弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』、第25回は、近江 航(おうみ わたる)さんです。インテリア業界の大手であるニトリに就職を決めた近江さん。他学部の教員である教育学部美術教育講座の石川善朗教授との出会いやインテリアに興味を持った経緯などについて伺いました。

将来の選択肢を広げるために入学

—理工学部機械科学科の志望理由を教えてください。

地元が北海道で、国公立で地元に近い大学を探した時に弘前大学があって。定員が多くて、就職の間口も広いと聞いていたので、理工学部の機械科学科を志望しました。
将来の夢とか、何かへの強い興味もなくて、とりあえず将来の選択肢を広げておこうと高校の時は思っていました。

理工学部4年近江さん
インタビュー中の近江さん

こだわり、極めることのかっこよさ

—教育学部美術教育講座の石川善朗教授のお家へ通っていると伺っています。
 どんな経緯があったのでしょうか?

2年生のときに、一人で何かを完結してみたい、と思って、バイトで貯めたお金でニューヨークを一人旅しました。それがきっかけで、いろいろ踏み出してみよう、と思うようになり、去年は海外を何カ国か一人旅して歩いていました。


弘前大学理工学部4年
ニューヨークの街並み
弘前大学理工学部4年
タイの寺院「ワットアルン」
自分の名前(ワタル)と発音が似ているので、外国人の旅人と話のネタに


そういう「一歩踏み出そう」、というのが日常でも習慣になってきていて、去年の夏頃に、西目屋村のブナコ(ブナの木から作られる木工品)の工場に製作体験をしに行ってみたんです。そこに石川先生が載っている雑誌があって。石川先生がブナコの製作に関わっていたので雑誌が置いてあったのですが、その記事にご自宅の“シアタールーム”のことが書いてありました。私は映画を見るのも好きだし、面白そうな先生がせっかく弘前大学にいるなら会ってみたいと思い、メールをしてみました。そしたら家に来ていいよということになり。それから通わせてもらえるようになりました。

―石川教授のお家には今も通っているんですか?

そうなんです。見せてもらった映画は70本くらいになりました。
一番最初に見せてもらったのは「All You Need is Kill」というSF作品で、日本のライトノベルがハリウッドで映画化されたものです。面白い映画でした。
自分は「映画好き」と言っても全然詳しいわけではなくて。石川先生のお勧めを見せてもらって世界が広がっています。

石川先生の家のシアタールームはすごく映画を観る環境にこだわって設計されています。もうスクリーンで観ることはできないような昔の作品も、最高の環境で見ることができて、毎回感動しています。

―石川教授はどんな先生ですか?

すごく知識が幅広くて、なんでも教えてくれます。
美術の先生として、専門にされている分野に明るいだけでなく、美術をやるからこそいろんなものを知っていなきゃいけないとおっしゃって、映画に出てくる「銃」とか「船」とか、気になったものは全部一通りプロ並みに知識を持っているんですよね。どの分野でも一流を極めている印象があって、自分も妥協せず、若い頃から本物、良いものに触れていきたいと思うようになりました。

弘前大学理工学部4年
石川教授自宅のシアタールーム

石川教授との出会いから広がった興味

—就活のことについて伺います。どのような経緯でニトリの選考を進めることになったのでしょうか?

もともとインテリア業界に興味があったわけではなかったんですが、石川先生が自宅のシアタールームを自分で設計したという話を聞いて、かっこいい!と思い。その他にも、例えば弘大カフェの中の家具や看板のデザインをされたことを知ったり、実際に商品化された製品を見せてもらったりする中で、商品開発やインテリア、部屋のレイアウトといったことに興味を持つようになっていきました。

ちょうどその時期に弘前で就活イベントがあって、ニトリが来ていて。そのイベントをきっかけにニトリのインターンシップに進むことになりました。



弘前大学理工学部4年
弘大カフェ内装。家具にもこだわりが
弘前大学理工学部4年
同じく看板。弘前大学創立70周年の記念に設置

知識をいかに使っていくかが大事

内定が決まるまで、自分の進路は本当にこれでいいのかなというのは悩んでいました。それこそもともとは機械系で就職の間口を広げることを目的に大学に入ったので、機械系じゃない就職先に進むということに迷いがあって、石川先生に相談をしたことがありました。そうしたら、「そのまんまの理工の知識がニトリで働くことに繋がるんじゃなくて、理工で培ってきた『考え方』とか『プロセス』を使っていけるんだから、むしろマイノリティ側の考え方で仕事できるのはいいことじゃない?」と言ってもらえて、確かに、と。それで迷いがなくなりました。

―実際理工学部での経験が仕事に役立ちそうだと思うことはありますか?

工学系だと実験をする時に“類推”をします。きっとこうなるんじゃないか、こういう結果になると思うからこうしてみようって。
ニトリでは、数年おきに部署異動を繰り返す、「配転教育」という独自の教育制度があり、半年に一度キャリアプランを作成し、“目標から逆算して今の自分を見つめ直す”機会が設けられます。
大学時代、実験を重ねることで身に付いた“類推”の考え方と実践のプロセスを、仕事や自分のキャリアプランを考えていくことに生かせればと思っています。

理工学部4年近江さん

総合大学だからこそできる、分野を越えた学び

—学業のことについても伺います。
 卒業研究では何に取り組んでいるのですか?

特に私は金属の銅の強度を調べる実験をしていて、卒業研究のテーマは「極低温多軸鍛造によるCu合金の特性改善」です。銅を機械で潰すのを繰り返して、強度の上がり具合を調べています。
「極低温」というのは絶対零度に近い極めて低い温度で、私の研究室では液体窒素を使っています。極低温の中で銅を潰すとさらに強度が上がると考えられています。多軸鍛造というのは、いろんな方向から潰すことで、それによって中の構造が変わって、強度が上がるということを実証しようとしています。
それこそ先ほどは類推の話をしましたが、商品開発において物質の強度の知識は必須なので、今やっている知識がダイレクトに活かせるとも思っています。

—専門以外でも、今まで大学で受けた授業でおもしろい授業はありましたか?

今年の集中講義で受けた、それこそ石川先生の映画史は特に面白かったです。同じ監督や俳優で、比べて見てみるとかはしたことがなくて。映画史を受けたり、石川先生のお家で映画を見たりしているうちに、いろんな見方があることがわかってきて、知識も増えて、映画を見るのがさらに面白くなってきました。
石川先生に出会ったのが3年生の秋頃だったので、「総合大学なんだから教養教育科目とか、他の学部の先生がやってる講義ももっと受ければよかったのに、お前もったいないな」と言われ。本当に後悔してます。最後にこういう学部を越えて面白い授業を受けられて、総合大学に来てよかったと思ってます。

弘前大学理工学部4年
石川教授の家に通っている友だちと

いろんな人に会ってみて!

ー最後に受験生へ向けてメッセージをお願いします。

私は石川先生と今出会えてよかったと思っています。もう一人、バイト先の社長さんからもとても影響を受けていて、「いろんな発想をするときに、一見関係ないような知識も使う」「本を読んだほうがいい」ということは共通して言われます。だからこそすごく大事なことなんだと思ったり・・・大きい財産になっています。その二人に出会えただけでも、弘前大学に進学することを選んで正解だったと思えます。
高校生のみなさんは、興味を持ったらとにかくいろんな人に会ってみるのがいいんじゃないかと思います。

大学に入ったらとりあえず勉強だけじゃなくて、いろんなことに興味を持って挑戦してください。
就活をしていて思いましたが、面接に向けて準備しようとした時に、エピソードで困る人がいると思います。1年生の時から自分の好きなことにガンガン取り組んでいたら、面接の時は自然と自分の話したいことが出てくると思うんです。就活に向けてというわけではないですけど、好きなことにひたすら取り組んだ方がいいんじゃないかと思います。興味を持ったら積極的にやってみるというのが大事だと思います。

近江さん(左)と石川教授(右)

思い出の品々・・・

石川教授から薦められて読んだ本「はだかの太陽〔新訳版〕」(アイザック・アシモフ(1957).小尾芙佐訳(2015).早川書房)。「コロナ禍の現状と重なる部分があり、考えさせられました。」
Dolce & Gabbanaのネクタイは卒業の前祝いに石川教授からもらったおさがり。「卒業できなかったら返せと言われてるんです(笑)」と近江さん。

理工学部4年近江さん

Profile

理工学部機械科学科4年
近江 航さん

株式会社ニトリに内定 。
北海道岩見沢市出身。北海道岩見沢東高等学校を卒業後、2017年に弘前大学理工学部機械科学科へ入学。佐藤裕之教授・峯田才寛助教の研究室に所属し、「極低温多軸鍛造によるCu合金の特性改善」をテーマに卒業研究に取り組む。3年次秋頃から教育学部美術教育学講座の石川善朗教授と交流、映画やインテリアなどに興味を広げる。最近観た映画で面白かったのは「ロードオブクエスト」(疲れたときに観たら笑えるコメディです)。