弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第31回は、衛星開発の登竜門と言われる衛星設計コンテストにおいて、アイデア大賞、日本天文学会賞、最優秀模型賞の3賞を受賞した安田 伊吹(やすだ いぶき)さんです。宇宙を好きになったきっかけや衛星設計コンテストへの出場経緯、学生生活や今後の展望などについて伺いました。

小学生の頃に見た映画が宇宙への扉をひらく

— 弘前大学理工学部地球環境防災学科に入ったきっかけを教えてください。

小学校2年生のときに宇宙をテーマにしたドラえもんの映画を見たことがきっかけで、宇宙に対して漠然と憧れを抱くようになりました。学校の図書館で宇宙系の本を読んだり、親に天文台に連れて行ってもらったりして、少しずつ宇宙が好きになっていきました。

大学を選ぶ時も「宇宙の勉強をしたい」という思いはあったんですが、当時は宇宙のことを深く知らない状態でした。自分はどの道に進むべきなのか悩んでいたのですが、弘前大学理工学部地球環境防災学科は宇宙に限らず地球環境や気象、自然災害や防災など自分たちを取り巻く環境について広く学べるらしい、ということを聞いて。地球を取り巻く環境や人間生活について学んでから、本当に宇宙の勉強をしたいかどうかを見極めても遅くないような気がして、この学科を選びました。

第30回衛星設計コンテストにおいてアイデアの部の最高賞であるアイデア大賞のほか、日本天文学会賞、最優秀模型賞の3賞を受賞!

— 衛星設計コンテストについて教えてください。

衛星設計コンテストは、高校生や大学生などを対象とした小型衛星の設計や宇宙ミッションなどを創出するコンテストで、衛星開発の登竜門と言われています。今回受賞した「火星縦孔(たてあな)探査プロジェクト HOTARU」は、僕を含む4人で挑みました。メンバーは、今回のプロジェクトリーダーである東北大学大学院1年の阿依ダニシくん、慶應義塾大学2年の舘岡佳蓮さん、大分大学4年の佐藤海斗くんで、全員別の大学の学生です。

プロジェクトの概要は、月や火星で発見されている縦孔と地下空洞探査を目的とした探査機の開発・探査手法の確立を目指すもので、縦孔内の探査により生命の痕跡調査や火星の歴史を解明することを目的としています。
具体的には、元々阿依ダニシくんが開発していた火星探査UAV(飛行型探査機)に、自立移動する二輪式の小型ローバーCanSat*を取り付け、それを縦孔内に複数台降下させ地下空洞内を調査する、というものです。火星は月面と異なり大気が存在するため、火星探査UAVのような飛行型探査機の使用が可能になると考えています。

*CanSat(カンサット)…衛星と同じ機能を持った小型の模擬人工衛星のこと。空き缶サイズなので缶サットとも呼ばれる

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火星探査UAV(飛行型探査機)
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二輪式の小型ローバーCanSat
2022年11月12日(土)に東京都で開催された最終審査会では、ダニシくんがプレゼン発表を行いました。僕は当日現地に行けなかったのですが、YouTube配信で最終審査会を見守りました。
JAXAをはじめ宇宙開発の第一線で活躍されている方々が審査を行う中、アイデアの部の最高賞であるアイデア大賞のほか、日本天文学会賞、最優秀模型賞の3つの賞を受賞することが出来ました。

— 受賞を聞いた時はいかがでしたか?

最初は驚きが大きかったです。大学の講義と並行して、毎日膨大なタスクをこなしながら何とか完成させたものでしたし、周りのチームの完成度の高さに圧倒され、正直受賞は厳しいのでは、という思いもありましたが、応募した部門で1番良い賞を受賞できたこと、日本天文学会賞として探査ミッションの理学的意義が評価されたこと、そして作り上げた探査機が最優秀模型賞として評価されたことはとても嬉しかったです。時にぶつかり、苦しみながら積み重ねた努力が報われたという気持ちで、このメンバーでプロジェクトができたことをとても誇りに思います。

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受賞時の賞状とトロフィー

HASSE Space Schoolでの出会いがコンテスト出場のきっかけに

— 衛星設計コンテストに出場したメンバーとの出会いについて教えてください。

2021年の11月末から年末にかけて行われた、HASSE Space School(ハッセスペーススクール)という、オンラインで実施された宇宙系の教育プログラムに参加した時に出会いました。

HASSEについてはあまり詳しく公開出来ないのですが、ざっくり言うとNASAのエンジニアなど宇宙に関わるゲストスピーカーの講演を聞いたり、NASAが与える課題に対してチームで挑戦し課題を解決していく力を養う、というプログラムになっています。

約6週間のプログラムの後、HASSEに参加したメンバー内で「せっかく毎晩遅くまで頑張って作業して仲良くなったから、最後にみんなで何かやりたいね」という話になって。
そこで、毎年9月にアメリカのネバダ州で開催される小型人工衛星の打ち上げ競技会「ARLISS(アーリス)」に出場しよう、ということになり、CanSatを作るプロジェクトが本格的に動き出したのですが、進めていくうちにメンバーが忙しくなったり、出場条件に厳しい制約があるということが分かったりして、出場は諦めたほうがいいかもしれないという話になりました。

ARLISSへの出場を見合わせることになり、次の目標を決めかねていた時に、ダニシくんから「今回作ったCanSatをそのまま開発していけばプロジェクトとして学会で発表できると思うんだけど、一緒に出てみない?」と声をかけられました。当時はHASSEに参加したメンバーが10人程いましたが、「どんなに忙しくても最後まで取り組む覚悟のある人」を募り、最終的に残ったのが今回の4人でした。

元々は、日本最大級の宇宙系の学会である「宇宙科学技術連合講演会」で、僕たちの研究を発表することが最大の目的だったんです。発表に向けて準備を進めていく中で、「衛星設計コンテストなるものがあるらしい」という話がメンバー内で出て。学会への出場と並行して、衛星設計コンテストにも出場することが決まりました。

— プロジェクトの中で安田さんは何を担当していましたか?

最初は3DCADという設計ソフトを使ってCanSatや小型ローバーの設計を担当していました。ただ、みんな忙い時期だったので途中から役割分担がぐちゃぐちゃになってしまって。リーダーのダニシくんも海外留学で動けない期間があったので、全体のマネジメントや技術的な部分、実験計画書の作成なども含めて僕がサブリーダー的な感じで動いていました。4人とも住んでる地域がばらばらだったので、ZoomやLINE電話で話したり、オンラインで資料共有や進捗確認をしながらプロジェクトを進めました。

プロジェクトの実証実験の時はメンバー全員で集まることができました。防空壕が月や火星の縦孔と条件が似ていることから、大分県臼杵市にある防空壕を使い実験を行いました。実際に小型ローバーを走らせ、複数の機体がどのように連動するかを調査したり、計測データを基にした3D地図の作成などを試みました。この実験は、大分合同新聞にも取り上げられました。

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防空壕内での実証実験の様子
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実験を行うメンバーら

研究室訪問で決めたゼミ。市村先生の人柄に魅力を感じて

— 学生生活についても伺います。大学の授業、ゼミはどうですか?

1、2年次は地球環境や防災、自分たちを取り巻く環境や人間社会などについて勉強します。3年次の後期からは研究室配属になるので、より興味のある分野を深く学ぶことができます。僕は市村 雅一教授のゼミに所属し、「高エネルギー宇宙物理学(宇宙線物理学)」の研究をしています。大まかにいうと、宇宙から降り注ぐ様々な宇宙線(宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線)を観測し、高エネルギー現象や通過してきた空間の情報の調査などを中心としています。

ゼミの流れとしては、1つのレジュメがあって、ゼミ生で作業分担して割り当てられたところの資料作成をして、その中で曖昧なところを共有し、その後、先生から質問を受けたりみんなで考えたりしながら進めていきます。柔らかく言えば勉強会のような感じです。

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研究室での様子
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研究室には宇宙に関する書籍が並ぶ
市村先生のゼミを選んだのは、研究室訪問で話をしたことがきっかけでした。市村先生はすごく愛情のある方で、自分たちのような若い研究者を育てようという強い思いも感じました。僕が研究室にいるとよく声をかけてくれたり、「ここわからなくて」と聞くとしっかり教えてくださいます。そんな先生の人柄にも惹かれて、この研究室を選びました。

— 秋田ご出身ということですが、弘前での暮らしはどうですか。

僕、散歩が好きで夜歩いたりするんですけど、弘前は歴史がある街なので、歴史的な建物や弘前公園、街並みなどの景色を見るだけですごく落ち着くというか。本当にいい街だなと思います。
散歩は、プロジェクトで忙しい時、頭を整理したいなと思ったことがきっかけで始めました。抱えてる仕事の優先順位を整理したい時やプロジェクトから一旦開放されたい時、外の空気を吸いがてら散歩をするようになって。僕は色々じっくり考えたいタイプなので、忙しい時こそやってます。今は毎日一時間半ほど散歩するのが日課になっています。

宇宙と向き合いながら将来を見定めたい

— 今後の展望を教えてください。

まず第一に、今自分がやっている研究を頑張りたいと思っています。宇宙について深く勉強し始めたのは最近なので、研究をしながら自分に向いているものをじっくり考えていきたいです。もし将来宇宙に関われないとしても、今回のプロジェクトで学んだものは少なからず糧にはなると思っていて。大学院に進めばおのずと専門が定まってくるとは思うんですが、一口に宇宙と言っても、理論的な研究やロケット・探査機の設計、軌道をデザインするなどさまざまな分野があるので、自分がこれからどこを目指すかはもう少し時間をかけて見定めたいと思っています。

いろいろなことに挑戦し、失敗や挫折を糧に成長を!

— 受験生へメッセージをお願いします。

高校生の皆さんは勉強ももちろん大事なんですけど、いろいろなことに挑戦して「失敗」や「挫折」を経験してほしいなと思います。失敗や挫折から学ぶことってすごくたくさんあると思っていて。
実は僕、現役で大学受験に失敗して1年間浪人をしているんです。すごく落ち込んだし、親に迷惑をかけたという思いもあって辛かったんですが、その1年で自分を1から積み上げてきたからこそ今の僕があると思っています。当時通っていた予備校の先生が僕の背中を押してくれたことも、自分が前に進むきっかけになりました。挫折の経験と恩師との出会いがあったからこそ、人の話を真摯に聞けるようになったし、何事にも興味を持って取り組めるようになりました。

浪人を1年経験し、いろんな価値観が変わっていく中で唯一変わらなかったのが「宇宙が好き」という思いでした。今やっている宇宙に関する活動も、やらないと後悔すると思い飛び込みました。飛び込んでからは当然苦労もしましたけど、宇宙の最前線を一緒に学ぶ仲間と出会えたこと、一緒に研究が出来たことは本当に誇らしく思いますし、そこから得られたものは今大きくアドバンテージになっていると感じています。

宇宙が好き、興味がある高校生へ安田さんからメッセージ

宇宙に興味がある高校生は、今から数学と物理をしっかり勉強しておくといいと思います。宇宙の研究は数学や物理などの基礎知識が大前提にあって。一見関係無いような授業でも、実は全て宇宙に繋がっていたりするんです。
あとは、人と積極的に関わること。それによって入ってくる情報量も変わってくるし、宇宙の勉強やプロジェクトは人と協力しながら何かを成し遂げないといけない事が多くあるので。
最後に、宇宙が好きなら“やりたい”と感じたことは後先考えずに飛び込んでみることも大事ですよ!

(関連記事)■ 大学HP【メディア】「ASE-Lab.」のWEBサイトに学生のインタビューが掲載されました(2022/10/14)

Profile

理工学部 地球環境防災学科 3年
安田伊吹さん

第30回衛星設計コンテストにおいてアイデア大賞、日本天文学会賞、最優秀模型賞を受賞 。
秋田県横手市出身。秋田県立横手高等学校卒業後、弘前大学理工学部地球環境防災学科に入学。市村雅一教授の研究室に所属し、高エネルギー宇宙物理学(宇宙線物理学)をテーマに研究を行う。学外では、宇宙分野に興味を持つ学生同士で勉強会を開催するコミュニティ「ASE-lab.」の運営メンバーとしても活動。その他、東北の宇宙分野を活性化させる団体 「Tohoku Space Community」と東京大学を中心とした宇宙フォーラムの企画・運営を行う団体「宇宙開発フォーラム実行委員会」にも参加している。