2011年に発生した東日本大震災と、福島第一原子力発電所の事故、さらに、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻などにより、世界的にエネルギー不足が懸念されています。また、地球温暖化などの環境問題も深刻になっています。
脱炭素社会・省エネ社会実現のために、今、注目を集めているのが、地球環境にやさしい高性能電子デバイス「グリーンデバイス」。理工学部の小林康之教授は、この分野で世界初となる研究成果を開発した実績を持ち、学生たちと研究を進めています。

「幼少期のモノづくり体験」と、「なぜ?」を解き明かしたいという思いが原点

― ご自身の子ども時代を振り返って、今の研究につながる出来事やエピソードがあれば教えてください。

子どもの頃、自宅の隣に祖父母が住んでいて、木工所を営んでいました。木材や道具がふんだんにある環境で育ったので、幼稚園の頃からノコギリで木を切ったり釘を打ったりして木の工作に夢中になった記憶があります。自分の頭で考え、自分の手を動かして何かをつくることが面白くて、その時のワクワク感が今の私の原点になっているように思います。

また、当時は、電話の仕組みにも興味がありました。昔は一家に1台、黒電話があり、電話がかかってくると、リーンリーンと音が鳴り響きました。そのたびに、なぜ電話はかかるのだろう、どんな仕組みで離れた場所にいる相手と会話ができるのだろうと不思議でたまりませんでした。

中学生になると、ラジオから音が流れる仕組みにも興味を持つようになりました。電子工作をしながら、通信技術への興味や関心がどんどん強くなっていきました。

― 大学、大学院では、どんな研究をされていたのですか? 卒業後は?

大学は電子工学科に進みました。トランジスタは結晶からできているのですが、その根本についてもっと知りたいと思い、大学院では半導体の結晶を作る研究に取り組みました。
卒業後は、通信や半導体に関わる仕事に就きたいと思っていたところ、当時、半導体の結晶を作る研究を行っていたNTTが、インターンを募集していることを知り、参加しました。北は北海道から南は九州まで、全国の大学院生が20人ぐらい集まり、研究所の近くの寮に1カ月ほど泊まり込んで共に学びました。

この時の経験が面白くて、自分もここで研究に携わりたいと思いました。そこで、1988年に NTT に入社し、1991年にNTT物性科学基礎研究所に配属になりました。その後、25年間の研究生活を経て、2013年7月に弘前大学に着任しました。

インタビューの様子

環境にやさしいデバイス技術の研究

― 先生の研究テーマについて教えてください。

私の研究テーマは、「グリーンデバイス」と「結晶成長」です。グリーンデバイスとは、二酸化炭素をあまり排出せず、有害物質などで人間に害を与えないデバイス(電子部品や電子機器)のこと。すなわち、環境にやさしいデバイス技術を総称してグリーンデバイスと呼んでいます。

― 具体的にどんなものが挙げられますか?

代表的なものを挙げると、まずは皆さんご存知の青色発光ダイオード(LED)。次に、携帯電話基地局向けの高周波トランジスタのようなパワー半導体。それと、太陽電池などがあります。
エネルギー問題を解決する取り組みとして、エネルギーの無駄を省いて効率的に使う「省エネ」と、みずから電気を創る「創エネ」がありますが、発光ダイオードとパワー半導体は「省エネ」に、太陽電池は「創エネ」に分類されます。

世界初の研究技術!科学雑誌『Nature』に発表

― 先生は、この分野で、世界初となる研究技術を開発されたそうですね。

以前、勤務していた、NTT物性科学基礎研究所で、窒化物半導体を用いた発光ダイオードなどのデバイスを、土台となっているサファイア基板からはがして他の基板などに貼り付ける剥離転写技術を世界で初めて開発しました。
2012年に、世界的に有名な科学雑誌『Nature』に発表したことを機に、日本国内、アメリカ、ヨーロッパ、中国などで非常に活発に研究が行われるようになりました。

― 基板から薄膜デバイスだけはがせると、どんなメリットがあるのですか?

発光ダイオードや太陽電池は、土台となるサファイア基板の上にGaN系半導体薄膜素子を加工して作製します。薄膜そのものは非常に薄いものの、土台となる基板は、「厚い」「硬い」「重い」という問題があり、それによって、たとえば薄いLEDを作成しようとしても薄型化に限界がありました。
積層後の基板は、薄膜を支える役割のみなので、基板からデバイス構造を簡単にはがすことができれば応用範囲が大幅に拡大します。誰もが、この土台が邪魔だとはわかっていたものの、それまでは土台からデバイス構造を容易にはがす技術が確立していなかったのです。

― なぜ、剥離が可能になったのですか? また、どんなところからそれを思いつかれたのですか?

研究所で、新しい物質について研究してみようと思った時に、BN(窒化ホウ素)という物質に着目しました。窒化ホウ素は層状物質で、GaN(窒化ガリウム)と組み合わせるとはがれやすいという特徴を持っていたからです。当時、BNの研究はあまり進んでいませんでしたが、だからこそ、研究してみる価値があると思いました。

最初に、薄膜をセロテープのようなものを用いてペリッとはがせた時は、自分でも驚きました。『Nature』に発表して間もない頃は、国内外の研究者たちも、「本当に可能なのだろうか、にわかには信じ難い」という反応でした。しかし、実際にやってみてセロテープのようなものを用いて簡単にはがせることがわかると、世界の研究者たちがこぞって動き出しました。

Gan系半導体薄膜をはがして転写する(メートル法)プロセス
Gan系半導体薄膜をはがして転写する(メートル法)プロセス

実用化すれば、電気自動車の車体や、建物の窓ガラスを使った太陽光発電も可能に!

― 研究成果の応用イメージとしては、どんなものがありますか?

たとえば、基板上で作製した太陽電池をはがして、薄いシート状にすることも可能です。これを応用すると、建物の窓に透明な太陽電池シートを張り付けることで、太陽光発電ができます。また、電気自動車のボディに太陽電池を張り付けて発電したり、電気自動車のモーターの制御用高出力の電子デバイスに応用することも可能です。
また、LEDを剥離転写することにより、非常に高精細で鮮明なうえ、自由に曲げられるディスプレイにも応用できます。現在はまだ実用化には至っていませんが、実現できれば、さらに幅広い応用につながると期待されています。

自分の研究成果によって、世界中の研究者たちが動き出すワクワク感

― 弘前大学では、どんな研究に取り組んでいますか?

学生と一緒に結晶のサンプルを作りながら、剥離転写技術の研究を進めています。基板からデバイス構造をはがせることはわかったものの、では、どうやったら大きな面積できれいにはがせるのか、どうやったらもっと品質が良くなるのかについては、まだわかっていないことが多いんです。
企業では、結果を出すことが優先的に求められますが、この研究を大学でやる意味としては、「なぜ?」という基礎的な部分や学問的なところから追求できることだと思います。

― 学生に指導するうえで大切にしていることは?

ワクワクしながら楽しんで研究に取り組んで、未踏の新しい分野に踏み出すことを大切にしたいと思っています。既に確立されている知識を学ぶことと異なり、研究を行っていると、未知のことばかりであり、また失敗も多かったり、予想外の結果が出てくることもあると思います。そうしたこともすべて含めて、誰も行っていない未踏の新しい領域に踏み込んで、いろいろ試行錯誤しながら、新しい道を切り拓いていくことは、非常にワクワクし、楽しいものであり、また研究の現場で偶然に驚くような発見に出会うこともあります。自分の手を動かして実際のものにさわってもらいながら、未踏の新しい分野に踏み出す姿勢を大切にしたいと思っています。

私自身、自分が開発した研究成果によって、世界中で研究が始まった時は、パカッと新しい窓が開くような気がしてワクワクしました。学生の皆さんには、研究を通じてそうしたワクワクするような楽しい気持ちを味わってほしいと思っています。

インタビューの様子

民間企業で採用人事に携わった経験をもとに、学生の就職相談に応じる

― 学生の進学・就職先は?

私の研究室には毎年4人ほど入ってきますが、そのうち大学院に進学するのは1~2人です。大学院修了後は、電力会社やメーカーなど大手の企業に就職しています。

私はNTTに勤務していた頃、2年間人事の担当部長として採用活動に携わっていたことがあります。年間、非常に多くのエントリーシートを読み、多くの学生に会い、そのなかから適した学生を採用するという作業をやっていました。国内のみならず外国からの応募もあるので、1年を通して世界中の学生たちとメールでやり取りしていました。

弘前大学に来てからは、民間企業で採用人事に携わった経験を生かして、学生の就職に関する相談に応じています。仕事の内容はもちろん、福利厚生、社内制度、給与、休暇など、本人が何に重きを置いて就職先を選びたいのか、また、ご家族の希望や状況など、じっくり時間をかけて会話しながら、学生一人ひとりの夢をかなえられるようにサポートしています。

― 弘前大学や理工学部の魅力は、どんなところだと思いますか?

弘前大学は5学部を有する中規模の総合大学であり、教員と学生との距離が近く、密度濃く議論を交わしながら、教員と学生が一緒になって研究を行っていることが大きな魅力だと思います。
また、理工学部では、数学、物理、化学などの純粋科学から電子情報、機械などの応用工学に至るまで幅広い研究が行われています。世界に先駆けた研究を行っている幅広い領域の教員と、多様性に富んだ学生が存在するところが魅力だと思います。そうした環境で学ぶことにより、視野を広げて、多様性を理解し、教員から密度の濃い指導を受けられると思います。そういう意味でも、学生一人ひとりを大切にする「学生に優しい大学」だと感じています。

地域と深く関りながら学んだ経験は、社会に出てから大きな武器に!

― 弘前大学は、「地域と共にある大学」として、学生たちは地域と深く関わりながらさまざまなことを学んでいます。企業で人事に携わったご経験がある先生からご覧になって、そうした経験は、社会に出てからどのように生きてくると思いますか?

弘前大学は、地域との関わりが深く、電子情報工学科の学生も、りんご農家でのアルバイトや子どもたちを支援するボランティアなど地域のなかでさまざまな活動をしています。そうした活動を通じて、地域を深く知るとともに、助け合いの精神や優しい心が育まれていると感じています。

会社に入ると、チームプレーで仕事を進めていくことがほとんどです。常に相手の事を思いやり、互いに協力しながらチームとして最大の成果を発揮することが求められます。そういう意味で、学生時代から、世代や価値観の異なるさまざまな人と積極的に交流し、地域のことを大切に考え、他人の立場に立って考える経験は非常に有意義ですし、社会に出てから必ず生きてくると感じています。

― 最後に、高校生や在学生に向けてメッセージをお願いします。

大学は、学生一人ひとりが持っている多様性を大切にし、さまざまな機会を提供することにより、学生の能力や可能性を大きく伸ばすことのできる環境を持っています。さまざまな授業を通じて幅広い学問を身に付け、多様性に富む友人との出会いや交流を通して豊かな人間性を育んでほしいと思います。そして、未踏の新しい分野の研究に触れて、ワクワクしながら楽しんで研究に取り組むことにより、自分自身の能力を最大限に伸ばして、社会に貢献できる人材となってほしいと願っています。

Questionもっと知りたい!小林センセイのこと!

― 大学・大学院時代の思い出は?

学生時代は、自分の目で何でも見てみたい、経験してみたいと思っていました。大学院2年生の時に、バイトで貯めた資金で初めてアメリカに一人旅に出かけました。ずっとニューヨークに滞在し、ブロードウェイでさまざまなミュージカルを観たことは今でも忘れられません。

― 趣味は?

学生時代にアメリカに一人旅をして以来、世界の文化に興味が湧き、その後、カナダ、韓国、香港、シンガポール、オーストラリア、インド、 フランス、ドイツ、デンマーク、スペイン、イギリスに旅行にでかけました。旅行にはさまざまな楽しみがありますが、私にとっては文化の違いに触れることが一番の楽しみです。

ここ2年ほどは、コロナ禍で海外に出かけていないので、散歩を日課にしています。いつも万歩計をつけていますが、大学内での移動も含め、1日平均1万歩から2万歩は歩いています。

旅行で滞在したイタリアのベネチアの光景。
旅行で滞在したイタリアのベネチアの光景。
1年間、客員研究員として滞在し研究を行っていたドイツStuttgart大学。
1年間、客員研究員として滞在し研究を行っていたドイツStuttgart大学。

Profile

大学院理工学研究科/理工学部電子情報工学科 教授
小林 康之(こばやし やすゆき)

栃木県宇都宮市生まれ 。
研究テーマは、「グリーンデバイス」と「結晶成長」。 2006年度~2013年度、日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 主幹研究員として勤務。2013年7月から弘前大学理工学研究科に教授として着任。
1993年9月 日本応用物理学会賞B(奨励賞)受賞
2012年12月 日本電信電話株式会社先端技術総合研究所所長表彰研究開発賞受賞