2022(令和4)年4月に設置された特定プロジェクト教育研究センター「宇宙物理学研究センター」。
弘前大学では宇宙物理学分野の研究が盛んに行われ、重力波やブラックホールなどに関するめざましい成果が挙げられています。
今回は研究をさらに推進し、啓発活動にも力を入れていく、「宇宙物理学研究センター」をご紹介します!
センターのいろいろを、浅田秀樹センター長(理工学部教授)に伺いました。

「宇宙物理学」ってどんな学問??

―そもそも「宇宙物理学」とはどのような分野なんですか?

宇宙物理学は、「宇宙のことを物理学を用いて理解したい」という目的をもっています。
宇宙には身近な現象や地上の実験室ではわからない現象(ブラックホールやダークマターなど)があります。
今まで知られている物理学では説明できない、「星の数」ほどの未解決問題があって、研究の種がたくさんあるというのは大きな魅力ですね。宇宙全体を研究テーマにしている人もいれば、星や銀河、星の中でも惑星を専門にしている人、ビッグバン、生命の起源を研究している人もいて、大変広い分野なんですよ。

―「宇宙物理学者」のみなさんは、日々どんな研究をしているのですか?

実験や観測が技術的に至っていないことに関して、特に私たち研究者が計算したり理論を作ったりして予測するわけです。未知の事象に対して、こういう観測ができるんじゃないかと提案できるのが面白いところです。そういう意味で、宇宙物理学はいわゆるクリエイティブな分野だと思います。

宇宙物理学研究センター
一般相対性理論について
宇宙物理学研究センター
紙やホワイトボードを使ってひたすら計算

―ちなみに「数学者」との違いはどんなところなんですか?

数学と、物理学を含めた自然科学の違いは、自然現象を説明するかどうかです。数学でも自然現象に根付いたものもありますが、素数とか、数そのものの性質を究めていきたいというのが純粋な数学ですね。
ただ、私が物理学で研究している、例えばアインシュタインの一般相対性理論に出てくる方程式の数学的な構造を調べたいという数学者もいます。物理学の方からおもしろい方程式が見つかることもありますし、数学者が調べていた計算技法が後から物理学の理論のなかで使われるという場面もあって、数学と物理学は行き来する部分がありますね。

弘前大学の宇宙物理学

―弘前大学の「宇宙物理学」研究の特長はどんなところですか?

一般相対性理論などの「重力理論」と絡めた宇宙物理学研究に強みがあります。
今回弘前大学では「宇宙物理学研究センター」を立ち上げましたが、宇宙の研究者が6人も在籍しているというのは、地方国立大学のなかでは珍しいです。
観測的な天文学、あるいは数学に近い理論研究をしているような大学もあって、それぞれ特色があり、そのなかで、弘前大学は一般相対性理論などの「重力理論」を使って最先端の宇宙の観測と突き合わせていく、という切り口が特徴的です。

理工学部のパンフレットより。数物科学科には「物質宇宙物理学コース」がある

―観測と関連した研究は弘前大学では行われているのですか?

観測の装置はないですが、センター立ち上げメンバーの一人の市村先生が国際宇宙ステーション(ISS)の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置キャレット(CALET)のデータ解析を行っていて、6人の中では唯一「実験・観測」の研究者です。

―弘前大学で宇宙の研究が始まったのはいつ頃からなのでしょうか?

1980年代末ごろですね。私は1992年に大学院生として弘前大学の研究室に所属していて、その後1997年に私も教員として採用されました。そのころから一般相対性理論を使った宇宙の膨張速度に関する研究をしていましたね。最近は理論だけではなくて、コンピュータを使った大型のシミュレーションをされている先生もいます。この辺りが弘前大学のなかでは年季の入ったテーマですね。

採用された時期はまちまちですが、2010年頃には今回のセンター立ち上げのメンバーが弘前大学に揃っています。

宇宙分野を志望して弘前大学に入学する学生もいますし、他大学から宇宙物理学がやりたいということで進学してくる大学院生もいるので、弘前大学で宇宙の研究ができるということが、それなりに認知されている感触があります。

―教員6人の交流はそれまでもあったのですか?

センター設置の前から、我々6人で、月1回のペースで勉強会を行っていました。サイエンスの分野ではよくあるものですが、いわゆる雑誌の速報会です。新しい研究成果が発表されると直ちに情報共有して、それについて自分たちが知っていることを話し合って、理解を深めると。最近はコロナ禍ということもあって、オンラインで実施しています。

みんなそれぞれ分野が少しずつ違うので、宇宙物理と一口にいっても守備範囲が違うわけですよね。自分が普段カバーしていない分野についても最先端の研究ではこういうことがあると知ることができるのが重要で、一見違うテーマだったとしても根っこは同じ物理学なので、その新しい発見が自分の分野にも使えたりすることがあります。

―学生にとっても、そのような弘前大学での宇宙物理学研究の環境は、いい側面がありますか?

勉強会は基本的に大学院生にも呼び掛けています。普段の講義では聴けないような最先端の話が聴けますし、発表者になる経験を積めるので、非常に勉強になっているようです。
壁一つ隣の研究室では何をやっているかよくわからない、という状況もありがちですよね。弘前大学の宇宙分野に関しては風通しが良くて、情報交換ができています。

宇宙物理学研究センターの設置で広がる活動!

―センター設置の経緯を教えてください。

以前から有志で高校生や市民向けの宇宙に関する講演会を開催していました。例えば、一般相対性理論が誕生して100周年という節目の年、2015年には「重力波」をテーマとした一般向け講演会を開催しました。約100名ほどの参加があり、最先端のテーマであると人が集まるんだという印象を持ちました。2020年にはノーベル物理学賞をブラックホールの研究者3名が受賞し、全国的に注目を集めていました。そこで、高校生向けの講演会を実施して、今もその様子は本学公式YouTubeチャンネルにて動画で公開しています。

このような活動実績から、これまでの研究活動をさらに強化し、地域の方々、特に高校生などの若い人たちにサイエンスの先端に興味・関心を持ってもらうような広報活動を推進させる目的で、宇宙物理学研究センターが設置されることになりました。

センター看板上掲の際の記念写真(左から、岡﨑 理工学研究科長、浅田 宇宙物理学研究センター長、御領 同副研究科長)

―一般の方向けに講演会などを実施していくことで、どんなことが期待されますか?

サイエンスの研究のおもしろさを多くのみなさんにわかっていただけると思っています。飽くまで我々の「ブラックホール」「宇宙」というテーマは、サイエンスへの一つの入り口です。そこから興味を持ってくれた人が自ら学んでいくと、宇宙に関しては特に、先ほど言った通り星の数ほど研究テーマがあるので、各々おもしろそうな分野に進んでいってほしいと思います。
サイエンスへの関心が広まることで、結果的に地域の理系人材が増えることも期待しています。

―4月にセンターが設置されてから、今までに何か活動されていますか?

国際活動が順調にできています。
4月にはブレーメン大学(ドイツ)の若手研究者を講師に、ブラックホールに関する国際セミナー(オンライン)を開催し、5月には同大学向けに、私が講師を務める形で「ブラックホールなどによる重力レンズ理論」に関するセミナー講演(オンライン)を実施しました。英語の講演を聴く機会、英語で質疑応答をする機会はコロナ禍にあってなかなか難しい状況なので、研究者としての研究交流の機会であったと同時に、大学院生への教育的効果もあったと思っています。
同じく5月には東京大学の教員からの来訪希望があったので、そちらの研究室の若手研究者を講師に対面のセミナーを実施しました。
「センター」と名前が付いたことで、こういった活動がしやすくなっていることを実感しています。

浅田教授の講演時資料。研究成果に貢献している院生の名前も積極的に紹介するようにしている

―最後に、みなさんへメッセージをお願いします。

宇宙をテーマにしたセミナーや講演会を企画していく予定ですので、ぜひ参加して、最先端のサイエンスの楽しさを知っていただきたいです。センターとしても、みなさんに興味を持ってもらえるようなテーマを選りすぐっていくつもりです。少しでも知識があると、日ごろ目にする宇宙のニュースの面白さが倍増しますよ。
大学で宇宙の研究がしたいという人は、物理と数学は必須になります。受験へ向けては公式などの暗記も必要なのだと思いますが、ぜひ“どうしてそうなるのか?”、理屈や考え方をじっくり学んで、身に着けてほしいと思っています。
宇宙物理学はまだまだ発展途上です。たくさん調べることがあって楽しい分野なので、ぜひ私たちと一緒に研究しましょう!

もっと知りたい!弘前大学の「宇宙物理学」研究!

実際にどんな教員が、どんな研究に取り組んでいるのでしょうか?
ここで、宇宙物理学研究センターのメンバーを紹介します!

理工学部数物科学科 浅田秀樹教授/センター長

宇宙物理学研究センター

研究分野|理論宇宙物理学、一般相対性理論などの重力理論
宇宙の誕生やブラックホールの形成など、身の回りの現象とはかけ離れた事象が物理学を用いて理解できる愉しみと解決できそうでできないハラハラ感が、宇宙物理学では共存しています。そこには、文字通り、星の数ほど、未解決のパズルがあるのです。ここ数年で、重力波(時間空間のゆがみが伝わる現象)の国際共同観測や大質量ブラックホールのすぐ近くの撮影などが次々と成功し、重力理論における数学的手法の整備・開発が急務になっています。これらの研究を推進するとともに、一般向けにこうした最先端の研究の営みに関して、広報活動も行う予定です。

理工学部数物科学科 仙洞田雄一教授

宇宙物理学研究センター

研究分野|初期宇宙論 重力理論
宇宙のはじまりの頃の様子を理解したいという願望を持って研究しています。約140億年前という途方もない昔のことになりますが、現代物理学の発展により宇宙から届く多様な信号を捉えられるようになってきたおかげで、当時の様々なことが徐々にわかってきました。宇宙のはじまりを理解するには、同時に重力の謎を解き明かすことも必要です。アインシュタインの一般相対性理論を拠り所にしつつ、それを上回る理論があるのではと探し求めています。

理工学部地球環境防災学科 葛西真寿教授

宇宙物理学研究センター

研究分野|理論宇宙物理学、相対論的宇宙論
一般相対性理論に基づいた宇宙論の理論的研究をしています。重力レンズ効果、量子力学にあらわれる重力の効果、非一様時空における観測的宇宙論の研究などを行ってきました。研究内容の Web 公開にも取り組んでいます。
■Understanding Theory of Relativity – 特殊および一般相対論の統一的理解 https://home.hirosaki-u.ac.jp/relativity/

理工学部地球環境防災学科 市村雅一教授

宇宙物理学研究センター

研究分野|高エネルギー宇宙物理学、宇宙線物理学
宇宙空間には、高いエネルギーをもった種々の原子核、電子、ガンマ線などが飛び回っています。これらは「宇宙線」と呼ばれており、起源天体や高エネルギーを得た場所、通過してきた空間や太陽活動の様子など、様々な情報を運んできます。宇宙線は、超新星爆発、中性子星、活動銀河核、ブラックホール、ガンマ線バーストなどの高エネルギー現象や特殊な天体と密接に関係していると考えられています。我々の研究室では、実際に宇宙線を観測し、そのデータを解析することで、宇宙線が遠い宇宙から運んできたメッセージを解き明かそうとしています。

理工学部地球環境防災学科 髙橋龍一准教授

宇宙物理学研究センター

研究分野|宇宙論(特に宇宙の大規模構造)、重力レンズ、重力波
宇宙物理学の理論的な研究を進めています。最新のコンピューターを使い、物理法則に基づく数式を解いて、宇宙の姿を調べています。宇宙物理学の魅力のひとつは観測や理論が目に見えて進歩している点です。近年世界中にある大型望遠鏡により銀河や暗黒物質の分布が明らかになってきています。少し前まで謎だったことが解明され、新たな知見となります。そのため、若い人が新規な研究テーマで活躍する機会が大いにあります。

教育学部理科教育講座 佐藤松夫教授

宇宙物理学研究センター

研究分野|理論物理学 素粒子理論、超弦理論
宇宙の起源に関する問いに答えるためには、量子重力理論を完成する必要があります。その量子重力理論として最も有望視されているが超弦理論です。しかし超弦理論は原理が確立されておらず摂動論のみが知られています。私は超弦理論の完成版として弦幾何理論を提唱しました。実際、弦幾何理論からは超弦理論の摂動論が導出されています。現在、弦幾何理論から我々の宇宙を導出し、宇宙の起源等の様々な問題を解決しようとしています。

もう一歩詳しく!

これからのセンターの最新情報は、こちらに随時掲載していきます。
宇宙物理学研究センター紹介ページ(理工学研究科ホームぺージ)

さらに詳しく知りたいという方は、書籍や動画もチェックしてみてくださいね。
弘前大学の宇宙物理学研究、宇宙の謎に迫っていく今後の活動にもぜひご注目ください!

三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題(ブルーバックスシリーズ)

宇宙物理学研究センター

著者|浅田秀樹(講談社|2021)
天才たちを悩ませた世紀の「難問題」に関して、高校数学程度の予備知識で読める、一般向けの解説書。弘前大学の大学院生(当時)の研究成果も詳しく紹介されています。人物エピソード満載で科学史としても楽しめる科学書です。

「ブラックホール理論と観測」学術講演会(令和2年度)

宇宙物理学研究センター

浅田秀樹教授
理工学研究科で、令和2年12月19日(土)に実施した学術講演会の様子です。

遠藤賞受賞記念「ブラックホールおよび重力波を探針とする原始宇宙の研究」(令和3年度)

宇宙物理学研究センター

仙洞田雄一教授
弘前大学の研究水準の向上に著しく貢献した論文を顕彰する「弘前大学学術特別賞(遠藤賞)」。
令和3年度に受賞した仙洞田教授の研究紹介動画です。