地域を観察して、真理を探究する

弘前大学ではこの度、弘前大学太宰治記念「津軽賞」地域探究論文高校生コンテスト*を立ち上げました!
2022年夏から募集を開始する予定です。

変化が激しく、何が起こるかわからない現代社会。
答えがただ一つではない複雑な問題に、柔軟に立ち向かい、よりよい未来をつくっていくために、
求められているのが“探究する力”です。

高等学校学習指導要領の改訂により、2022年度から「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変わります。

探究するとはどういうことなのでしょうか?

今回はコンテストにちなみ、弘前大学で地域の課題に着目し、探究に挑み課題を解決するための方法を探ってきた教員にお話を伺いました!

*弘前大学太宰治記念「津軽賞」地域探究論文高校生コンテスト


弘前大学の前身の一つである旧制官立弘前高等学校で学んだ太宰治。
小説『津軽』(1944年)は、地域の地誌、地域論として読むこともできます。

高校生のみなさんが自ら地域を探究することを通じて、自分が本当に学びたいことに気づいてもらうことを目的に、地域論文コンテストを実施します!

■詳細はこちらから

雪の重さに負けない枝を作るには?果樹の枝折れにアプローチ
理工学部機械科学科 藤﨑和弘准教授

― 先生が取り組んでいる「地域に関する研究」の概要を教えてください。

我々の日々の生活では雪の存在を忘れることはできません。私は千葉県出身ですが、北国での生活が20年近くになりました。雪とともに過ごす冬の不便な生活を何とか改善できないかと思いつつも、いつも見て見ぬふりをしてきました。そう思って弘前で過ごしていると、桜やリンゴといった屋外の樹木に雪がたくさん積もっているところを目にする機会が増えました。自分の専門分野でもあることから、いったいどれくらいの重さがかかっているのか気になってきました。私の専門は機械工学の中の材料力学と設計工学です。構造物にかかる「力」を見える化し、それに対抗する手段を考えるのが仕事です。そういう目で自然の構造物に作用する様々な力を調べてみることにしました。

弘前大学理工学部藤﨑和弘准教授

― 着目した「地域の課題」とはどんなところですか?

弘前ではいたるところにリンゴの樹があります。秋にはたくさんの果実をつけた枝が大きくたわんでいます。この枝を折れないように守るにはどうすれば良いでしょうか。果実の量を適切に設定する、枝吊りや支柱を使って枝を支える。いろいろな解決策が考えられます。ただ、具体的にどこにどれだけの果実を実らせ、どこを支えたら良いでしょうか。もっとも効果的な対策をみつけるためには、力と変形の関係を明らかにし、実際にいろいろと測ってみる必要があります。いったい、どこまでを我々の知識で明らかにすることができるでしょうか。

弘前大学理工学部藤﨑和弘准教授

― 先生はその「課題」に対して、どのように探究(調査、研究)を進めていきましたか?

我々機械工学の分野で一般的に扱っている金属材料はとても硬いので力がかかっても変形量は小さなものです。そこに材料の限界を超える過大な力がかかると、大きな変形を起こす前に壊れてしまいます。それに比べて、木の枝は大きく変形することができます。この変形により力のかかり方が変わってくるため、変形した時に枝の付け根から先にいたる各場所がどれくらい危ない状況なのかを見極めるのは少し難しい議論になります。そこで、大きく変形する構造物に対して、各場所にかかっている力を可視化する技術が必要になります。我々の研究室では変形が大きな構造物に働く力の見える化と、壊れ方を予測し、守るための技術について研究を進めています。

弘前大学理工学部藤﨑和弘准教授

― 探究をとおして、どのようなことがわかりましたか?

果実の重さによる負荷は非常に大きく、雪が枝の上に積もる重さよりもはるかに大きなものでした。ではなぜ積雪地域で果樹の枝折れが多いのでしょうか。それは降雪よりも埋雪の問題でした。構造物が雪に埋もれてしまうと雪解けの時期にとてつもなく大きな負荷が作用する可能性があります。それは雪の融け方や、雪と構造物の間の接着状態にも依存します。このような負荷は外から見える雪の体積や重さの情報からだけでは明らかにできません。もしも地面に積もった雪がとけてくっついて氷になって枝にぶら下がってしまったとすると、地上に降った雪の重さすべてが構造物に作用することになるからです。雪がどのくらいつぶされた状態なのか、どのように一体化しているか、どれくらい水を含み、これからどのようにとけていくのかを合わせて考えないといけません。

弘前大学理工学部藤﨑和弘准教授
弘前大学理工学部藤﨑和弘准教授

― どのように課題の解決に結び付きましたか?

今、解決できていることはほんの一握りです。折れなかった枝がどうして折れなかったのか、あれこれ議論してそれなりに枝の強さについて説明することができるようになってきました。ただし、それは力のかかり具合がわかった上での議論です。何とか雪の中のようなみえない場所でかかる力の様子を明らかにしないといけません。そして、機械工学の最終目的は破損を予防するアイディアの提示と、その方法の最適化です。どうすれば雪に負けない枝の形状が見いだせるか、日々研究を続けています。そういう研究目標を持つと苦しい冬もなんだか待ち遠しく思えてきます。

弘前大学理工学部藤﨑和弘准教授

そしてもうひとつ大事なことがあります。理想の枝を作るには、枝を形成する技術を持った農学系の研究者との連携が不可欠です。学内の先生がたを訪ね歩き、私の知らないリンゴの話を教えてもらっています。

― これから探究に挑む高校生に対してメッセージをお願いします。

大学で身につける最も大切なものは「考え方」だと思います。私は皆さんが今学んでいる物理の中の「力学」を少しだけ発展させた学問を基本として自然現象を眺め、問題の原因を探っています。また、工学が目指すところのモノづくりの技術を駆使することで、実際に現象をわかりやすくすることもできます。そういう身につけた様々なスキルを使って、考えてもわからないことの解決のヒントを得ています。
難しい問題にぶつかった時に他の人よりも少しだけ詳しい専門知識を持つことができれば、そんな人たちが集まったときに、あらゆる問題に対応していける最高のグループが出来上がり、その中ででも自分の役割を果たすことができます。そして、そこからまた新しい問題にチャレンジするための新たな「学び」が始まります。

弘前大学理工学部藤﨑和弘准教授