弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第19回は、平成31年1月に海洋地球研究船「みらい」に乗船し、チリ沖での海洋調査に参加した 沼田 翔伍(ぬまた しょうご)さんと中尾 魁史(なかお かいし)さんです。調査で実際どのようなことをしてきたのか、岩石・鉱物学グループでの研究の内容や、今後の展望について伺いました。

大学で専門教育に触れてから、自分の進む道を選ぶ

―弘前大学理工学部地球環境防災学科を志望した理由を教えてください。

中尾さん:僕は仙台市出身なんですが、中学1年生のときに東日本大震災を経験しました。更に過去には、家族旅行でスマトラへ行ったときにスマトラ沖地震が発生して、偶然海外でもマグニチュード9.0以上の地震を経験しています。地震という自然災害の規模に圧倒され、大学で学びたいと思うようになりました。
ただ、高校3年生の時点でははっきり地震学に絞ることができず。地球環境防災学科の一番の長所だと思ったのが、他の大学に比べて学べる分野がすごく広いところです。大学に入ってから分野を決められる環境が魅力で、志望しました。

沼田さん:僕は、3年次編入で去年の4月に入学しました。
父親に連れられてよくキャンプや山登りに行っていたこともあり、もともと自然が好きだったんです。空で起きている現象のこと、日本で頻発する火山噴火や地震のことなど、地学全般に興味を持っていました。
高校卒業後は1年間浪人して、北見工業大学に進学しました。そちらでは雪氷学や寒冷地環境のこと、土木工学のことを勉強するつもりでしたが、やはり自分のやりたいことをやりたいという思いが強くて、弘前大学の編入試験を受け、3年生からこちらに。
研究する分野は弘前大学でいろいろ学んでから決めようと思い、1年間授業を受けて、今回の調査の話を折橋先生からいただいたことがきっかけで、今、岩石・鉱物学グループに在籍しています。

沼田さん(左)中尾さん(右)
沼田さん(左)と中尾さん(右)

プレートの沈み込みの謎を調査。研究船でチリへ

-海洋地球研究船「みらい」に乗船することになった経緯を教えてください。

沼田さん:最初は折橋先生の講義で、「『みらい』の調査が来年の1月にある。それに乗りたいやつはいるか」と募集がかかったんです。手を上げたのが4人。僕も手を上げました。誰が行くかは話し合って決めるよう言われて、研究したいことと調査の内容が近い僕が第一候補、中尾が第二候補になりました。

中尾さん:確実に連れて行けるのは最初1人だけということで、僕は予算が出るかわからない状況でした。それが折橋先生や小菅先生のほかに、東京大学地震研究所の岩森先生や木下先生のご協力の下、予算が出ることになり、僕も運良く行けることになりました。

沼田さん:船自体は12月に静岡県の清水港を出航していて、僕たちは現地時間で1月12日の朝にサンティアゴに着いて、14日に出航しました。14日から24日までは船の上での生活でした。日本の船なので、乗組員はほぼ日本人です。食べ物も日本食。船の上は日本、そこにチリの研究者が何人か住んでいるという感じでした。

中尾さん:僕たちが当時学部3年生で最年少でした。学部生が乗るということ自体が珍しかったようです。

ー調査の目的は?

中尾さん:地球表層のプレートは動いていて、プレートの境界部ではプレートが離れ合ったり、近づき合って衝突したり、他方に沈み込んだり、すれ違いが起きて断層ができていたりします。日本の近くの境界部では、古くて冷たいプレートが沈み込んでいる一方で、チリの近くでは若くて熱いプレートが沈み込んでいます。(日本の近くでは)力学的には重いから沈み込むという解釈ができますが、チリでは熱くて軽いものが沈み込んでいるので、そのことから、どのような地学現象が起こっているかを調査することが目的です。

沼田さん:沈み込みが発生している場所は実際に行って見ることができないので、(物理観測の結果から)構造や条件を考えて、推定するしかありません。より単純な構造をしている場所に行き、そこの岩石を採って調べる必要があり、そのときにチリが候補になります。チリ南部の西側に、マグマがわき上がって海洋プレートが作られる中央海嶺があり、それが南アメリカプレートの下へ、今まさに沈み込み始めているような場所があるんです。

中尾さん:白亜紀(約1億年前)には日本でもチリと同じ沈み込みが起きていたのではないかと考えられていて、チリを調べることがその証拠になります。

沼田さん:中央海嶺は日本の付近にないので、中央海嶺の岩石を採取するために行ったというところもあります。折橋先生が我々岩石の研究者には探検家の要素もあるとおっしゃっていました。研究に必要な岩石があると思ったら、どこであっても行きます。現に折橋先生は、あと足を踏み入れていないのは南極大陸だけだそうです。

海洋地球研究船「みらい」
海洋地球研究船「みらい」。2019年6月17日から9月26日まで国立研究開発法人海洋研究開発機構むつ研究所にて見学できる
※詳しくはこちら(JAMSTECホームページ)

研究が始まるまでの地道な作業。今後の課題の発見

ー実際の調査はどのようなことをしたんですか?

中尾さん:7時半に朝ご飯のベルがなって、9時頃から調査が始まります。

沼田さん:具体的には6項目のやることがあって。まずタイタオ半島、チリ三重会合点*1付近の海底地形の調査、次にシングルチャンネル音波探査装置での海底の浅いところの構造の調査、3つ目が東京大学地震研究所所有の広域海底地震計の設置。4つ目がピストンコアラー。海底の堆積物を採取するのと、槍のようなものに数センチ事に温度計をつけて海底の熱有量を量るのが一つの行程です。5つ目が、ドレッジによる岩石採集、大型のスコップのようなものをつり下げて海底を削って岩石を採取します。6つ目が、船上の観測装置での気象や風向の連続観測。
その中で僕たちがもらった仕事が、ピストンコアラーに温度計を取り付ける作業と、採取した堆積物のサンプリング。その他、ドレッジで引き上げられた岩石をより分けてきれいにし、採った岩石の構造を調べ、岩石記載の作業をしました。

*1三重会合点・・・地球の表面で3つのプレートの境界が交わる点

ー調査を経験してどうでしたか?

沼田さん:当時は「ドレッジ」などの専門用語もわからない状態でしたが、岩石を採ってくるところから研究は始まっている、その大変さを身をもって知りました。引き上げて岩石を分けてきれいにし、半分に切ったり叩いて割ったりしてやっと調査をするための試料が手に入る。今後の研究人生の一端を見ることができました。

中尾さん:岩木山の研究をするとなれば、自転車で2時間程度で採取地に行けるわけで。船に乗ってわざわざ外国の海底の岩から採ってきたというのがまず大きい経験ですし、この岩石は替えがないものなので、重みを感じながら研究ができ、すごくやりがいがあります。地上で採れるような岩石とはまったく違うんだなと。その分、モチベーションがあがりますね。

沼田さん:調査で苦労したのは船酔いでした。船酔いで思うように動けないのはしんどかったです。日程の後半は元気になったので、研究作業も順調にこなせました。慣れるものですね。

中尾さん:そういった面で3年から経験できたのは大きなアドバンテージだと思いつつも、辛かったですね(苦笑)
あとは研究対象がチリということで先行研究の論文を読むにあたって、英語の論文しかなくて。それを読むためには英語の知識が必要で、そこで躓きがありました。

沼田さん:海外の研究者とのコミュニケーションは英語ですし、語学力は身につけておくべきだなと実感しました。

中尾さん:研究者を目指すにあたって、必ず通らなければいけない道。英語力もそうですし、船での作業は今後経験することにはなると思っていたので、それがただ早まっただけです。今至らないところを考えると辛いですが、非常にいい経験をしたと感じています。

沼田さん:経験を通して得られたことだけでなく、いろいろな研究者の方たちとお会いして、そういった方との繋がりができたというのが、実は一番大きなことだと思います。

作業する二人
ピストンコアで採取した泥を数センチ毎に区切り、サンプリング。船での作業の様子

岩石からわかるさまざまなこと

ー採取した岩石はどのようなものなのですか?

中尾さん:これはだいたい2500メートル下の海嶺部から採ってきました。
2つ(深成岩)については3月に東京大学地殻化学実験施設の分析機器を借りて、ウラン・鉛年代測定法という方法で、形成年代を調べました。結果としては海でできた岩石ではないようです。チリ南部は最終氷期のとき、全体が氷河で覆われていて、おそらく陸で削られ、流氷となって海に流れている最中に氷が溶けて、落ちたものであろうと考察できます。これがもし海でできていればすごい発見だったんですけど。
まだ測定を行っていない岩石もあります。おそらく海でできた深成岩もまだあるかと思います。8月に六カ所村の環境科学技術研究所で岩石の化学分析をする予定で、楽しみです。

沼田さん:僕のはちょうど(海底で)マグマが噴出して、中央海嶺玄武岩というのが生成されていると思われる場所の岩石です。海底でマグマが噴出すると冷えて固まりますが、マグマはどんどん出てくるので、突き上がってあふれ流れて固まって、重なっていきます。その丸まって固まる形状が枕が並んでいるように見えるので、枕状溶岩と言われます。そこから採ってきた岩石です。マグマの表面が水中では急速に冷えるので、ガラス質のものが形成されます。ガラス質の部分だけをより分けて採取して、この中に含まれているネオン同位体を分析し、マグマの成分を調べて、今回採取したあたりのマグマの起源物質(マントル)の性質を調べるというのが僕の研究です。



枕状溶岩
参考:中央インド洋中央海嶺の枕状溶岩の様子。
しんかい6500にて撮影(ⒸJAMSTEC)

研究試料
研究試料(上:沼田さん 下:中尾さん)

石について説明する二人
岩石の説明をする2人。画面は枕状溶岩の画像(ⒸJAMSTEC

大学院へ進学。研究者の道へ

ー今後の展望を教えてください。

中尾さん:大学院に進学するのが第一目標です。その2年間でチリでいただいたテーマに関する論文を一本まとめあげ、公の場で発表したいです。将来は研究職を考えていますが、まずは大学院で2年間どれだけやれるのか、やってみてから決めていきたいと思います。

沼田さん:僕も大学院に進学します。チリの研究は卒論を書いたあとも継続して、内容を深めていきたいです。博士まで進むつもりで、今は希ガスの分析をやっていくので、その後火山ガスの成分の分析にも手を広げていこうと思っています。火山研究に携わりたいというのはずっとあって、文部科学省が推進している研究プロジェクトがあることを知り、現在の研究と繋がることで興味が湧きました。

ピストンコアラ-
ピストンコアラーを囲んで集合写真

足下全てが研究対象!岩石からわかる地球の成り立ち

ー岩石・鉱物学の魅力はどんなところだと思いますか?

中尾さん:岩石・鉱物学では、ある仮定の下にシミュレーションをして、データを出すような机の上での研究ではなく、実際にフィールドに出て研究試料を採取し、岩石一個に対してとても細かく分析します。部分的(ミクロ)な研究ができるのは岩石学の魅力です。

沼田さん:気象や宇宙の話は花形的で、目に見えやすい魅力があるのに対して、岩石、地質、化石はあまり目立たないかもしれません。僕自身、自分が岩石学に進むとは、と思っています(笑)岩石はもともとマグマなので、火山と密接に関わっているんですよね。岩石と向き合うといろんなことがわかります。地球の成り立ちに繋がってくるので、規模がすごく大きいです。最初から最後まで自分の手を動かして、いろんなところに出かけて研究できるのも、岩石の魅力です。外に出たい人にはお勧めですね。

中尾さん:僕たちは外で遊ぶのが好きなので、それも研究の一部としてできることが実は一番大きいです(笑)アウトドアが好きな人は興味を持つのではないですかね。
余談ですが、沼田とは、僕が自転車で北海道一周をしているときに、彼も偶然同じ時期に一周していたことがきっかけで出会ったんですよ。

沼田さん:僕はちょうど反対側を走っていて、中尾と会ったのは僕の友達だったんですが、弘大に編入することは決まっていたので、その友人経由で知り合いました。変な縁があって、彼とはずっと仲良くやってるんです(笑)

ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。

中尾さん:岩石・鉱物学をやる人は変わった人が多い気がしますが、僕らみたいな変な人がいれば岩鉱グループをおすすめしますね(笑)悩んでいる方へは、弘前大学は、最初にも言ったように分野が広くて、何を研究するか悩める期間があるので。高3で無理に決めなくていいとは伝えたいです。

沼田さん:大学選びで悩むと思うんですけど、偏差値や名前じゃなくて、何がしたいか、何ができるのかというところで選んでほしいです。研究する人は特に。決められないのであれば、弘前大学のような手広くやっているところを選ぶのもいい選択だと思います。経験と知識が進路を決めるのにも重要な素材になると思うので、「みらい」の見学会もやっていますし、いろんな研究所の見学会もいくらでもあるので、そういうものにも積極的に参加していけば、わかることも増えるのではと思います。

バルパライソにて
首都サンチアゴのダウンタウンにて、チリ大学の大学院生らと
チリで買ったTシャツ
チリで買ったTシャツは思い出の品

◇2人が所属する岩石・鉱物学グループの紹介動画はこちらからご覧いただけます!(YouTube)

海洋地球研究船「みらい」を見学できます!

■見学が可能な日:2019年6月17日~9月26日(月曜日~金曜日※祝祭日を除く)
■場所:国立研究開発法人海洋研究開発機構むつ研究所
 ※見学には申込みが必要です。詳しくはこちら(JAMSTECホームページ)

Profile

理工学部地球環境防災学科4年
沼田翔伍さん・中尾魁史さん

海洋地球研究船「みらい」チリ沖の海洋調査に参加 。
沼田さん:東京都出身。都立豊多摩高等学校を卒業後、北見工業大学へ入学。平成30年4月に弘前大学理工学部地球環境防災学科へ編入。折橋裕二教授と佐々木実講師の岩石・鉱物学グループに所属し、「南チリ海嶺系,セグメント1における中央海嶺玄武岩のNe同位体組成の特徴」をテーマに研究する。山岳部に所属している。
中尾さん:宮城県仙台市出身。仙台市立仙台高等学校を卒業後、弘前大学理工学部地球環境防災学科へ入学。沼田さんと同様折橋教授・佐々木講師の研究グループに所属し、「チリ三重会合点近傍に位置するタイタオ海嶺から採取した深成岩と火山砕屑岩のジルコン結晶のU-Pb年代測定および岩石学的研究」をテーマに研究する。サイクリング部に所属している。