洋上風力エネルギー(海上を吹く風のエネルギー)を利用する発電方法が、洋上風力発電です。世界の洋上風力エネルギーの開発・利用は急速に進んでいて、日本でも洋上風力発電の導入が本格化してきました。特に、北日本の沿岸海域は、洋上風力エネルギー資源が豊富なため、多くの海域で洋上風力発電の導入・計画が進んでいます。脱炭素社会の構築に向けて、再生可能エネルギーの中心となっていく洋上風力エネルギー。洋上風力エネルギー資源のさらなる理解に向けた研究を進める島田照久准教授に研究内容を伺いました。

変動性再生可能エネルギー分野への気象・気候情報の応用

理工学部 自然エネルギー学科
島田 照久(しまだ てるひさ)准教授

洋上の風況を理解する

洋上風力エネルギーの開発・利用のためには、様々な技術開発や社会の仕組みづくりが必要になります。洋上の風況(風の吹き方の特徴)についても、さらなる理解が求められていて、私は、洋上風力エネルギー資源量の評価や変動に関する研究に取り組んでいます。具体的には、次の問いに答えることを目指しています。

「ある海域に洋上風力エネルギー資源量は、どれだけ存在するのか?」
「洋上風力エネルギーの時間変化には、どのような特徴があるのか?」
「時々刻々と変化する洋上風力エネルギーを予測することはできるのか?」
「熱波・大雨・寒波などの極端現象が発生した時、洋上風力エネルギーはどのように変動するのか?」
「脱炭素社会を支える風力エネルギーと太陽光エネルギーの変動は補い合う関係にあるのか?」

これらの問いに答えるためには、気象学に基づいたアプローチが必要です。気象学というと、さまざまな大気現象の理解を進めて気象災害対策に役立てる分野、という印象が強いかもしれません。気象災害に関わる分野以外にも、気象学の応用分野は幅広く、その一つがエネルギー分野です。風力エネルギー・太陽光エネルギーなど、再生可能エネルギーのほとんどが気候システム(地球の表層環境のこと)内のエネルギーである以上、その利用のためには気象の理解は不可欠です。とりわけ、気象予測(天気予報)の技術は、電力・エネルギーシステムの重要な要素となっています。

再生可能エネルギー×気象・気候データ

再生可能エネルギー×気象・気候データ

気象・気候情報は、スマホなどで手軽に入手できるようになり、ピンポイントの天気予報など、さまざまな気象情報アプリで活用されています。このように気象・気候情報の利用が進む現在では、洋上を吹く風の特徴は、すでに十分理解されているのではないか、と思われるかもしれません。しかし、理解がまだ不十分な点も多いのが現状です。むしろ、洋上風力エネルギーの利用が本格化してきたことによって、各海域の気象(さらには海洋環境)の理解が不十分な点が明らかになってきた、という見方もできます。

研究に用いる主なデータは、世界の気象データセンターや宇宙機関が提供している、気象データと人工衛星による地球観測データです(冒頭の写真のディスプレイに表示しているのは、人工衛星による観測から導出した青森県周辺の海上風分布です。暖色で示した強風域と寒色で示した弱風域が沿岸海域に存在し、沿岸海域の風速変化が大きいことがわかります)。このような大容量データを、プログラミングを用いて解析します。そのため、データサイエンスに興味がある学生・プログラミングの得意な学生が、研究室に加わってくれることが多いです。代表的なビッグデータである気象・気候データを再生可能エネルギー分野に応用していくことが、風力エネルギー・太陽光エネルギー(まとめて、変動性再生可能エネルギーという)を最大限に活用することにつながっていくのです。

データ解析を行う学生

地域課題の解決に向けて

洋上風力発電が導入される海域は、日本では当面は沿岸海域が中心になりますが、沿岸海域で吹く風の特徴の一部は実感することができます。たとえば、フェリーに乗れば、航路に沿って、海域ごとに風の吹き方が違うことを体感することができます。高台から海を見渡せば、海面が波立つ様子から風の強さの違いを知ることができます。このような空間スケールの風の特徴には、通常の天気予報のデータでは十分に表現できないものがあります。あるいは、まだ誰も気づいていない風の特徴があるかもしれません。研究対象の空間スケールが、私たちが実感できる空間スケールに比較的近いので、研究内容を身近に感じてもらえることも多いです。

一方、海の仕事に携わる方々は、長年の経験から得られる、海域ごとの風の吹き方の経験則をお持ちだと思います。その中には、洋上の風を理解し予測するための重要な示唆を含んでいるものも多いはずです。しかし、そのような経験則を、科学で検証・実証できていないものも多くあります。長年かけて現場で得られた経験則を、さまざまなデータに基づいた科学の手法によって普遍化・一般化し、多くの人に役立つ「知識」にしていくことが必要です。洋上の風況を理解することは、地域の環境をより深く理解することであり、様々な地域課題に取り組むための基礎情報になります。

インタビューの様子

この研究に興味がある方へ、島田先生からメッセージ

再生可能エネルギー・自然エネルギーに関わる学問分野は、非常に幅広いことが特徴です。たとえば、発電の基盤技術に関わる分野、再生可能エネルギー資源に関わる分野、電力ネットワーク・エネルギーシステムに関わる分野、法律や社会の仕組みに関わる分野などを挙げることができます。また、さまざまな学問分野との学際的研究が求められることも大きな特徴で、研究のテーマも方法(実験・データ解析・シミュレーション・フィールドワークなど)も多種多様です。皆さんそれぞれの、興味関心がある分野・得意なことを生かせる分野・知的好奇心を刺激してくれる分野・将来への指針につながる分野をきっと見つけることができるのではと思います。近い将来、私たちの研究活動に加わっていただけることを期待しています。