弘前大学で取り組まれているたくさんの研究の中から、特にイノベーティブ(革新的)な研究を取り上げる全4回シリーズ。第1回目のテーマは「再生可能エネルギー」です。

皆さんは、いま「リチウム」が資源としてとても注目されていることをご存知ですか?リチウムイオン電池という言葉はきっと聞いたことがあると思いますが、スマートフォンをはじめタブレットやノートPCなど、現代の暮らしに欠かせない身近な機器の充電を担っているのが、リチウムイオン電池です。この「リチウム」に関わる研究で現在、世界でもとてもいいポジションにあるのが、佐々木一哉先生の「使用済みリチウム電池からのリチウム資源回収技術」。今回はこの研究についてご紹介します。

使用済みリチウム電池からのリチウム資源回収技術

大学院 理工学研究科 自然エネルギー学コース
佐々木一哉(ささきかずや) 教授

需要急増なのに、実は希少なリチウム資源。

リチウムイオン電池は、冒頭でふれたモバイル機器ばかりではなく、年々増えているハイブリッドカーや電気自動車などにも搭載されています。また今後は、暮らしに広く普及していくであろうドローンの大型化、そして風力発電や太陽光発電で得られた電気の貯蔵にもリチウムイオン電池が使われていき、需要はますます高まると予想されています。
そのリチウム資源は、以前は南米にある塩湖のかん水から取り出されたものがほとんどでしたが、生産工程が非常に長いため、短期的増産が難しいという課題がありました。リチウム産出地の環境汚染の問題も顕在化しています。それに代わって近年のリチウム需要の急増に応えてきたのが、オーストラリアの鉱山からの供給です。2017年には塩湖かん水での生産量を抜くほどになりましたが、鉱石の採掘から精製までには多額のコストがかかるため、2015年から2018年の3年で3倍になるほどの価格の急騰を招くようになりました。またリチウム資源が埋蔵している国は地球上でもごく一部に限られていることもあり、今後さらなる価格の高騰、そして資源の争奪戦となることが懸念されています。

国別のリチウム埋蔵量
国別のリチウム埋蔵量 合計16,000千t (2017年世界計) 出典:USGS2018

佐々木先生のリチウム回収技術に、期待が高まる理由とは。

そこに一つの光明をもたらす研究が、佐々木先生によるリチウム資源回収技術です。これが実用化すれば、リチウムをより安く大量に供給でき、国内および世界のエネルギー問題の解決に貢献できると期待されています。では、その研究の概略をご紹介しましょう。

まず、この研究の大きな特徴は、塩湖かん水や鉱石からではなく、使用済みリチウム電池、そして海水あるいは温泉水からリチウムを回収しようという点です。現在、使用済みリチウム電池からのリチウム資源回収は実施されていないので、まずはそれを可能にしようということ。そして実は、海水には希薄ではあるものの無尽蔵といえるほど大量のリチウムが、そして温泉水には高濃度のリチウムが含まれています。そこで、海水や温泉水からリチウムを回収できれば、今までより安価に大量に安定的に供給できるようになる、という訳です。
その手法としては「電気透析」という原理を使います。それを複数の電源と電極からなる独自に工夫した構成で高度化することで、少ないエネルギーで経済的に、かつ高速にリチウムを回収できるようになります。また鉱石からのリチウム生産に比べると環境への負荷が少ないので、クリーンな技術と言えます。

電気透析の原理の簡略モデル
電気透析の原理の簡略モデル

左側にリチウムを含む水溶液、右側に純水が入っていて、真ん中にはリチウムイオン伝導性セラミックスの隔膜(電解質膜)があります。ここに電位差を与えることで左側から右側へ、リチウムイオンだけが移動します。その結果、高純度なリチウムを回収できるという原理です。

電気透析の原理の簡略モデル
佐々木研究室での実際の実験の様子

青森県には、リチウム資源供給地になれる可能性がある。

この研究が実用化すれば、日本は海に囲まれ多くの温泉があることから、リチウム資源を国産化できる可能性が大いにあります。中でも青森県は3方を海に囲まれて温泉も多く、運搬を支える大きな港もあるので、リチウム資源供給地としてとても有利だといえます。
またもう1つ注目すべき点としては、21世紀後半の実現を目指している熱核融合炉発電にも活用できるよう、研究を進めているということです。電気透析によるリチウム回収の技術を応用すれば、熱核融合炉で使われる質量数6のリチウム同位体を濃縮分離できることが実証されています。これにより、エネルギー不足の解決に大きな役割を果たせますし、すでに青森県には核融合の世界的な研究拠点があるという優位性を活かして、リチウム資源供給の一大産業化もできるかもしれません。いずれにしても、リチウム資源を制することが重要になる時代が来ている、ということが言えそうです。

研究はいま最終段階に向かっていて、特許をすでに出願しているものもあります。さらに、研究成果をもとに今後出願予定のものもあるので、しっかり一番手として出願できるようスピードアップしていきたいという佐々木先生。その成果が今から大きく期待されています。

インタビューの様子

この研究に興味がある方へ、佐々木先生からのメッセージ

弘前大学には自然エネルギーに関する学科、大学院、そして研究部門まであって、とても研究が盛んです。ここまで重点的かつ総合的に学べる場は、珍しいのではないでしょうか。エネルギーは今後ますます重要になる分野です。そしてこの分野は研究自体が楽しいと思います。事前に論理的に考えたことを実験すると、きっちり正確にデータが出てくる。これはとても気持ちがいいんですよ。それに研究機関としては比較的小規模な分、学生の皆さんの役割は大きく、実験にしっかり関わることができます。それによって物事を論理的に考え、実証し、論文にまとめて発表する力が身に付きます。これは研究の道に進む人だけでなく、これからの社会ではどこに行っても求められる能力なので、企業への就職にも大きなプラスになると思います。もし興味や質問があったら、直接、私にメールをくれても構いません。研究の面白さをお伝えしたいと思います。
メールアドレス k_sasakihirosaki-u.ac.jp

この研究についてわかりやすく紹介した動画は、こちら!

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