青森県弘前市は「お城とさくらとりんごのまち」
弘前公園の桜は日本三大桜名所の一つとして数えられ、さくらまつりの時期には毎年多くの人でにぎわいます。

令和2年の4月は新型コロナウイルス感染症の流行状況により、残念ながら「弘前さくらまつり」は中止になり、弘前公園は4月10日から5月17日までの間封鎖されました。

弘前大学においても入学式を中止することになり、授業の開始を遅らせるなど、新型コロナウイルス感染症対策を実施しており、学生のみなさんは桜の季節、大学に来る機会がほとんどなかったと思われます。

新型コロナウイルス感染症の収束後には、みなさんと桜を愛でられることを願い、今回は、弘前大学の桜を特集します。

桜

青森のさくら

青森の桜は例年4月中旬~下旬頃に開花し、ゴールデンウィークにかけてお花見期間となり、出会いの季節を華やかに彩ります。また、梅の開花も桜の開花と重なり、太宰治は小説『津軽』の中で、「これだけは信じて、覚えて置くがよい。津軽では、梅、桃、桜、林檎、梨、すもも、一度にこの頃、花が咲くのである*1」と表しています。

*1出典:太宰治「津軽」『太宰治全集』 第7巻.筑摩書房.1971.p109(原文旧字体)

梅と桜

弘前大学のさくら

弘前大学ではソメイヨシノ、ベニシダレ、ヤエベニシダレ、ベニユタカなど、数種類の桜がキャンパスのいたるところに植樹されています。

4種類の桜の写真
ソメイヨシノ(上)、ベニシダレ(左下)、ヤエベニシダレ(中)、ベニユタカ(右下)

昔の面影を残す風景

人文社会科学部の中庭は「桜」「池」を含めて、弘前大学の前身校の一つ、旧制弘前高等学校の面影を残す唯一の場所です。弘前公園外堀の桜の絨毯(じゅうたん)は有名ですが、こちらでも桜の花びらが池を美しく埋め尽くす景色が見られます。

人文社会科学部中庭
歴代の卒業生も見ていたであろう景色。歴史が感じられる

桜のまち、弘前にある大学ならではの研究

日本でこれほど親しまれている桜ですが、花がピンク色に色づく仕組みは解明されていませんでした。屋外ではきれいなピンク色に染まるソメイヨシノ。室内で育てた切り枝では白い花が咲きます。
2020年1月、農学生命科学部の荒川修(あらかわ おさむ)教授と岩手大学連合農学研究科(弘前大学所属)の安松浩(あん しょうこう)さんは、弘前市との共同研究により、ソメイヨシノの花がピンク色に色づく条件を明らかにしました。

実験がスタートしたのは2016年。りんごの着色について研究していた荒川教授が、安さんに「桜の着色」を研究テーマとして提案したことがきっかけで始まりました。実験に使われたのは、弘前公園で剪定された由緒あるソメイヨシノの枝です。「やっぱりきちんと管理されている桜だから、安定して花が咲く。」と品質に太鼓判を押す荒川教授。弘前公園の桜を守り、育てている弘前市公園緑地課の「チーム桜守(さくらもり)」から、桜の枝の取り扱いについてアドバイスを受けながら、研究を進めました。

荒川教授と安さん
荒川教授(左)と安さん(右)

りんごの着色から発想。ソメイヨシノの花がピンク色になる仕組み

荒川教授は、りんごでは太陽光に含まれる“紫外線”と“青色光”により赤い色の主成分であるアントシアニンの生成が促されて、きれいに赤く色づくことから、“光”の影響に着目。安さんを中心に発光ダイオード(LED)の光で桜を照射する実験を行い、花の色づき具合や色素の量を調べました。すると、青色光の照射で花がピンクに色づき、青色光と赤色光を組み合わせることで、より鮮やかなピンク色に色づくことが判明。赤色光だけでは花は白いままでした。太陽光には青色、赤色の光が含まれます。対して蛍光灯にはほとんど含まれていないため、室内で育てたソメイヨシノでは花が色づかなかったことがわかりました。
「弘前の桜を楽しませてもらっている分、恩返しをするという気持ち。成果が出たことはとても嬉しい」と話す安さん。今後の研究については、「ソメイヨシノに青色光、赤色光に反応する受容体があり、相互作用があることが予測できた。遺伝子解析でより詳しい仕組みを解明し、特にいつの時期(蕾のとき、開花後など)に光に対する反応が強いのかを調べたい。」と展望を語りました。荒川教授は「桜は開花してから散るまでに色が変わっているように感じる。そこも実験を通して確認したい。実験で使っているものよりも大きい枝を、室内できれいに咲かせられないか、というのも今後の課題」と研究の可能性を示唆しました。

ソメイヨシノが色づく仕組みの解明が進むことで、室内でも光の当て方の工夫によって、弘前公園で咲く桜のように鮮やかな花を咲かせる技術に応用していくことが可能になります。桜の楽しみ方がますます広がっていくことが期待される、今後も注目の、弘前ならではの研究です。

色づき方の違い
室内で育てたソメイヨシノ(左)とLEDで青色光と赤色光を照射したソメイヨシノ(右)。(プレスリリース

2020年、弘前大学の桜を動画で

最後に、弘前大学文京町キャンパス構内で撮影した風景をまとめて動画にしました。
弘前大学の春を感じていただければと思います。

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