弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第23回は、教育学部で理科教育を学び、保健学研究科で放射線技術科学を専門とする小倉 巧也特任助教の指導を受けて、「放射線教育」の研究に取り組む千葉 咲楽(ちば さくら)さんです。「放射線教育」との出会い、出場したコンテストのことなどについて伺いました。
小学校の理科教員を目指し、弘前大学へ
—教育学部学校教育教員養成課程 初等中等教育専攻 小学校コース(サブコース理科教育)の志望理由を教えてください。
私はもともと学校教員になりたいと思っていて、最初は養護教諭を目指していました。理系が得意だったので養護教諭と考えていましたが、受験勉強をしていくうちに、理科の先生もありだなと思って。小学校の理科の教員が少ないということを聞いて、これはねらい目だと。
一人暮らしを始める予定だったので、地元の北秋田市から近い弘前大学に進学することを決めました。
このときは放射線教育についてはまったく視野に入れていませんでした。
教員との出会いから放射線教育の道へ
―どのような経緯で放射線教育に取り組むようになったのですか?
1年生のときに医学部系の軽音サークルMCQ(Medical Cool Quartet)に入っていて、今指導していただいている小倉巧也先生もそのメンバーでした。というのも、小倉先生は、弘前大学の医学部保健学科放射線技術科学専攻を卒業後、2年間診療放射線技師として働いて、それから「放射線教育」をするために教員の免許を取ろうと、教育学研究科に入学されていたので、当時現役の学生だったんです。小倉先生からいろいろな話を聞くことができて、放射線って漠然とただ怖いものだと思っていたんですけど、自分の今までの考えが塗り替えられて、それで興味を持ちました。
ゼミ選択も、小倉先生に勧められて、科学(化学)教材の開発やエネルギー教育の専門の長南幸安先生の研究室に決めました。
―小倉先生はどんな方ですか?
2年間現場で働いて、放射線教育をやりたいと思ってわざわざ大学に戻って勉強するなんてすごく志の高い人だと思いますし、今は教育学研究科を卒業して、保健学研究科で特任助教を勤めながら博士課程で学んでいるという話を聞いて、本当に熱心な人だと思いました。この人についていけば間違いないだろうと思っています(笑)―放射線に関する勉強をし始めたのはいつごろですか?
3年生の終わりくらいです。「私たちの未来のための提言コンテスト」(主催:原子力発電環境整備機構)に応募してみないかと、小倉先生に声を掛けていただいたことがきっかけでした。私の提言を読んでくれた人が放射線に興味をもってくれるきっかけになれば、医学系でなくても、放射線について考えてみてもいいんだと伝えられればと思って参加しました。「どうしたら、高レベル放射性廃棄物問題を多くの人たちが自分ごととして考えるようになるか?あなた(たち)は何をしますか?」がテーマで、私は教育職を目指す立場から、学校教育の現場でこの問題を問いかけていくことが効果的であること、親子が参加できる原子力施設見学会や説明会などの機会を設けることが大事であることなどを提言しました。結果「大学・大学院・高専4年生以上部門」で最優秀賞をいただきました。
同じような時期に「放射線教材コンテスト」(主催:公益財団法人日本科学技術振興財団)の案内もあって、ほぼ同時に準備を進めました。
小学生向けの教材を提案、「放射線教材コンテスト」への参加
ー放射線の勉強はどうでしたか?
専門的になると難しいですが、小学生に教えるための教材を提案するということで、自分も基礎から勉強していけて、入りやすかったです。
大学の講義の中では、私は教育学部の理科教育のコースなので、「霧箱の実験」という放射線を可視化する代表的な実験など、放射線を扱った回が2回ほどありました。
ー教材コンテストではどのような内容で発表したのですか?
タイトルとしては『ゲームで楽しく放射線防護「距離」の概念を導入する教育教材・演習法』です。放射線防護って難しく聞こえますけど、簡単に言うと大事なのは「距離」「時間」「遮蔽」です。放射線源と「距離」をとる、被ばく「時間」を短くする、放射線源との間に「遮蔽」物を置く、この3つが放射線防護の基礎です。そのうち、今回は「距離」をテーマに扱いました。放射線が出ているところから離れれば離れるほど、自分の身を守ることができます。その「確率」を小学生にわかりやすく伝えたくて、教材を考えました。今回用いたのがアクリル板2枚です。放射線が光と同じように放射状に広がっていくのをイメージしてもらうと、手前のほうが当たる面積が小さくて、遠くになればなるほど、当たる面積が大きくなりますよね。
放射線源から近い距離のアクリル板を4つのマス目状に、遠い距離のアクリル板を16個のマス目状に分けました。はじめに近い距離のほうで、「あなたはどこにいますか」と自分のいる場所を想定した番号を決めてもらいます。そのあと、1~4までの数字をランダムに32回提示して、自分が選んだ数字が呼ばれたら、その回数分放射線に当たったということで、回数を記録してもらいます。同じように、遠い距離のアクリル板で1~16の数字範囲で実施して結果を比べると、近いときほど放射線に当たる回数が多くなることが分かります。
一連のビンゴゲームのような実践を通して、「放射線源から離れれば離れるほど、身を守ることができる」ということを理解してもらうための教材です。
選考の結果、日本理化学協会特別賞を受賞しました。
教材を評価してもらえたことは嬉しかったです。実践しやすい教材なので、教員の方でもし放射線教育をどう実施しようかと考えている方がいたら、使ってみていただけたらと思っています。
福島県を訪ねて感じた「放射線教育」の必要性
ー「放射線教育」は全国的にどういう状況なのですか?
学習指導要領上では中学2年生と中学3年生の理科の分野で触れることになっています。小学生に教えるとなると、たぶん外部の講師を招いてという形で実施しているのではないでしょうか?
実際に福島県浪江町の小学校へ行って、小学3~6年生に放射線教育を実践する機会があり、小倉先生のアシスタントとして同行しました。
そのとき扱った話題が、「スーパーで、福島県で作られた桃と他の県で作られた桃が売られていました。福島の桃はもしかしたら放射線の影響で、人体に影響があるかもしれない、と言っている人がいます。みなさんはどちらの桃を買いますか?」と問いかけるものだったんですね。予想としては、放射線に対して怖いイメージがあって、他県のものを選ぶかと思っていたんですが、小学生は「福島のほうを買う!」「安いし全然安全だよ!」と。福島の人たちは自分ごととして放射線のことを捉えていて、小学生でもすごく知識があるということを感じました。親御さんから聞いたりもしているのだと思います。福島県以外で実践したら、また違う結果になるかもしれません。
ー放射線に対する意識として、どういうところが課題だと思いますか?
原発事故の影響で、未だに福島県が危ないと思っている人がいると思いますが、線量測定をしてみると、避難指示が解除された居住区では十分に除染が効いています。事実を知らずに差別や偏見の目を向けるのはおかしいと思います。小倉先生に福島県へ同行させていただいたときに、住民の方から放射線についての相談を受けている場に同席していました。現地の方が原発事故で受けた影響を伺っていると、長い時間が経っているにも関わらず、心の傷が残っている方もいて、複雑で…。そういう実態を広く知ってほしいと思っています。
通園に安心を、放射線量マップを作成
ー卒業研究は何をテーマに取り組んでいますか?
福島県浪江町のこども園周辺の放射線量を測って、線量マップを作っています。やっぱり子どもたちの通る道なので、保護者の方で心配に思っている方はいらっしゃるんですよね。データを収集して線量マップを完成させて、こども園の職員の方が保護者のみなさんに説明できるような資料を提供できればと思っています。
ーゼミの雰囲気はどうですか?
長南ゼミはすっごくいいです。アットホームな感じです。私の他にもう1人が「放射線」をテーマにした卒業研究に取り組んでいます。在学生、高校生のみなさんへは、ゼミ選びは大事ということをぜひお伝えしたいです。特に教育学部は他の学部と違って、2年次にはゼミに所属して、長い時間を先生と一緒に過ごすので、研究テーマももちろん大事ですけど、先生との相性も大事だよとお伝えしたいです。
大学生活を「新しいことを始めるための期間」と考えて
ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。
志を持って、なりたいものを持って、というのをよく聞きますが、私は最初大学に入ったときは、なんとなくといったイメージがあるくらいでした。大学ってものすごくいろんな活動をしている人がいて、いろんな先生がいて、自分じゃ想像もつかない人生を送ってきたような人がいるので、大学に入ってから考える、大学は考える期間と思ってもいいんじゃないかって私は思います。新しいことを始めるための期間というか。
東日本大震災は今高校生のみなさんも体験しているはずで、何かしら放射線について悪いイメージがあると思うんです。原発事故が与えた影響は大きいですが、エネルギー自給率が低く、原発に頼っているのが日本です。日本に住むからには放射線について知っておくべきだと思うので、「放射線教育」にも着目してみてはいかがでしょうか?