レジ袋の削減・有料化はみなさんの記憶にも新しく、身近なこととして感じられる環境問題対策ではなかったでしょうか。プラスチックごみ問題や持続可能な循環型社会の構築といった、21世紀に考えなければいけない課題は山積しています。プラスチックや農林水産業由来の廃棄物の有効利用に関する研究をしている吉田曉弘先生は、触媒やエネルギー貯蔵材料の研究を進めていましたが、弘前大学に赴任し、地元企業と連携したプラスチックごみの再利用できる仕組み作りの開発にも取り組んでいます。

ケミカルリサイクル技術の開発でSDGsの実現を目指す

地域戦略研究所 新エネルギー研究部門
吉田 曉弘(よしだ あきひろ)准教授

プラスチックごみリサイクルの実態

日本のプラスチックごみのリサイクル率は86%ですが、そのうち72%が「サーマルリサイクル」で行われています(2020年プラスチック循環利用協会)。サーマルは「熱」という意味で、サーマルリサイクルは廃棄されたプラスチックを燃やすことで熱エネルギーとして利用すること。「エネルギー回収」とも言われていますが、リサイクルの定義は国によって異なるため、世界的にサーマルリサイクルはリサイクルとみなされていないことが多いです。未だに埋め立てや単純焼却されている分も含めて、実質的なリサイクル率をさらに高めていくことが求められています。

リサイクルにはさまざまな方法があります。「サーマルリサイクル」のほかに、「マテリアルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」があります。マテリアルサイクルは、回収したプラスチックを再度加工して製品に戻すこと。ケミカルリサイクルは、廃プラスチックを化学原料として再利用すること。マテリアルリサイクルは、汚れが少なく単一素材で作られたPETボトルなど限られた廃棄物でしかできないことから、ケミカルリサイクルを増やし、循環型の社会をつくっていくということが大きな課題になっています。

単純にケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルを増やすだけと思うかもしれませんが、簡単な話ではなく、これらのリサイクルをもっと進めるためには、現状の分別では不十分です。プラスチックごみの中には、袋や容器に使われるポリエチレンやポリプロピレン、透明なトレイや醬油などの調味料の容器に使われるペット、トレイに使われるポリスチレン、ラップに使われるポリ塩化ビニルなどさまざまな素材が含まれます。

リサイクルしやすいようにプラスチックを種類別に分別できればいいのですが、多くの素材を分別するのはとても難しいですし、分離が不可能な複合素材も多く使われています。複合素材の分かりやすい例は、ハムやベーコンなどに使われる容器包装。外装や内装で複数の異なるプラスチックのフィルムが重なっているため、素材ごとの分離は不可能です。それに、現状でプラスチックごみとして分別回収されているものは、容器包装リサイクル法で定められた容リプラと呼ばれるものが主ですが、今後はより多様な素材から構成されるさまざまなプラスチック製品(製品プラ)も分別収集の対象になってくるので、プラごみの組成は一層複雑になってきます。

消費者にさらなるごみの分別を求めることは一つの方法ですが、プラスチックを扱う企業にも努力を求める必要があります。また、複合素材でもリサイクルできる技術を開発することもその一つの手でしょう。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受けて、プラスチックのケミカルリサイクル技術の開発について取り組んでいましたが、現在は、まさに素材が混合している実際のプラスチック廃棄物にも使えるケミカルリサイクル技術の開発を目指しています。一方で、ただ技術開発をするだけでなく、実際の社会的なニーズや動向に向き合い、SDGsの実現を少しでも助けられればとも思っています。

インタビューの様子

青森で始めたリサイクル研究

その意識で始めた研究の一つが、海洋プラスチックごみや農漁業廃材といった廃棄物の有効利用に関する研究でした。私自身が2017年から青森に住み、地域戦略研究所で地域課題に取り組む視点を持ったことが、これらの研究につながっています。

最初に取り組んだことは、貝殻などの水産廃棄物の肥料化でした。陸奥湾内ではホタテの養殖が盛んで基幹産業になっています。養殖に使う網かごや綱には小さい貝類が付着し、今までは水産廃棄物として処理されていました。臭気問題や不法投棄などもあり、有効利用することが一つの解決策になると考えられます。ウニ殻やカキ殻にも同じような問題があります。

目を付けたのは、稲作で発生するもみ殻。もみ殻は全国各地にあり、容易に手に入れることができます。バイオマスエネルギーとしての利用価値もありますが、もみ殻に含まれるシリカ灰と貝殻にあるカルシウムから稲作の肥料として使えるケイカルを生成できないかと研究を始めます。ケイカルは水田の土壌改良や作物の病害予防に適した成分なので、高品質米を作る青森県には需要がありました。

カキ殻などの水産廃棄物
カキ殻などの水産廃棄物
肥料としてケイカルを使用した田植えの様子
ケイ酸肥料を使用した田植えの様子

貝殻ともみ殻の2つの廃棄物を再利用することは、環境問題への寄与だけでなく、まさに循環型のリサイクルです。漁師にとっても農家にとっても、処分するために費用すらかかってごみとなっていたものが、食糧生産の活性化の一助になるのであれば、メリットが大きいと思っています。

青森の海岸のごみ問題

2020年に、海岸の漂流ごみを収集している青森のボランティア団体「BLUE PEACE」と知り合い、県内の海岸のプラスチックごみの収集が全く進んでいないことを教わりました。海岸に漂着しているプラスチックごみは、肥料化の研究を通して県内各地の海岸を訪れる機会があったため、気になっていたことでしたが、海からの漂着物には手を付けないように市町村では指導しているケースがあったり、処分場の問題から積極的に受け入れられない事情などがあったり、一筋縄ではいかず、行政の方にとっても困りごとであることが分かりました。

元々取り組んでいたプラスチックのリサイクル技術の開発で得た知見を活かし、何とかこの問題の解決に関われないかと思い、最初は漂着物の分布状況を調べるため、衛星画像などを使い、視覚化することから取り組みました。そこで分かったことが漂着物は西側の海岸線に極端に多く、東海岸にはほとんどなかったこと。その理由を風の強さを示したマップと比べたところ、海流で流されているごみは風の影響を受けて、岸に打ち上げられていることでした。

次に漂着プラスチックのリサイクルにどのような可能性があるのかという研究を始めます。まずは漂着プラスチックをどうリサイクルできるのか。集めた漂着物を地元企業と一緒に分別したところ、リサイクルできる漂着廃プラスチックが60~70%あることが分かりました。しかし、漂着廃プラスチックは海水由来の塩分を含むため、そのままではリサイクルできないのではないか、という疑問が浮かびました。では漂着廃プラスチックにはどの程度の塩分が付着しているのか。リサイクルできるための塩分量はどの程度なのか。実際に調査してみると、収集する場所や物によってはほとんど塩分を含まないものがあることがわかりました。これにより、リサイクルや熱回収に対するハードルが下がることを期待しています。今年、実際に海岸漂着プラスチックの大規模な収集とリサイクルの実証実験を行ってみる予定です。

科学的なアプローチにより塩分量に対する懸念が解消し、ごみであった漂着廃プラスチックが資源やエネルギーとしてうまく使えるとなれば、それを活用したビジネスが起こり、地域にとっても環境改善や観光客誘致、産業創出とさまざまなメリットにつながります。研究によって新しい産業が生まれ、地域活性化にもつながれば、青森にとどまらず、日本、さらには世界をも動かす可能性があると感じています。

この研究に興味がある方へ、吉田先生からのメッセージ

最近はCO2排出削減が社会の大きな課題となりつつあります。エネルギーや素材の利用に関しても今までと同じようにはいきません。その中で、エネルギーや素材を大事に使う、使えるものは繰り返し使うことの重要性が増し、そのための技術開発が強く求められています。将来も豊かな暮らしを送るために欠かすことができないSDGsの実現に向けて、ぜひ一緒にがんばりましょう!