弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第24回は、小さいころからねぷた絵制作に熱中し、大学で民俗学を学ぶ若手ねぷた絵描き手 丸山 晴也(まるやま はるや)さんです。弘前ねぷたにかける想い、今年のまつり中止を受けて実施した取り組みや、民俗学を学ぶ意義などについて伺いました。
小さいころからずっと好きだった弘前ねぷた。大学で学びたい
—人文社会科学部文化創生課程の志望理由を教えてください。
まずねぷたが軸にあって。ずっと弘前にいるつもりだったので、弘前大学でねぷたの勉強ができるところと考えて、人文社会科学部の文化創生課程を目指して頑張ってきました。
―ねぷたに興味をもったのはいつ頃ですか?
幼稚園に入る前からねぷたが好きだったみたいです。通っていた幼稚園に、毎年、ねぷた絵師の三浦呑龍先生がねぷた絵を描きにいらっしゃっていて、その様子を見られました。たぶんそれで “描く”ほうに入っていったのかなと・・・。今プロとして活躍している若手ねぷた絵師の野村雄大くんと知り合ったのも幼稚園で、そこからずっと一緒にねぷたを描いてきました。
僕には特定の師匠はいなくて、絵師さんのところにお邪魔させてもらいながら、どうやって描いているのか伺ったり、いろんな絵師さんの絵を見ていいところを盗んだりしながら勉強してます。「弘前ねぷた速報ガイド」という毎年8月1日に発行されるねぷた全団体が収録された雑誌は必ず買って。あとはねぷたに限らない絵からも勉強させてもらっています。
伝統を重んじながらも、チャレンジングな題材を
—毎年ねぷたを出しているんですか?
大学1年生のときに「樹木ねぷた愛好会」さんという団体の方と付き合いがあって、そこで「前ねぷた」を描いてみないか声を掛けてもらいました。それで今まで3年間、前ねぷたを描かせてもらっています。
それと、幼稚園の「卒園生ねぷた」っていうのがあるんですけど、小学6年生くらいの時から雄大くんと僕ともう一人の3人で毎年1台を作っています。
―絵の題材はどのように考えているんですか?
若いうちは好きなようにやりなさいと団体側が言ってくださっているので、いろいろなことを試しながらやらせてもらっています。
幼稚園が去年ねぷた運行70回記念だったので、ちょっと変わったのを描きたいなと思って、「赤ずきんちゃん」を題材にしてみました。幼稚園っぽさもあり、でも桃太郎とか金太郎とかじゃなくてあえて洋風な作品で。
去年の樹木さんの見送り絵もそんな感じで、あんまりねぷたでは無い、星空を描いてみました。宮沢賢治さんの「双子の星」という小説をモデルに。鏡絵は逆に伝統的な題材にして、遊び過ぎず真面目過ぎずみたいなラインを目指してみました。“若い人が描いている”という目線で見に来る人もいるので、「若い感性だね」って言われるとうれしいし、でも遊びすぎて「ねぷた絵をわかってない」と言われるのも嫌なので、今は自分の個性も出しながら、ちょうどいいラインを目指しています。
若手絵師らと協力して盛り上げた、いつもと違う弘前の夏
—令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響で弘前ねぷたまつりが中止になりました。そんな中でもいろいな取り組みに参加したと伺っています。
弘前観光コンベンション協会さんの「おうちで弘前ねぷたペーパークラフト」の台紙作りが一番大きい仕事で、まさか市から頼まれるとはとびっくりしました。担い手育成事業の一環としてやってもらえたので、すごくありがたくて。僕達が描いた台紙の配布は2日くらいで全部なくなったと聞いて、みんなやっぱりねぷた好きなんだなと思って嬉しかったです。この他にもコンベンション協会さんでは塗り絵を一枚描かせていただきました。
それとギャラリーまんなか*1の「ねぷた絵展」を若手の人たちとやって、弘南鉄道大鰐線の電車の中にねぷた絵を飾る「車内ねぷた絵展」にも参加しました。オンラインねぷたでも下絵、塗り絵の台紙を提供させてもらって。あとはイトーヨーカドーの地下通路で高校生を中心とした若手の絵描きのねぷた絵展が開催されていて、そこでも一枚出させてもらいました。一緒にやらない?と声をかけてもらったものがすごく多くて。感謝しかないですね。
*1ギャラリーまんなか・・・弘前大学の学生が代表を務める団体が、弘南鉄道大鰐線弘前中央駅の構内に開設している駅舎ギャラリー。設立の経緯などはこちらの記事から。
―やってみてどうでしたか?
代わりのことはいろいろできたんですけど、ずっと祭りの準備期間が続いているような、不思議な感覚でした。全然いつもの年とは違いましたが、楽しかったです。
―丸山さんにとってのねぷたってどういうものですか?
一種のカンフル剤みたいな。どんな時でも囃子が聞こえてくれば、どこだ?!ってなるし(笑)ねぷたのために何か、というよりは、ねぷた側が自分に作用してくる感じが強いというんですかね。だから全然ねぷたと関係ない絵を見ていても、これねぷたでこうやったら面白そうとか、勝手に脳で変換されちゃうし、気分が沈んでてもねぷたとなると、やるしかない!って思ったり。特効薬みたいですね。
―来年以降のねぷたまつりへ向けて、どんなお祭りにしたいと思っていますか?
今年中止だったからといってかしこまってやるよりは、ねぷたの時期だからねぷたやりましょう、くらいのノリで、いつも通りやれればかっこいいなって思います。ねぷた絵師の先生方のかっこいい絵を見て、興奮するような夏にしたいって。自分も1年置いたんで、成長できていればと思います。来年に向けては地道に準備をしていて、頭を使ったねぷた絵を描きたいと思ってます。少し面白い絵を目指したいです。
「祭り」に通じる考え方に気づく。刺激になった野辺地の調査実習
—学業のことについても伺います。丸山さんは民俗学を専攻されてるんですよね?
はい。2・3年次に履修した民俗学実習という授業の中では、野辺地町の「のへじ祇園まつり」の調査をしました。2年生の間は民俗学の授業を受けつつ、3年生が野辺地町について調査してきた内容を聞いて、夏休み期間に現地に実習調査に行きました。後期は調査をもとに、フィールドノートをみんなで出し合いながら、野辺地の祭礼はどういうものなのかを勉強していって。昔の写真や映像も見て、今とどう違うか考えてみたりしました。
―のへじ祇園まつりの調査はどうでしたか?
祭自体はこの実習で初めて知りました。
のへじ祇園まつりは1つの祭典部*2を除いて毎年題材を変えて制作しています。そこはねぷたと似通っていたので、「毎年考えるの大変ですか?」とか、「どういうところからネタ集めてるんですか?」っていうところから調査はやりやすかったです。祭りには10の祭典部が参加していて、僕は基本的に「城内組祭典部」につきっきりで調査しました。城内組は、かっこいい人たちがいる面白い祭典部でした。山車って時代劇ものとか日本のものが多いんですけど、城内組は「山車はこどものために作るもの」「きれいな山車じゃなきゃだめだ」という考え方の人たちで、動物を入れたり、わざと洋風のものを作ったり。そういう考え方に2年生のころに触れて、かっこいい!題材って縛られなくていいんだ!って思って。去年幼稚園で赤ずきんちゃんにチャレンジしたっていうのはもろにその影響です。色味にもこだわっていると聞いたので、僕もきれいな色を使いたいと思ったり。僕はねぷたに縛られすぎてたんだなと思いました。実習で、祭りに関わる人の考え方って似ているんだなと思った瞬間にぱっと固定観念がぶっ壊れたというか、他のお祭りも見てみようと思うようになりました。
野辺地の実習は自分にとって影響が大きかったですね。
*2祭典部…野辺地町の各自治会毎に組織する山車の運営団体。自治会毎に組織構成が様々。
―野辺地の調査は報告書にまとめたんですよね。
僕は実習の副実習長で、報告書の第2章「山車と祭礼の経過」の取りまとめをしていました。調査は各祭典部毎に行うので、みんな、聞いてきたことが野辺地の祭典部として当たり前のことだと思ってフィールドノートを持ち寄るんですが、それぞれの話を聞くと違うところがけっこうあり、細部が祭典部によって違うということがわかってきました。
最初はなかなか比較できるような情報が集まらなくて、それなら調査項目を決めてしまおうということになり。「時間」と「隊列」、「町内運行のルート」の3つは確実におさえてもらうことにして。みんながんばって情報を集めてくれたので、結局2章だけで100ページくらいの分厚い章になりました(笑)
今は当たり前のことが載っているだけなんですけど、人口減少が進む中で、いつか祭りの転換期が来た時や、野辺地の調査をする人が現れた時に、平成30年と令和元年の時のことがわかるような資料になればと思っています。
令和2年3月には報告書を発行して、延期になっていた「青森県内山車フォーラム」が7月に実施され、活動を終了しました。
民俗学を学ぶ中で広がった視野
—民俗学を学ぶことが作品に生きることはありますか?
ねぷたをやっているからこそ、民俗学を勉強することによってねぷたの新しい一面が見えてきます。例えば、今までねぷたと「七夕」は関係があるんだな、くらいの認識だったんですけど、民俗学の観点から改めて「七夕」を調べてみると、七夕は元々日本でこういう習俗があって・・・と、ねぷたとの関係以前の、もっと根本的で広い視点から知ることができます。それをわかった上でねぷたの資料を読んでいくと、今までわからなかったことがわかってくる、謎が解けてくる、ということも多いです。
あとは昔のねぷたに目を向けるきっかけになりました。今だけじゃなくて昔のねぷたはどういう経緯を持っていたのか。ゼミの山田嚴子先生からの教えもあって、ねぷたやそれ以外に関しても同じように問を考えるようになりました。また、いろんな視点がもてるようになって、今まで主観的にしか見られなかったものを客観的に見ることができるようになったのかなと感じます。他の祭りにも目を向けてみようと思うきっかけにもなりました。
民俗学を学ぶことで、よりねぷたというか、「祭り」が好きになったなと。ねぷただけじゃない視野になったことが大きいと思います。
視野が広がり好きなことがどんどん深くなる
ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。
好きなことがあるなら好きなことをやれた方がいいと思います。僕もずっとねぷたが好きで、気付いたらインタビューされるまでになってたんで(笑)突き詰めたらいいと思いますね。
逆にやりたいことがなくても、大学にはいろいろなきっかけがあるので。僕は今まで全然知らなかった祭礼行事を調査しているうちに大好きになっていて、自分の世界が広がりました。大学で視野が広がることによって、自分は好きなことを浅くしか知らなかったんだということがわかって、そこからどんどん深く知っていける感じがします。
僕も「民俗学」にこだわっていたわけではなくて、最初は、自分のやりたいことは「日本美術」かと思ってたんです。意外と入ってからわかるかもしれないですね。大枠が決まっていたら入ってから色々選択肢があって、より専門的なことが贅沢に選べるので面白いですよ。
来年から僕は社会人ですが、仕事をしながらもねぷたに携わっていきたいと思っています。