弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第18回は、国際交流基金アジアセンターが実施する“日本語パートナーズ”派遣事業*1に参加し、インドネシアで半年間活動した 金子 友美(かねこ ともみ)さんです。留学までの経緯や、今後の展望について伺いました。

*1日本語パートナーズ・・・ASEAN諸国の中学・高校などで、現地の日本語の先生をサポートしながら、“生きた日本語”を教えられる人材を派遣する事業。(出典:外務省ホームページ https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol136/index.html

日本と海外の関係を勉強したい!

—弘前大学人文学部現代社会課程を志望した理由を教えてください。

高校のときから英語が好きで、国際ボランティアとか、海外の人と関わる経験をしたいと思っていました。私は普通コースでしたが、グローバルコースもある高校だったので、ときどき留学生と交流する機会があり、オーストラリアでの語学研修にも参加して、高校のときから割と海外との接点がありました。
大学では国際関係学を勉強したいと思い、センター試験の結果と、国際社会コースがあるということで弘前大学を選びました。

インタビュー中の金子さん
インタビュー中の金子さん。着ている服の素材はバティックというインドネシアの伝統的な染め物。
地域によって柄が違う。現地の友人にオーダーメイドで作ってもらった

はやぶさカレッジを経て、日本語パートナーズでインドネシアへ

—留学に至る経緯を教えてください。

大学に入ったら長期留学をしたいと思っていました。でも協定校でもけっこうな費用がかかり、それだけのお金をかけて、語学のためだけに留学するということは決められなくて。そのときに「はやぶさカレッジ(以下 はやぶさ)*2の存在を知りました。自己負担無しで留学できることが魅力的で、まずはこのプログラムで留学をしてみようと。私は3期生で、当時は語学研修と異文化理解のために、ニュージーランド1ヶ月間と韓国2週間の留学が必修でした。指定の授業やイングリッシュラウンジのセミナーを受けて、留学を経験しました。
はやぶさを通して、英語を話す恥ずかしさや間違えるのが怖いということはなくなって、もっといろんな人と話せるようになりたいと思うようになりました。

*2はやぶさカレッジ・・・学部1・2年生を対象とした、国際化が進む社会で活躍できる力を育成するための1年6か月の弘前大学独自の教育プログラム。詳しくはこちら(弘前大学国際連携本部ホームページ)

—その後、日本語パートナーズ(以下 パートナーズ)に参加したのですね?

パートナーズの存在自体は1年生のときに知りました。教養教育で「国際援助」の講義があって、大学生にできる国際援助の一つとして紹介されたんです。それをなんとなく覚えていて。2年生の5月くらいに、たまたまパートナーズでタイに行った先輩の帰国報告会を聞く機会がありました。そこで改めて詳しい内容を知って、おもしろそう!と。語学以外に得られるものがあるような留学がしたいと思っていたので、日本語教育で現地の人と関われて、自分が現地の人に残せるものがある事業だということにすごく惹かれました。この事業は東南アジアが主な派遣国なんですが、東南アジアは自分で行こうと思ったことがない地域だったので、行ってみないとわからない、そんなところで半年生活できるのもおもしろそうだと思いました。
3年生の秋に一度応募して、そのときは書類選考で落ちてしまったんですが、12月に再チャレンジして合格し、インドネシアへ行くことが決まりました。

渡航前には合宿形式の派遣前研修があって、一か月間大阪で研修を受けました。そこでインドネシア語や、日本語教育の方法、現地の生活事情など、活動に必要な知識を身につけました。


一緒に日本語を教えていた先生と
一緒に日本語を教えていた先生と

日本語ネイティブとして教員をサポート。日本文化を見直すきっかけに

—現地ではどんな活動をしていたのですか?

パートナーズでは現地の高校に派遣されて、第二外国語として日本語を勉強している高校生たちの日本語教育をサポートしました。

私が派遣されたのは、インドネシア5大都市の一つ、中部ジャワ州のスマランの私立高校2校です。一緒にインドネシアに派遣されたのは75人でしたが、1つの学校に1人の配属なので、みんな散り散りになりました。スマランで一緒だったのは6人です。

基本的に現地の先生が授業を進行するので、そのサポートで、ネイティブとして発音練習や、モデル会話のデモンストレーションをしました。日本語教育以外に日本文化の紹介もパートナーズのメインの取り組みです。生徒と一緒にたこ焼きや寿司を作ったり、茶道や書道、浴衣の着付けなど、いろいろやりました。
おもしろかったのは1年生の日本語クラブで茶道をやったときで、ペアで一通りの流れをやらせてみたんです。そこで飲んだときにあまりにもリアクションが大きい生徒がいて!抹茶って苦いので入れるのは茶匙で1・2杯だけです。それを8杯入れたらしく(笑)まるで罰ゲームのように盛り上がっていました。
もちろん日本の文化を教えるという意味では基本を教えたいのですが、日本人にとっては当たり前でも、インドネシアの生徒たちにとっては考え方も違って、意味がわからない、つまらないと思うこともあるんだろうと。正しく教えるということは途中からあまり重きを置かずに、雰囲気を味わってもらえればいいかなと思ってやっていました。だから茶道でそういうことがあっても、それを通して茶道、日本文化として一つ印象に残ったのなら、それだけで意味があったと思っています。

日本文化を教えるという経験をして、逆に日本文化ってなんなんだろうと思いました。日本人の自分にとっても、そうした茶道とか着物って必ずしも日常的なものではなくなっています。外に出て初めて日本がどう思われているか、典型的なイメージを見直すことができました。日本人としてこれだけは知っておきたい、身につけておきたいということを考えるきっかけになりましたね。

浴衣の着付け
浴衣の着付け。「面倒な文化だね」なんて感想も...

パートナーズ参加者から聞いた、自分の知らない日本の側面

—インドネシアでの生活はどうでしたか?

インドネシアでは、技能実習生として日本で働いたことがある人も身近にいました。タクシーの運転手さんが「僕日本で働いてたことあるよ」って話し掛けてくれたり。日本食のお店もあって、スーパーには知っている日本製品やお菓子も並んでいて、日本が当たり前に日常の中にあるのにはびっくりしました。そういうお陰であまり寂しくはならなかったですね。

高校以外との交流も多くて、私の街には日本語学科がある大学が3つあったので、そこの学生たちと遊びに行ったり、屋台に行ったり。市内の観光に連れて行ってもらいました。

—他のパートナーズ参加者との交流もありましたか?

スマランに一緒に行った参加者は、私含め4人が大学生、2人が社会人でした。そこもこの事業に参加して良かったと思うことの一つで、一緒に行く人のキャリアや出身、大学で勉強していることも本当にバラバラで、みんなの経験を聞くだけでもすごく刺激になりました。全国北から南までいろいろな地域の出身者がいたので、知らない地域の話を聞くのも楽しかったです。これが日本の文化だと自分がこれまで感じてきたことを生徒に話そうと思っても、他の日本人に話してみると、それうちの地域じゃ違うよと言われたりして。日本に住んでいたけれど自分が見てきたものが必ずしも日本のスタンダードじゃないということを知りました。例えばインドネシアって月曜日に全校朝礼があります。私の高校時代は、全校集会は始業式とか儀式的なものしかなかったんですが、東京出身の人はうちの学校は朝礼あったよと。同じ日本人と話していても、日本の新たな発見がありました。

3月に帰国して、みんなそれぞれの地域に帰りましたが、SNSで連絡を取り合っています。インドネシアの高校生に日本の風景を見せたいということで、Instagramで写真を発信しているんですが、4月は「桜が咲きました」の投稿が溢れて。ニュースを見なくてもどこで咲いているかがわかるのはおもしろかったです(笑)


生徒に案内してもらって市内観光
休日は生徒に市内の観光地を案内してもらった

人を幸せにできるような仕事を。

—パートナーズに参加してどうでしたか?また、今後の展望を教えてください。

学校で教えながらというところで、関わる人もすごく多かったですし、こういう日本人がいたなと、記憶に残れたんじゃないかと思います。これも一つのきっかけに、何かの機会に日本に興味を持ってもらえたら嬉しいですね。行っただけで意味はあったと思っています。

何度か留学をしているので、周りからはそういう関係の仕事しないの?と言われたりはするんですけど、私はあまり「留学経験」とか「語学を活かせる」というところにはこだわらず、地元に戻って、地元に貢献したいと思っています。パートナーズでたくさんの人と関われる機会があって、人のために、人を幸せにできるようなことってすごく楽しいと実感できたので、そういう仕事に就ければと思います。
国際交流に関しては仕事というよりは趣味としてボランティアなどで続けていきたいです。

弘大でパートナーズの事業を知っている人はそんなに多くないと思うんです。私も先輩が報告会をやってくれなかったら知らずにいました。他大学の人の話を聞いていると、同じ大学から参加した先輩がいたり、別の国に行っている友だちがいたり、関東・関西圏ではかなり認知されていて、参加している人も多いんですよね。でも東北・北海道の人の参加は少なくて。一般的な留学以外の選択肢の一つとして、パートナーズの存在を知ってもらえるように、広めていきたいです。

おにぎりを教えて一緒に作った
日本の料理、おにぎりを教えてみんなで作ってみたときの集合写真

とにかくやってみること!

—最後に受験生や在学生へ向けてメッセージをお願いします。

何でもやってみないとわからないので、それこそ今これがしたいっていう明確なものがなかったり、迷っていたりするのだったら、やってみるのが一番だと思います。私が今回全然知らない土地に行ったのも、行ってみないとわからないからというところが大きかったので。そこから次に繋がるものが絶対あると思うので、そういう経験をどんどん広げていくといいんじゃないかと思います。

とあるクラスの生徒たちと
授業で学生に書かせた年賀状
授業で生徒に作成させた年賀状。
インドネシアの生徒たちは美術センスが高い。
ごはんのおとも,チリソース
スーパーにはインドネシア人のご飯のおとも、
チリソースが並ぶ

◇金子さんがインドネシアについて書いた記事はこちらご覧いただけます。
 「インドネシアの道路事情」(“日本語パートナーズ”派遣事業ホームページ)

◇弘前大学国際連携本部ホームページでも紹介されています。
 「本学の学生が”日本語パートナーズ”に内定しました

Profile

人文学部現代社会課程(現:人文社会科学部文化創生課程)4年
金子 友美さん

日本語パートナーズ インドネシア10期生 。
北海道札幌市出身。北海道札幌清田高校普通コース卒業後、弘前大学人文学部現代社会課程(現:人文社会科学部文化創生課程)に入学。1年次からはやぶさカレッジに3期生として参加し、留学を経験。3年次には日本語パートナーズへ応募、4年次の9月から約半年間インドネシアのスマランで活動する。インドネシアで技能実習生としての来日経験がある複数の人に出会ったことから、「外国人技能実習生の雇用実態」を卒業論文のテーマにする(国際社会コース(現:多文化共生コース)南修平准教授ゼミ)。その他、弘大生協学生委員会、農家・農村サポートサークルTEAM DANBURIとしても活動。