新型コロナウイルス感染症の流行により、緊急事態宣言が発令され、一時期は外出自粛の日々が続きました。
弘前大学では前期の授業をメディア授業(オンライン・オンデマンド等の遠隔授業)としていることもあり、学生のみなさんは今も家で過ごす時間が長く、運動量が減っているのではないでしょうか?

普段と違う生活の中で、健康を保つため、生活リズムを整えるため、重要なのが"食事"です。

そこで今回は、6月から始まった学生支援事業「100円夕食」の取り組みをご紹介します。
また、健康的な食生活を送るためのアドバイスを、食品機能科学を専門としている農学生命科学部 岩井邦久教授からいただきました。

コロナ禍の学生を支援!「100円夕食」

100円夕食は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、経済的に困窮している学生への支援、また、栄養面での支援を目的として令和2年6月5日(金)にスタートしました。450円相当の定食を100円で提供しています。
この取り組みは全国のみなさんからお寄せいただいた寄附金を活用して実現しました。
当初200食限定であったところ、盛況を受け、6月12日(金)からは300食提供しています。弘前大学生協文京食堂で、前期期間中(令和2年8月6日(木)まで)の平日に実施します。

ある日のメニュー「唐揚げおろしポン酢セット」

メニューはごはん・味噌汁・サラダ付きのワンプレートのおかず。7月6日(月)からは、学生の栄養面を重視して小鉢も追加!
ごはんは大・中・小から選ぶことができ、1杯までおかわりできる。

メニューの一覧はこちら
(弘前大学生協ホームページ)

からあげおろしポン酢セット

自粛期間中の食生活。100円夕食はどうですか?

100円夕食を食べに来ていた弘大生に、自粛期間中の食生活と、100円夕食の感想を聞いてみました。

― 緊急事態宣言が発令され、外出を自粛していた期間はどんなごはんを食べていましたか?

「むしろ1人だしあまり食べていなかった」「自炊するときもあったけど、カロリーメイトで済ませるときもあった」という食が細くなったかなという声の他、野菜も食べるために「ひたすら鍋を作っていた」「いつも野菜炒め」という声も。栄養や運動量の低下を意識して自炊をしていた学生もいるようです。

― 100円夕食はどうですか?

「100円で栄養が摂れてうれしい」「自分で野菜を買うと高いのでありがたい」「100円なので+αで食べたいメニューを追加することができる」など、100円夕食のお得さ、ボリュームに満足な声の他、「友だち同士集まれるのでいい」「(1年生専用席があるので)ここなら初対面でも話せる」「ここでできた友だちがいる」など、友だちに会えたり、知り合えるきっかけになったりすることを喜ぶ声も聞かれました。

1年生専用席
食堂に設けられた1年生専用席

食堂を勉強の場、友達との交流の場として活用を!

ごはんを食べる場所だけではなく、出会いの場にもなっている食堂。
弘前大学生協 文京食堂の三浦貴司店長にお話を伺いました。

― 100円夕食の利用率はどうですか?

毎日300食完売しています。利用券を1年生限定で配布する曜日・時間帯(月・水・金 18:30~)を作っていますが、1年生も毎日100人くらい利用してくれているようです。

― 7月からのメニューについて教えてください。

7月6日(月)からは、学生さんからの「魚料理を食べたい」という声を受けて、さかなフライセットをメニューに加えました。栄養面も考えて、メニューに小鉢も追加しています。
7月・8月には特別メニューの日も設けました!7月14日(火)には通常でも人気No1でオススメの鮭丼、8月4日(火)にはまぐろたたき丼を提供します。

― 学生にメッセージをお願いします。

1年生のみなさんは教室での授業がなく、友だちができない、先輩と知り合えないという悩みがあると思います。食堂には1年生専用席を設けて、初めて会う1年生同士が交流しやすくなるような仕掛けを作っています。食堂に1日1回顔を出して、活用してほしいです。
食堂としては11時からですが、場所としては9時から開いているので、食べるだけでなく、勉強や友だちと交流する場所としてぜひ使ってください。

※令和2年7月13日現在、文京食堂は座席数を通常の3分の1に減らし、座席間を空けるなど、感染症対策を実施のうえ営業しています。

三浦店長

コロナ禍で大学生が陥りやすい食生活

ここまで100円夕食について紹介してきましたが、普段の食生活ではどんなことに気を付けていけばいいのでしょうか?
コロナ禍で大学生が陥りやすいと考えられる食生活やバランスのいい食事をするためにどんなことに気を付ければいいのか、食品機能科学を専門としている農学生命科学部 岩井邦久教授にお話を伺いました。

― 外出自粛の中、大学生の食生活にどんな問題があると考えられますか?

外出自粛だと人と会わないことが多くなりますから、食べるものも自分で決めることになりますよね。友達と一緒だと、友達に付き合って何か普段では食べないものを食べることもあると思いますが、そういうのがないので、どうしても好きなものに偏りやすくなることがまずあると思います。

それと関連して、食材の種類が少なくなる。それで栄養が偏ってしまう。

もう一つは、行動範囲も狭くなりますから身体を動かす量が減るので、思っている以上に消費するエネルギーは摂取エネルギーよりも少なくなる。それが続くと肥満に繋がる可能性が高くなりますね。

さらにそれらが重なると、「どうしても普段と違う」ことがストレスになって、人によっては暴飲暴食したり、あるいは反対に食べなくなったり、ということが出てくると思います。

また、これからの季節だと衛生管理や食中毒も気をつけないと。特に、自炊に慣れていない人は注意が必要ですね。

― 学生からは鍋ばかりになっている、食べなくなったなどの声がありました

野菜を食べる必要性からいうと、野菜は必ずしも生でなくてもいいんです。生野菜では食べにくいけど鍋なら食べられるという人なら、それでOK。むしろ、かさばる生よりも多く食べられるし、理にかなったやり方です。
自粛で一人だから食べなくなったというのは、食事は食べ物の美味しさだけでなく、一緒に食べる楽しさや心の豊かさというのがありますから、本当に最小限しか食べない、という状態になっていたのではないでしょうか。栄養不足の心配があります。おそらく運動も減って、太っちゃいけないと思うとなおさらそうなるでしょう。

インタビュー中の岩井先生
インタビュー中の岩井教授

大学生にとってバランスのいい食事とは?

― 大学生にとって「いい食事」とはどのようなものでしょうか?

基本的なところで5大栄養素というのがあります。炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルですね。5つの栄養素が3つの働き(エネルギーになる、からだをつくる、体内での反応を調節する)をしているので、そこを理解できるとバランスはとれます。
炭水化物・たんぱく質・脂質は「エネルギー」になります。ただ、エネルギーになるからどれを摂取してもいいかというとそうではなくて、3つのバランスが大事です。具体的にどうしたらいいかというと、大人だと1日に必要なカロリーの60〜65パーセントを炭水化物から、20パーセントを脂質から、残りをたんぱく質から、というのが目安になります。2000キロカロリーで計算すると、炭水化物を約300〜325グラム、脂質を約45グラム、たんぱく質は身長と標準BMI値から計算しますが、男性が60グラム、女性が50グラムが目安になっています。学食でもメニューやレシートにカロリーなどが載っているので、それを見ながらうまく調節すればいいんじゃないかと思います。
当然これは一般的な話なので、運動する人、身体の大きな人はもう少し多めに摂る必要があるでしょうし、普段よりも運動が減っているのであれば、特に脂質は控えめにする注意が必要です。

摂取量目安図

― 適切なバランスを意識するだけで、毎日の食事を見直すことができそうですね。

あとは、野菜はカロリーと関係なく積極的に摂るべきですね。国でも1日350グラムという目標値を出していますけれども、日本人に不足しているのは食物繊維です。野菜をたくさん摂ったからといってカロリー過多になることはまずありません。また、野菜を摂取するもう一つの目的は、ミネラルやビタミンを摂るということです。生で食べようとすると結構かさばりますよね。だから炒めたり湯通しすると良いです。特に、にんじんやかぼちゃに含まれるカロテンなどの油に溶けるビタミンは、生で食べるよりも油でちょっと炒めたり、ドレッシングをかけたほうが体内に吸収されやすくなります。

― バランスのいい食生活を送るため、まず始められそうなことはありますか?

今話したことを完璧にやることはまず無理なんですよ。量のこともカロリーのことも、あくまで目安であることを理解してください。
僕は、2〜3日くらいのスパンで自分の食事を振り返って、こういうのが多かった、こういうのが少なかったっていうことに気づき、次の2〜3日でそれを補うことができれば長い目で見たときに過不足はなくなるんじゃないかと思っています。
毎日毎回几帳面にやるというのは無理があって、完璧を目指すと一回挫けた時に立て直せないんですよね。
厳密なことではなくて、2〜3日の幅で振り返ってみたらどうでしょうか。

また、最初に自粛生活での食事は好きなものに偏りがちだと話しましたよね。好きなものだけ食べると言うと、罪悪感を感じるかもしれませんが、食べないよりは絶対に良いです。ただし、嫌いなものの中には不足している栄養素があるはずなので、好きなものを食べるなら、嫌いな食べ物も何か一つ食べる、それがバランス改善の第一歩だと思います。友達と食べれば、もし苦手なものを全部食べられなくても友達が食べてくれる、そういうのがあればいいんでしょうね。

― 6月から100円夕食が始まっています。こちらのメニューはどうでしょう?

本来は400円から500円くらいのメニューということでお得ですよね。温かいごはんというのもとても良いと思います。
1食のカロリーという面では十分足りていると思います。メニューの写真を見る限りですが、色のついている野菜も一緒に食べると良いと思います。例えばトマト。赤とか黄色など複数の色の野菜を摂るように心がけるのがポイントです。あとは不足しがちな食物繊維です。7月からの新しいメニューでは小鉢もつくという話でしたので、例えばひじきなどで補えればいいですね。
もう一つ気を付けてほしいのが、味の濃さです。例えばサラダのドレッシングは、かける前にメインの料理や味噌汁とかを一口食べてみて、もし十分味が濃ければ使わないなどの工夫がいいかもしれません。

6月の100円夕食メニュー
6月のメニュー
7・8月の100円夕食メニュー
7・8月のメニュー

一つでもやれることを見つけて

― ちょっとした心がけで健康的な食事にしていけるんですね。

食事では「彩をよくする」というのがわかりやすいと思います。味噌汁も具をいろいろな食材で多めにしてみると、塩分も減らせますしね。
おやつや小腹が空いた時には、菓子パンやスナック菓子よりも果物やシリアルみたいなものにするといいですね。ビタミンや繊維の補給にもなります。
それと大事なのは牛乳です。歳をとると骨にカルシウムはたまらなくなるといわれています。学生のうちに骨にカルシウムをためておくことが重要です。

そして、必ず3食食べることですね。100円夕食があるから昼食を抜くなんていうのは本末転倒です。
また、大学に行かない・外出しないために、ずっとパジャマで過ごす学生もいるかもしれません。つまり、オンラインで授業は受けるけど身体や気持ちは休日状態。そうすると通学できるようになってから1日のリズムを作るのに苦労すると思います。反対に、これまで夜のバイトとか飲み会などで不規則な生活だった人は、今はリズムを正常に直せる機会でもあります。
朝空腹で起きて、食べて動き始める。朝は、バナナやヨーグルトだけでも良いから食べるべきです。食べることでスイッチが入り、自然と生活のリズムも改善されると思います。

― 食事を楽しむという意味で、青森に来たからには食べてほしい食材はありますか?

やっぱり季節があるので、その時その時で美味しいものを食べてもらうのが一番いいと思います。だから今の時期だとさくらんぼ、この後はメロン、スイカとか。弘前大学が関係している食材といえば、カシスとかブルーベリーもこれからです。青森県は海産物も豊富です。今美味しいのはホヤなんですよ。ホヤは三陸から北海道が産地で、知らない人や食べたことのない人がいると思いますが、8月まではホヤが美味しい時期です。ホタテも美味しくなります。十三湖と小川原湖で獲れるしじみも有名です。冬はなまこ、アンコウとか。

野菜だと今はソラマメです。そのあとは夏野菜と言われるナス、きゅうり、かぼちゃとか。冬になると長芋とかですね。長芋やオクラなどネバリのある食材は胃腸にも良いですから。

りんごはみんな知っていると思いますけど、県外から来た1年生の中には『やっぱり青森に来たからにはりんごを食べてみたい』って言っている学生がいました。りんごも色んな品種と味がありますから食べ比べてほしいです。

長芋やホタテなどは、普通に使われる食材なんだけれども、旬の季節に食べて、『新鮮で美味しい』っていうことをわかってもらえるといいですね。普通の食材っていうのは長く頻繁に食べるわけですから、それを考えると、学生が例えば青森の長芋はやっぱり美味しいと感じてもらえると、卒業後、青森にいても県外に出てもずっと食べてくれると思うんですよ。大間マグロのような特別な食材じゃなくても。そういう風になれば理想かなと思います。

― 最後に学生にメッセージをお願いします。

食事のことはあまり難しく考えずに、2〜3日くらいのスパンで自分の食べているものを振り返り、何が多いか少ないかを考えてみましょう。それに気づけば、食生活が乱れることは少ないと思います。まず、些細なことでいいですから一つでもやれることを見つけましょう。朝食を摂らなかった人が毎朝ヨーグルトを食べるようになる、それだけでも変わっていくと思います。そして、美味しいものを美味しいと思えるように食べること。食事は栄養素を摂るだけでなく、心の豊かさにもなりますから。心身ともに健康な状態で登校再開を迎えてほしいです。

インタビュー中の岩井先生

岩井教授からのお知らせ

僕が代表をしている青い森の食材研究会が発行した「青い森の機能性食品素材ハンドブック」という小冊子があります。青森県産食材の栄養や機能性をまとめたもので、ご紹介した食材も載っています。
例年授業(教養教育科目「青い森の食材機能学」)で配布しているのですが、科目を履修していない学生、一般の方も含めて、読んでみたいという方は弘前大学研究・イノベーション推進機構(0172-39-3912)までお問い合わせください。
弘前市内の各所にも置いていますので、ぜひ手に取ってみてください!

※設置場所:弘前市役所商工部産業育成課窓口 7/14時点

青い森の機能性食品素材ハンドブック
青い森の食材研究会ホームページはこちら

健康的な食生活を!

感染予防のためにも、まずは日頃から身体の健康を保つことが大切です。

自分の食生活を振り返って、できるところから始めてみましょう。

最近食べる量が減っているかも、野菜を食べられていないかも、という学生のみなさん。ひとまず友達を誘って100円夕食に来てみませんか?

賑わいをみせる食堂