message理工学部
物質創成化学科
竹内 大介 教授Takeuchi Daisuke

弘前大学理工学部 竹内大介

“金属触媒を使って新しい高分子の合成に挑戦する”

わたしはパラジウムを始めとする金属触媒を使って、新しい高分子を作る研究や、高分子をつくるための新しい金属触媒を開発する研究をしています。

インタビュー動画

Question研究について

― 研究テーマの概要について

金属触媒を使って新しい高分子をつくる研究や、高分子をつくるための新しい金属触媒を開発する研究をしています。高分子はプラスチックやゴムなど、身の回りに広く使われていますが、これらは単量体とよばれる分子量の小さな分子がたくさん連結したものです(例えば、ポリエチレンはエチレンという分子がたくさん連結した分子構造をしています)。このように、低分子同士がたくさん連結する反応を重合といいます。高分子の中には金属触媒を使うことではじめてつくることのできるものや、金属触媒を使うと、使わずにつくった場合とは異なる構造の高分子ができる場合があります。
当研究室では、パラジウム錯体を始めとする金属触媒を使うことで、これまで重合させることが困難とされてきた単量体の重合や、これまで合成するのが難しいとされてきた高分子の合成に挑戦しています。既存の金属触媒に加えて、新しい金属触媒を設計したり、あまり単量体としては使われてこなかった化合物に対して重合に適した触媒を適用することで、目的達成を目指しています。また、3年前に弘前大に移ってからは、金属触媒により天然由来の原料を使って高分子をつくる研究などの新しい研究テーマもスタートさせています。できるだけ早く、公表できるような成果を出せればと思っています。

― 先生がその研究を志した理由、きっかけ。

学生の時は、漠然と人工光合成や二酸化炭素の固定の研究をしたいと思い、配属研究室を選びました。しかし、卒業研究で実際に行うことになったテーマは、葉緑素のモデルとなる化合物を使って、高分子を合成するというものでした。このテーマに取り組んでみると、分子量や構造の制御された高分子を合成するというのはそんなに簡単ではなく、それだけに、分子量の制御された高分子の合成や、これまで困難とされてきた重合を達成できたときは大変うれしく、高分子合成にすっかり夢中になってしまいました。
大学院を出て、別の研究室に移り、助手としてさらに別の研究室に移りましたが、同じ高分子の合成でも研究室によっていろいろなアプローチの仕方があり、そのようないろいろなアプローチの仕方で高分子の合成に取り組む中で、現在の金属触媒を使った高分子合成を中心とするテーマで研究するようになりました。

弘前大学理工学部 竹内大介

― 先生の研究への情熱や、哲学、今後の展望など

自分で考えたアイディアで実験を行って、うまくいった時の嬉しさは格別で、病みつきになります。またそのような嬉しさを味わいたいという気持ちが、研究を進める駆動力になっていると思います。一方で、いろいろな人に面白いと思ってもらえるような、新しい研究成果を出そうと研究に取り組んでいたところ、とある先生に「研究は楽しんでやるものだ。」と言われてはっとしたことがあります。
実験をしていると期待通りのことが起こったり、予想もしないことが起こったりしますが、特に予想もしない結果から新しい展開が生まれることもあります。目標だけを見て前のめりになるのではなく、できるだけ広い視点で、楽しみながら研究を進めるようにしています。新しい研究テーマを進めていくと、なかなか研究が思うように進まない時期が続いたり、逆にあることをきっかけにして急にうまく研究が進むようになったりすることがあります。研究がうまく進まないときは、いつかうまく行くかもと楽観的に考えつつ論理的に研究を進める一方で、研究がうまく行っているときには、どこかに落とし穴があるかもと慎重に考えつつ大胆に研究を進めるようにしています。

Question教育について

― 学部(学科、課程、専攻等)の特徴(力をいれている教育・研究、雰囲気など)

弘前大学理工学部は、基礎と応用、理工と工学の調和したユニークな理工融合学部で、数物科学科、物質創成化学科、地球環境防災学科、電子情報工学科、機械科学科、自然エネルギー学科の6つの学科からなります。
物質創成化学科は、有機化学、無機化学、分析化学及び物理化学の学習に重点を置いており、これらの基礎的知識の体系的な理解を目指します。問題の本質を化学の視点から分析し見極める力を養い、化学に関する好奇心や創造性を伸ばし、社会に貢献できる人材の育成に力を注いでいます。
また、物質創成化学科には、化学の様々な分野を専門とする教員が揃っており、幅広い分野の研究が行われています。このような幅広い分野の最先端の研究に触れる中で、修得した化学に関する専門知識・技能を活かし、新しい機能性材料や革新的省エネルギー技術を開発し、持続可能な社会を支える人材を育成することに力を入れています。

― 先生の講義の特徴

「無機化学演習」と「触媒化学」の講義を担当しています。
単にいろいろな物事を覚えるのではなく、なぜそのような性質になるのか、なぜそのような反応が起こるのか、など、いろいろな「なぜ」を含めて講義するように心がけてます。「なぜ」を含めて物事を学んでいくと、その物事や周辺の物事を納得して理解できるようになり、単なる暗記した「知識」ではなく、実際に必要な場面で使うことのできる「生きた知識」になると思うからです。
「触媒化学」では、その名の通り触媒に焦点を当てて学んでいきます。「触媒」とは少量加えることで、化学反応を著しく加速させたり、通常は起こらない化学反応を起こすことができる物質のことですが、我々の身の回りには、生活を豊かにするために触媒が大活躍しています。講義では、触媒の広い世界について実感し、触媒の奥の深い世界を理解することを目指しています。そのために、有機化学、無機化学、物理化学などの知識をフル活用します。
これまでに学んできた知識が、実際にこのように活かされるのか!と実感してもらえるように工夫しています。

― 研究室の活動のこと

学生の研究テーマを設定するときには、それぞれの学生のテーマがあまり重ならないように配慮しています。他の学生の研究内容について聞いたり、考えたりすることで、自分自身の知識や研究する力に広がりができるだろうという考えからです。自分自身の研究テーマ以外の、いろいろな研究内容に対して興味・関心を持ってほしいということから、週に一度行われる研究報告会や雑誌会では、一人一度は質問するように指導しています。知識は知っているだけではだめで、どのように使うか・どのように新しいアイディアに結び付けるかが大事だと思っており、研究テーマを進める際には、学生がこれまで講義で学んだであろう知識を引き出しながら指導するよう心がけています。
また、農学生命科学部の園木和典先生や群馬大学の上原宏樹先生を始め、分野を超えた様々な研究室との共同研究も進めています。特に、群馬大学を中心とする異なる分野・所属の研究室で合同で定期的に行われている研究会(複合材料研究会)に参加しており、学生が自分の研究を異分野の先生・学生に対して説明する力を養い、異分野の研究に触れることで自分の視野を広げ、他大学の先生や学生と交流するよい機会になっていると思っています。

弘前大学理工学部 竹内大介

― 大学で学ぶことで将来どのようになれるか、何に役立てられるか

企業の研究職に就くためには大学院卒の学歴が求められることが多いということもあり、物質創成化学科の卒業生の半数程度は大学院に進学しています。特に、化学系企業を始めとする製造業は大学院修了者の採用意識が高く、大学院修了学生の多くは製造業の企業に就職しています。大学や大学院の所属研究室の研究分野とは異なる分野の企業に就職するケースも多いです。その場合は取り組んだテーマについての知識は就職先で直接活かすことはできないのではと思われるかもしれませんが、いろいろなアイディアを出したりする場面で直接的ではないにしても活かされると思います。
また、大学や大学院で研究テーマに取り組む中で養われる、問題を解決するためのアプローチの仕方や考え方、新しいアイディアの見つけ方、プレゼン能力などは、どのような就職先に進んだとしても、必ず活きてくるはずです。

― 高校生のうちからどのような経験をしてきてほしいか

数学や物理、化学の勉強に取り組んで、これらの知識を習得しておいてほしいということは言うまでもありません。
一方で、化学に関することに限らず、できるだけいろいろなことに興味を持って、視野を広げる経験をしてほしいと思っていますし、化学に関することでなくても、自分の興味のあることに熱心に取り組む経験をしてほしいと思っています。もちろん、自分の興味をもった対象が化学に関することであれば、化学を教えている者としてはとても嬉しいです。こういった経験が、特に大学で研究テーマに取り組む上で活きてくるのではないかと思っています。

高校生に伝えたい
メッセージ

大学は宝探しのようなところがあり、受け身になって教えられるままでいると、ほとんど宝を見つけられずに4年間が過ぎてしまいますが、どこかに宝が埋まっているに違いないと思って、熱心に自発的に取り組むと、4年間でいろいろな種類の宝物を数多く見つけることができます。それは、卒業後に活かすことのできるいろいろな「知識」やそれを使う力であったり、「問題を解決する」力であったり、「新しいアイディア」を思いつく力であったり、もっと深く取り組んでみようと思える「研究テーマ」であったり、卒業後も交流が続く「友人」であったりします。

弘前大学理工学部には、いろいろな分野の研究を行っている教員がおり、皆さんの宝探しをサポートしてくれる教員・スタッフが揃っています。ぜひ、弘前大学理工学部に進学して、皆さんならではの「宝物」を探し出してみませんか?