卒業生の活躍をご紹介する『卒業生インタビュー』、第11回に登場するのは国立大学法人信州大学理学部理学科化学コースで助教として教育・研究を行っている 関口 龍太(せきぐち りゅうた)さんです。
弘前大学理工学研究科で博士の学位を取得後、研究の道に進んだ関口さん。現在の仕事の内容や、大学時代の印象に残っている出来事、今後の展望などを伺いました。

大学教員としてのお仕事

—お勤め先について教えてください。

私が在籍している信州大学は、長野県松本市に本部を置く国立大学法人の一つです。信州大学は、8つの学部 (人文・教育・経法・理・医・工・農・繊維) と5つの研究科から構成される総合大学であり、長野県内に5つのキャンパスが分散して存在しています。
私は松本キャンパスを本拠地とする理学部で教育・研究を行っています。信州大学が位置する長野県は自然環境に恵まれた土地で、特に松本市は北アルプスなどの雄大な山々や高原に囲まれており、都会の喧騒に惑わされずに自分のペースで自然科学を学べる環境にあります。

弘前大学理工学部卒業生
信州大学松本キャンパスの外観(提供:国立大学法人信州大学)

―具体的に、現在の主なお仕事の内容を教えてください。

私は現在、信州大学で教員として働いています。業務内容は多岐にわたっていますが、私自身の主な業務内容は『研究』と『学生の教育』であると言えます。
まず、『研究』について、信州大学への着任と同時に独立した研究室を主宰しており、研究室に配属された学生さんと共に有機化学に関係する研究に日々取り組んでいます。普段の生活では有機合成実験や測定実験がメインの活動内容になりますが、その過程で得られた研究成果について学会で発表し、最終的には学術論文の形にまとめて発表をします。また、研究を行う上で必要な研究費は自身の手で獲得しなければならないため、予算申請のための申請書作成なども行っています。大学教員として働くようになってからは、研究以外の業務に時間が取られることも多くなり、学生時代と比較して私自身の実験量は大きく低下してしまいましたが、現在でも時間の許す限りは自らの手で実験に取り組むようにしています。
次に、『学生の教育』についてです。着任当初から学部生の学生実験や講義を担当しており、現在では学部生だけでなく大学院の学生さんに対する講義も担当しています。さらに、研究室内においてもセミナーや普段の実験などを通して学生さんへの研究指導を行っています。
また、仕事量としてはあまり多くはないものの、大学や学部などの組織運営に関係する業務 (各種会議への参加など) や大学・大学院の入試業務、オープンキャンパスや子供向け科学イベントへの参加といった社会貢献活動も大学教員として重要な業務内容となります。

弘前大学理工学部卒業生
研究室の学生と

学生への教育・研究指導を通し、自分も成長を

-仕事をしていて楽しさややりがいを感じるのはどんなときですか?

大学院で博士号の取得を目指す方ならば誰しもが一度は自身の名前が付いた研究室を主宰したいという夢を抱くのではないでしょうか。幸いなことに、大学院修了直後にそのような機会を頂けたということもあり、当時自分なりにできることに精一杯取り組んでいこうと決意したことを覚えています。普段の生活においては研究以外の業務をこなす必要があり、思ったように研究を進められないことも多いですが、未来ある若い学生さんと一緒になって実験を行ったり、セミナーで研究成果の報告を受けている時間は本当に楽しく、時間を作ってでもこれからも続けていきたいと考えています。
また、大学に入学したての学生さんはどことなく幼さも残っており、大丈夫かなと思ってしまうことも多いですが、講義や実験・実習を通して人間的にも成長していき、さらに研究室での生活を経て立派になって卒業・修了していく姿を見ていると教育者として冥利に尽きると感じます。特に、笑顔で研究室を巣立っていく姿を見ているとこの職業に就いて本当に良かったと毎年のように感じています。

-今後、どのように働いていきたいですか?将来の展望などを教えてください。

まずは、教育者として、大学教員の使命は国内外で十分に活躍ができる人材を育てることであると考えています。私自身、教育者としては未熟者であり、現在も試行錯誤を繰り返しながら教育・研究指導を行っています。今後も学生さんの立場に立ってどのような教育方法が良いかを常に意識しながら教育・研究指導を行い、学生さんだけではなく私自身も教育者として共に成長していきたいです。
次に、研究者としての話ですが、私自身が現在取り組んでいる研究課題は主に大学院時代に取り組んでいた研究課題を発展させたものです。今後の研究生活においてはこれまでの研究課題を継続しながらも、新しい研究課題へも失敗を恐れずに積極的に挑戦していき、真に独創的かつ学術的にインパクトが大きな研究を行っていきたいと考えています。


弘前大学理工学部卒業生
実験中の学生
弘前大学理工学部卒業生
卒業の日を迎えた研究室のメンバー

後輩の活動にも期待!「環境サークルわどわ」で過ごした思い出

―学生時代についても伺います。
 大学生活で印象に残っていることはありますか?

弘前大学に入学した直後から『環境サークルわどわ』に加入し、サークル在籍時には1年程代表を務めていた時期もあります。サークルではメンバーの皆さんと共に弘前市内の清掃活動 (ゴミ拾い) やメモ帳作成、リユース市などといった多種多様な活動を行っていました。さらに、弘前市周辺 (大鰐や浪岡など) へのサイクリングや弘前城でのお花見などといったレクリエーション活動も行っていました。私がサークルで活動できていた時期は主に学部の4年間になりますが、この4年間のサークル活動は私にとってかけがえのない思い出であり、一生忘れられないものであります。
現在は、SNSでサークルの活動内容をチェックしていますが、私がサークルに在籍していた時に行っていなかった活動に積極的に取り組み、活動の幅がますます拡がっているようなので非常にうれしく思います。これからも楽しく、充実したサークル活動に取り組んでいってほしいと考えています。

学生時代の環境サークルわどわのメンバーとの一枚
(□環境サークルわどわ HPTwitter | □2019年度代表学生のインタビュー記事はこちらから)

進学するつもりはなかった。人生のターニングポイント

-就職の経緯・理由を教えてください。

大学教員という職業に就くことになった人生最大のターニングポイントは、大学院への進学を決めたことであると考えています。私が学部生の時には実家の家計状況などから大学院へは進学せずに就職することを考えていました。学部4年生に進級した2011年度 (東日本大震災が発生した年) の4~5月頃に就職活動を行っていましたがうまくいかず、就職活動に対する意欲が大きく減少していたことを覚えています。そのような状況を見るに見かねてか、当時の指導教員であった須藤新一先生に大学院への進学を勧められ、進路がこのまま決まらないことへの恐怖から進学を決めました。すなわち、大学院へ進んだ理由は就職先が決まらなかったというネガティブな理由によるものになります。

須藤先生のご退職が間近に迫っていたこともあり、大学院進学に伴って研究室を変更しなければなりませんでしたが、その際に私を受け入れて頂いたのが伊東俊司先生です。進学と共に伊東研究室での研究生活が始まった訳ですが、毎日が新しいことの連続で日々が充実しており、研究活動の面白さを改めて確認したことを覚えています。伊東研究室での研究生活はとにかく楽しく、面白いもので、たった2年間の大学院生活で終わらせるのはもったいないと考えて大学院博士後期課程への進学を決意しました。
博士後期課程へ進学して3年目に突入した頃から修了後の進路を検討し始めた訳ですが、当時の私は博士号が3年で取得できるかギリギリの状況で、実際に就職活動を始めることができたのは9月頃からでした。博士号の取得を目指すからには研究者になりたいという思いがあり、さらに自由に研究を行うならばアカデミックの道が一番だろうと考えて大学教員の公募要領のチェックを行っていました。そんな中、ある学会に参加した際に信州大学理学部で教員を採用予定であるとの話を現在の上司となる先生から聞き、採用予定の教員の研究分野もバッチリ一致していたこともあって応募をしたところ採用が決定したというのが私の就職の流れです。

大学で学んだ知識が指導に活きる

-弘前大学での学びや経験が、社会人になって活かされていると感じるのはどんなときですか。

幸いなことに学部・大学院で学んだ化学の専門的知識をそのまま活かすことができる職種・職場に就くことができ、学生時代に得られた知識は信州大学の学生さんの教育・研究指導において大いに役に立っています。特に、私が担当する講義の内容や授業計画などを考える際に学生時代の講義ノートや配付資料を参考にすることが多々あります。余談ですが、学生時代の講義ノートや配付資料は全て電子化を行い、iPadでいつでもすぐに確認できるようにしています。現在の学生さんの中にはタブレット端末を用いて講義を受講する学生さんもいて、本当に便利な世の中になったものだと常日頃から感じています。
また、化学の専門的知識のみならず各種有機合成実験の技術や研究者としての心得などは全て弘前大学在学中に学んだものです。弘前大学で学んだ実験技術などは、信州大学で教育・研究指導を行う際の基礎となっており、現在大いに活かされていると感じています。

弘前大学理工学部卒業生
大学院で講義をする関口さん

人生何が起こるかわからない!

―弘大生やこれから大学を目指す受験生へメッセージをお願いします。

弘前大学は旧帝大などの大学と比べると規模は小さいかもしれませんが、それらの大学と比較しても遜色ない優れた教育・研究を行っている教員や弘前大学だからこそできる研究を行っている教員の方々が多く在籍しています。在学生の皆さんには弘前大学の学生であることについて誇りを持ってほしいですし、受験生の皆さんもぜひ自信を持って弘前大学への進学を目指してほしいと考えています。
また、私の進路決定に至るまでのプロセスはあまり参考になるものではないと思います。私自身、学部生の時はネガティブな理由により大学院への進学を決意しており、正直褒められたものではないかもしれません。ですが、そのような進路決定の仕方もアリだと考えています。いずれの進路に進むにしろ、一度その進路を決めたならば覚悟を決めて真剣に物事に取り組んでほしいと思います。
最後に、私自身、学部生の時には大学教員として将来就職することになるとは夢にも思っていませんでした。人生というものは本当に何が起こるかわかりません。一度きりの人生だからこそ、皆さんには後々悔いが残らないような日々を過ごしてもらいたいと考えています。

弘前大学理工学部卒業生
研究室の学生と

教えてください!研究のモチベーション
―「有機化学」の魅力!

私が専門としている有機化学では、多種多様な有機化合物を研究対象として扱っています。有機化合物は炭素・水素原子が基本的な構成要素となっている化合物群ですが、炭素原子のつなげ方や炭素・水素原子以外の原子を組み合わせることによって様々な構造を持った有機化合物を合成することができます。レゴブロックのように原子の組み合わせ方に制限はなく、その組み合わせのパターンは無限に考えられますが、化合物の構造をほんの少し変えただけでもその性質や機能は大きく変わる例が数多く存在します。そのような点において有機化学は奥が深く、無限の可能性を秘めた夢のある学問であり、本当に面白いと感じています。
私は現在、これまでに人類が手にしたことがない特異な分子構造を持った有機化合物を合成し、それらの新しい性質や機能を解き明かすため研究を行っています。私は理学部に所属しており、基礎研究をメインに行っているということもあり、実生活において応用展開が可能な研究成果がなかなか得られないのが現状です。ですが、私たちの研究室において合成された有機化合物の中には、スマートフォンなどの電子機器類に使われる半導体材料や発光材料、医薬品などへと利用できる可能性を秘めた化合物が数多く存在し、私自身、すぐに役に立つことがなくても将来的には利用価値があるような有機化合物を世に送り出し社会に貢献したいとの思いを持って学生さんと共に研究を行っています。

弘前大学理工学部卒業生
ナノカーボン分子群の前駆体化合物が示す特異な性質・機能の一例

Profile

信州大学理学部 助教
関口 龍太さん

弘前大学理工学部物質創成化学科卒 。
岩手県大野村(現:洋野町)出身。岩手県立大野高等学校卒業後、2008年弘前大学理工学部物質創成化学科へ進学。須藤新一教授(現:名誉教授)の研究室に所属。学部卒業後は同学理工学研究科博士前期課程理工学専攻・同後期課程機能創成科学専攻へ進学、伊東俊司教授の研究室に所属し、2017年に修了、博士(理学)の学位を取得。同4月から信州大学学術研究院(理学系)助教として着任。有機化学第三研究室を主宰。現在、信州大学理学部理学科化学コースにおいて教育・研究を行っている。主な専門分野は有機化学、特に構造有機化学・機能分子化学。