卒業生の活躍をご紹介する『卒業生インタビュー』、第9回に登場するのはメキシコのオアハカ州立自治ベニートフアレス大学で日本語や日本文化を教えている泉 優希(いずみ ゆうき) さんです。
現在の仕事の内容や、大学時代の印象に残っている出来事、今後の展望などを伺いました。

オアハカで働く。きっかけは短期留学

ーお勤め先について教えてください。

メキシコのオアハカ州立自治ベニートフアレス大学の言語学部とその語学学校で働いています。ベニートフアレス大学はオアハカ州最大の総合大学で、現在言語学部では約1000人の生徒が学んでいます。英語に加えて、専門の外国語を選択し4年をかけて習得していく他、言語教育、言語学の分野の授業もカリキュラムに組み込まれています。
外国語には、サポテコ語、ミヘ語などといった、スペインによる植民地化以前からの歴史を持ち、現在も各地域で使われている土着の言語のコースもあります。

ーどういった経緯で就職することになったのですか?

大学4年に上がる前の春休みに協定校であるオアハカ州立自治ベニートフアレス大学へ短期留学していて、その半年後の8月に、研究者交流で弘前大学を訪れたベニートフアレス大学の先生に、焼肉を食べながら、ふと、大学で働けないかと聞いてみたのが始まりでした。実際話が動き出してからはずいぶん悩みましたが、最終的には自分のこれまで純粋に興味があったもの、好きだったものを振り返ってみたら、オアハカという、人がより自然に近いところでエネルギッシュに生きている土地で働く、そこの文化をまなぶ、という答えが自然と出ました。

講義の様子
大学で講義をする泉さん

人のエネルギーを感じられる場所、オアハカ

ー現在の仕事の内容について教えてください。

メキシコの大学は新学期が4月からではありません。ベニートフアレス大学は2月から前期が開始するので、2018年2月から赴任し、ワークショップの形で大学で日本語を教え初め、その傍ら日本文化を紹介する授業を担当していました。同年8月からは、大学付属の語学学校で正式に日本語の授業を担当することになりました。2019年2月からは、日本の神話や昔話、現代の小説までテーマを幅広くとった日本文学の授業も持っています。
 
現在は、言語学部付属の語学学校での日本語の授業、言語学部本校での日本文化の授業と日本文学の授業、この三つが主な仕事です。語学学校のクラスは大学の生徒に限らず、子供から大人まで地域全体に開かれています。10代から20代の学生に初級の日本語を教えています。本校では、選択科目として、食や言語、宗教から四季の行事まで各分野の日本文化を紹介・比較する「日本文化」の授業と、日本の神話や昔話の特徴・構造を通して日本をより深く知る「日本文学」の授業を持っています。「日本文学」ではスペイン語に翻訳されている近現代の小説などを読んで、意見を交わしあっています。

ーオアハカでの生活はどうですか?

「生きてる!」という感じです。僕が初めてオアハカに来たとき一番印象深かったのが、通りや市場に満ち満ちるエネルギーでした。行き先を叫びながらゆくバスにはじまり、タクシーも移動式屋台も、立ち並ぶ露店も、街角で食べ物を売るおばちゃんまで、みんな各々の声をあげて生活しています。どんな仕事でも一人ひとりの性格がはっきり出ていて、食べ物一つ買うのにも、そこには人と人のやり取りがあります。そんなエネルギーに負けじと歩き回る毎日は、自然と活力ほとばしるものになりますね。
それからオアハカは、メキシコの中でもプレイスパニコ(スペインによる侵略以前)の文化が色濃く残っていることで有名です。遺跡、織物・木彫りなどの手工芸、メスカルという土地のお酒を造る村など特徴ある村々を訪れて、その文化に触れ歴史を知るのは、オアハカの生活の大きな楽しみです。



お祭りのパレード。衣装が特徴的で、どこの町かすぐわかる

工芸品を作る村人

オアハカの文化を知り、地元秋田の伝統文化を捉えなおす

ー仕事をしていて楽しさややりがいを感じるのはどんなときですか?
また、今後の展望を教えてください。

授業の内容に、学生が「おもしろい」と前のめりになって、それぞれの意見や感想を言ってくれるときですね。自分の授業が新たな興味・発見・再発見のきっかけになれば、といつも思っています。
日本語の授業では、基本的に同じクラスを継続して担当するので、教えた表現を学生の間でよく使うようになった、とかちょっとした成長が見える瞬間が、そのたびに嬉しいです。

今は、オアハカの村々、各地方のおもしろい祭りや慣習、伝統工芸などの紹介を通して、地元秋田の伝統文化を新鮮でエキゾチックなものとして捉えなおしていくような活動をしていくことに興味があります。
というのも、こっちでドキドキするようなエキゾチックな伝統文化に触れ、自然とその意味や歴史を調べていく中で、ふと育ってきた土地を振り返ると、そこにも似たようなものがある、けれどその意味や歴史ははっきり分からなくて、その瞬間、知っていたはずのものが不思議な魅力をもった新鮮なものとして見えてくる、という経験を繰り返しているからです。例えばオアハカのサン・マルティン・ティルカヘテという村には動物の仮面を被ったり、全身を赤く染めて悪魔に扮して踊る祭りがあります。そんな一見不思議なお祭りにも、スペイン人の侵略に対して土地の人々がスペイン人が怖れていたものを使って、自分達だけの祭りを創ろうとしたという背景があるといいます。変わったものに興味を惹かれる、その意味が気になる、そこから自分たちが親しんできた文化の見え方が一新する。そんなきっかけを作れるように、まずはオアハカの村々の文化とその歴史を丁寧にまとめ続けていきます。

木彫りが名産の村、織物が名産の村など、手工芸が盛ん

あらゆる分野の人と出会い、つながったスペイン語サークル

ー学生時代について教えてください。大学生活で印象に残っていることはありますか?

友達とのくだらなくて楽しい思い出を挙げるときりがないのですが、弘前という自然豊かな土地ということもあってか、花見や山や川で遊んだことなど、自然の中の思い出が多い気がします。
留学生や先生方など、人との出会いに導かれた学生時代でもあったのですが、中でもスペイン語サークルの存在は大きかったです。教育学部の冨田晃先生を中心に、学部も立場も年齢も関係なく、物づくり、執筆、ダンスまであらゆる分野の人が集まり、一緒に勉強したり、経験を共有したり、ホームパーティーをするつながりからは、いつも刺激をもらい、ものの考え方を柔軟にしてもらっていました。

ー学んだことで印象に残っていることはありますか?

専門は国語専修、ゼミは近代文学ゼミでした。印象深いのは一年生の時の、近代文学の授業です。芥川龍之介の短編をテクストに、毎回生徒が考察を発表し、それについて意見を交わしあうというスタイルでした。物語を積極的にそれぞれの視点で読んでいくという面白さは本当に衝撃的で、それがゼミを選ぶきっかけになりました。
卒論では、先行研究を細かく調べ、自分勝手な妄想にならないよう、丁寧に客観的に論を組み立てていくなかで、自分の考えを人の役に立つように届けるための姿勢を学びました。

スパイン語サークルホームパーティーの様子
スペイン語サークルでのホームパーティーの様子。異世代のメンバーが集まる

異なる文化のなかでも柔軟に

ー弘前大学での学びや経験が、社会人になって活かされていると感じるのはどんなときですか。

「社会人」としてというわけではないのですが、例えば一人ひとり違う学生たちと関わり、また日本と随分異なる文化の中で生きるなかで、大学生活を通してとにかく色んな人に出会い自由な生き方・考え方に触れられたことが、何でもまずは柔軟に受けとめ、考えるようとする姿勢となって生きていると思います。

サン・マルティン・ティルカヘ村のお祭り。悪魔の仮装で踊る

「自分の道」を決めて

ー弘大生やこれから大学を目指す受験生へメッセージをお願いします。

僕がオアハカに来て働くことを決めた理由のひとつに、自分が大学生活でやってきたことに納得できていなかったというのがあります。何かもやもやした気持ちがあって、それを変えられそうな選択肢があったら、すぐにあきらめずに、色んな人と話をして、一人でもじっくり考えて、「自分の道」を決めてほしいと思います。
受験を控えるみなさんは、本当に大変なことが多いと思うのですが、時には、人生道は一つじゃない、と少しでも気を楽にしながら受験期を乗り切ってください。

勤務する大学の教員、オアハカに来訪したご家族と

Profile

オアハカ州立自治ベニートフアレス大学教員
泉 優希さん

教育学部学校教育教員養成課程卒 。
秋田県秋田市出身。秋田県立秋田高等学校を卒業後、弘前大学教育学部学校教育教員養成課程に進学。日本近代文学ゼミに所属。2018年2月から、メキシコのオアハカ州立自治ベニートフアレス大学で日本語や日本語を教え、現在は同大言語学部付属の語学学校と言語学部本校でも授業を担当する。 学生時代はスペイン語サークル、えいごづけ(英会話サークル)、クロスカルチャーサークルに所属し、多言語・多文化に親しむ。