:プレゼンテーション・スタジオは両面の壁面がホワイトボードなんですけれども、天井からみっちり書くグループがありましたね。
須田さん:あれは本当に見事ですよね。思わずジーっと見てしまいました。英語か何かで。英語で発表する練習をしてたのかなと思うんですけど。計算式みたいなのもありましたね。
グローバル・スクエアの壁面もホワイトボードなんですが、あんまり認識されてないみたいで。図書館サポーターの学生さんに、開館時間中にデモンストレーションをしてもらったりもしました。実際書いているところ見ると、学生さんたちも「なになに?」ってなるんですよね。それから使われ始めましたね。
齋藤さん:人体の図を描いている人もいましたね。医学部の学生さんかな?一生懸命書いてひたすら計算している学生さんもいますね。ディスカッションに使ったりとかも。
あとねぷたの時期はいつもBBCを流しているところでねぷたの動画を流しました。1・2年生はねぷた祭りを見ることができていないと思って、こんな雰囲気なんだよって。
アカデミック・コモンズのこれから
―コロナ禍で今は利用制限があると思いますが、ゆくゆくはどのように利用されていってほしいですか?
長谷川さん:今はコロナ対策で、テーブルにパーテーションを置いたり、席を間引きしたりしているので、制限がなくなっていけば、もっと話したり、グループで盛り上がったりするのかなと思っています。
須田さん:図書館は「勉強する場所」っていうイメージが強いと思うんですけど、休憩に使ったり、読んだことのない本を手に取ってみようかなとか、偶然来たら面白いニュースをやってたとか、用事がなくてもふらっと訪れる場所になってほしいかな。
長谷川さん:ちょっと時間が空いたら、図書館行って時間つぶそうかなとか。そんな利用でいいので来てもらいたいですね。
須田さん:大学の図書館だからといって専門書ばかりというわけでなくて、例えばこのリーディング・ルームの書架には社会情勢に沿った本をたくさん入れています。ちょっとした研究の入り口というか、専門書の手前の段階でちょっと気になることを調べてみるとか、そういう部分ですごく使えると思います。職員の方にも、ビジネス向けの本もあるので、勉強するだけの場所というイメージではなく来てもらえる場所になったらいいなと。
―弘大生にこういった力をここで身に着けてほしいなど、期待することはありますか?
須田さん:アカデミックコモンズだけでなく図書館全体としてですが、研究の成果として出版された本でしっかり学ぶのもいいですし、雑誌で最先端の情報を得るというのもある、紙の図書・雑誌だけではなく、レポート作成に役立つデータベースも揃っています。私たちは毎日、資料の受け入れ・整備をしているんですが、それによって図書館に蓄積される情報は毎日アップデートされていますし、みなさんが情報を入手するためのお手伝いもできますので、これらのコンテンツを使いこなしてもらえたらなと思います。
弘大の学生さんってすごく一生懸命に勉強しているなという印象がありますし、一度しかない学生生活、この大学に入ってよかったと思えるように、図書館が役立てばと思っています。
―図書館職員として弘大生に伝えたいことはありますか?
長谷川さん:「ん?」と思うことがあっても口に出さない学生さんが多いかな、という気もしているので、図書館で気がつくことがあったら気軽に職員に伝えてほしいですね。「電気がつかない机がある。」とか。
齋藤さん:学生さんは控え目かもしれませんね。プレゼンテーション・スタジオはあえてガラス張りにしているんですけど、「丸見えなので、ブラインドとかないですか…?」とか。こちらとしては見えているほうが、偶然見かけた人に「あの人すごい勉強している。私も頑張らなきゃ!」と思ってもらえたり、見られるほうは見られることも刺激になるし、そういうのを狙って作ったんですけれども。恥ずかしがりなのかな?
須田さん:あえて丸見えにしている部屋なので、ぜひそこを生かして使ってもらえたらうれしいですね。
ただ、新しいスペースに戸惑っている学生さんが多いのは事実なので、「使っていいんだよ。」とか「不便だったらこうしていいからね。」とか、積極的に声をかけていきたいですね。
ぜひ図書館を存分に活用して!
―最後に弘大生へのメッセージをお願いします
長谷川さん:大学にいるうちにぜひ一度は図書館へ来てください。
一度来れば気に入っていただけると思います。ふらっとでいいので入ってきてほしいです。
齋藤さん:私は直接学生さんと関わることはないんですけれども、他の職員の方たちを見ていると、本当に利用者目線で利用者の思いを形にできないかと常に考えて仕事をしています。利用者アンケートや投書でみなさんの声を聞かせてもらえたら、図書館職員は全力でその希望を叶える方向で考えていってあげたいとは常に思っていますということを伝えたいですね。
須田さん:本当にこの改修期間中、学生さんのことをすごく考えていました。どういうふうに利用してくれるかなとか、こんな風に使ってくれるかしらとか。学生さんの勉強している姿をイメージしながら、学生さんへの愛をこめて作りました。
さすがに「教育学部側にも入口を作ってほしい」に応えるのは無理だと思っていたんですけど、リニューアルで叶っちゃいました。もっと利用者に寄り添って、いい図書館にしていきたいので、ぜひいろいろな声を聞かせてください!
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弘前大学附属図書館ホームページ
弘前大学附属図書館報「豊泉」
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