弘前大学で活躍中の現役学生をご紹介する『在学生インタビュー』。第38回は、弘前大学広報室の学生広報スタッフとして活動し、HIROMAGAの『研究者の足跡』の企画を立案・担当した山本 峻(やまもと しゅん)さんです。
また、日本で唯一の自然科学の総合研究所である理化学研究所(RIKEN)に就職を決めた山本さん。学生広報スタッフの活動内容や、理化学研究所に就職した経緯などについて伺いました。

浅田先生のもとで学びたい!その思いから弘前大学へ

— 弘前大学大学院理工学研究科の志望理由を教えてください。

高校時代から理学に興味があり、特に物理が好きでした。
大学は京都産業大学の理学部宇宙物理・気象学科に進学したのですが、正直なところ、1・2年次はあまり勉強に身が入らず、物理への情熱も薄れていました。そんな中、転機となったのが3年次前期に受けた「統計力学」の授業です。担当の先生が非常に教育熱心で、真剣に勉強に向き合う中で「やっぱり物理って面白い!」ということを思い出したんです。

4年次で配属される研究室を決める際には、宇宙物理学を専門とし、現在の研究分野に近い二間瀬 敏史先生の研究室を希望していました。しかし、学力や研究室の定員の関係で叶わず、別の先生のもとで卒業研究を進めることに。それでも二間瀬先生の研究分野への興味があったので、先生の著書である『相対性理論 - 基礎と応用 -』を読んでいたときに、まえがきに協力者として弘前大学理工学部の浅田 秀樹 教授の名前を見つけました。

浅田先生が二間瀬先生の教え子であることも噂で聞いていたので、そこから少しずつ調べるようになって。研究内容も魅力的でしたし、研究室の大学院生たちとともに世界トップクラスの研究者が名を連ねる学術誌に論文が掲載されたことを知り、その実績に感銘を受けました。浅田先生のもとで学びたいという強い思いから、弘前大学大学院への進学を決めました。

インタビュー中の山本さん

— 大学院についても伺います。研究に関わる学生生活はどうですか。

研究分野は「宇宙物理学」です。ひとことで「宇宙物理学」と言ってもとても幅広い分野で、宇宙全体を研究テーマにしている人もいれば、星や銀河、星の中でも惑星を専門にしている人などさまざまです。
僕の研究は「一般相対性理論に関連する重力波の研究」で、修士論文では「重力波の見つけ方」をテーマに取り組んでいます。浅田先生の著書『宇宙はいかに始まったのか』に、僕が取り組んでいる研究内容が詳しく書いています。

大学院の授業のコマ数はそれほど多くないので、自分の研究を主にやっています。日々の研究は紙とペン、時にはパソコンを駆使し、ひたすら数式を計算をしています。

— 現在、浅田先生の研究室に所属しているのことですが、浅田先生のエピソードで印象に残っていることがあれば教えてください。

浅田先生を見ていて思うことは、本当に研究が好きなんだな、ということです。
僕が今の研究をしている理由の一つは、「天才」と呼ばれるような人に憧れていたからです。革新的な閃きをするような、そんな人の思考を覗いてみたいという気持ちがありました。
浅田先生もそういうタイプなのかと思っていましたが、2年間研究室で過ごす中で感じたのは「ただ純粋に研究が好きな人なのではないか」ということでした。
計算をするときや新しい発見があったときに、子どものように嬉しそうな表情を浮かべる姿がとても印象に残っています。浅田先生の研究に対する情熱に、日々圧倒されてきました。

弘前大学理工学研究科
浅田先生(左)と山本さん
弘前大学理工学研究科
研究室には宇宙物理に関連する本が並ぶ

自分の記事を通して「研究者の人生」を伝えたい

— 学生広報スタッフについても伺います。学生広報スタッフをやろうと思ったきっかけを教えてください。

京都産業大学の3年次から研究者への取材を始めていました。研究者の生き方や考え方を深く理解したいという思いがあったからです。

大学院進学後もこの取材を続けたいと思っていた頃、ちょうど弘前大学の広報室が運営する学生広報スタッフの存在を知って。学生だけでなく、大学職員とも協力しながら活動できる点に魅力を感じました。
大学の公式ウェブサイトに記事を掲載できるとなれば、取材のしやすさも格段に上がりますし、大人のサポートを受けながら質の高い記事を作れるのも心強いなと。とはいえ、取材の仕方や記事の書き方は自分の裁量に任されていて、学生ならではの柔軟な取材ができるのも魅力でした。

弘前大学理工学研究科
大学時代に企画・取材・構成を担当していた『研究者の足跡』。記事はこちら

— HIROMAGAに連載した『研究者の足跡』では、これまでに6名の研究者や学生への取材・記事執筆を行ってきた山本さんですが、この企画で伝えたかったことは何ですか。

大学時代、大学に併設された天文台を使って天体観望会や科学教室を開催していたのですが、来場者は小さい子ども連れの家族や小中学生が中心でした。ただ、将来の理系人材を育成するには、将来を見据え始める高校生や大学生にもっとアプローチするべきだと考えるようになったんです。

そのときに見つけたのが、月刊科学雑誌『日経サイエンス』に掲載されている研究者の紹介コーナー『Front Runner 挑む』という記事です。研究者の経歴や研究内容が掲載されていたのですが、「これをもっと学生向けに、研究内容がわからなくても伝わる記事にしたら面白いのでは?」と思ったんです。

たどり着いたのが、「研究者の人たちがどんな人生を送ってきたか」ということです。
好きなことを仕事にして、好奇心の向かう方向に必死になっている姿は、かっこいいと思ったんです。
研究者のように勉強の中に面白さを見出し、努力を重ねた人には、人として魅力があるはず。そんな研究者の人生を物語のように書けたら面白いんじゃないかと思い、『研究者の足跡』を企画しました。

HIROMAGA『研究者の足跡』一覧

現在まで6名の研究者に取材を行ってきましたが、最後の記事として浅田先生と理工学研究科 博士後期課程3年の工藤龍也さんの対談を執筆中です。今年の4月~5月頃にHIROMAGAに掲載する予定なので、是非皆さんに見てほしいです。

弘前大学理工学研究科
『研究者の足跡』の取材の様子
弘前大学理工学研究科
浅田先生と大学院生 工藤さんの対談時の取材の様子

— 学生広報スタッフをやっていて良かったこと、大変だったことを教えてください。

良かったことは、「文章を書く」という点に焦点を当てて、記事を書けたことです。
大学時代は、図やレイアウトの作成、写真の加工など全体の構成に時間を取られ、文章そのものへのこだわりが薄れていたんです。でも、HIROMAGAのウェブ記事を書くことで、「どう構成するか」「それに合わせて取材をどう進めるか」といった点を深く考えながら記事制作を進めることが出来ました。
また、学生だけではどうしても一時的な情熱に頼りがちで、継続することが難しいと感じていました。でも、広報室の方々がサポートしてくれたおかげで記事を書き続けられました。

大変だったことは、いい文章を目指すほど自分の書いたものが駄文に思えてくることです。推敲するたびに、自分の未熟さを突きつけられるようで、添削を受けるたびに落ち込んでいました(笑)。

研究者たちの理解者となり、彼らの活躍をともに喜びたい

— 就職についても伺います。今回、理化学研究所(RIKEN)に就職が決まったそうですね。理化学研究所を選んだ経緯・理由を教えてください。

理化学研究所は日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、数理・情報科学、計算科学、生物学、医科学などに及ぶ広い分野で研究を進める総合研究機関です。配属先は兵庫県佐用郡にある「SPring-8(スプリングエイト)」という大型放射光施設で、事務職を担当する予定です。

理化学研究所を選んだのは、研究者やそれに携わる人を支援したい、という想いからでした。
研究者に限ったことではありませんが、特に基礎研究の分野では、成果がすぐに利益に直結しないため、企業などでは長期的に続けることが難しい、ということがあります。それでも基礎研究に携わる研究者は日々熱心に研究を続けています。僕はそんな研究者たちの理解者となり、彼らの活躍をともに喜ぶことができる人間になりたいと考えています。

叶うのであれば、将来的に理化学研究所のウェブサイトで、科学者の生き方や考え方や科学の面白さを伝える記事を書いてみたいと思っています。

理化学研究所の大型放射光施設「SPring-8」の前で

さまざまな場面で役立つ大学での学びや研究

— 今後の展望について教えてください。

大学での学びや研究が、本当に自分の役に立ったと言える大人になりたい――そう思っています。
「大学の勉強や研究なんて社会に出たら使わないよ」と、親や就職活動の面接官から言われたことがありました。正直、それがとても悔しかったです。

確かに、大学で学ぶことや研究の内容が、社会に出てすぐに実践で役立つとは限りません。僕の研究してきたような計算を仕事で使うことはないでしょう。それでもその経験がさまざまな場面で活きてくれば、と思っています。
研究者の足跡 Vol.5』で取材した永本哲也先生もおっしゃっていましたが、「文献をしっかり読み、理解し、それを人に伝える力」は、どんな分野の研究をしていても、共通して得られる強みだと思います。
このような研究生活を通して身についたことが、将来の仕事でも活かせればと考えています。

興味ある分野の研究者の多さも大学選びのポイント!

— 受験生へメッセージをお願いします。

僕が弘前大学にきて良かったと感じるところは、穏やかな地域性と都会から離れた環境です。
弘前は決して遊ぶ場所が多いわけではなく、雪も降るため、都会と比べるとアクティブに活動するのは難しいかもしれません。だからこそ余計なものに惑わされず、自分の目標にしっかりと向き合う時間を持つことができました。

また、高校生の頃の自分に伝えたいのは、高校時代に大学の研究内容を正確に理解して進路を決めるのは難しいということです。正直なところ、当時の私の学力ではそれを完全に把握するのは無理でした。
でも「なんとなく宇宙が面白そう」という直感があったので、宇宙物理を研究している先生が多い大学を選んだことは正解だったと思います。興味のある分野の研究者が多いというのは、大学選びの大事なポイントのひとつだと感じています。


弘前大学から見える自然豊かな風景

弘前大学文京町キャンパスからは、弘前市街だけでなく岩木山や八甲田山など、自然豊かな風景を見ることが出来ます。山本さんは朝や疲れたときに、田んぼを散歩をしたり、研究室から見える岩木山を眺めて気持ちをリセットしていたそうです。弘前大学のある弘前市は季節の移り変わりがはっきりしており、四季折々の自然の美しさや豊かさが生活に根付いています。

弘前大学理工学研究科
山本さんがよく散歩で訪れていた田んぼ
弘前大学理工学研究科
季節によりさまざまな表情を見せる岩木山

Profile

理工学研究科 博士前期課程2年
山本 峻さん

学生広報スタッフ / 理化学研究所(RIKEN)に就職 。
愛知県立西尾高等学校卒業後、京都産業大学 理学部宇宙物理・気象学科に進学。在学中に弘前大学理工学部 浅田 秀樹教授を知り、浅田先生のもとで宇宙物理学を学ぶため弘前大学大学院理工学研究科に進学。また、弘前大学広報室で運営している学生広報スタッフとして、研究者の人生に迫る『研究者の足跡』を企画し、取材、執筆を担当。また、今年の春から理化学研究所(RIKEN)に就職。好きな飲み物は山本さんの地元、愛知県西尾市で有名な抹茶。